作品タイトル不明
『キメラは揺れながら綿飴の夢を見る』
フロウラの町は今日も活気があった。
世界中から商人や冒険者が集まり、北半球と南半球の中継地点となっている。休日ともなると教会の前の広場には屋台がたくさん出店し、さながら祭りのようだ。
「お、焼き菓子まで出てるのか。あれは、アポ飴か?」
屋台にはアポの実に飴をコーティングした菓子まである。まるで前世のりんご飴のようだ。
「そのうち綿飴も出てくるな」
「綿飴?」
独り言を喋っていたら、隣にいたミリア嬢が聞いてきた。
「ああ、ふわふわの飴だよ。魔道具で作れると思うから、今度作ってみよう」
「先生は珍しいことばっかり知ってるね」
「学はないけどな」
こちらの世界で学校に通ったことはないし、資格もない。
「さて、お茶屋に行く?」
「うん、今夜はアマンダに泊めてもらうから。ゆっくり仕事してきてね」
「はい~、行ってきます」
「いってらっしゃい」
俺は北の砂漠へ向けて、走り始めた。
今回の依頼はキメラの駆除。
一週間前、荷馬車が襲われたらしく、フィーホース一頭と運んでいた野菜が食われたそうだ。有料道路に居着いてしまったらしく、通行止めになっているという。有料道路を管理しているガルシアさんの一家では対処できないとのことで、ルージニア連合の中央政府が直々にコムロカンパニーを指名してきた。
砂漠の手前にある草原にテントを立てて、拠点を作る。周囲には誰もいなければ建物もない。ただ背の低い草が一面に広がっているだけ。
砂漠はそれが砂に変わる。
風が強い日で砂嵐となっていた。遠くには竜巻も見える。
「あそこか?」
巨体のキメラは動くだけでも風を巻き起こす。
マスク着用の上、魔力の壁を展開。竜巻に近づいていく。
キメラは簡単に見つかった。
「ギャウギャウ、メェ~、シャー!」
砂地の上でのたうち回っている。身体はライオン、顔はライオンとヤギ、尻尾は大蛇という、この世界ではよく見るタイプのキメラだ。
頭が三つあるため、喧嘩をして成長しきる前に死んでしまうが、目の前のキメラは二階建ての家くらいはある。
「珍しいな。これは魔物学者が喜びそうだ」
キメラがのたうち回っているので、閃光弾と音爆弾でとりあえず動きを止めることに。
ボカーンッ!
という爆音とまばゆい光があたりを包む。
なにが起こったのかわからなくなっているキメラに近づいて診察スキルを使う。どうやら、体中にノミの魔物が張り付いて、皮膚炎を起こしていた。
「こりゃあ、痒かったろうな。のたうち回るのも無理はない」
魔物除けの薬を体中にふりかけてノミの魔物を退治。炎症を起こしている箇所に回復薬を塗ってやった。うちの会社も以前は問答無用で駆除していたが、今は学術的に価値のある個体は、できるだけ生かそうという方針に変わっている。
気がついたキメラが俺の頭を噛み砕こうとしてきたので手で払い、鼻を掴んでやった。その後、火を吐いてきたり毒牙で攻撃したりしてきたが、すべてあしらい力の差を見せつけると、ようやくおとなしくなった。回復薬で痒みも取れたのだろう。
特にテイムスキルを持っていなくても、成長した個体は学習能力があるので、力を見せつけるとほとんど襲ってくることはなくなる。
通信袋を取り出して魔物学者のベルサに連絡。
「巨大なキメラを捕まえたよ」
『お、本当!? 珍しいね』
「世界樹に持っていくか?」
『そうね。他の場所だと迷惑でしょう。セスには連絡しておくから、船で持ってきていいよ』
「了解」
通信袋を切って、キメラを草原の拠点へと連れて行く。
途中でデザートサラマンダーを狩り、肉をキメラのそれぞれの頭に分け与えた。胃袋や消化器官は一緒だが、それぞれの頭が同じ量を食べるということが重要。餌付けによってすっかりなついた。
「これも食うか?」
拠点でこっそり買っていたアポ飴を四等分して、三頭と俺で分け合った。
キメラは甘いアポ飴が、相当気に入ったらしい。三頭はアポ飴が刺さっていた棒を大事そうに舐めていた。
翌日、フロウラにキメラを連れて行くと、ちょっとした騒ぎになった。セスの会社の社員たちには連絡が行っていたようで、気にせず港の裏口から船へと案内してくれる。
キメラは強化魔法の魔方陣が描かれた鉄製の檻を見て入るのを嫌がったが、アポ飴で釣るとあっさり陥落。それぞれに一つずつ用意してやったら、少し俺の分を残しておいてくれた。意外に優しい。
「へぇ~これがキメラ! 変わってるのね!」
「合成魔物ってやつさ。後で、ブラシをかけてやろう。ノミの魔物がこいつの天敵なんだ」
「フフフ、可愛いところあるじゃない。あ、そうだ。言ってた砂糖を用意できたわよ」
「あ、本当。じゃあ、綿飴作ってみるか」
船旅は長いので、暇つぶしは重要だ。
鍋に魔法陣を回転させる風魔法の魔法陣を彫っていたら、船が出港。虫の魔物がついたりカビが生えないように、キメラの檻は甲板のど真ん中に置かせてもらった。
失敗を繰り返しながら綿飴を作っていたら、一週間ほどで成功。船員やキメラにもお裾分け。
「これ、売れるわね! アマンダにも教えてあげよう! いい旦那のところに嫁いだわぁ~」
妻からの評価も上がった。
船は世界樹のある大陸に到着。
「それがキメラか。なかなかの若造だな」
「ナオキ、変な物を食べさせたでしょ? 野性味が消えてる!」
ゼットとベルサが港で待っていてくれた。
後日、世界樹にいるベルサから『キメラが揺れながら雲をずっと見つめている時があるんだけど、なにしたの?』と聞かれた。
「甘い夢を見ているだけだよ」
俺はそう答えておいた。