軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『遥か彼方の声を聞きながら……』22話:魔族は誰で、魔物はどいつか

集まっていた特待十生と共に、俺は窓の外に出た。

千切れていく配線を掴んだところで、ラジオ局が出っ張っていることに気がついた。下を見れば中庭で、部屋自体が建物から飛び出している。重心が傾けば落ちてしまう。

そう思った時には体が動いていた。

ズバンッ!

ラジオ局の外壁をぶった切った。

鳥小屋を部屋の中に入れて、切れた部屋の壁を地面に下ろした。

周囲を見回すと、学院の建物からいろんな部屋が、飛び出している。パズルが壊れたように、立方体の部屋が動き出していて、机や椅子が地面に落ちていた。

咄嗟に魔力を展開して、落ちてくる机や椅子を防いだが、特待十生は全員防御結界を張っていた。

「なんだぁ?」

「学生と客の誘導だ!」

戸惑っているゲンローにドーゴエが声をかけていた。

「くっそ! 魔法は得意じゃないってのに!」

マフシュも靴に魔法陣を描いて、壁を駆けて行った。

たい焼きを売っていたレビィも、空間魔法で周囲の屋台を守り、光の戦士のラックスは落ちてくる物を光魔法でバラバラにしていた。

バラバラに落ちてくる木片や書類をゴズが魔法で影に収納している。

「逃げろぉ!!」

ゴズさんの野太い声が響き渡る。

一斉に客も学生も門へと動き出した。

ズンッ! バタン!

建物から門まで続く石畳が本のページがめくれるようにめくれ、そのまま門を塞いでしまった。石畳にいた人々は柔らかい庭の生垣に落とされていた。

空に向けて魔女たちが攻撃を仕掛けていたが、防御結界が張られているのか空中で爆発していた。学院内に閉じ込められてしまった。

建物の中にいるといつ部屋が動きだすかわからない。どこに避難すれば……。

「ダンジョンだ! ダンジョンに退避を!」

アグリッパが大声で叫び、学生たちが中庭を突っ切って走っていく。それを見て、一斉に動き始める客もいるが、ほとんどどうしていいかわからないで立ち尽くしていた。

俺は一足飛びでラジオ局に戻った。

ミストは鳥籠にひっきりなしにやってくる鳥を入れている。ウインクは情報のメモを見ながら、放送すべき情報を赤ペンで丸を付けている。

グイルはバルーンを膨らませていた。緊急用の送信機を飛ばすつもりだ。

全員、アンテナを折られても、外壁を切られても、放送を続けるつもりのようだ。

「俺たちは、俺たちの役割を全うするんだ。そうだろ!?」

グイルが俺に聞いてきた。

「そうだ」

これほど頼もしい仲間はいない。全身の毛が逆立つような感覚があった。

「ウインク! アグリッパさんが、学生たちをダンジョンに誘導している。ミスト、誰も学院の外に出られなくなってるようなんだけど、情報は入ってきてるか?」

俺はグイルと一緒にバルーンを膨らませながら聞いた。

「人も魔物も全部閉じ込められてる。学院を守っていた防御結界が反転したみたいだって。外からも入ってこられないし、音も聞こえなくなってる」

「ラジオで助けは呼べないか……。いや、中の人たちだけでも避難誘導をしよう!」

「了解! 学院の建物は全部危ないと思っていいんでしょ!?」

ウインクが聞いてくる。誰も今の状況がわからない。犯人以外は……。

「わからない。でも教室が次々、建物の外に出ていっていることは確かよ。でも、部屋は浮いてるのよね……」

ミストは外を見上げながら言った。

落ちているのは、椅子や机、棚などだけで、部屋自体は空中に浮かんでいる。すでに学院の建物は廊下や階段と骨組みが見えていて、教室や工房が空中に浮かんでいた。

「壁、切らない方がよかったか?」

「いや、外がよく見えるから切った方がいい」

「それに、そらバルーンも飛ばせるだろ」

グイルが送信機付きのバルーンを外に飛ばした。

「小型の送信機を背負うわ!」

ウインクがベルトをつけて、送信機を背負った。配線の長さは十分に足りる。

「熱くなるかもしれないから、背中に板を挟んでおいた方がいいぞ」

「わかった」

これでどこでもラジオを放送できる。

「鍛冶場からヘルメットを配布しているって!」

「一旦避難を促してくれ。落下物に注意して森へ避難するように」

「了解」

すぐにウインクはマイクを握り、音声チェックを始めた。

「緊急事態につき、これよりラジオ局が独自に放送します! 外から来られたお客様は森へ逃げてください。学生たちはダンジョンへ。とにかく頭上に注意してください。ヘルメットがなければ鍛冶場から持っていって大丈夫です」

ミストから手渡されたメモ書きを読みながら、ウインクが落ち着いた声で喋り始めた。

「現在情報が錯綜しております! 緊急事態につき皆さま自分の身の安全の確保を最優先にしてください!」

ウインクの言葉が学院中に広がっていく。

直後、空飛ぶ箒に乗った魔女たちが続々とラジオ局に突っ込んできた。

「コウジ! 悪いんだけど、箒と魔道具に魔力込めてくれる!」

「お安い御用です!」

俺はすぐに魔女たちが手渡してくる箒と魔道具に魔力を込めていく。

「空から見た状況は?」

ミストが魔女たちに聞いていた。

「完全に学院は防御結界に囲まれている」

「たぶん、衛兵が校長を捕まえ損ねたわ! 校長室だけが動いているから……」

「それから、教師の中から裏切り者たちが出た。魔法学とダンジョン学は総崩れ。いつから計画を練っていたのかわからないけど、古株の教師陣は信用しない方がいい」

「ダンジョン学って学生たちがダンジョンに避難しているんですけど……」

「それはマズいね」

「どうして?」

ウインクが聞いた。

「魔物が出てきている」

「モンスターではなく魔物が……?」

「そう。わからないけど、下層のモンスターが実体化して入口から出て来てるみたい」

「結局、何が起こってるんです?」

グイルは放送のスイッチを押していた。

「わからない。ただ、これだけ教室を飛ばせておけるほど空間魔法を扱える人は世界にもほとんどいないと思う」

「土魔法か何かですか?」

ミストも聞いている。

「そういう魔法陣が仕組まれていたのだとしたら、私たちでも気づくわ」

「犯人は校長一派なんですよね?」

「それは間違いない」

校長たちがずっとやってきたことを考えると、いきつくのは一つしかないが、考えられない。

タンッ。

崩れた部屋の隅に、シェムが跳んできた。

「ダンジョンから魔物が出てきた。たぶん、避難してきている。私は対魔物にはてんでダメだから、コウジを呼びに来た」

「わかりました。すぐに向かいます。一つだけ教えてください。シェムさん、これは何が起こってるんです!」

自分の考えや予想が正しいのか確認のために聞いておきたかった。嫌な予想は当たるものだが、考えたくないこともある。

「……私たちが作ったダンジョンコアを悪用された」

「つまり学院全体が……?」

「そう。学院の敷地内全体がダンジョンになっているってこと」

「なっ……!」

魔女たちが言葉を失った。

「校長たちがそのために準備をしていたと考えると……」

「打つ手は限られている。しかも、学院内にはダンジョンがすでにあるんです」

「ダンジョンの中にダンジョンを作ってはいけない。自分が今どこにいるのかわからなくなるから。そう言われているけど、歴史上それをやった人物の記録はない」

「じゃあ、今、この世界で初めてのことがこの学院で起こっているっていうの?」

ウインクが聞いた。

「ダンジョンの外にダンジョンを作った者はいない。何が起こるのかわからないけど、元からあったダンジョンに住む魔物たちはダンジョンから逃げ出している。今すぐどちらかのダンジョンコアを破壊しないと、このアリスポートの空間ごとどこかの宇宙に飛ばされるかもしれない」

ガタガタガタガタ……!

部屋が再び揺れ始めた。

「たぶん校長も何が起こるのかわかっていない。盗まれたダンジョンコアは未完成品だから、効果も威力も制御できていないと思う」

「なのに起動したのか!」

グイルは唇を噛み締めていた。

「私が作った。私が止める!」

シェムが棒術で使う棍を握りしめた。

「本人が言うなら、任せるしかないね」

「シェムちゃん、私たちも協力するから、校長室を追うよ!」

魔女たちが魔力回復シロップを飲み干して、シェムの手を握った。

「老いた魔法使いほど面倒なものはないね」

「賢者と言われているうちが華さね」

魔女たちは、魔力を込めた魔道具を手にシェムを連れて空飛ぶ箒で飛び出していった。

俺はベルトに小型のラジオ受信機をひっかけた。

「じゃ、ちょっくら行ってきます」

俺のやるべきことはダンジョンから出てきた魔物討伐だ。それなら、自信はある。

「私たちは続けていいんだよね?」

「もちろん。誰も聞いてなくても、俺だけは必ず聞いている」

ウインクに聞かれて、思わず答えた。

「生きるとは死ぬことと見つけたり」

ミストが声をかけてきた。

「二つに一つ、生きるか死ぬかの選択肢があったら、迷わず死を選べ。難しいことではなく腹を括った方が進めることがある。迷って失敗を考えて生きながらえるよりも、本当にやるべきことに向き合って死ぬことの方が尊い。死霊術師の死生観よ」

「どうして、今それを? 俺が死にに行くみたいじゃないか?」

俺は笑って言った。こんな状況だから皆、緊張しすぎている。

「そうじゃないわ。迷わずに役割を全うして。その方が生き返らせるのは簡単だから。あなたの両親は本当に生き返ったでしょ。死者の国で知らない者はいないわ。向こうが禁忌を犯すなら、こっちは禁忌の息子で対抗しないとね」

「なんだそりゃ?」

意味は分からないが、ミストなりの励ましだろう。

「いつでも学院全体に死霊術をかけられる準備をしておくから、思い切ってやっていいってことよ」

「そういうことか。ウインク、グイル、悪いけど放送を頼むぜ。ミストも俺も別件があるから」

「任せておいて!」

「飛んだルームメイトだよ! 早く行ってこい!」

グイルの声を聞いて、俺は外へと飛び出した。

浮いている教室の中を走り抜け、窓を割って外に飛び出し、森の木々を超える。

木の枝を掴んで着地。学生たちが走っている中を縫うように駆け抜けた。

一瞬、世界樹での仕事を思い出した。限られた空間の中で最大限動き回るという点は似ているのかもしれない。

遠くでアグリッパとダイトキが大型のフィンリルと戦っているのが見えた。たった一頭のフィンリルに手間取っているらしい。

小石を拾ってフィンリルのこめかみを狙って投げた。

ギャンッ!

正確にこめかみに当たったので、一気に迫って魔力の剣で心臓を一突きにした。

「なにを迷っているんです?」

「コウジ! 逃げていく魔物とこちらに向かってくる魔物がいるのだ!」

「人化の魔法を使っている魔物も混ざっているんだ! わけがわからん!」

「魔族と魔物使い学を受講している学生に応援を要請してください。避難している学生の中にもいるはずですから」

そう言いながら、ダンジョンから飛び出して向かってくるハーピーの心臓に向けて魔力のナイフを投げる。

「コウジ、この学院には魔物使い学なんてないのだぞ。魔族との親交を深めているのに、そんな学問があっては差別が広がるばかりだからな」

「え? アグリッパさんもドーゴエさんも魔物使いじゃないですか?」

「俺たちは魔物使いではあるが、学問として学んでいるのは魔物学だけだ。飼育学などないぞ」

「そうは言ったって、魔族と魔物は違いますよ。そうですよね?」

避難してきた学生たちに聞いてみた。その中には魔族のアラクネがいる。

「人間の文化の中では、まだ我々魔族と魔物は区別がつきにくいよ。それに魔物に人化の魔法をかけられたら、私たちだって一目ではわからないわ」

人化の魔法は校長の得意魔法だった。

「少なくとも危害を加えてくる者たちは敵でいいんじゃないですか? それに関しては大統領も異論はないと思いますよ」

「その通りね。でも、こんな風に紛れられたら、敵か味方か……」

避難している学生たちを見ると、魔族もいれば人間もいるし、エルフや獣人だって多い。

「そんなの簡単さ。魔族なら皆、青いスカーフやペンダントみたいな身につけるものを持っているはずだ」

足が山羊のサテュロスが大声で前に出てきた。

「コムロカンパニーだよ。皆、憧れているから、身につける物の一部に青を入れているはずさ。我々、魔族の民族衣装みたいなもんでね」

サテュロスは角笛を取り出して吹いた。

プゥウアアア!!

角笛の音が鳴り響くと、魔族たちが青いスカーフや腕輪、ネックレスなどをつけ始めた。

「ナオキコムロ帰還の祝日には、魔族なら必ず青を身につける。お前さん、息子なのに知らなかったのか?」

魔族なら当然だというように聞いてきた。

「親父が帰ってきたくらいで祝日にしてたら、うちは祝日だらけだよ!」

「そりゃ、そうだ」

サテュロスが笑っている間に、青いアクセサリーを身につけていない魔族に注目が集まる。

ゲギャギャギャギャ!

雄たけびを上げながら服を千切り、ガーゴイルが本来の姿を現した。

周りにいた魔族の学生たちが腕を取って地面に抑えつけていた。

「魔族を気にしないで、ダンジョンから出てくる魔物は討伐して構わないよ!」

アラクネの学生の一言で、アグリッパとダイトキの迷いも消えた。

ズンッ!

再び地面が揺れた。

地面が隆起して、森の木々がメキメキと音を立てながら倒れていく。

建物の方を振り返ると、教室や工房が、校長室を中心に空中で回転し始めている。中にある机や棚が四方八方に飛んでいく。

校長を捕まえようとしていた衛兵や冒険者たちも吹き飛ばされていた。魔女たちが空中で拾っている。

魔女と一緒に飛んでいるシェムは棒の先に、魔力の金槌をつけて校長室を叩き割ろうとしているようだ。

『落下物にご注意ください!』

ウインクの声がラジオから聞こえてきた。

『学生たちは文化祭を見に来てくれたお客さんを守って!』

その一声で、避難していた学生たちは振り返った。

ズゥウウウン!

地鳴りが腹に響く。

「まったく、厄介な学生たちを入学させたものだ」

どこからともなく声が聞こえた。

避難している学生たちの後方に獅子頭のキメラが喉をグルルルと鳴らしながら、倒れた木々を掴んで放り投げていた。魔物らしくない邪魔なゴミを捨てるような仕草だった。

「やあ、かわいい学生たちよ」

キメラの声は聞いたことがあった。ダンジョン学の教師で、入学試験の時に鎧を着ていた先生だ。

あまりに見た目が違うので、誰も動けないでいる。

「教えたはずだぞ。自分が勝てないと思った敵に遭遇したら、どんな状況であろうと逃げ出せと。それとも何か? 私に勝てそうか?」

そう言ったキメラの胴体に、抉れたような刀傷が入っていた。

「勝つ気満々でござるよ」

時魔法を使うダイトキが勝てないわけがない。たとえ、刀が竹光でも時間を早めた攻撃は身体の芯まで響く。

ギャアアアア!

「こんな傷など我らの苦しみから比べれば容易い」

そう言いながら、キメラは尻尾の大蛇でダイトキを攻撃していた。

「年長者の苦しみを若者に押し付けるんじゃない」

アグリッパが大蛇を炎の魔法で焼いていた。

グゥウオオオ!

「知らぬのであろう? 魔族という言葉がまだ生まれていない頃から、我々は世にいたのだ。アンティワープ様が生み出した魔物の苦しみをお前たちは身をもって知ることになる」

カラァーン!

唐突に授業開始の鐘が鳴り響いた。

「ようやく鐘が鳴った。自由の鐘だぁ!」

キメラの姿になった教師は、人型へと戻り破れているポケットから魔石を取りだして噛み砕いていた。

「人間は本当に良い物を作るな」

「間に合ったようだね」

影の中から眼鏡の事務員が出てきて、キメラの教師に注射針を突き刺した。

「ゴズ君のお陰で影魔法は知っていても、影を移動する魔物は知らなかったかい?」

アグリッパが攻撃したが事務員は、笑って陰に入って躱していた。火の魔法を放つと余計に影が伸びて逃がしてしまう。

キメラの教師の傷はみるみるうちに治り、筋肉が盛り上がっていく。

「埋もれている我が同胞たちよ。今こそ役目を全うせよ!」

目が充血し血が穴という穴からしたたり落ちているキメラの教師が叫んだ。

森の隆起していた地面が割れ、キメラやガーゴイル、ハーピー、土蜘蛛など魔物が一斉に地面から飛び出してきた。

「さあ、学生たちよ。本当の戦いを始めようか……?」

パキンッ!

いつの間にか飛び出していたダイトキの竹光が折れていた。

「バーサク状態の魔物には、そんな軽い攻撃、傷もつけられんよ」

ゴゥ!

アグリッパとオルトロスのポチが炎を吐き出す。

バクンッ!

キメラは獅子頭で炎を食べてしまった。

「学生気分が抜けないようだな。ここはすでにダンジョン内部だ。本物の冒険者はおらぬようだな」

ゴォオ!

キメラは火球を吐き出して、ダンジョンまでの木々を燃やしてしまった。

「さて、今一度聞こうか。私に勝てそうか?」

目が血走ったキメラの教師は涎を溢れさせながら聞いてきた。

ギィイエエエエ!

ゴォオオアアア!

ツェアアアアア!

地面から飛び出してきた魔物たちが一斉に叫び出す。

学生たちはその雄叫びだけですくみ上り、動けなくなってしまっていた。

『全員、身を守ることに専念して!』

ラジオからウインクの声が響いた。

どうにか攻撃を俺に向けられないか考えるが、どうしていいかがわからない。

とりあえずキメラの教師に対応すればいいのか。それとも影を移動するシャドウィックの事務員を先に仕留めるか。迷っている場合ではない。

同時に仕留めるか。

「ああ、やっぱり何かあったのね」

気の抜けた声がダンジョンから聞こえた。

ズンッ。

直後、キメラの教師が半分に縮み、全身から血が噴き出していた。

「いい機会だから、教えておくか。魔物の倒し方として、こうやって魔物本体の骨を心臓と肝臓に突き刺すと、内臓が破裂して全身から血が飛び散るよ!」

教師を半分に押しつぶした張本人であるメルモさんが、血まみれのキメラを掴んで笑いかけてきた。

あまりの狂気に魔物も学生たちも時間が停まったように動けないでいる。狂気には狂気を。バーサク状態の魔物にはメルモさんか。

「あのぅ……、ダンジョンの10階層から7階層まで繋がっちゃってるんだけど……。コウジくん、とりあえず状況を教えてもらっていい?」

「校長が学院の敷地をすべてダンジョンに変えてしまったみたいです」

「え!? ああ、そういうことは想定してなかったなぁ……。はぁ」

メルモさんは溜息を一度吐いて、丸い球のようなものを振りかぶった。

「目と耳!」

俺は咄嗟に叫び、耳を塞いで目を閉じた。

キーン……!

閃光玉が周囲を照らし、音爆弾が耳をつんざく。

ボフッ、ボフッ、ボフッ……。

耳から手を離すと、風が吹くような音が鳴っている。

見上げればメルモさんが魔物を大きな魔力のメイスで潰していた。

顔を上げている俺に気づいたメルモさんは、「手伝えよ」とジェスチャーで伝えてくる。

「あ、すみません」

俺は魔物の心臓を突き刺していった。

「……で、あれが新しいダンジョンコア?」

メルモさんがいつの間にか俺の横にいて、建物の方を指さして聞いてきた。

「そうです。あの浮いているのが校長の部屋で、魔女たちが開けようと攻撃しているんです。後ろに乗って棒を構えているのが人工ダンジョンコアを作った本人です」

「そう。だったら向こうのダンジョンコアは任せようか。じゃ、コウジくんは剣でも持ってついてきてくれる?」

「は、はぁ」

剣を持って行かないと、磔にされてどこの血管から血が噴き出すのか教え込まれそうだ。

俺は急いで辺りを見回すと、ちょうど音爆弾で朦朧としている学生が剣を持っていた。確か、鍛冶場の研究生だ。

「先輩、ちょっと剣をお借りします」

研究生の先輩は、朦朧としながらも頷いている。

「何をするんですか?」

「こっちはこっちのダンジョンコアを、どうにかしないとね」

メルモさんはにっこり笑っていたが、具体的には何も教えてくれない。教えてくれるのはやり遂げた後だろう。

実践第一。言い訳は終わった後で。メルモさんは基本的に失敗しても笑ってくれるが、できるまで終わらない。

「皆! 死ぬこと以外はかすり傷! 腕の一本や二本取れても生き残っていれば再生できるから、頑張って生き残ってね!」

メルモさんが大声で叫んでいた。学生たちに言っているらしいが、未だ朦朧としている学生たちがほとんどだ。

「じゃ、行こうか」

「はい」

俺はメルモさんに連れられてダンジョンに潜った。

「あの、大丈夫なんでしょうか?」

「うん、大丈夫にしないとね。ベルサさんが作ったダンジョンを壊したら、私は殺されるかもしれない」

メルモさんは空笑いながら言った。元からあったこのダンジョンはやはりベルサさんが作ったものらしい。

「最近気づいたんだけど、死ぬこと以外はかすり傷って言うけど、結構痛みを伴うのよね」

「へ?」

「あ、そこの落とし穴に入って、近道だから」

トン。

俺は背中を押されて、落とし穴に嵌った。