軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

292話

翌日から、彼らの日常が始まった。

基本的に「勝手にしろ」とのこと。

食べ物は食べたら食べっぱなしで、片付けるということをしない。別の家に行けばいいだけだからだ。1週間後にはリセットされているので片付ける行為自体が無駄だという。

狩りなどしなくても、すでに罠にかかっている新鮮なグリーンディアがいるし、野菜も家の裏で育てている物を引っこ抜くだけ。翌週にはまた生えている。

寝床は好きなところで寝ていい。魔物に襲われて、大怪我を負っても死んでも翌週には元通り。

魂は時空を超えるため記憶も残るそうだが、今はよほどの衝撃ではないと記憶に刻まれることはないそうだ。というか、ここ最近の2人の一週間はだいたい寝ているらしい。

「やることはやってしまったのでござる」

この世界の1年は360日。1000年だと50000週以上。やりたいことなどやり尽くしてしまったようだ。その間に2人は何度か結婚し離婚も経験しているのだとか。喧嘩もよくするが、逆にしなくなった時のほうが辛いらしい。

魔物は小さいものから大きいものまで島にいる魔物はすべて狩ったことがあると言っていた。暇つぶしと、シャルロッテの病気に効く材料探しが目的だったらしい。

「薬草もすべて試したよ。島に生えている草も木の皮も、それから回復薬もね。薬学スキルを取ったこともあるけど、私は最後の日の正午過ぎに死ぬ。病気の原因はわからないね」

4日目辺りから身体がだるくなるそうで、苦痛が現れる6日目は麻痺薬をずっと噛んでいるという。自分の身体のことをよくわかっている。

2人とも暇つぶしのプロだ。

「なにかしたいなら釣りがいいかもしれないよ。一時期、トキオリはずっとやっていたから聞いてみたら……」

「ああ、釣りでござるか。竿は端の家にあるし、南西の岩場から糸を垂らせばいくらでも……」

なんでも聞くと教えてくれるのだが、やはり自分たちの国がなくなったことに相当ショックを受けていて、2人ともあまり動く気がないらしい。

ずっと冒険者ギルドの椅子に座って虚空を見つめているので、お茶を淹れて食事も用意してあげたが、反応が薄い。

かける言葉は見つからないし、今は2人をそっとしておいたほうがいいような気がした。

とはいえ、俺がじっとしていても仕方がないし、島を回ることに。どうにか俺もこの島から出る方法を考えないと。

武器は冒険者ギルドにあった剣を持っていく。あんまり使ったことがないが、ないよりはマシだ。水袋に川の水を入れて、釣り道具を持って準備完了。

「じゃ、いってきます」

「レベルもないのに外に出たら死ぬよ。ああ、そうか、何回か死なないとわからないか」

「一週間後に会おう」

2人とも俺が死ぬと思っているらしい。

とりあえず、集落は島の西にあるため海岸を目指し、そのまま時計回りに一周するつもりだ。なるべく死にたくはない。

海岸まではそれほどの脅威はなかったが、砂浜に家と同サイズのバカでかいヤドカリの魔物がいた。

「海岸も安全じゃないのかよ」

海岸なら魔物の位置もわかるから危険は少ないと思っていたが、全然そんなことなかった。普通にヤドカリの魔物は追いかけてくるし、砂浜なんか走っていられない。

ひとまず、海岸を離れ森の中に入る。

今度は大型犬くらいのサイズのクモの魔物に追いかけられた。体液をかけられた時はさすがに死んだかと思ったが、ツナギを着ていたためどうにか無事だった。

「一回、帰るか」

とも思ったが、帰ったところでやることはない。

ツナギを森の沼で洗って干している間に、ヤブカの魔物にめっちゃ食われた。

「痒すぎぃ~」

全身が腫れたので、少しでも毒が抜けるよう沼に浸かった。赤道の沼はぬるい。

「そうだ! どこでも風呂を作ってきたのだから、風呂ぐらいは作らないとな」

清掃・駆除会社として旅しているうちになぜか風呂ばかり作っていた気がする。

前の世界から清掃・駆除業をしていたが、自ら転生しても俺がやることはほとんど変わらないのかもしれない。

「あ、魔物除けの薬を使えば、もっと楽だな」

沼に浸かりながら、自分ができることを確認していくと、頭がスッキリした。

サバイバルも南半球でやったしレベルがなくなろうと問題ないと思っていたが、全然そんなことなかった。

「火起こしってこんな大変だったのか」

前の身体では火魔法のスキルを取っていたので、問題なく火を起こせていたのだが、この身体では非常に大変だ。昔見た、木をこすりつけても温かくなるだけ。集落の冒険者ギルドからもっと必要な道具を持ってくるんだった。

鍋もないから、釣った魚の魔物も魔物を枝に挿して焼くしかない。

「スキルを捨てといてなんだけどスキルほしいなぁ。いや、自分の道を行こう」

俺はひたすら木をこすった。

「あれ? でも、セイウチさんも火魔法を使っていなかったか?」

マッチで点けたくらいの火を指先から出していたような。

「俺もイメージすればできるのか? よーし、同時にやろう」

木をこすりながら、火が点くイメージをした。20分くらいで限界が来て、腕がパンパン。

火は点かなかった。

日も陰ってくるし、またヤブカの魔物にも刺されるし、テンションはだだ下がり。

「諦めて、とりあえず、進むか」

あまり森のなかに入り込むと危険が多いので、左手に海岸線を見ながら、森の端っこの方を進むことに。

日が落ちると、周囲には魔物の唸り声のような声が聞こえてきた。魔物の声が聞こえたら足早にその場を通り過ぎ、ひたすら前に進む。

月が高く上がると脚も腹も限界を迎え、もう一歩も歩きたくない。

森で小さいイタチの魔物に遭遇し追いかけていくと、穴蔵に入ってしまった。

「ここなら天敵はいないのかな」

俺は近くの崖のくぼみで休むことに。

岩に背中を預け、座りながら眠る。

夜の間に近くを魔物が通っていった気がしたが、疲れのほうが勝ってしまった。食われても一週間後には復活できると、どうにでもなれ、という気分にはなる。

翌朝、ちゃんと目が覚めた。島に来て3日目だ。

早々に例の魔物除けの白い花を見つけ、採取しまくり。

「地図が必要だな。ああ、でも1週間経ったらなくなっちゃうのか」

頭の中の地図に書き込む。どうにか魂に刻まれてくれないか。

花を全身にこすりつけ、ヤブカの魔物が来なくなればいいと思っていたが、何箇所か刺された。それでも、昨日よりはマシだ。小さい魔物も寄ってこなくなった気がする。

砂浜に魔物がいなければ、海岸まで出て水平線を眺めた。

この島を出たとして、あの2人はどうなっちゃうのか。自分の家族も国もないというのに。

「あれ? それは俺と同じだな。だったらなんとかなるか」

それより、この島を出た途端、1000年の時間が襲ってきたらどうしよう。

運良く出る方法を見つけて、小舟で島を離れたら突然2人が白骨化したら、俺はいったいどうすれば。

「いや、そんな魔族がいたよな。魔石を肋骨の内側に突っ込めばなんとかなるかな」

我ながら楽観的である。

今日も火を点けられなかったが、クルミのような木の実をたくさん採れたのでよしとする。海で魚の魔物も釣れたので、生でいただいた。

島に来て4日目。島の東側まで来ているようで、太陽が海の方から昇ってきた。

そしてついに火を点けることに成功。しかも魔力で点けたので、一気に火起こしが楽になった。やはり湿気が多いところでは火は点きにくい。

東側には火山が近くにあるらしく、ちょっと森の中に入るとゴツゴツとした黒い岩がある。火を吹くトカゲの魔物や幻を見せる猫のような魔物がいた。

島の西側と東側で生態系が違う。

「アイルとベルサがいれば喜んだろうな」

ふと、そんな言葉が出てしまった。

「うちの社員たちは、俺がこんなところにいるとは思わないだろうな。しかも剣で魔物と戦っているなんて!」

小さいオオカミのような魔物に剣で切りかかり、あっさり躱され返り討ちにあった。

倒せずに、逆にボコボコにされて気絶。ツナギには歯形が残っていたので、食われずに良かった。

「剣を持っても勝てないか。俺は本当に戦闘の才能がないんだな」

戦って血の気が多くなったのか、夜なかなか眠れなかった。思春期の身体は無意味にムラムラするので、ミリア嬢の下着が本当に役立った。帰ったら、必ずお礼を言いに行こう。

島に来て5日目ともなると、どの魔物でも逃げたほうがいいとわかり、どんどん進む。

太陽は背後から昇っていたので折り返してきているはず。

お腹が減れば魔物のいない海岸で釣り糸を垂らし、魚の魔物を釣って焼く。木の実と一緒に食べると腹も満たされた。

「あれ? 俺が目指していた人間らしい生活ってこういうことだったっけ? 近いと思うけど、なんか原始的すぎるよなぁ。魔物から逃げるのもすごい無理している気がするし」

どこかで間違えたようだ。

とりあえず、島を一周したら、一週間がリスタートするはずだから、来週考えよう。

島に来て6日目の夕方近く。

ようやく集落に辿り着いた。体中に虫刺されの痕があり、ツナギもボロボロ。剣は使えないので、途中で捨ててきた。足の裏の豆は潰れて、ひどい臭い。

相変わらず勇者2人は冒険者ギルドの椅子に座っていた。

「生きていたのでござるか!?」

「へぇ~大したもんだ」

シャルロッテは噛みタバコのように麻痺薬を噛んでいた。

暴れたのか、テーブルも椅子もぐちゃぐちゃで、床には食べ物が食い散らかされた跡。集落の家も2軒ほど潰れていた。虫の魔物も湧いているし、マスマスカルも寄ってきている。

勇者2人は水浴びもしていないのか汚れているし、臭う。これはダメ人間だ。

集落には食べ物もあるし、勇者たちもいるので魔物が来ても追っ払ってくれるだろう。

満身創痍だったが、風呂を作ることに。

「もうすぐ日も落ちるというのに、なにをするつもりでござるか?」

スコップを持って外に出る俺にトキオリが聞いてきた。

「いや、汗かいたんで風呂を作ろうと思って。2人とも臭いますよ。俺もですけど」

「そんな風呂なんか作っても明日にはなくなっているのに、無駄なことを」

シャルロッテが怪しいろれつで言った。口周りが痺れているのだろう。

「風呂は心の洗濯です」

それだけ言って、俺は集落の真ん中に穴を掘り始めた。

前は30分ほどでできていた風呂もこの身体では、夜を徹してもできなかった。崩れた家の廃材を使い湯船を作り、水瓶に溜まった水と川から汲んできた水を入れる。焚き火の中に入れた石を湯船に入れて、どうにか温めの風呂ができた。

「私が死ぬ前には間に合ったね」

「先入ります?」

「いや、いい。ここで見ているよ。ゆっくり死なせて」

シャルロッテは冒険者ギルドのウッドデッキに椅子を置いて、風呂に入る俺を眺めていた。

「ふぅ~、生き返る~」

加熱の石がないため、風呂の温度を上げることはできなかったが心地よかった。

「うむ。あと半日もすれば生き返るのでござる」

ガタンッ!

振り返ると、シャルロッテがウッドデッキに倒れていた。

「シャルロッテが逝った」

トキオリはなんの感情もなく言った。

ちょうど正午過ぎ。

俺は風呂から上がり、なぜかシャルロッテをそのままにしておくこともできず、墓を掘って埋めた。

「そんなことをしても意味はないのではないか?」

「身体が死んでも魂は丁重に扱ったほうがいいように思うんですよ」

冒険者ギルドの裏庭にちょっと穴を掘って土をかぶせただけだが、「安らかに」と祈れる。そのまま死体をウッドデッキに置いておくより人間らしい。

それから冒険者ギルドの厨房を片付け、畑の野菜と罠にかかったグリーンディアの肉で肉野菜炒めを作り、トキオリと2人で食べた。

「『最後の晩餐』ですかね?」

「ナオキ殿にとっては、最初の『最後の晩餐』だ。ナオキ殿は意外に料理もできるのだな」

「一人暮らしが長かったですからこのくらいは。まぁ、旅の間はほとんど社員にやってもらってましたけどね」

一番美味しいというワインも飲み、島の地形について話しているうちに、真夜中になってしまった。

「お、そろそろでござる」

火山の周囲にいる魔物の話をしていたトキオリが、突然話を止めて言った。

「そろそろ?」

この時、なんのことかわからなかった。

「では、また」

トキオリがそう言うと、目の前が真っ暗になった。

バシャンッ!

俺は砂浜に近い海で尻餅をついていた。尻が痛い。

この痛みも2度目だ。

「一週間か」

2週間目が始まった。