軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『遥か彼方の声を聞きながら……、2年目』18話「迷うことこそ学生の特権か」

パレードが終わった翌日。まだアリスポートの町は熱気が残っていた。観客席が取り払われ、徐々に移民たちの移動も始まっているものの女性たちは自由という病にかかったように男たちを働かせていた。

娼館街はジルへの投げ銭によって潤い、一か月間の休業に入った。娼婦たちもたっぷり給料をもらったようで、借金を返したり地元に帰ったりしているという。

俺たちは、通常の授業に戻るも期末試験や体育祭が控えていた。

「ここからは一人の勝負ってことね」

ラックスはすっきりした顔をしていた。

「そうですね。基礎はわかっているようなので、後は自分の特性を生かすか、基礎を極めていくかによります」

「コウジはどっちにいったの?」

「俺は先日まで属性魔法を使えませんでしたから」

「そうか……」

リュージとヒライも魔力操作が上手くなっていた。リュージは元々できたが精度が上がり、ヒライは成長が著しい。

「人間の成長はここまで早くなるのか。才能もあったのだろうが……」

「初心者向けのダンジョンでひたすらモンスターを狩り続けてきましたから底上げされたんです。貴族連合の皆さんのお陰です」

体育祭で上位に食い込めば、特待十生に手がかかるので貴族連合も総出でヒライを鍛えていた。

「教会に行ってくるわ」

ラックスは相変わらず教会に行って光の精霊への信仰心を高めている。実際、どれくらい効果があるのかはわからないが、やらないで後悔したくないと本人は言っていた。

ドゴンッ!

森の奥ではゴズとドーゴエ、ガルポの3人が朝練をしていた。ゴズも影魔法を徹底的に鍛えることにしたようで、古い魔法書を片手にひたすら影魔法を試しているようだ。

マフシュやレビィたちは、植物園の修復作業をしていて体育祭は健康グッズを売るだけになりそうだ。

アグリッパとシェム、ダイトキは上級者向けダンジョンでアイルさんに稽古をつけてもらっていた。仕事があるというアイルさんにアグリッパがどうしてもとお願いしたらしい。

アイルさんにぼろ雑巾の様にされた3人は、3日ほど動けなかったらしい。

「とっととレベルを上げろ。その程度の強さじゃどうにもならん。コウジは夏休みに南半球に帰れよ。『月下霊蘭』はエルフにだけ効くわけじゃないみたいだからな」

「え?」

露骨に嫌そうな顔をしてしまった。

「私の言うことは聞いておいた方がいいと思うぞ」

「はい」

実家じゃなくて南半球というあたりが怖い。

今年はいろんな授業を受けているので、試験勉強も多い。歴史の授業は現地に行ったこともあるので覚えやすいが、攻撃魔法に関しては人と違うことをやっているし詠唱なんて覚えてないので苦労した。

「なんで皆詠唱なんて使うんだよ」

「その方がイメージしやすいからでしょう」

「グイルはなんでそんなに余裕なの?」

ルームメイトの女性陣と勉強している傍らで、グイルは商品の整理をしていた。実際、グイルの成績はいいらしい。同じラジオ局員だというのに、何かおかしい。教師を買収しているのか。

「俺は普通に日々勉強をしているからな。一々試験くらいで焦らないだけさ。ゲンローさんが罠を見に来てくれって頼んでたぜ」

「そんな暇ないよ。グイルは体育祭の準備をしてくれよ」

「もう、したよ。オッズの計算機をゲンズブールさんが作ってくれたんだ。あの人はやっぱり天才だな。あとはボードに特待十生と人気の学生を書くだけでいい」

いろんな人がパレードに来たので、体育祭まで残ってくれるという観光客もいるらしい。

「鳥使いの業者には話したか?」

「あ、まだだ。軍の関係者だろう? アグリッパさんに聞いてみないとな」

現場の状況を見る鳥使いが必要になってくる。昔から遠隔地と連絡を取る時に使われていたので、事務局が連絡してくれているといいのだが……。

「観客席もでしょ。せっかくだからパレードの観客席を使わせてもらおうよ」

「いいね。でも、今いかないと解体されちゃうよ!」

「俺たちはいつ勉強するんだ……」

ルームメイトはラジオ局員へと変わり、総合学院を飛び出して観客席を出来る限り受け取りに行った。体育祭で使うというと皆、快く持っていってくれと観客席の材料をくれる。

「ちょっと待て。いつの間にか俺たちが体育祭の実行委員になっているけど、他にいないのか?」

事務局に確認しに行くと、基本的には学生の自主性に任せているので俺たちがやる分には協力を惜しまないという。

「いや、そう言うことじゃなくて、今年の体育祭に実行委員はないのかって話なんですけど?」

「あるにはあるんですけど、誰もやりたがらず……」

「募集してみましょうよ。こういう時こそ、皆で作った方が得意不得意が学生たち自身で学べる機会ですから」

「確かに……」

掲示板に『体育祭実行委員募集』の張り紙が貼られたのは体育祭の2週間前だった。

ラジオでも呼びかける。すでに鳥使いの部隊には連絡してあるので、当日は例年通り協力してくれるという。鍛冶屋連合から、今年も宣伝させてほしいという依頼もあったので、ゲンロー含め、鍛冶師たちを呼んで番組作り。当然だが、魔道結社などからも依頼があった。

さらに植物園再建についての手伝い募集も呼びかける。

「いや、実際、あそこまで荒らされると無理よ。悪いけど、ダンジョンで育ててもらいたいくらいなんだけど……」

マフシュが言うと、ダンジョンの管理人であるシェムが中級者向けのダンジョンを開放。俺たちも鉢植え作りを手伝った。

実行委員は、どこのグループにも所属していない者たちが集まってきた。

「就職するときに、総合学院で何をしたのかと聞かれて答えられるように」

「せっかく入ったのにもっと自分から楽しまないとね」

「パレードを見たからかな。世間体を気にしていると自分の人生を歩めなくなるんじゃないかと思って」

パレードに影響されてか女学生が多い。エルフのガルポも参加していた。

「実行委員に応募した理由? わからん。精霊の導きだ。そうした方がいいだろうって精霊がささやくからさ」

特待十生も協力しているので、垂れ幕や会場づくりなど手間のかかる仕事も一瞬で終わっていく。

観客のベンチを作っていたら、新入生のヒライが長い板を大量に背負って手伝ってくれた。

「すごい力持ちだな」

「荷運びだけは家業なんで……」

強さの源泉を見た気がした。

リュージはゲンローに弟子入りしていた。

「竜族は物を壊しがちだから、作るのは苦手だ。でも、竜族でも作れるところを見せたい。本当言うと鍛冶師に憧れていた。乗合馬車のベルトなど、鱗が固いからと気にせず飛んでいる竜も多いが、もっと楽に運べるベルトがあると思っている」

「目標があるなら、練習あるのみだ。ここは総合学院だぜ。不器用も種族も関係ない。意志ある者には優しいんだ」

ゲンローは金槌を持つ力の調節から教えていた。

「そういやゲンローさん、罠はどうするんです?」

「ああ、罠な。罠の準備はもう済ませてある。それよりも実行委員に学校の敷地に防御壁を張れないか聞いてみてくれるか」

「何をするつもりですか?」

「王都まで広がると問題になりそうな霧を発生させるのさ。ラックス対策でもある。お前たちの朝練を誰も見てないと思うなよ」

光を拡散させて威力を殺すつもりか。

昨年の大改修で、防御壁は張り直してある。体育祭当日は時間帯別で出入り口は閉じることにした。

「皆、めちゃくちゃ動き始めたな」

ラジオ局で台本を書きながら、ぼそりと呟いた。

「そりゃ、パレードで大人たちの本気を見ちゃったからね」

ウインクは未だにパレード熱に浮かされているらしい。

「そう言えばエルフの留学生たちはどうなったの?」

ミストが聞いていた。

「もう、何人か帰ってきてるぜ。学校側が本人の意思を最大限尊重するってベルベ校長が宣言してたから、親元を離れる決断をした留学生たちも多いんじゃないかな」

グイルは相変わらず情報通だ。

「エルフの家族はどうしているの? 王都に帰ってこられないエルフたちもいるでしょ?」

「知らないけど、盗賊とつながりのあるエルフたちは捕まってるんじゃないか。エルフの里を出たから、他に行くところがないよ」

「でも、家族みんなが捕まるわけではないでしょ。コムロカンパニーに強制労働させられたりしない?」

「ああ、たぶんそれはないよ。ドヴァンさんって、勇者のパーティの人が言ってたけど、臨時でも務まらないって言ってたから」

「じゃあ、どうするの……?」

そんな会話をしていたら、ちょうどよくカミーラさんがラジオ局を訪ねてきてくれた。

「やあ、コウジが言ってたラジオ局というのはこれかぁ」

「ええ、カミーラさんの授業もパレードも放送したのはここにある機材からですよ。それよりどうしたんですか?」

「ああ、もうそろそろアリスフェイを発とうと思っていてね。久しぶりにコウジの顔も見れたしよかったよ。勉強頑張ってくれ」

親父と似たようなことを言う。カミーラさんは、スキルポイントよりも自分の経験でスキルを上げた方がいいとよく言っている。

「ありがとうございます。今、皆でエルフの留学生の家族はどうなるかって話をしてたんですけど……」

「お前たちは、若いのにすぐ社会課題に向かえるのか。捕まったエルフのおっさん連中は本国に返して強制労働だが、残った家族は互助会を作ることになった。このまま難民にしておくと『月下霊蘭』にも対処できない。アリスフェイには迷惑をかけっぱなしだが、住む場所を支援してくれた。仕事は冒険者ギルドが斡旋してくれる。手先が器用で年も取っているから物知りも多い。家族が離れ離れにはなるが、夏休みには会えるよ。学生たちはほとんどそうだろ?」

「そうです。パレード当日に捕まって数日じゃないですか。まだ弊害が出る前に対処するなんてすごいですね」

「いや、私からすればお前たちの方がすごいよ。関係もない者のことを、よく考えられるな。それだけ社会が見えているということだろう? 末恐ろしい」

「見えてないから見ようとしているだけです」

「そうか? コムロ家の話はどこかで繋がるからな。話半分でも聞いておかないと時代に取り残されてしまうよ。それじゃあな」

「あ、送っていきますよ」

「すまんな」

せっかくなので荷物を持って竜の乗合馬車の駅まで送りに行った。

「で、どっちがコウジの彼女なんだ?」

「どっちも彼女じゃないですよ。男女の友情がわからないと人間の学校は生きにくいですよ」

「そうなのか? ああ、本当にエルフの婆になってしまったなぁ。コウジ、聞かせてくれ。あの両親から生まれて生き急いだりしないのか?」

「ないです。そもそも母さんがパレードの看板だったことを当日の朝に知りましたから」

「それはそれで大変だなぁ。ナオキがやったことは知ってるのか?」

「歴史学の授業で習いました。トキオリ爺ちゃんとシャルロッテ婆ちゃんのことも今年になってから知ったくらいです」

「でも、今の家族のことはお前の方が詳しいだろ?」

「そうですね……。でも、なにかを成した人たちだったんだと思うようになりました」

「コウジはまだ成してないか? 何者でもないことが学生の強みだろ?」

「そうですね。ラジオを作りたいってことしか決めてなかったんで、どうするのかまだ全然決めてないんですよ」

「それだけ視野が広ければ見えるんじゃないか。でも、どんな小さなきっかけやバカみたいな衝動でも、やらないよりはやった方がいい。やらなかったら必ず後悔することになる。過去に行って自分を殴りたくなる。だから、些細な自分の気持ちを見逃すな。意外と自分ほど見えないものだから」

自分の気持ちなんて、確かにあまり考えたことはなかった。

そんなことを話しているうちに駅に到着。テント街にまだ残っている屋台でお弁当を買っていた。

「コウジ、時代の流れの中で決めていくしかない。だけど、自分の気持ちまで時代に寄せる必要はない。世界がお前に期待しているぞ」

「世界って言われても……。そんなにすごくならない予定です」

「コムロ家は欲がないな。しっかり自分で考えろよ」

「はい。お元気で」

カミーラさんは竜の乗合馬車に乗って東へ向かった。俺はしばらく手を振って見送った。

「気持ちかぁ。気持ちだけで飯が食えるならいいんだけどなぁ。いや、そんな人生もつまらないか」

何でも知りたいと思って人間の学校まで来て、何も知らなかったことを知り、俺は自分の気持ちまでわからなくなっている。

「そんなことより勉強しないと……」

目の前には体育祭と期末試験が迫っている。勉強した分だけ可能性が広がるとは言うけど、実感がなさ過ぎてやる気は起きない。そういうステータスみたいなのがあるといいんだけどな。

「そもそも冒険者ギルドでやるステータスってグラフになってないのかな? いや、個別で違うのか……。スキルの分野はまた別というし……。いや、期末試験がそれにあたるのかな。でも、試験のためのステータスが欲しいんだよなぁ。そんな細かいのはないか……」

ラジオ局に帰ってカミーラさんとの会話を話しつつ台本を書いていたら、ミストにスキル図鑑というものを渡された。

「これ知らないの? もちろんすべてのスキルが書いているわけじゃないけど、ガイドラインにはなるでしょ」

「あと、読解力だと思うぞ。無暗に勉強するんじゃなくて、区切って理解していけばいいんだ。教科書だって誰かが書いた本だろ? なにを言ってるのかわからなかったら、調べればいい。ラジオ局は図書館が近いんだから、すぐに調べられるところがいいんだ」

グイルはいつの間にか独自の勉強法を編み出していたらしい。

「す、すごい……」

隣で聞いていたウインクは素直に驚いていた。

「薬学の本をたくさん読むと薬学スキルが伸びたりするんだろ? あれってどういうこと?」

「それこそ理解力だと思うわ」

「数学は積や除算がわかるとちょっと伸びるしな。ちゃんとスキルのシステムが、区切れって言ってるんだよ。それをモチベーションにしていけばいい」

ポイントを使わずスキルを取得する方法は、それなりに知られている。

「そうか……。俺としては、自分の何が伸びているのかわからないから、グラフとか図形で細かくわかるとモチベーションが上がるんじゃないかと思ったんだよ」

「そんなのあったら皆使うよ」

「確かにそうなんだけど……。でも考えない? 鑑定スキルって世の中がどう見えてるんだろうって。勇者のセーラさんは首席だったらしいし、視点が変わったり自分の能力が見えたりすると得意不得意もわかるし、学校にいる間に最大限自分の可能性を広げられるんじゃないかって思わない? いや、俺だけか。大人になっても伸びる人は伸びるもんな」

「誰だって、学生で試せる間に自分の可能性を最大限広げたいとは思ってると思うよ。でもそんな風に正面から言われると、漠然とし過ぎててどうすればいいのかがわからないんじゃない?」

「グイル、区切ってみてよ」

「え? 俺か? でも、それって何を目標にするかに依るんじゃないか? 例えば俺なんかは卒業したら家業を継いで商人になるって決まってるから、商人としての幅を広げるために……」

「いや、そもそもそれが決まってないんじゃないの?」

「え!? 決まってないの!?」

グイルは目をひん剥いて驚いていた。

「今からなんにでもなれるところが学生の強みだ。急に占いの才能が伸びて、金が大量に入ってきたら商人でいられるか?」

「占い師にはならないと思うけど、確かに金を稼がなくていいレベルになったらどうするかは考えてなかったなぁ……」

「人生の中で、一つの職業に固執することもないってことでしょ?」

ミストが聞いてきた。

「そうだね。別に親の期待に応えるために商人になるってのはいい考えだと思うけど、ずっと同じ職業じゃなくてもいいでしょ。結構人生長いし。身体の動ける時期はアクティブに動いていいけど、怪我したり動けなくなったら若い頃に勉強していた考古学を学び直してもいいみたいな方が豊かっていうかさ。可能性を持ち続けることの方が案外重要なんじゃない?」

だから小さな気持ちも大事にした方がいいのか。

「コウジ、本当に変わってるね!」

ウインクは奇妙な魔物でも見るような目で見てきた。

「でも、たぶんそれ重要なんだよ。私は死者の声としてよく聞くんだよ。生きている間に何かを学んでおけばよかったとか、他人の価値基準なんか無視して自分にとっての価値に気づけばよかったとか」

「難しい話をするなよな。せっかく自分に合った勉強法を作ったのに……」

「グイル、たぶんその勉強法自体が売れるぞ」

「ええ? おい、ミスト! コウジが変になっちゃっただろ! 余計なこと言うなよ!」

「コウジは元々変でしょ!」

俺が作りたいのはスキル図鑑じゃなくて、可能性図鑑だ。しかも人それぞれに合った可能性の図鑑を作れれば、その人の人生が豊かになるんじゃないか。ちょっとでも好きだったものを忘れないか……。

初めてスキルポイントを使う時が来たのかもしれない。でも何のスキルを取ればいいのかはわからない。

「勉強した方がいいな」

「そう言ってるだろ!」

「だから、マジで詠唱ってなんだよ!」

「暗記だ。暗記!」

体育祭の準備と一緒に俺は詠唱暗記カードを作った。詠唱はイメージしやすくするためというが自分の人生に関わるイメージが全然持てなかった。

「コウジ、期末試験より体育祭はどうするの? 昨年の優勝者なんだから、絶対狙われるよ」

「俺は裏方に回るつもりだって言ってるだろ」

「無理だろ! 町の人たちにも期待されてるんだから。ボードにだってコウジの名前が出るんだからな」

「ラジオ局からは追い出すわよ。実況席に魔法が飛んできたら困るからね」

「ええっ!?」

俺はあっさりラジオ局に見放された。

「どうすりゃいいんだ!?」

特待十生は準備をしている。実行委員は動き始めて、滞りなく観客席は出来上がっていく。まったく答えが出ないまま、体育祭当日を迎えることになった。