軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

326話

カピアラの棘。幻覚を見せるというサボテンから取れるこの棘は、人の皮膚に刺しても気がつかないほど細い。

「僕はベルベ先生から教えてもらいましたけど」

ドヴァンは学生時代からずっと使っている暗器だとか。

「暗器って、俺人生で初めて言った気がする」

現在、空の上で社員たちと入念な打ち合わせ中。

「まぁ、そのカピアラの棘があれば、だいたい大丈夫じゃない? 毒は好きなのを選びなよ」

そう言いながら、ベルサは自分の持っている毒瓶を並べている。

「でも、ほとんど死ぬんですよね?」

「これは肝臓ぶっ壊して徐々にかな。これは普通の眠り薬だし、こっちのイエローフロッグの毒は即死だね。こっちはレベルなくすやつ」

「だから何なんですか? そのレベルをなくすって」

ドヴァンが何度めかの質問した。

「だから俺が使ったやつだよ。これは割と大丈夫だよ。一度死ぬけど、生命力がちゃんとあれば生きてられる」

ドヴァンは散々迷った挙げ句、レベルをなくす幻覚剤を取った。運命は火の勇者と氷の女王自身に委ねるという。

打ち合わせで、迷ったのはドヴァンだけ。

「何度も言うけど俺たちは駆除業者だからな。今回はゾンビの駆除がメインだ。ベルサ、なにか注意事項は?」

「集合場所はタシルンポの保管庫前ってことくらいかな。合図はナオキね」

俺はアイルが描いた地図を見ながら、一緒に行動するレッドドラゴンと確認した。

「あとはいつもどおりで。アイルは歴戦の勇者たちと戦いたいとかないの?」

「ない。だってゾンビでしょ?」

興味が無いようだ。肉が腐っているような奴らを倒すことに意味を見いだせないという。

「ほんじゃ、いつもどおり。あ、前方に飛空船」

前方の空を飛空船が飛んでいる。おそらく火の勇者が乗っているはずだ。

「ドヴァン、一発かましておくか?」

「いや、無理ですよ」

俺たちはアイルの光魔法によって姿を隠し、飛空船の脇を通り過ぎた。

「そろそろ、シャングリラです」

「よし、全員準備を!」

いつものようにツナギ姿に軍手、耳栓、首筋に通信シールを貼り付けて、『平和の 使者(メッセンジャー・オブ・ピース) 』の用意。ドヴァンは首都に潜伏し、火の勇者と氷の女王を狙うという。傭兵というよりも暗殺者に近い。

「傭兵って警護が主な仕事なんだけどなぁ……」

ドヴァンはまだぶつくさ言っていた。

「基本はネクロマンサーたちの警護さ。無理はするな。氷の国の軍もいるし、やばかったら逃げていい」

俺がそう言うと「そうですよね」と大きく深呼吸していた。

「じゃあ、各々地図上で確認したところにモップを投下。日が落ちる前に済ませるぞ」

「「「「了解!」」」」

一瞬、セスが魔力の壁を切った。

社員たちは一斉に自分の担当区域へと飛んでいく。

「う~っ! さみ~! レッドドラゴン頼む~!」

俺は奥歯をガタガタ震わせながら叫んだ。

「フハハハ!」

レッドドラゴンは打ち合わせどおり、俺たちが担当するシャングリラの南東へと向かった。

シャングリラの南東は雪の被害が少ない。ただ、壊れたコンテナがあり、氷の国の軍が放ったと見られる氷魔法の痕跡があった。

その痕跡を辿っていくと小人族の村があり建物が燃えている。ゾンビが建物を破壊し、氷の国の兵が『速射の杖』で火をつけているようだ。小人族の姿は見えないので、どこかに隠れているのか……。

「あそこに集められているぞ」

レッドドラゴンが広場に集められている小人族たちを指さした。

頭から血を流している者、骨が折れている者、包帯を巻いている者、病気の老人たちがゾンビの群れに囲まれていた。

氷の国の兵は少数。これならいけるか。

「よし、モップを落とすから、低めに飛んでくれ!」

「わかった」

レッドドラゴンが低く飛ぶと、地上にいる誰もがこちらに注目。一瞬、気がそれた。

その瞬間を見逃さず、俺は広場に向けて『平和の 使者(メッセンジャー・オブ・ピース) 』を落とす。

陶器が割れて、周囲50メートルほどの魔法陣が地面に展開。中に入った魔石によって魔法陣が発動。魔法陣が緑色に輝いた。

落下地点から同心円状に風が吹く。

風を浴びたゾンビの身体から肉片が剥がれるように落ち、苦悶の表情で倒れた。

小人族も氷の国の軍人も何が起こったのか理解できないでいる。ネクロマンサーたちだけが俺を見ていた。

小人族が、いつの間にか自分たちの傷が癒えていることに気づくまでそう時間はかからなかった。

「ドラゴンめぇ!」

氷の国の兵たちはこちらに向けて『速射の杖』から火の玉を放ったが、レッドドラゴンが鼻息で落とす。氷魔法を放ってきても、炎のブレスで蒸発させてしまった。

「ふん! こいつら食っていいか?」

「腹壊すぞ」

そう言うとレッドドラゴンは笑っていた。

ネクロマンサーが氷の国の兵たちの後ろに回り、思いっきり杖で頭をぶん殴った。さらに後ろから元気になった小人族たちがやってきてボコボコに。

「待っていたぞ! コムロカンパニー!」

ネクロマンサーが俺に叫んだ。

「すまん、遅れたか?」

「いや、ぎりぎりだ。小人族を殺すところだった。仲間に報せる」

ネクロマンサーは口笛をピューイと吹き、白い半透明な鳥の魔物を何体も出したかと思うと、四方八方に飛ばした。その後、倒れている氷の国の兵から『速射の杖』を奪って空に向けて発射。火の玉が空に打ち上がった。

「さあ、次へ急いでくれ! 保管庫の前で会おう!」

「わかった。ここを頼む!」

ネクロマンサーは黙って、頷き振り返った。

俺たちは空へと飛ぶ。

「ゾンビは二度生き返る! 慎重に死体から魔石を回収するぞ!」

ネクロマンサーが小人族たちに声をかけていた。

上空から周囲を見回すと、すぐ近くで空へ火の玉が打ち上がっているのが見えた。

「本当にネクロマンサーは優秀だな。行くぞ、レッドドラゴン!」

「ああ、これはわかりやすい!」

火の玉が上がった場所に向けて、『平和の 使者(メッセンジャー・オブ・ピース) 』を投下。

「グァアアアアアッ!!!」

レッドドラゴンの雄叫びにすくみあがっている氷の国の兵をネクロマンサーが絞め落としていた。

「無事か!?」

空からネクロマンサーたちに聞く。

「勇者のゾンビだろうが、関係なしだな!」

「ああ、こっちは大丈夫だ! 次へ行ってくれ!」

ネクロマンサーたちは手を振って答えた。日々、呪文を唱えているからか、声がよく通る。

「ゾンビから魔石の回収を頼んだ!」

再び空へ上がると、森の間から火の玉が打ち上げられているのが見えた。

あとは、ほぼ繰り返し。

どこもネクロマンサーと小人族の数より、氷の国の兵たちのほうが少ないため、多勢に無勢となって氷の国の兵たちはボコボコにされている。

ネクロマンサーたちに俺たちのことが広く伝わっていたため、ほぼ『平和の 使者(メッセンジャー・オブ・ピース) 』を落とすだけでよかった。あとはレッドドラゴンが雄叫びを上げたりするくらい。

移動に一番時間がかかったほど。

しっかり見回った後で、ネクロマンサーたちに確認を取った。ネクロマンサーたちは動物霊のゴーストテイラーも使えるので、周囲の情報がすぐに入ってくる。ただ、ゴーストテイラーよりも速い相手だと一気に弱くなるようだ。

「こちらナオキ。早めに終わったんだけど? 応援に行く?」

社員たちに向け、通信シールに呼びかけてみた。

『アイルだけど、こっちも終わった』

アイルも終わったらしい。

『こちらベルサ、家畜がゾンビ化して逃げてるから、ちょっと応援頼む』

ベルサは東部だったか。『平和の 使者(メッセンジャー・オブ・ピース) 』の魔法陣の範囲から外れてしまったのだろう。

「了解、今から行く」

レッドドラゴンとともに、シャングリラの東部へと飛んだ。

レッドドラゴンから身を乗り出して下を見ると、森の間をオックスロードという牛の魔物が数頭、声をあげながら走っていくのが見えた。

「あれだな」

レッドドラゴンは雄叫びをあげて下りていくと、オックスロードの群れは前足をあげて倒れた。倒れたところをレッドドラゴンがこんがり焼いて、俺も回復薬を噴きかけてとかしていった。

「あ、そっちも終わった?」

ベルサが空から降りてきた。

「うん、今、終わったところ。これで最後?」

「ああ。いやぁ、カミーラが出てきちゃって、大変だったよ」

「カミーラ? なんで?」

薬師のカミーラもゾンビに対抗するために来ているはずだ。

「事前に教えてくれって。エルフなんだから風に聞けばいいのに。またコムロカンパニーに美味しいところを持ってかれたってさ」

「相変わらず、名誉のために仕事してるのか。これだからエルフは」

エルフも大変だ。

「よし、先に首都の方に行ってよう」

「ああ、セスが氷の国の女王の相手してるってよ」

「へぇ~」

なぜだか全然心配じゃない。

「あ、アイルだ」

ベルサが上を見た。つられて俺も見ると、股を広げて空飛ぶ箒に乗ったアイルが降りてくるところだった。

「じゃ、姿隠すよ~」

アイルが魔力の壁を展開し、レッドドラゴンを含めた全員を覆った。その上に光魔法をかけて周囲の景色に溶け込む。

そのまま首都へと飛んだ。

「我軍になにをした!? コムロカンパニー!」

白髪の美熟女がセスに向かって、氷のゴーレムを差し向けている。氷の国の兵たちは『速射の杖』で火の玉を放っていた。

セスはすべて攻撃を魔力の壁で受け止め、大きな溜息を吐いて項垂れている。周辺は、ベチョベチョにぬかるんでいた。

「氷か火か、どっちかにすればいいのにな」

隣で見ていたベルサは呆れていた。

「セス、どうするんだ?」

通信シールごしに聞いてみた。

「あ、来てたんですか? もうどうすりゃいいですかね? 一応、ドヴァンが来るまで待っていようかとは思っているんですが……」

相変わらず、セスは優しい男だ。

「ナオキ、上に氷の精霊がいるみたいだ」

アイルが上を見ながら言った。

そのまま俺たちは急上昇。

氷の精霊は俺と同じくらいの大きさの氷の塊だった。アイルたちに言わせると、そこからとんでもない量の魔力が放たれているのだとか。

「シクシクシクシク」

「泣いているのかな?」

俺が声をかけてみた。

「駆除人?」

「うん、そう呼ばれてるね」

「私を消しに来たの?」

「いやぁ、どうかな」

「せっかく、氷の勇者が必要としてくれたのに、私、なにもできなくて」

「氷の女王って氷の勇者なの?」

「そう。氷ってあんまり崇められたりしないでしょ? だから、私は精霊の中でも魔力が少なくて、いつもバカにされてるから、どうしても協力したくて」

冷凍庫とか発達していないとあんまり崇められたりしないのか。こっちの世界で冷たいビールとか出されたことないもんな。

「4日間、ずっと吹雪を降らせたんだけど。グスン、台風で暖かい空気が残ってて~ひぃ~シクシクシク」

なんかゴメンな。

「でも、こんなことを続けてたら氷を怖がる人が増えるよ。そしたら、氷の悪魔になっちゃうぞ。邪神の部下になるんだぞ? それ嫌だろ?」

「いやぁ~最悪ぅ~」

氷の精霊がめっちゃ泣いてる。声でしかわからないけど。

「北極大陸に引いてくれねぇかな?」

「ふぅ~、わかったぁ~」

氷の精霊は北へ向けて移動を始めた。

「ネクロマンサーたちはなにをやっているの!? 早く保管庫から財宝を運び出すのよ!」

地上では氷の女王が叫んでいる。

セスは空へと逃げていた。

「ドヴァンが氷の女王にカピアラの棘を刺しました。まだ気づいていないようですが……、いや、今気づいたかな?」

「そうか。ご苦労さん」

俺がセスの肩を叩いたとき、目の前に飛空船が迫ってくるのが見えた。

「お、本命がやってきたぞ」

アイルが飛空船を睨みつけた。

飛空船の甲板には火の勇者・スパイクマンが立って地上を見て、笑っている。

そして姿を隠している俺たちをちらっと見て、甲板から飛んだ。スパイクマンは探知スキルを持っているから俺たちに気づいているのだろう。

スパイクマンの身体から炎が燃え上がっている。着地と同時にその炎が火の精霊・アグニへと変わった。やはり復活していたか。

「遅いぞ! 火の勇者よ!」

氷の女王がスパイクマンに話しかけた。

次の瞬間、氷の女王の胸に燃え盛る火の槍が突き刺さっていた。

「なにを……!?」

ゆっくりと倒れる氷の女王を見ながら、今なにが起こっているのか誰も理解できなかった。

「小人族よ! 見よ! 悪は滅した!」

スパイクマンは氷の女王を指さしながら宣言した。