軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

252話

砂漠の夜空は寒い。

しかもシオセさんが言ったように強風で、油断してるとまっすぐ飛べない。

それでも西に向け1時間も飛んでいると、村が見えてくる。

「なにか飛んでるな」

アイルが前方を指差した。

飛んでいるのは背中に羽が生えた魔物。口の端はこめかみ近くまで裂け、牙をむき出しにしながら、地上にいる者を威嚇している。着ている服がサキと同じだ。

「やけになったら、おしまいだぞ」

「ナオキ、下だ!」

地上ではナイフを手にした奴隷と思しき2人のダークエルフがイトを抱え、ナイフを手に村人になにか叫んでいる。村人たちは松明を掲げ、遠くから様子をうかがっていた。

「逃亡奴隷か」

砂漠で行商人が行き来していると聞いていたが、奴隷も商品だったな。

「閃光弾で注意を引く。腕ごとイトをかっさらえ!」

「了解!」

単純な打ち合わせで、俺たちは落下。

落ちながら、サキに「よく耐えた」と声をかけておいた。注意がそれれば、閃光弾の光をくらわないかもしれない。

俺は閃光弾を地面に投げた。

まばゆい光が辺りを覆う。

逃亡奴隷たちが一瞬目を閉じた。その隙にアイルの剣がイトを抱えている腕を切り落とし、そのままイトを奪った。

俺はもう1人の逃亡奴隷を落下しながら組み伏せ、腕を切り落とされた方の首根っこを片手で掴んで引き倒した。

組み伏せた逃亡奴隷は気絶し、片腕を切り落とされた方は状況が飲み込めていない様子だったが失くなった腕を見て絶叫した。絶叫している間に、俺はナイフを拾って遠くへ投げた。

空にいたサキは地面に下りて、アイルが抱えているイトの下に急行。冒険者の姿に戻っていた。

「よかった。イト」

サキはそう言って手を広げたが、イトはサキの下へは行かなかった。あきらかに動揺していて、サキを見て怯えている。さっきまで空を飛んでいたのだから驚くのも無理はない。そもそも魔族であることを隠していたようなので、当たり前といえば当たり前の反応だ。

周囲の村人もショックを受けているのか、固まって動けないようだ。

「サキ、お前……」

村長が口を開き、サキに近づいた。

サキは唇を噛み泣きそうな顔で、村から飛び去ってしまった。

俺はとりあえずロープで逃亡奴隷たちをグルグル巻きにして、転がしておいた。切り落とされた腕も回復薬でくっつけてみたが、繋がるかどうかはわからない。死んだら自業自得だろう。

そこまでやっても村人の大半がなにが起こったのか、よくわからないという表情をしている。

誰も動かないので、俺はその場をアイルに任せ、サキを追うことに。岩場を越えて、砂漠を進むと、えんぴつ型のオベリスクが傾いていた。オベリスクの側に砂山に隠れるような穴が開いており、そこにサキが逃げ込んでいる。

「なるほど、遺跡だ」

俺は穴の中に入り魔石灯を掲げ、辺りを見回した。

砂岩の岩に見慣れない文字や絵が描かれている。床に蜘蛛の巣が張られ、割れた壺が散乱していた。

前方に魔石灯の明かりを向けると、魔物の姿になったサキが、倒れてすすり泣いていた。

「なにしに来た、人間よ。殺しに来たか? 殺してくれ。頼む、この胸の奥にある魔石を取り出してくれ!」

サキは真っ赤な口を大きく開いて訴えてきた。

「それを決めるのは俺じゃねぇな」

「私は村にいちゃいけないんだ。イトの顔を見てわかったよ」

拒絶されたと思っているのか。驚いただけだと思うけどな。

「だからって死ぬのか? 勝手だな」

「お前になにがわかる!?」

「俺は魔族と2年間、暮らしていた。今でも連絡を取り合う。人と魔族はともに暮らしていけるよ。だいたい、これまでだって村の人たちと暮らしてたんじゃないのか?」

サキは、大きく息を吐いて、首を横に振った。

「ダメだ! もう戻れないんだ。私はサキュバス族、愛した人を殺してしまう種族だ……」

サキュバスって夢の中に現れて誘惑してくるっていうアレか。道理でいい尻してると思った。いや、今はそれどころじゃない。

「よくそれで今まで堪えてきたな。どうしてたんだ?」

性欲の話である。

「今までは……ゴブリンを3匹捕まえてきて、ここで飼っていた。だが、キャラバンに行っている間に逃げられてしまったよ」

そういや、最近変な服を着たゴブリンを駆除したような……。

「今日、初めて父さんの夢に入った。もしあの逃亡奴隷たちがいなかったら殺していたかもしれない。私は村にはもう戻れない」

「でも、あれで逃げちゃったままだったら村人もイトも心に傷を負ったままだよ」

「じゃあ、どうしろと言うんだ!?」

「どうしても性生活がないと生きていけないのか?」

俺が聞くとサキはこくりと頷いた。なかなか人には言えない悩みだから苦しいのだろう。

「どうにか村の人に分散して協力してもらうってわけにはいかないかな?」

「あんな小さな村で私がそんなことしたら、村が崩壊するよ」

それもそうか。前いた世界でも芸能人が不倫なんかしたら大変な事になってたしな。

「村を出たら行く宛などない。砂漠で行商人を襲いながら暮らすんだ。そんなことしたら、もう父さんにもイトにも合わせる顔がない。やっぱり死んだほうがマシだ」

「そう結論を急ぐなよ。ちょっと専門家に聞いてみるから」

俺はそう言って、通信袋でボウに連絡した。

「悪い。こんな夜中に」

『おう、ナオキか。フハ、こっちは昼だよ。どうかしたか?』

「実はまた魔族にあってな……」

俺はこれまでのサキとの経緯をボウに話した。

『フハ、まぁ、春だからなぁ。しょうがないよ。そのサキュバス族はいくつだ? やっぱり7大魔王の親族かなにかかな?』

「サキ、いくつ?」

俺がサキに聞いた。

「年齢か? 25だけど……」

「7大魔王って知ってる?」

「知ってるもなにも、ついて行った魔王が殺されて、私は奴隷落ちしたんだ」

「年は25で、魔王の部下だったって」

俺は通信袋に向かっていった。

『おいおい。25歳でよく我慢できたな。こっちのサキュバスたちなんか人間襲っちゃって、引き離すのが大変だよ。人間はまた来てくれって言うし、もう魔族の代表になんかなるんじゃなかった。まぁ、夏が過ぎればおさまるって話だ。まったくふざけた種族だよ』

「だそうだ。夏が過ぎるまで我慢できそうか?」

再びサキに聞いた。

「無理に決まってる! せいぜい、7日が限界だ」

「ボウ、聞こえた?」

『うん。フハ、じゃあうちの国に来るか? 体力自慢は多いし、同じように悩んでいる奴らもいる。しばらくいて秋になったら戻ればいい』

「どうする?」

俺に聞かれてサキは「そんな急に言われても……その魔族は信用できるのか?」と小声で聞いてきた。

「うん、300年くらい前に死んだ魔王の息子だ。今は違う大陸に魔族の国を作ってる。仲間も多いし、対処もしやすいみたいよ」

「魔王様の息子!? 魔族の国って言われても、ちょっと想像が……」

サキは慌てるように急に身だしなみを気にし始めた。テレビ電話じゃないから通話しか出来ないんだけど。

「死ぬよりか、いいんじゃない? ちゃんと村長にも説明してさ。秋には帰ってくるっていえば村でも生活できる。だから毎年、春になったら魔族領に行けばいいんだよ。ちょっと遠いけど事情を説明すれば水竜ちゃんとか協力してくれそうだし、いいと思うけど」

「死なずに済むなら……わかった。もし騙したら、毎晩夢に出てやるぞ!」

「それはそれでいいけどね。俺も久しぶりだからなぁ」

俺がそう言って笑うと、サキはブルッと震えて「やっぱ夢に出るのは止めておく」と言っていた。

「じゃ、村の皆に説明しに行こう」

「今からか!」

「鉄は熱いうちに打てって言うし、謝るなら早い方がいい!」

俺はサキの手を掴んで、遺跡から出て村へと飛んだ。

「だいたい人間を食べるなら、もうとっくの昔に食ってると思うよ! あ、ほら帰ってきた。ね、私の言ったとおりでしょ」

村では篝火が焚かれる中、アイルが村人たちに魔族について話していたようだ。

「ほら、行って話してこいよ」

俺はそっとサキの背中を押した。

「皆さん! 今夜、見たとおり私は冒険者でもなんでもなく、ただの魔族です! 騙していてごめんなさい!」

サキはそう言って村人たちに謝った。

村人たちは戸惑いつつも、「お、おう」と頷いたりしている。

「父さん、イト、今後についてちょっと話がある」

サキはそう言って、村長とイトを連れて家の中に入っていった。さすがに家族にしかいえないか。

「腕がくっついたんだけど動かないらしい」

アイルが腕を切った逃亡奴隷を見ながら言った。

「腫れてるわけじゃないんだろ?」

「どうかな。色が変わってきてる」

「壊死するかもな。おい、お前、どうする? 再生する技術を見つける方に賭けるか、それとも壊死していくのを待つか」

俺が腕を切られた逃亡奴隷に聞くと、「切ってくれ」という。

「自分が腐っていくのを見たくはない」

そういう考えもあるか。ダークエルフはプライドが高いのかも知れない。一応、腕を切り落とした奴を見たことがあるので俺が再び切り落とすことに。切って皮で傷口を包んで回復薬に漬ける。上腕を魔力の紐できつく縛っても血が溢れ出てくるが、何度も回復薬と包帯を交換する。

「フィールドボアの血のソーセージだ。食え」

アイルが顔面真っ青の逃亡奴隷に肉々しいものを食わせていた。

「これで死んだら運がなかったと思え」

「元々ない命だ」

覚悟のある逃亡者は男前に見える。そんな男っぷりを見せるなら、初めから村なんか襲うなよ。

そんなことをやっていると、イトが家から飛び出してきて、俺を見るなりポカポカと殴りかかってきた。

「どうしたどうした? 待て待て。サキを奪ったりしないから殴らないでくれ」

獣人の娘に殴られても反撃のしようがない。

「イト!」

ドアの前でサキがイトを呼ぶと、顔を歪めて声も出さずに大粒の涙を流した。大人からすれば春から夏にかけての数ヶ月だが、子どもにとっては遠い先のことなのだろう。サキはキャラバンで村を空けることが多いから大丈夫かと思ったが、家族にとっては違う大陸へ旅するということが宇宙旅行にでも行くようなものなのかもしれない。

俺は通信袋で拠点にいるベルサたちに連絡を取って報告したが、ほとんど遺跡での会話を盗聴していたようで、皆理解してくれていた。

翌朝、準備をしたサキと逃亡奴隷を連れ俺たちは村を出た。

「サキーッ!」

少女の声を背中で聞いた。村で一度も聞いたことがない声だった。

「サキーッ!」

なんども名前を呼ばれたが、サキは一度も振り返らなかった。

「妹にこんな泣き顔は見せられない。私たちは血はつながってないけど、見えない糸でつながってるから大丈夫」

サキはそう言って唇を噛み締めた。

「前いた場所では『イト』という名前は『糸』という意味がある。繊維のままではすぐに切れてしまうけど、捻って撚りをかけて糸にすれば強くなる。あの村はそういう家族が集まってるのかもな」

俺の言葉にサキは肩を震わせていた。

元奴隷たちが集まってできた村。まだ、新しい村だが、それぞれの人生を紡ぎながら歴史を作っていくだろう。

草原の拠点に近づくと、ジェリたちが村へと向かうところだった。

「すみません。昨日騒動があったので、村がピリピリしてるかもしれません」

「わかっています。自分はあの村を必ず守ります」

そう決意してジェリは、乗っているフィーホースの腹を蹴って西へと向かった。

「え? でも、3、4ヶ月したら帰ってくるんでしょ?」

「遠い大陸とか言うと遠く感じますけど、進んでいけばちゃんと着きますから大丈夫ですよ」

うちの社員たちはあっさりしていた。

「僕が送っていきます?」

セスが聞いてきた。

「いや、レッドドラゴンに言って、竜たちの島まで連れて行ってもらおう。あとはたぶん水竜ちゃんに頼めば、送ってくれると思うし。恋愛とか性の話を赤裸々に聞かせてあげればいいから」

他力本願だが、大丈夫だろう。駄目だったら黒竜さんがどうにかすると思うし、間違っても死ぬようなことはないはずだ。

「赤裸々ってそんな……恥ずかしい」

サキは顔を赤くした。

「大丈夫だよ、真実なんだから。何百年も生きてる竜の乙女たちに聞かせてあげてくれ。竜たちのためでもある」

昼食を食べてから、俺はサキと逃亡奴隷たちを連れてフロウラに向かうことに。

「逃亡奴隷はどうするつもりですか?」

セスに聞かれた。

「衛兵に引き渡すよ。村襲っちゃってるしね。逃亡奴隷から犯罪奴隷になるだけだよ」

逃亡奴隷たちは大きくため息を吐いていた。

2人とも魔力の紐で縛って空飛ぶ箒にぶら下げた。箒の前にはサキ。箒の柄がかなりしなっているが、素材のザザ竹は丈夫なのでフロウラまでは保つだろう。

「シオセさん、すみませんね。呼び出してしまったのに」

「いいよ。こっちはこっちでやっておく。ベルサちゃんが面白い駆除方法を考えたようだからそっちを手伝うさ」

「本当か?」

ベルサに聞くと、「うん、まぁ。自信はないんだけどね。観察はし続けてるから」と言っていた。ベルサの自信がない時はだいたい正解だから、俺は安心している。

「じゃ、あと頼むわ。ちょっとフロウラに行ってくる」

そう言って、俺は空飛ぶ箒に思いっきり魔力を込め、空へと飛んだ。