軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

37話

マルケスさんのキノコは赤と白のドット柄などではなく、普通の茶色いキノコだった。

「このキノコは魔物を巨大化させる」

効果は、例のアレのようだ。

「僕は、スキルの習得を失敗してね。あまり魔物を使役するスキルが高くないんだ。唯一使役できるのが、こいつだけでね」

マルケスさんはそう言うと、足元を走っていたマスマスカルを拾い上げた。

街で見たマスマスカルの2、3倍はある。

キノコの傍で糞をしている個体もいることから、実体化していることがわかる。

「繁殖力も高くて、すぐに増えるから、重宝してるんだ」

「このマスマスカルはこれ以上大きくならないんですか?」

ベルサが問う。

「ああ、個体差はあるけど、このくらいの大きさがマスマスカルの限界だろうね。進化すれば、また違うだろうけど。その前にリリースしてしまうからなぁ」

「リリース?」

もしかして、島に来た時に見たマスマスカルの大群は、マルケスさんの計算だったのか。

「10日に一度、増えすぎたマスマスカルを外に放すんだ。島の魔物が巨大化したのは、こいつらを食べたからさ。外で生き残ったマスマスカルが、巨大な魔物の死体をダンジョンに運んでくる。その死体から魔石を取り出して、ダンジョンの運営に使ってるってわけだ」

マルケスさんは、巨大なフィールドボアの死体を指差しながら言った。

「どうしてマスマスカルはダンジョンに死体を運んでくるんですか?」

「たぶん、帰巣本能があるんだと思う。その辺のことは、一応記録を取ってあるんだけど、あとで見てくれるかい? 本職の魔物学者に聞いてみたかったんだ」

「もちろんです! ぜひ!」

ベルサの目が輝いた。

「ところで、昨日リリースして、夜中すぐに魔物の死体が運ばれてきたんだ。こんなこと、今までなかったんだけど、君たち何かしたかい?」

「ああ、それはもしかしたら、これのせいかもしれません」

俺は混乱の鈴を取り出してみせた。

「これは?」

「この鈴の音を聞くと、一定の確率で魔物は混乱状態になるんです。昨日、マスマスカルの大群が襲ってきた時に使ったら、共食いをしていてポイズンマスカルに進化しているのもいて、巨大魔物が大群に食われてました」

正直に答えると、マルケスさんは混乱の鈴を見つめていた。

「混乱かぁ。なるほど。面白いものを持ってるなぁ」

しばらく、ベルサと一緒にキノコやマスマスカルを観察していると、何故か俺の周りにマスマスカルが集まってきてしまった。

「ああ、魔物は魔力が高い人に寄って行ってしまうからなぁ。魔力のコントロールが出来れば、できるだけ抑えてごらん」

あまりやったことはないがやってみると、完璧ではないものの、出来た。

心なしか、寄ってくるマスマスカルも減ったように思う。

ただ数匹、俺の脚にまとわりついて離れなかった。

「ははは、気に入られたな。おしっこかけられる前に、作業部屋に行こう」

マルケスさんは、俺たちを連れて、倉庫の事務所のような場所に向かった。

作業部屋はマルケスさんのプライベートルームのようで、大きな作業台や本棚の他に、小さな台所や正体不明の植物が生えている鉢植えなどがあった。

奥に続くようなドアがあった。

「隣は寝室なんだ」

マルケスさんは台所の竈に火を入れ、ポットを上に乗せた。

ベルサはすぐに本棚の本を選び始めた。

「あ、そこら辺が全部記録なんだ」

マルケスさんがベルサに教えると、ベルサは本を作業台に積み重ねていき、貪るように読み始めた。本は魔物の革で作った自作のものなのだそうだ。

「器用ですね」

「いやぁ、何冊も失敗してるよ。ほら、これなんか背表紙なんかボロボロだろ」

確かに、本棚の端の方の本は、形も悪く、ボロボロだった。

マルケスさんが小さな樽の中から、乾燥した茶葉を取り出し、お茶の用意をし始める。

「あ、茶畑ってあるんですか?」

「あるよ! 実はダンジョンの運営に手がかからなくなってね。最近は、そっちばっかりに行ってるんだ。見るかい?」

「ええ、良かったら」

「よし! ちょっとお茶飲んだら行こう!」

「あ、良かったら、お茶をこの袋に入れて茶畑で飲みませんか?」

「お、そんなことが出来るのか。いいね!」

「ベルサはどうする?」

本を舌なめずりしながら読んでいるベルサは、本から視線を外さなかった。

「私は行かない」

ページをめくっている。この様子じゃ、お茶も要らないだろう。

水袋だけ置いて、俺とマルケスさんはポットや湯のみをアイテム袋に入れて、茶畑と呼ばれているところへ向かう。

茶畑は作業部屋から、すぐだった。

ドカンのような井戸を降りると、こぢんまりとした茶畑があった。

天井は相変わらず、青空。

部屋の大きさは、そんなに広くないが、よく整備されている。

「ガイストテイラーたちにも勧めてみたんだが、あまり好まないようでね。一人用だから、この大きさなんだ」

「なるほど、いい茶畑ですね」

実際、とても静かで気持ちがいい風が吹いてる。

「ありがとう」

俺は、アイテム袋からフォレストラビットの毛皮を取り出し、敷物にした。

お茶を飲みながら、マルケスさんに茶の苗を手に入れた時の苦労話や茣蓙の作り方を聞いたりして、ほのぼのとした時間が流れた。

「あ、そうだ。マルケスさん、耐性のスキルについて、何か知ってますか?」

「あ~、やっぱり転移者は、そうだよなぁ。知っているけど、お勧めはしないよ」

「え? なんでですか?」

「実はね…」

マルケスさんは、この世界の冒険者が簡単に死んでいくのを見て、すぐに耐性スキルを習得していったのだという。

生産系のスキルや魔法のスキルなどは目もくれずに。

「攻撃系のスキルはそもそも腕力が強かったから、そんなに取らなかった。とにかく、防御系、それも耐性スキルを上げる事に必死だった。死にたくなかったし、その頃の仲間も失いたくなかったんだ」

どうやら、勇者として召喚された頃は仲間がいたようだ。

「全ての防御系スキルを上げた時、現れたのが『不死の身体』という特殊なスキルだった。僕は盾役だったから、すぐにスキルポイントを割り振った。パーティーの中に好きなエルフがいたというのも理由だったかもしれないね」

エルフは長寿の種族だ。

自分が不死であるならば、長く一緒に居られると、考えたのかな。

「ところが、あるダンジョンで、僕たちは全滅した」

「え!?」

「ナオキくん、ダンジョンコアを取り除くと、ダンジョンはどうなると思う?」

「さ、さあ。わかりません」

「ダンジョンの全てを飲み込んでいくのさ」

過去の記憶を思い出したマルケスさんの指がかすかに震えている。

よほど怖い記憶なのか、辛い記憶なのか、両方かもしれない。

「ダンジョンが崩壊して、3ヶ月後。僕は地上に戻った。僕だけが不死だったため、生き残ったんだ。他の仲間は全員、ダンジョンに飲み込まれて死んだ。その3ヶ月の間に魔王は倒されていたよ。残ったのは手に握らされていたダンジョンコアと、この死ねない身体だけ」

俺はかける言葉も見つからず、ただ息を飲んだ。

「スキルを持つと人は過信する。必要なのは死なない身体ではなく、死なないようにする知識のほうだった。だから、僕はこの島で、ダンジョンを作りながら、ダンジョンについて研究しているんだ」

「…そうだったんですか」

絞り出せたのは、何の意味もないような言葉だけだった。

俺は質問したことを後悔していた。

「だから、同じ転移者として、忠告しておくよ。スキルは、あくまでもスキルだ。スキルポイントは、人生を楽しむために使ったほうがいい」

マルケスさんの言葉は、今の俺にとって重い言葉だった。

「そろそろ、戻ろうか」

腰を上げ、立ち上がったマルケスさんが言った。

「はい」

俺も同意して立ち上がる。

「あ、そうだ。ナオキくん、冒険者としての君に頼み事をしてもいいかい?」

「なんですか?」

「もし、エルフの里を訪れることがあったら、ソニアという娘を探してほしい。エルフは死ぬと故郷である世界樹の下にあるというエルフの里に魂が帰り、生まれ変わるそうなんだ」

「わかりました」

きっと、昔、マルケスさんの仲間だったエルフだろう。

「それからもう一つ…」

まずい。予想できるもう一つの頼みごとは、俺には受けられない。

「俺は、人のスキルを奪うスキルは習得する気はありませんよ。もちろん、そんなスキルがあるかどうかもわかりませんし、もし、そんなスキル持ちがいたとしても、マルケスさんには紹介できません」

スキルによって300年以上も生きている人が、急にそのスキルを無くしたら…。

そんな、マルケスさんを殺すようなことは俺には出来ない。

「…はは、いや、たまにお茶でも飲みに来てくれないか?」

「あ、すみません。勘違いしちゃって。わかりました。たまに、この島に来ます」

恥ずかしさと、申し訳無さでいっぱいになった。

「先読みされてしまったか…」

俺がフォラビットの毛皮をたたんで、アイテム袋に仕舞っている時、マルケスさんが小声で言ったような気がした。