軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

319話

「まさか、本当に告白させるとはなぁ」

「私たちも聞いたから、逃げられないからね」

アイルとベルサが俺を挟んで笑っていた。

「お前ら知ってたのか?」

「ナオキは結婚してるのか、聞かれたから、『するわけない。あいつは朴念仁だから、どんなに言い寄られてもなんにもしないよ』って答えたら、ミリアが『じゃあ、いいのね』って」

「神とも精霊とも詭弁で立ち回ったあのナオキが、あっさり陥落したな」

あれ~? おっかしいなぁ。こんな予定じゃなかったな。

「式は落ち着いたらでいいわ。私も生まれ変わらないといけないし」

モノセラの荷物を下ろすのを手伝っているミリア嬢は、病人と思えないほど明るい顔で俺に微笑んだ。

惚れた。

「いや、そんなことある?」

自分の気持ちがまるで整理できない。

「夫婦誕生を祝して、北極大陸風のおまじないなんです」

モノセラが俺の唇とミリア嬢の唇を触って、勝手に夫婦として認めてしまった。

「よろしくね」

ミリア嬢から普通にキスされた。

「ちょっと待ってくれ」という前にいろんなことが起こりすぎていて頭がついていっていない。

「こんなナオキは初めてだ」

「顔が赤いぞ。面白いなぁ」

アイルもベルサも爆笑している。

「じゃ、皆に報告ね。全世界に繋がってるから」

アイルは俺の通信袋に魔力を込めながら迫ってきた。

「あー、えー、こちら、ナオキ・コムロ。私事で申し訳ないのですが、たった今、結婚しました。皆様には日頃お世話になっておりますが、今後ともご指導ご鞭撻の程をよろしくお願いいたします」

あれ? 結婚の挨拶ってこんなんでいいんだったっけ? いや、そもそもそんなことしていいのか?

『どどどどどど!!! どういう!! えっ!!??』

たぶんセーラの声だ。

『じゃ、私、メリッサは第二夫人に立候補するよ!! これで気兼ねない!!』

メリッサが早くも名乗りを上げた。未亡人なので気を使っていたのかもしれない。

『な、なんだって! ちょっとどういうことですか? だ、誰と!? メルモちゃんもセスくんもちょっと!』

チオーネかな。

『社長、最高~ぅ!』

『笑いすぎて腹いてぇっす~』

メルモとセスもやっぱり爆笑している。

その後も、世界各国から疑問や祝福の声のほか、怒号や叫び声が寄せられ続けた。

「フフフ、うちの旦那様は人気者なのね」

ミリア嬢は笑いながら、基地から避難してきた研究者たちのために寝床を一緒に作りにいってしまった。病人なんだから休んでほしいと思うが、動ける時は動きたいのだろう。

とりあえず、俺の通信袋はうるさいので、地面に埋めた。

「よし、これでいいな」

ひとまず、大きく深呼吸をしてから目の前のことに集中。一旦忘れて気持ちを落ち着けよう。

俺の結婚とは無関係に、次々と基地から研究者がやってくる。皆、汗をかいて怯えた表情をしていた。氷の国とネクロマンサーが攻めてくるかもしれないのだから当たり前だ。

俺は研究者のテントを張るのを手伝った。テントはプライベートを守るのにもいいし、拠点を作ったという安心感がある。

研究者が集まっている部屋の周囲にベタベタ罠を仕掛けたり、地面に魔物除けの薬を散布しながら魔物を遠ざけた。

ヨハンも俺の作業を手伝ってくれた。

「どうなるんですかね?」

「どうもこうも、相手の出方次第だろ? まぁ、ゾンビとかが襲ってきたら回復薬で対処しよう。薬草の発祥の地だしな」

強いやつが乗り込んで来てもアイルとベルサがなんとかしてしまうだろう。光の精霊もいるしな。

そうは言っても、急に研究をほっぽりだして避難してきた研究者同士が小競り合いを始めたりしている。セイウチさんが仲裁していたが、避難している間はトラブルも多くなるだろう。なかなか後から来た研究者のテントを張る作業も進まない。

「ちょっと、あなたナオキくんね。久しぶり」

基地内の厨房を任されているコマさんが声をかけてきた。

「お久しぶりですね。なにか入り用ですか?」

「ええ、皆に料理を作らないといけないんだけど、かまどを作っちゃうと部屋に煙が籠もるでしょ? どうにかならない?」

大きな部屋なのでよほど長い間、火を使い続けない限り一酸化中毒になることはないだろうが、煙い。

「あ、はいはい。かしこまりました」

俺はコマさんに厨房を作りたい場所を聞き、地面に加熱の魔法陣を描いた。

まな板を置く台はアイルが岩を切り出して作っていた。

「うん、これならいけそうね」

トントントントン。

コマさんの野菜を切る音が聞こえてくると、作業をしていた誰もが手を止め仮設の厨房を見た。

普段なら何の変哲もない日常だが、避難してきて不安の最中に聞くと「今日も温かいご飯が食べられるのか」と安心するのだろう。一瞬にして慌ただしい雰囲気が消え、研究者同士が協力を呼びかけ始めた。

「こういう魔法もあるんだよなぁ」

「魔力も使わず、すごい魔法使いだよ、コマさんは」

アイルとベルサが珍しく人を褒めていた。

「ナオキ、その視線は失礼だぞ」

アイルに指を差された。

「俺は見ただけで怒られるのか?」

「ああ、嫁さんがかわいいってだけで大罪だ」

ベルサに尻を蹴られた。

「否定はしない」

結婚して完全にいじられ放題になってしまった。

皆で同じ時間に料理を食べ、光る鉱石が暗くなっていくのを見ていた。

俺たち夫婦も、アイルが用意してくれたテントでちゃんと食べた。ミリア嬢は食後に必ずベルサが作った吸魔剤を飲む。

「初夜なのに!?」

ミリア嬢は目を丸くして抗議してきた。

「初夜でも飲む。転生する準備が整うまでは必ず飲んでくれ」

「っふぅ~、堅い人ね~」

ミリア嬢は吸魔剤をグビッと飲んで、俺にキスしてきた。

その瞬間、俺の意識が飛んだ。

ミリア嬢の唇についた吸魔剤で俺は魔力切れを起こしたらしい。

起きたのは翌朝だ。

「初夜だったのに!」

飛び起きたが、俺の隣にミリア嬢の姿はなかった。

すでにミリア嬢は起きていて、コマさんを手伝っている。

「よくできたお嫁さんね」

コマさんに褒められた。ミリア嬢は俺が魔力切れを起こして気絶したことに怒っているのか、「おはよう」すら返してくれない。

「レベルを上げる方法を考えてください」

と、だけ言われた。

「そうは言っても、俺はレベルを自ら捨てたんだけどなぁ~」

そういえば俺は転生して違う身体になったのだからレベルがあってもおかしくない。だが、鑑定スキル持ちのコマさんが見ても、相変わらず俺のレベルはないそうだ。

「ろくにキスもできないとなると夫婦生活に支障が出るなぁ」

やはり再転生したことで神々と決別したことが要因なのかな。

「神々と仲直りするかぁ? いや、めんどくさいぞ、絶対に!」

「何を朝から言ってるんだ?」

独り言を言っていたら、アイルたちに見つかった。昨晩からの事を説明した。

「バカかな」

「不遇を絵に描くとナオキになるな。まぁ、自分のやったことだから神にもう一度頼むんだね」

「そうは言ったって、今さら神々と何を話せっていうんだ? こっちはこれから嫁さんを転生させるって言ってるのに」

俺は腕を組んだ。

「それもそうだな。まぁ、でも頑張れ」

「そんなことより一向にゾンビも氷の国も襲ってこないぞ? ワッカの言ってたことは本当なのか?」

元奴隷のワッカは今、モノセラにネクロマンサーのまじないや呪いについて知ってるだけ教えている。

「ネクロマンサーたちがいなくなっていたのは本当だよ。ちょっと探しに行ってみるか?」

「うん、敵が来ないのに避難してても意味ないからな」

アイルの言う通りだ。

そもそもポーラー族の基地に来るとは限らない。火の国へ復讐しに行く可能性だってある。

とりあえず朝飯を食べて、基地の外に出てみることに。

「モノセラ、転生に必要なものがあれば言ってくれ」

「わかりました。リストを作っておくんです」

モノセラはワッカの証言から、すでにいくつかの呪いを書き出していた。何をやっていたかを知れば、どういう呪いなのかわかるってすごい能力だ。

ヨハンはホムンクルスの製作準備に入ってもらった。いつミリア嬢の病状が悪化するかわからないので、できる限りのことはしておきたい。

「じゃ、いってきます!」

朝飯を夫婦で一緒に食べて、出発。

「いかないで~」

ミリア嬢が俺の腰に抱きついてきた。振り返ると、「一度やってみたかっただけ」と言ってすぐに離してくれた。

「いってらっしゃい」

「いってきます」

正直、結婚したけどすごい普通だ。だが、それがいい。人間らしい生活を求めて再転生した甲斐があったというものだ。

俺はアイルたちとともにダンジョンから脱出。誰もいない基地を通って外へ。

そこはどこまでも続く銀世界。陽の光に照らされて眩しいくらいだ。

「あれ? かわいい嫁さんをもらうと世界が輝いて見えるのかな?」

両頬に拳が飛んできた。

「これが北極の秋だよ」

「風が強いから、浮かれて飛んでいかないようにね」

アイルの魔力の壁に入り、雪原を進む。

桟橋の方まで行ってみたが、なにもない。

「探知スキルで見ても、海には魔物しかいないね」

ベルサが言った。

「氷の国の方にも行ってみる?」

「うん」

2人は俺がいない5年の間に、氷の国に訪れたことがあるらしい。

氷山にトンネルを掘って抜け道も作っていたようだ。

「この方が風の影響もないし、速いだろ?」

「いや、普通は氷が崩れて生き埋めになったりするんだけどな」

「魔物が使う通り道にもなってるから、大丈夫だと思うよ」

ベルサが言ったとおり、前方からスノウフォックスの親子が歩いてきた。特にこちらから攻撃しなければ、向こうも仕掛けてこない。

「アイル、よく我慢したな。偉いぞ」

通り過ぎてからアイルを褒めた。

「ナオキ、私をなんだと思ってるんだ? そんな目に入った魔物を全部殺したりしないよ。駆除業者だからね。倒すのは向かってくる魔物と害のある魔物だけだ」

「そうか、5年の間にすっかり立派になったんだな」

「いや、この前邪魔だからってスノウフォックス蹴っ飛ばしてたよ。貴族の息子もよく殴ってたし」

ベルサがチクってきた。

「ただの乱暴者じゃないか」

「大丈夫、証拠は残してないから」

「そうか、5年の間にすっかり極悪になったんだな」

「狡猾と言ってくれる?」

そんな他愛もない話を続けながら、氷のトンネルを抜けた。

氷の国までは4つのトンネルを抜ける必要があった。

すでに日暮れ。北極大陸の日が短いとはいえ、トンネルがなかったらもっと時間がかかっていたのだとか。

氷の国の町は死の国とあまり変わらず、雪に埋もれた石造りの家が立ち並んでいる。ただ、明かりが見えるので人は住んでいるようだ。

俺たちは人がいそうな大きめの家のドアを開けると、中に入ってすぐに閉めた。

中は奥にカウンターがある酒場のような内装で、壁には暖炉。テーブル席には黒か白の毛皮を着た男たち。男たちの手には「速射の杖」が握られ、杖の先はこちらに向けられている。

「こんばんは」

俺の挨拶がきっかけで、「速射の杖」から火の玉が放たれた。

もちろん俺たちは魔力の壁を展開しているので、放たれた火の玉は当たらない。

「もう十分だ!」

顔中ヒゲだらけの大男が叫んだ。

「こいつらに速射の杖は効かない。魔石の無駄だ。お前ら、なにもんだ? なにしに来た?」

「俺たちは駆除業者だ。氷の国が死者の国からネクロマンサーを攫っただろ? ちょっと話を聞かせてくれないか?」

「ネクロマンサー? 悪い、なんのことかわからん」

大男がそう言った瞬間、アイルが軽く剣を振った。大男の後ろに置いてあった酒瓶が綺麗に真っ二つに割れた。ゴクリというツバを飲み込む音が男たちから聞こえてきた。

「本当のことが知りたい」

「本当だ。今回のビジネスについては俺たちはなにも知らされていない。氷の女王がどこを狙うのか、いつから計画を立てていたのか、俺たちにはなにも知らされていないんだ」

氷の国では他国の船を襲うことを生業にしているものが多いらしい。資源が乏しい国なので海賊がビジネスと化しているとか。氷の女王自ら船を率いて商船を襲うこともあるという。アリスフェイ王国は氷の国へ金を渡して、襲われない協定を結んでいるのだとアイルが説明してくれた。

「火の勇者が来てから、氷の女王はおかしくなり始めた。力を使うことに躊躇することがなくなった。空を飛ぶ船まであるしな。どこでも襲いたい放題だ」

「セスの運送会社はどうしてるんだ?」

「北の方は儲けが少ないから航路から外してるよ」

ベルサが教えてくれた。資本主義としては正解か。

「氷の女王がいないなら、今、氷の国は誰が治めてるんだ? 軍か?」

「軍なんていねぇよ。俺たち氷の国の男は全員兵士で、農夫だ」

「氷の女王が帰ってくるまで、誰が町を守る?」

「自分たちさ。いつ隣町の奴らが石炭を奪いに来るかわからねぇ。だから男たちは毎夜ここに集まってるんだ」

「これから冬だぞ? 極夜になったら魔石だっているんじゃないのか?」

「ああ、足りなければ商船を襲うしかなくなる」

無政府状態の海賊国家。しかも北極大陸だ。海賊行為が失敗すれば、皆凍死する。

「国外に逃亡しようとは思わないのか?」

「逃げて見つかったら、町人全員が奴隷落ちだ。違う町の奴らをそそのかして密告したほうが儲かる」

「でも、逃げないと死ぬだろ?」

「逃げても逃げなくても死ぬ時は死ぬさ。氷の女王のビジネスがうまく行けば、少しは潤うはずだ。俺たちはそれを待つだけ」

これは思ってた以上に酷い。

「女、子どもは地下の倉庫だね。酸欠になる前に出してやりな」

ベルサが正確に地下の倉庫を指さした。

「冬の間の食料と魔石があれば、商船から奪わなくてすむんだね?」

アイルが大男に聞いた。

「当たり前だ。リスクを取らなくていいなら、その方がいいに決まってる」

「わかった」

地下の倉庫から、ぞろぞろと子どもを抱えた女たちが出てきた。皆、大きく息をしている。

「邪魔したね。これ無駄にした分の魔石だ」

「行こう、ナオキ。ここにいると迷惑がかかる」

アイルもベルサもかなりショックを受けているようだ。俺も同じ。

俺たちは素速く外に出て、ドアを閉めた。