軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『ベルサの容赦ない研究』

暗いダンジョンの部屋で目を覚ました。

「うあっ、身体が痛い」

ここのところ無機物が魔物になる要因について、研究している。実験と観察を繰り返していると、疲労で椅子に座ったまま寝てしまうのだ。

今は、宝箱の魔物を発生させようと、微魔物を宝箱の中で繁殖させているところ。宝箱や壺などの無機物でも、ある程度微魔物を繁殖させてこぶし大の魔石を入れると、魔物に変わるようだ。

ガブガブと私のローブの袖を噛んでいる宝箱の魔物の舌を引っ張り出して観察したが、ほとんど肉食系の魔物の舌と変わらない。

「お前らはどうなってるんだい?」

私が宝箱の魔物をガシガシと撫でてやると、嬉しそうに跳ねていた。無機物から発生した魔物は跳ねて移動するのだが、傷ついたり割れたりしてしまうので命がけだ。

「どうなってるんだ?」

ヨハンが宝箱や壺の魔物を見て、呆然としていた。

「不思議だよねぇ。人間が作った道具が魔物に変わるなんて」

「いや、ベルサさんはなんの装置もなく魔物を生み出したんですか?」

「そうだけど、なに? なんか悪いことでもした?」

「いえ、ダンジョンの中ですから、何をやってもいいのですが、光の精霊様から魔物の担当を任されている身としては、完全にお株を取られた形です。ハハハ」

ヨハンは笑いながら、頭を抱えていた。そろそろ北極大陸のダンジョンでの研究も終わるか。同じ魔物学者として他人の縄張りで研究し続けるのは気が引ける。

「これもコムロカンパニーさんでは、普通のことなんですか?」

「まぁ、そうだね」

カビの魔物を繁殖させてメルモに使役させたりしたことがあるが、似たような研究だ。

「社長が消えても、変わらないんですね」

「変わらないね! むしろ、サボったりする方が私たちには難しいことだ。ヨハン、時間があるならエルフの里まで送っていってくれない?」

「構いませんが、なにをしに?」

「ダンジョンでの研究は一区切りついたから、次はもうちょっと大きいものを魔物にしようかと思って」

「なにを魔物にするつもりですか?」

それは言えない。私は首を横に振った。

「そうですよね。研究者ですもんね。研究前の計画は他人に話さないのが普通です。わかりました! エルフの里に送っていけばいいんですね?」

「そういうこと」

ヨハンは光の勇者だから優しいところがある。

「いつかベルサさんに追いついてみせます」

「はぁ、まぁ、頑張ってね」

ヨハンが追いつこうが追いつかなかろうが、私としては自分の研究をしてほしいと願うばかりだ。

ヨハンにヴァージニア大陸のエルフの里まで送ってもらった。未だにナオキが消えたことでウジウジしているアイルは置いてきた。いつまでもナオキにばかり甘えていても仕方がない。自分のことは自分でやらないとね。

エルフの里では、町の建築の真っ最中。ハイエルフの支配が終わり、エルフたちも樹上の家から地面に降りてきている。

ここでの研究は引っ越しなどで廃棄された家具や道具は魔物になるのか。

「ただ、エルフの持ち物って長く使うものが多いんだよね?」

「我々は寿命が長いので、物持ちはいいですね」

引っ越しを手伝っている警護の里のエルフが教えてくれた。

「あれは?」

私は樹上を渡る吊橋を指した。

「あれなら、いいですけど、なにに使うんですか?」

「研究だよ」

研究ならいいか、と許可が出た。ただ、樹上の吊橋は、風通しのいい場所にあり、全然、微魔物が繁殖しない。大量の葉っぱを敷き詰めたりしてみたが、枯れ葉の魔物が発生するだけで、吊橋の魔物は発生しなかった。

「失敗だったか」

無機物の魔物化には、ある程度、湿気が必要なことがわかった。また、人目につく研究は、面倒なこともわかった。エルフの薬師であるカミーラが、なにかと相談しに来るし、軍の隊長はせっかく発生した魔物を軒並み倒してしまうし、観察する時間も考える時間も取れない。

エルフの里に来て、二ヶ月ほど経ってしまっている。

「もうすこしゆっくり人がいないところで研究がしたいな」

そろそろ場所を変えようと思っていたら、セスが船を手に入れたと言うので、隣の大陸まで乗せていってもらった。

「ベルサさん、グレートプレーンズまででいいんですか?」

「セス坊はうまくやってるみたいだね。湿気が多くて、あんまり人目につかない場所が他にあれば、そっちがいいけど」

「だったら、ジャングルはどうです? ほら、僕らが最初に群島からやってきたところですよ。あそこなら、湿気は多くて人はいないですからいいかもしれませんよ」

「お、いいね。あそこには人工物もあったよな?」

「ええ、遺跡があったはずですよ」

「よしよし、それならそこまで送って」

「了解です!」

セスは、群島を抜けて隣の大陸のジャングルまで送ってくれた。ついでに、輸送中だという小麦粉までくれた。

「ベルサさんは研究を続けている時に飯を食べないので、ちゃんと食べてくださいね」

「うん、一日一食くらいは食べることにするよ」

「もっと食べて下さい。ベルサさんがガリガリで社長に再会したら、僕とメルモが怒られますから」

「そうだよねぇ~。どうせナオキのことだから変な時に帰ってくるよ。こっちのタイミングなんて気にしないんだから」

「そうですよ。絶対、駆除と清掃の仕事を優先させてきますよ。それで『食べてないから体力ない』なんて言ったら……」

「そういう恐ろしい話をするなよ。あいつは私たちが牢屋に入ったことをずっと覚えてるようなやつだぞ。なに言われるかわかったもんじゃない。一番、精神的に辛いことをやらされかねない」

「社長の強さって、レベルとか関係なくそういうところですよね」

「断れないような方法を取るから容赦がないんだ。なにかあれば連絡するから、セスも連絡してくれ」

「了解です!」

セスの船を見送ってから、ジャングルにある漁村の跡を見て回った。

「手頃の小屋だなぁ。これなら魔物にできるかも」

手始めに物置で使っていたような小屋を魔物にすることに。

ジャングルは湿気もあるし、人もいない。研究するにはもってこいの場所だった。

石碑も多く、北極大陸のショーンさんから資料を送ってもらったりもした。だいたいセスかヨハンに連絡して運んでもらった。

ヨハンに小屋の魔物を見てもらったら、また落ち込んでいた。小屋自体が魔物という事実に理解が追いついていないのかもしれない。ドアから入った魔物や人をトリモチのような粘着力のある胃液で消化していく様は、私も奇妙だな、と思った。面白いけど。

石碑や石柱は、腕や脚が生えることが多い。腕や脚も固いのが不思議だった。

遺跡だけあって、思念も溜まっているようでシンメモリーというゴースト系の魔物の卵も多かった。文字の書いてある石碑を解読すると、ジャングルに飲み込まれた遺跡は、クロノス・ティタネスという星詠みの民の国だったそうだ。

城跡まで見つかったので、城ごと魔物化してみることに。

魔族領にも近かったので、様子を見に来たボウには、

「フハ、やりすぎ。ナオキと同じで容赦がない」

と、言われた。

「動く魔物の城なんて、魔王にぴったりじゃないか? ボウたち親子で、住むか?」

「いや、遠慮しておく」