軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

323話

魔法国・エディバラは火の国で仕事をしていた時に、少しだけ関わった国だ。火の勇者が『砂漠の 大輪(デザートダリア) 』を使おうとした国。魔法国というくらいだから、国民の大半が魔法を使う。

町には魔石灯の街灯が並び、夜でも明るい。俺は前の世界を思い出したくらいだ。

「馬車も魔法仕掛けなのか?」

フィーホースが牽いていない荷台が路肩に置いてあった。

「あれは観光用です。魔石を使いすぎるから、普段は動いてないんです」

メルモが説明してくれた。

「それから、魔法仕掛けじゃなくて魔道具です。社長もスキル持ってたじゃないですか?」

「そうだったな」

「この国では結構、そういうのに厳しいので気をつけてください」

礼儀や決まりごとが多いらしい。例えば、洗濯物を干す時は風魔法を使ってもいいが、強風はダメだし、火魔法で乾燥させるのも法律で禁止されているのだとか。

「それから、痰やツバを道端に吐くのも禁止です。糞便も地下でスライムがきっちり処理しているんで、町自体が非常に清潔なんです。あんまり清掃の仕事はないかもしれません」

「まぁ、清掃の仕事しに来たんじゃないからいいけど。で、魔道具を作っているところってどこなんだ?」

西洋風のレンガ造りの家が立ち並ぶ道を歩きながら、メルモに聞いた。

「図書館に魔道具の研究所があります。そこなら本も揃っているし、研究者もいると思うんですけど」

「メルモ、俺たちは別に今から研究しようってわけじゃないんだ。向こうが圧倒的な数で攻めてきてるんだぜ。研究してる場合じゃないんだけどな。どこか魔道具を作る職人が大勢いるような場所はないのか?」

「あるにはありますが……」

メルモは行きたくなさそうだ。

「そこに連れて行ってくれ。時間がない」

メルモは首を傾げながら、俺をある建物に連れて行った。

建物の見た目は巨大な倉庫。看板には杖のようなマーク。そして、なぜかこの建物周辺だけ、汚れが目立っている。

「ここが魔道具師ギルドです」

地下に向かう階段があり、そこが入り口なのだという。

中に入ると、男たちの怒号が聞こえてきた。入り口のホールから地下1階、地上1階、2階と分かれ、階段や橋がかかっているのが見える。通路の両脇にはそれぞれの部屋があり、鉄格子のない刑務所のようだ。そこらじゅうから金槌の音となにかが燃える臭い。それから俺たちを異物として見る視線を感じる。

正面には大きな掲示板があり、依頼書が何枚も張ってあった。ギルド内に部屋を持つ魔道具師たちは依頼書から自分の仕事を見つけるのだとか。

「おう? お前さんは、コムロカンパニーのおっぱい姉ちゃんじゃねぇか?」

メルモに話しかけてきたのは熊のように大きなヤギの獣人のおっさんだった。ギルド内には獣人とドワーフの姿が多い。魔法はそんなに使えなさそうな連中だ。

「うっ……だから嫌だったんですよ。ここの人たちは品性がないんです」

メルモは俺に耳打ちした。

「こんちは。あそこに依頼書を張れば、仕事はしてくれるのかい?」

俺は気さくに獣人のおっさんに聞いた。

「そうだ。書き方は張ってあるのを見りゃわかる。で、あんた誰だ?」

「こいつらの社長だよ」

「えっ!? じゃあ、あんたがナオキ・コムロか?」

獣人のおっさんはかなり驚いていた。

「そうだよ。部屋は借りられるのか? 作業をしたいんだけど」

一々説明するのが、面倒なので話を進める。

「ああ、一週間ずつ貸し出してるよ。ほとんど空きはねぇがな」

「いくらで?」

「銀貨3枚。地下の部屋には炉があるから、銀貨4枚だな」

そんなに高くない。

「一室借りたい。空きはあるか?」

「地下の部屋なら奥の部屋が一室だけ空いてる。汚くて誰も借りたがらないがな」

「いいさ、うちは清掃・駆除会社だ。掃除くらいするよ」

賃貸料をメルモのポケットマネーで払い、部屋に連れて行かれると本当に汚かった。

ただ、使えないほどではない。メルモがクリーナップで軽く汚れを取ってから、こびりついた煤汚れなどをタワシで落とした。

「社長、こんなところでなにを作るっていうんです?」

「なにって、兵器だよ。ゾンビいっぱい倒さなくちゃいけないんだし。あ、しかもゾンビは二毛作だからなぁ。きっちりトドメも刺さないといけない」

「だからって、なんでこんな……」

メルモはあまり納得いかないらしい。

「俺が見たところ、ここは魔法がそんなにうまくない種族が多いんじゃないか?」

「まぁ、そうかもしれませんね」

「魔法国っていうくらいだから、魔法で人の価値が決まる?」

「種族平等だとは言ってますけど、確かに、そういう面もあると思います」

「だったら、人材雇う場合、ここが安上がりだろ?」

「そう、ですけど……」

「こっちはきっちり仕事さえしてくれれば誰でもいいんだ。無理に優秀で価格の高い連中なんか雇ってられない。しかも職人たちのほうが仕事が早いからな」

正直、魔道具を作るのにそんなに魔法は必要ない。

「ようっ! 隣の部屋の者だけどよ。あんたらあのコムロカンパニーだって? 『砂漠の 大輪(デザートダリア) 』の避難を指示した会社だよなぁ?」

隣室のドワーフが声をかけてきた。

「そうだよ。こんちは。よろしく!」

「よ、よろしく……。こんなところでなにをやってるんだ? 皆、注目してるぜ」

ドワーフの後ろには魔道具師と思われる獣人たちが様子を窺っていた。

「なにって仕事だよ。ゾンビ駆除しないと一国が無くなりそうなんだ。それより、魔道具師1人を3日雇うとしたら、いくらくらいが相場だい?」

「そりゃあ、ピンキリだよ。設計図から書き出せっていうんなら、結構掛かると思うぜ」

「いや、設計図はこちらで作る。材料もこっちで用意するとして、作業だけならいくらくらい?」

「だったら、モノによるが銀貨5枚とかかなぁ。他の仕事置いといて急げって言うなら金貨1枚くらいじゃないか?」

「メルモ!」

「はぁ~……」

メルモは大きく溜息を吐いた。

「ここにいる魔道具師さんたちは何人ですか?」

メルモが隣室のドワーフに聞いた。

「丁稚や手伝いを除いて、使えるやつだけなら50人くらいだ」

ドワーフが頷きながら答えた。

「社長、それくらいならいけますぅ~」

メルモは、払えてしまう自分が悔しいらしい。

「じゃあ、それ皆に伝えておいてもらえるか? 金貨1枚で3日間雇う。明日の夜には設計図を見せながら、ここで説明するから」

「えっ!? いいのか!? いや、ウォズに言わないと、あ、あんたらを連れてきたさっきの大男はギルド長なんだ。普通はウォズを通して張り紙を出すんだけど……」

「ああ、そうなのか」

郷に入っては郷に従えか。張り紙くらい出しておくか。

『こちらセスです』

急にセスから通信袋で連絡が入った。

『やはりシャングリラの東海岸に船が続々とやってきているみたいです。黒いローブを着たネクロマンサーたちが密入国中だそうで、港は混乱しています。そもそも今の時勢なら皆、南半球に向かっていて船が少ないはずなのに、ここ2日ほど突然、入港してくる船が増えたようですし』

「わかった。ベルサがカミーラと一緒にシャングリラに向かうはずだから合流してくれ。できるだけゾンビたちを足止めだ。狙いはおそらく保管庫だろ?」

『ええ、ほぼ間違いないと思います!』

「緊急避難指示を出しておいてくれ。4日後にエディバラで会おう。無理だけしないように」

俺はメルモが持っている通信袋に言った。

『了解です! すみません、僕がもっと早く気づいていれば』

「気に病むな。誰にもわからん。運送会社の社員の命だけは守ってやれよ」

『すみません!』

通信袋を切った。

「シャングリラって言ったか?」

後ろで聞いていた隣室のドワーフが聞いてきた。

「ああ、今、シャングリラでゾンビが大発生しそうなんだ」

「うちのギルドの顧客もいるぜ。しかも大口の」

「そうかい。死なないことを祈るんだな」

「あんたらなら、駆除してくれるっていうのか?」

「そのために動いてるんだよ。じゃなかったらシャングリラ自体が潰れるかもしれない。それより、張り紙が必要なんだったな」

「い、いや、わ、わかった。俺たちで魔道具師たちに声をかけておく。張り紙も用意するから、そちらはそちらの仕事をしててくれ」

「あ、そう? 悪いね」

それから俺たちは食料の買い出しにでかけ、アーリムたちを受け入れる準備をしていた。

アーリムたちが来たのは翌早朝。アイルがだいぶ急いだようで、フェリルとアーリムの姉妹はグロッキー状態。ドヴァンだけが鼻息も荒く、やる気が漲っていた。

「先生……? 私たちになにをさせるつもりですか?」

そういえばアーリムも俺のことを先生と呼ぶんだったな。

「はぁ~気持ち悪い。やっぱり移動には時間をかけたほうがいいのね」

フェリルもつらそうだ。

「ちょっと2人には対ゾンビ用の兵器を作ってもらいます。具体的には大量殲滅する魔道具だな。とりあえず魔道具師ギルドの中で説明するよ。ドヴァンは別口だから後でな」

「はい!」

ドヴァンは直立不動で返事をした。

魔道具師ギルドに入り、奥の部屋でドワーフの姉妹に、今回使おうとしている兵器について説明した。

「……つまり、『砂漠の 大輪(デザートダリア) 』の構造を利用して、ゾンビたちに回復魔法をかければいいと思うんだ」

「大量回復兵器ですか?」

アーリムが聞いてきた。

「そういうことだね。これで怪我している小人族たちは治るし、ゾンビたちは力を失うだろ?」

「メルモちゃん、やっぱりこの人、あったまおかしいと思うんだけど?」

フェリルが俺を指さしながらメルモに聞いていた。

「前からです。社長のコレは治らないんで、諦めてください」

「大丈夫だよ。回復魔法の魔法陣は俺の魔法陣帳に描いてるし、アーリムたちは天才なんだから。フェリル、ゾンビの血って持ってるでしょ?」

「いや、持ってるけど!」

「じゃあ、それで、実験しよう。メルモ、町に出て実験用のマスマスカルを捕獲してこよう」

「了解!」

「アーリム、今日の夜までに設計図を頼むね。ここの魔道具師さんたちを雇ってるから、夜説明会をする予定を組んだんだ」

「へぇ!? ちょっと先生!? 時間が少ないです!」

「でも、シャングリラでは刻一刻とゾンビの被害が広がってるんだよ。一人でも多く助けたいと思わないか?」

「 鬼(デーモン) だわ! この人鬼!」

フェリルが俺を指さした。

「必要な材料は用意するから、リスト作っておいてね」

俺は魔法陣帳の回復魔法のページをアーリムに渡した。回復魔法の魔法陣にはいくつか種類があるので、すべて渡しておく。

「了解です!」

アーリムは机に真っ白な図面を広げた。

「ちょっとアーリム!」

「いいから、お姉ちゃん、協力して! 時間がないよ!」

ドワーフの姉妹を残し、俺たちは魔道具師ギルドを出た。