軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

338話

その辺をぶらついてアペニールの町でも見るか、と思ったらクリフトさんに止められた。

「社長はじっとしていてください」

「ちょっと散歩したいだけさ。すぐ戻ってくるよ」

「今は勘弁して下さい。そちらの副社長の対応だけで大変なんですから」

クリフトさんが言った通り、アイルは直線距離で殿がいる城を目指しているらしい。道を通ると人が集まってきてしまうので、『森や山を抜けていったほうが早い』と通信袋で報告してきた。

その間にクリフトさんたちは山の関所やアイルたちが通りそうな場所を通行禁止にしていく。もちろん、まだ報告されておらずアイルを止めようとする兵たちもいるので、ちゃんと通達しなくてはならない。

「アイルはレベル100あるやつが100人いないと止められないと思うよ」

俺のアドバイスと代官所の屋根に空いた穴によって、アペニール兵たちは被害を食い止めることにしたようだ。ちなみに、屋根裏に侵入したのはクリフトさんの部下で、帰ってきたと聞いた上司と同僚が兵舎に来ないため、心配して見に来たという。傷は浅くうちの回復薬を渡しておいた。

お茶漬けのお椀を下げに来た女中さんに「暇なんだけど、手伝えることない?」などと話しかけて、洗い物の手伝いに向かった。代官所の中ならとクリフトさんも許可してくれた。

アペニールの家でも、竈は煤汚れているしマスマスカルの被害にはあっている。掃除をして、魔物除けの薬を部屋の隅に撒いた。

ついでに料理番をしている女中さんの膝が悪そうだったので、カピアラの棘を回復薬に浸して膝に刺してあげたりしていた。

「どちら様ですか?」

代官の女将さんらしき人に声をかけられた。

「煤汚れの掃除と害獣の駆除をしております」

「……そう。誰かが呼んだのね。あなた達、兵長もいるし後から大工の親方たちも来るから早めに夕飯の用意をしてちょうだいね」

女将さんは女中さんたちに声をかけて代官のいる玄関の方に向かった。

「ちょっと魚河岸まで魔物を買いに行きたいんですけど……」

大工は屋根の穴を直しに来るのだろう。その急な仕事を請け負ってくれた大工に、報酬以外にも夕食くらいは出したいということかな。元々、うちの社員のせいでこんな事になってしまっているので、手伝うか。

「荷物持ちくらいはしますよ」

「いいんですか?」

女中さんは俺が何者なのかよくわかってないらしい。客人なのに、掃除をしたり魔物の駆除をしているのだから当たり前か。

「いいんじゃないですか? あちらは忙しそうですし」

「……では、お願いします」

女中さんは「その格好は目立つので」とアペニールの人が着ているような和服とモンペを貸してくれた。

「いい着物ですね?」

「代官様のお古ですよ。たぶん言えば頂けますよ」

表玄関には代官やクリフトさんが部下たちに指示を出しているので、裏口から出る。女中さんに案内されて、アペニールの町へ向かった。

少し下っている大通りの先に広場があり、屋台が並んでいた。

「屋台ではなにが売られてるんですか?」

隣を歩いている女中さんに聞いてみた。

「串焼き、平焼き、パンにおにぎり、すぐに食べられるものならなんでも売ってます。お酒は夜にならないと売ってませんが」

ということは夜になれば、酒を売る店が出るということか。

「酒の肴も売ってるんですか?」

「ええ、屋台でそのまま飲めるように煮物が。ご禁制の魔道具で魔物の肉を焼く屋台まで出てると聞きました。私たちは行ったことがないですがね」

飲ん兵衛には堪らない町かもしれない。

「こんなところで酒を飲んだら美味しいでしょうね。闇の精霊様も飲みに来るんですか?」

「へ? いや、闇の精霊様はどこにでもいますよ。誰も姿は見たことないと言うだけで」

どこかに隠れているのかもしれない。闇の勇者がなにをしているのかくらいはわかるのかな。誘ってみるか。

「なら、今晩ここの屋台に飲んでいたら、闇の精霊様も来るかもしれませんね」

「どうでしょうか。闇の精霊様が来たら、教会から僧侶たちが押し寄せてくると思いますが」

広場から坂を下り、魚河岸まで行く。

活気のある魚河岸では俺に注目する者はいない。

行きつけだという魚屋でタイの魔物を8尾買うと、魚屋の大将が女中さんに「今日はいい男連れてるねぇ」などと言われていた。

「お客さんです!」

女中さんはそう言って顔を真っ赤にしていたので、少し距離を置いた。

それから広場の方に戻って八百屋で野菜を買う。

「まだ持てますか?」

「うん、全然大丈夫だよ」

その後、穀物屋さんで米を1俵買い、代官所へと戻った。すでに大工さんが来ているようで、金槌とノコギリの音が聞こえてくる。

「あら、お客さん力持ちだったのね」

料理番の女中さんに褒められた。

「それほどでもないんですよ」

俺がそう言っていたら、クリフトさんが血相を変えて台所にやってきた。

「社長、どこ行ってたんですか!?」

「いや、買い出し。兵長さんと大工さんが来るからって」

「買い出しって……この人はコムロカンパニーという世界規模の会社の社長さんで、精霊も勇者も太刀打ちできない人物なんだ! わかってるのか!?」

クリフトさんは女中さんたちに説教を始めた。

「いいじゃないですか、俺が誰であろうと。彼女はちゃんとアペニールの町を案内してくれたよ」

「いいですか! 社長はアペニールにとって最重要人物なんですから、勝手にほいほいどこかへ行かないでくださいよ。国の命運がかかってるんですからね!」

「怒られちった」

そう言って女中さんたちに笑ってみたが、ただただ口をあんぐりと開けて目が点になっていた。

「でも、誰だって腹は減りますから」

「先ほどお茶漬けを食べたばかりではありませんか!」

「そんなんで腹は膨れません。今日はいい魚の魔物が手に入ったんです! ね!」

女中さんに振ると、何度も頷いていた。

「ほら、今から夕飯の支度を始めますから、邪魔な俺たちは台所から出ましょう。ここでは料理番の女中さんが最重要人物です」

俺はそう言って、クリフトさんと一緒に台所を出た。代官も女将さんも玄関先で汗をだらだらかいていた。どうやら俺を探していたらしい。

「すみませんね。ちょっと服を借りてます」

代官はすぐに「気に入ったのなら差し上げます」と服をくれた。

天井を見上げれば大工さんたちが屋根を直しているところ。

「クリフトさん、アイルのやつ今日は帰ってきますかね?」

「城はそんな今日、明日で行ける距離じゃありませんからね。こちらだって、そんなに早く対処できませんよ」

だったら、途中でアイルが空飛ぶ箒を使いそうだな。

「なら、一晩でも宿を取らなくてはなりません。あんまり騒ぎになるとまた誰かが暗殺しに来るかもしれないし、どこかいい宿を知りませんか?」

「大丈夫です。社長の部屋は近くの兵舎に作ってますから」

「そうですか。だったら、夕飯食べたら行きましょう」

「現時点でも危険です。今から移動を開始しましょう」

「そんな……夕飯も食べずに?」

「後で届けさせますから!」

代官が割って入ってきて、頭を下げてきた。俺が「食事は一緒に食べる人が重要なんですよ」と言う間もなく、クリフトさんと部下たちに囲まれて兵舎に連行された。

兵舎は2階建てのレンガ造り。少し町から離れているが、海に面した崖の上にあり、見張らしがいい。ここなら暗殺者も侵入できないだろう。

「まぁ、兵舎に来たからってやることはないんだけどな」

10畳ほどの一人部屋に通された俺はやることもないので夜まで寝ることに。

夜中に起きると、代官所で食べそこねた夕飯が用意されていた。焼いたタイの魔物に冷めたお吸い物。それからスピナッチの御浸しとごはん。腹も減っていたので、一気に平らげてしまった。

「さて、待ち合わせ場所に行くか」

探知スキルで見ると部屋を出たところにも、屋上にも見張りが立っている。

仕方がないので窓を開けて、走り幅跳びのように外へ跳んだ。兵舎の塀を越えて、草原へと着地。そのまま昼に行った町の広場へと向かう。

女中さんが言ったように、「酒」「呑処」と書かれた提灯がぶら下がった屋台が何軒も出ている。俺は一番流行ってないおでん風の煮物を出してくれる屋台の椅子に座った。

「待ち合わせなんだけど、いいですか?」

「おう、いいよぅ。うちはあんまり肴がないけどいいかい?」

「ええ、あるものと酒さえあれば構いません」

柚子胡椒がたっぷり付いた皿に煮物が出てきた。昆布で出汁を取っていて、俺の口に合う。米から作ったというにごり酒も、懐かしい味がした。

「美味いね」

「そりゃどうも。お連れさん来たら呼んでくれ」

年老いた店主はそう言って、店の裏でタバコを吸い始めた。

「ごめんよ。邪魔する」

小柄な中年男性が屋台に入ってきた。坊主頭で肌は焼けていて褐色。初めは漁師かとも思ったが、筋肉が付いていないし服に汚れがまったくない。

店主は未だタバコを吸っている。

中年男性は煮物とコップを自分で勝手に用意し始め、俺の隣りに座った。

「しばらく店主にはオレたちの声は聞こえない。駆除人よ」

どうやらこの中年男性が闇の精霊らしい。

「すみませんね。呼び出しちゃったみたいで」

「いやぁ、こちらこそ勇者を使って呼び出したんだ。すまんな」

俺を暗殺しようとしたのは闇の精霊の差し金か。

「聞きたいことが山ほどあるが、まずは一献」

闇の精霊は俺のコップに酒を注ぎ、俺は闇の精霊のコップに酒を注いだ。

「「美味い」」

声がかぶった。

「どうして俺をアペニールに呼んだんです?」

俺から質問を始める。

「駆除人に、いろいろと誤解をされちゃ困るからだ。実はお前さんに協力したこともあるんだぜ」

「協力なんてされたかな?」

「ほら、南半球で悪魔が世界樹の実を食っちまった時があっただろ? お前さんが言うスキルを神に伝えていたのはオレだ。本来、名付けはオレの専売特許だからな」

「ああ、その節はありがとうございます。ん? 名付けは闇の精霊様がやってるんですか?」

「神と邪神はわけのわからぬものだからこそ崇め、恐れる。名が付けば、見据えることができるだろ?」

名前がつくことによって、それはわけのわからぬものではなくなるということか。

「名が付き観察ができるようになれば、崇める必要も恐れる必要もなくなりますもんね」

「そうだ。わからないけど、なんらかの力が働いて名が付いているとなれば、オレの領域だ」

闇の力か。重力や微魔物なんかはよくはわかっていないが、名は付けられているもんな。

「なるほど、闇の精霊様に間違いない。それでどうして俺を呼んだんです?」

誤解を解くだけなら、南半球で兵たちと話しながらできたはずだ。わざわざ呼んだのには別のわけがある。

「お前さんが赤道の壁をなくしたからな。闇の勇者もこの国も節目ってやつが来ちまった」

「闇の精霊様は開国するのに賛成なんですか?」

「賛成もなにも、時代の流れには逆らえない。どんなに時魔法を使っても変わらぬ運命というやつさ。壁があった頃に戻りたくもないしな」

闇の精霊が諦めているなら、遅かれ早かれ開国はするだろう。

「それで、駆除人、お前さんは神々と喧嘩してるって?」

「いやぁ、ちょっとあいつらの依頼が気に入らなくて。駆除した勇者たちの次世代が出てきたって言うから、また駆除しろって言うんですよ。終わらない業務を押し付けられたら、そりゃ誰だって怒りますよ」

俺はそう言って酒を呷ると、闇の精霊は笑って、おかわりを注いでくれた。

「面白えな。だからってサボっているようには見えねぇぞ。なんか考えてるんだろ?」

闇の精霊にはバレているようだ。

「そりゃあ、まぁ、考えますよ。俺にも目的がありますから」

「聞かせてくれよ。その計画」

「聞いたら、協力してくれますか?」

「ん~、協力って言ったって話を聞かなくちゃ、協力できるかどうかわからんぜ」

「確かに、そうですね。まぁ、いいか。俺がやらなくてもいずれ誰かがやるでしょうし」

俺は初めて自分の計画を人に話した。人じゃなくて精霊だけども。

闇の精霊は俺の計画を聞いて、ひとしきり笑って「まいったな」と頭を抱えた。

「人間舐めるなって話ですよ」

「個人的には困るが、なるほど駆除人らしい」

闇の精霊は煮物を口に放り込み、飲み込んだ。

「だったら、オレの方も変わらなくちゃな。駆除人、少し散歩するか」

屋台のテーブルに金貨を一枚置いて、闇の精霊は立ち上がった。屋台で出す金額としては高すぎるくらいだ。せっかくだ。奢ってもらおう。

「ごちそうさまです!」

俺も立ち上がって、屋台を出た。

「歩くぞ」

「はい」

俺は黙って、闇の精霊についていった。