軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『セスの夏休み in 南半球』

南半球二年目。コムロカンパニーに入社して、初めて夏休みを貰うことができました。

アイルさんたちは、現在ドワーフのおばさんたちに世界樹の剪定や魔物の駆除作業を教えているため休めないのですが、僕はそんなに忙しくなく、「休めるうちに休んでおけ」と社長に言われ、休暇を取ることになったのです。

休暇といっても船はないし、世界樹で魔物が大発生すれば通信袋で呼び出されるのでそんなに遠くへは行けません。拠点にいるとベルサさんの研究の手伝いをさせられてしまい、休暇になりません。となると、だいたい砂漠でなにかすることになるのですが、砂漠ですから、砂があるだけで、なにもありません。

じっとしているだけでも、暑さで汗が垂れてきます。足が砂に埋まり、歩いたり走ったりすると体力が消耗してくるので、僕とメルモは嫌いなのですが、アイルさんは「訓練に好都合じゃないか」と言っていました。社長は「アイルは頭が筋肉だから仕方がない」と言いながら、砂漠を信じられないスピードで駆けていきました。社長も変です。

砂漠の怖さは、昼と夜との温度差と砂嵐、それから時々砂山の中からスライムが出てくるくらい。

砂漠のいいところはなにもないところ。食料と水さえ確保しておけば、誰に気をつかうでもなく、頭を空っぽにして、自分を見つめなおすことができます。

この前、世界樹でムカデの魔物が大発生したときに、僕はほとんどなにもできませんでした。

社長から「別に俺やアイルみたいになろうとしなくていい。自分の個性を活かせ!」と言われました。僕は新しい魔物に対しての対応力がないのです。なにをどうしていいかわからず、魔物に出会った瞬間、思考停止状態に陥り動きが止まってしまうこともよくあります。指示をされれば、すぐに対応できるのですが、自分で考えて行動するのに、どうしても時間がかかってしまう。自分に自信がないのだと思います。

そのためには、たった一人でなにかをやり遂げてみるしかないと思い、僕は砂漠で一週間、生き延びてみようと思ったのです。

食料も水も必要最低限で準備をして、最悪どんなに迷っても帰ってこられるよう空飛ぶ箒だけ持っていきます。社長に行き先だけ告げ、通信袋は置いていくことにしました。

岩石地帯と砂漠の間に、道標として石が積まれています。ドワーフの子どもたちを母親に会わせるため黒竜の洞窟に連れてきた時、母親が道を間違えないようにと祈りを込めて積んだ積石です。

そこが砂漠の入り口。

「さて、行きますか」

砂漠で一週間過ごすといっても、ただじっとしていても意味がないので、砂漠の北東の端、海が見える場所まで歩いていって、海水を汲んでくることを目標にしました。

昼の間は休みながら太陽の方角を頼りに北東にまっすぐ進み、夜になれば魔物の毛皮を巻いて眠るつもりでした。

ところが、

「寒い!」

思わず、声を上げてしまいました。

砂漠の寒さは経験していたつもりですが、今までは焚き火をしていたためそれほど寒くなかったようです。燃やすものも持たずに砂漠に来てしまった自分を呪いたい気分ですが、呪ったところで身体が温かくなるわけもなく、砂を掘り、身体を埋め、顔だけ寒い砂漠の夜に晒して一夜を明かしました。

夜が明け、日が出てくれば一気に暑くなります。照りつける太陽に皮膚がジリジリと焼かれていき、身体から水分が抜けていきます。水は一週間分を予定して多めに持ってきたのですが、予定は崩れ、水が足りないことに気づきました。

「あまりにも砂漠を舐めていた」

弱音を吐いても仕方がないのですが、弱音くらい吐かないとやっていられないのです。

空飛ぶ箒も使わず、アイルさんが遠くまで見通してくれないと、どのくらい進めばいいのかもわからず、ペースが掴めません。誰も助けてくれないし、足は砂に取られ、暑さでなにも考えたくありません。

拳大の干し肉を噛みながら、足を前に出す。たったそれだけなのに、思うように身体が動かなくなってきました。休憩を挟むと余計に水を飲み、汗をかいて体力も奪われます。スライムが飛び出してくれば、ナイフで切り、対応をしなくてはなりませんでした。

日が暮れれば早々に穴を掘って寝ます。

深夜には寒くて起き出し、再び北東に向かって走り、距離を稼ぎました。

そのまま朝を迎えた三日目、ようやく海が見えてきました。ただ、行けども行けども、なかなか海岸までたどり着かず、昼を過ぎてから海岸に到着。

海には小魚の魚影が見えます。投網でもあれば、いくらか獲れたのでしょうが……。

「魔力を網に変えればいいのか」

社長は魔力の壁の中から空気を抜く技を使い、アイルさんは魔力の壁の中を切り刻む技を使って魔物を駆除していました。僕も、魔力の壁を使って、なにかしようと思っていたのですが、そもそも魔力量が二人とはまるで違います。魔力の壁を張って、さらになにかをするなんて、一気に魔力を消費してしまいます。

でも、網なら漁師の修業をしていた頃になんども直したことがありますし、イメージもしやすく、自分の個性になる気がしました。

試しに海に向かって魔力の投網を投げてみましたが、網目が大きすぎたのか小魚は獲れませんでした。ただ、砂漠に向かって投げてみると、砂の中からスライムが大量に獲れ、ナイフで皮を傷つけ日干しにして魔石を回収。日に当てられた魔石はほんのり温かく、夜、懐にいれて眠ると、寒さが和らぎました。

あとは、黒竜の洞窟に帰るだけ……だったのですが、五日目に砂嵐に遭い、方角もわからず、砂に穴を掘り、息だけできるように魔物の毛皮で顔を覆い、ひたすら無心で過ごしました。

六日目、砂漠では珍しく曇天で太陽の位置がわからず、闇雲に歩いて完全に方向を見失いました。砂漠のどこかで雨が降っているのかもしれません。どこかで水も尽き、いよいよ空飛ぶ箒で帰ろうかと思った矢先、鉄砲水に遭い、流されました。「砂漠で最も多い死因は溺死だ」と社長が言っていましたが、実際、死にかけました。

幸い、身体はレベルによって丈夫になっていたので、擦り傷程度で済んだのですが、空飛ぶ箒は折れ、鉄砲水から逃れるため体力も使い切ってしまい、その日は動けませんでした。

七日目、水もなく、食料もなく、体力も完全に回復しないまま、動き始めました。動いても動かなくても、このままだと死にます。日が出ているうちに方角を確認し、まっすぐズレないように歩きました。

でも、足を砂に取られ、砂丘から転げ落ちたり、暑さで朦朧としたりしていたので、まっすぐ進めたのかはわかりません。ただ、足を前に出すだけ。

日が落ちても、足は前に出し続けました。もし立ち止まってしまったら、二度と起き上がれない気がしたので。

真っ暗な砂漠の中、寒さに震えながら歩き続けていると、遠くに光の剣が見えました。たぶん、アイルさんの魔法です。その光の剣は、いつまで経っても消えずに残り、僕はそれに向かって、最後の力を振り絞り、足を前に出し続けました。

近くまで辿り着いて、ようやく光の剣が空高くまで伸びた巨大なものだと気づきました。その剣はドワーフの子どもたちが作った道標の上に浮かんでいました。

なぜか、社長とアイルさんが道標の近くの岩に座っていて、僕を迎えてくれました。

「よう。少しは成長できたか?」

社長が水袋を渡しながら、聞いてきました。

「はい」

「なら、いい」

僕は少しだけ自信を持てるようになりました。