軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『したたかな小さな魔物』ベルサ

ローカストホッパーの駆除が終わり、フロウラに帰る道中、私はフィールドワークとして街道脇の森に入った。

魔石灯に羽虫系の魔物が寄ってくる。灯りに釣られて、イノシシの魔物のフィールドボアやコウモリの魔物のショブスリも近づいてくる。

いつからだろう。獣系の魔物が怖くなくなったのは?

魔物学者として、一〇年ほど経っただろうか。その間に書いた論文は五本。うち、二本はマルケス氏の島で一気に書いた。

つまり、九年で三本しかかけなかったのに、今年に入って急に二本も書けてしまった。

今思うと、マリナポートに住んでいた頃は、かなり燻っていたように思う。論文を書かない自分にどうにか言い訳をして、悶々と惰眠を貪っていた。

カビの生えたパンを食べ、死にかけて、「もうダメだ」と思った時にナオキが助けに来てくれた。不思議な縁もあるものだ。

外の世界に連れだされて、本当にフィールドワークの大切さを知った。机の上で仮定の話をこねくり回していても、その場から動けないし、発想も仮説も小さくまとまったものにしかならないのだ。師匠の魔物学者、リッサが「書を捨て、森に出よう」と言っていた意味がようやくわかった気がする。現実を観察し、法則を見つけ出し、仮説を立てて実験しなくては身にならない。

さて、そんなことよりも今宵のフィールドワークだ。

アイルや新人たちがいないので、獣系の魔物は自分で追い払わないといけない。いつの間にか、それなりにレベルが上がっているので、ここの森に出現する魔物程度なら自分で対処できるだろう。

ナオキと違って探知スキルがないので、目や耳、鼻を使って魔物を探す。目的は観察。

出来れば、誰も目に留めないような魔物がいい。どうやって進化してきたのか。どうして生き残っているのか。わからないけど、なぜかずっと生き残っているという魔物ほどしたたかな魔物はいない。

木の枝でフィールドボアやショブスリを追い払いながら、地面に灯りを当て探していると、酸っぱい果実の匂いがした。周囲を見回したが、柑橘系の植物は生えていない。前方を照らすと小さなアリの魔物の群れが、なにかに踏まれて死んでいた。確かにアリの魔物は食べると酸っぱい柑橘系の味がするが、匂いまでするとは。夜の森は視覚が限られている分、音や匂いに敏感になるようだ。

アリの魔物は、木の葉を噛み切り、巣に持って行ってキノコを栽培するリーフアントという魔物だった。非常に小さな魔物で、眉間にある砂粒大の魔石が特徴的だ。

近くの地面を探すとちょうどリーフアントが引っ越しをしているところだった。

キノコが生えなくなると巣を離れ、次の巣を探すと『リッサの魔物手帳』には書かれている。

直接、リッサに聞いた話では、リーフアントの引っ越しについて行く魔物がいるらしい。リーフアントの引っ越しは非常に珍しく、リッサもよくわかっていないようで、

「今度観察できる機会があれば、必ず観察したい」

と、言っていた。

「これは大チャンス! 観察せねば!」と思い、魔石灯を引っ越ししているリーフアントの群れの側に置き、観察を開始。魔石灯の明かりに照らされて、成虫も幼虫もせわしなく足を動かし、移動している。

卵を持ってくるリーフアントや、顎が大きく兵隊の役割をしているリーフアント、キノコが付着した葉を持って行くリーフアントたち、その中にゴミにしか見えない虫の魔物がいた。

毛玉のような形のその魔物は、リーフアントの中にいても、あまり違和感がない。というか、いるかもしれないと思いながら観察しないと見つけられない気がする。

リーフアントのような、頭部、胸部、腹部がはっきりと分かれたキレイな虫系の魔物ではなく、頭部は小さく胸部にへばりついており、胸部と腹部との境目はよくわからない。要するに、虫系の魔物としてブサイクなのだ。

ジュル。

「いかんいかん。面白すぎて、よだれが……」

私は、ブサイクな魔物はリーフアントモドキと名付け、観察を再開した。

リーフアントモドキはどう考えても、魔物として異常だった。歩くのが下手なのだ。そんな魔物がいるのか!? と思うのだが、実際、歩くのが下手すぎて、リーフアントに蹴られ転がされながら、どうにか引っ越しについていっているという風なのだ。

では、いったい歩くのが下手なリーフアントモドキはどうやって生活をしているのだろうか? 餌を探すために歩きまわらなくてもよく、じっとしていても餌の方からやってくるような生活? たぶん、リーフアントが育てたキノコを食べ、一緒に生活していると思うのだが、それだとリーフアント側に得がない。

もしかしたら、食べたあとの糞が何かの役に立っているという可能性はなくもないが、基本的には食べて糞をして寝るだけの生活だろう。

まさに「穀潰し」。

なんと羨ましい生活を送っているのだろうか。

リーフアントに擬態するわけでもなく、ただ巣の中に入り込み、同じように入り込んできた異性と繁殖し、リーフアントに寄生していく。

驚異的なしたたかさだ。なぜか生きる者として、負けた気がする。

生きるために、そんな方法があったのか!? ただ、人の家に上がり込んで、生活を共にするだけ。観察するうちに妙に愛らしさを感じてしまう。

まず間違いなく、今まで出会った魔物の中で一番したたかな魔物だ。

そういう魔物に出会ったことに興奮しながら、街道に戻った時には、すでに夜が明けていた。私は一晩中、リーフアントの引っ越しを観察していたようだ。

なぜかナオキとアイルは新人二人を背負っていた。たぶん、アイルが無理したのだろう。

そんなことはどうでもいい! この興奮を誰かに伝えたい!

「あー面白かった! やっぱり小さい魔物のほうがしたたかで、面白いんだよ!」

ナオキは眉を寄せながらも、私の話を聞いてくれた。

歩きながら話していたのだが、途中から意識が曖昧になってきた。

足がもつれたが、リーフアントモドキとリーフアントのように、ナオキが転がしてくれるだろう。

どうせ、ナオキが転がしてくれるなら、このまま目を閉じても問題はないだろう……。

フフ、「書を捨て、森に出よう」。きっと、今まで出会ったことのない魔物に出会えるのだから。