軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

241話

俺たちはゆっくり時間をかけて南の港町マリナポートを目指した。南へ行商に向かうという荷馬車に乗せてもらって街道を進んでいる。

「はぁ~」

「ふぅ~」

俺とセスが深い溜め息を吐いた。

「まったく男どもはだらしないね」

アイルが軽蔑の目で俺たちを見てくる。

「男には色々あるんだよ」

「フラレたのか?」

ベルサがズバッと核心を突いてきた。

「フラれてないからややこしいんだよ」

「そうなんですよねぇ~。フラレてたら踏ん切りもつくんですが……」

セスもなにかあったようだ。

「なんだか情けないですね」

メルモが肩を落としている俺たちを見て言ってくる。

「ま、いいや。仕事しよう!」

クーベニアから1週間ほどかけて、各地を回り清掃・駆除の仕事を請け負っていった。大きくなりすぎたクマの魔物、シャチの魔物など生態系を壊しかねない魔物の駆除が多かった。養蜂家を訪ね、フラワーアピスについての調査も忘れない。

「正直デカい魔物の方が駆除しやすいよね」

「確かに、繁殖力とかも含めて小さいほうが面倒だ」

「まぁ、でもスライムをあれだけ倒したことを考えるとだいたいイケるってことがわかった」

俺とベルサ、アイルが馬車の後ろでダラダラ歩きながら話していると、

「山が見えましたよー!」

と、メルモが叫んだ。

馬車の前方を見ると、確かにマリナポートの近くの山だった。

「はてさて、私の元いた家はどうなっていることやら」

ベルサが言った。

結果から言うとベルサの家はあった。

ただ知らない人たちが住んでいるみたい。俺たちは石が積まれた塀の上に立って中を見た。

「なんというか、皆ムキムキだなぁ」

ベルサの家の庭には、なぜか筋トレをしたり、戦闘訓練をしている奴隷たちがいた。

「他人の家で何してんの?」

ベルサが聞いた。

「「「「……」」」」

奴隷たちは勝手に誰かと話してはいけないのかこちらを見るばかりで、何も言わない。

「中の人に聞くか」

俺は探知スキルで中に3人いるのが見える。

「何をやっている!? サボってんじゃねぇ!」

家の中から髭面の太ったおじさんがムチを持って出てきた。

「なんだ貴様ら!」

禿げ上がった頭をテカらせて、おじさんは俺たちに向かって叫ぶ。もしかしたら威圧しているのかもしれないが、手足が短いせいで滑稽に見える。

「ここは私の家だ。あんたたちが何をやっている?」

ベルサが言った。

「なにを言ってやがる!? ふざけるんじゃねぇ! 空き家でなにをしようがこっちの勝手だろ!」

「それもそうか」

おじさんに言われてベルサが納得してしまった。正直、そんなにこの家に思い入れはないらしい。守銭奴のベルサなら家賃ぐらい請求するもんだと思っていたが、「金なさそうなやつから取ってもなぁ。無い袖は振れないし、借金を一々取り立てに来るのは面倒だし……」と、なにやら考えている。

確かにおじさんの服はみすぼらしく、金は持っていなさそうだ。

「いや、不法侵入だし不法占拠じゃないの?」

「うん、いや、そうなんだけどね……」

歯切れが悪い。セスに言って、適度にボコボコにして有り金全部もらってしまえばいいのでは? と思ってしまうのだが、そういうことではないらしい。急に大人になったのか。

「闘技会ってまだやってんのかい?」

唐突にベルサがおじさんに聞いた。

「やってる! だから俺たちは奴隷を鍛えてるんじゃねぇか! 奴隷を買う気があるのか?」

「いや、ない。わかった。ありがと。皆、とりあえず仕事を探そう」

「「「「へっ?」」」」

俺たちはベルサの言葉に驚いた。まさか、あっさりと昔住んでいた自分の家を諦めるなんて思わなかったからだ。ベルサが塀を下りてドンドンと坂道を下っていくので、ついていく。冒険者ギルドへと向かっているようだ。

「どういうことなんだ? 家賃を取らないのか?」

俺がベルサに聞いた。

「まぁね。一度は捨てた家だから特にね。それに今マリナポートは私が住んでいる町じゃない」

すごい大人の発言に聞こえるが、それがまた怪しい。なにかを狙っている気がする。

「な、なに?」

俺たち全員が疑いの目でベルサを見ると、ベルサが立ち止まって俺たちを見返してきた。

「なにを隠している?」

俺がベルサに詰め寄った。

「わからない?」

「なにが?」

「最も効率よく稼ぐ方法だよ。あんな貧乏そうな奴隷商から金をぶんどっても衛兵に目をつけられるだけ損でしょ。私たちなら正攻法で跳ね上がっている報酬を受け取れる」

「ベルサ。自分が予想ついていることだからって他の人間はわかっていないんだ。伝わるように話してくれ」

アイルがベルサの肩を叩いて諭した。

「ええっ? そうなの? いや、だって闘技会があるってさっき奴隷商のおじさんが言ってたでしょ? アイルも昔出たって言ってなかった?」

「ああ、出たよ」

「なんのために?」

「それは己がどれくらい強いのかを確認するために!」

アイルがまっすぐな目でベルサに言った。ベルサはアイルをアホの子のように見てから、悲しい目で俺を見た。

「船に乗るためだろ。ああ、そうか。つまり海上の交易路にまた巨大な魔物が出ているということか。そしてそれをマリナポートの人たちは倒せないでいる。だから、その巨大魔物討伐の報酬が跳ね上がっているはずってことか」

ようやくベルサの話を理解した俺が説明した。

「どうして巨大な魔物がいるってわかるんですか?」

セスが聞いてきた。

「ここから東にマルケスさんのいる島があるから。ベルサがよく使う成長剤があるだろ? それはマルケスさんがいる島のキノコから採れる薬なんだ。その島にいる魔物はだいたいデカい。今ある情報を分析して予想するとそうなると?」

「うん。だから冒険者ギルドで今回はどんな魔物なのか報酬はいくらなのか確認しようよ」

「「「了解」」」

俺たちはだいたい理解したが、アイルは未だ「え? どういうこと?」と言っている。放っておこう。

冒険者ギルドには、ベルサの予想通り巨大な魔物が海に出現しており討伐依頼が出ていた。

「近海に巨大シーサーペント出現! 討伐依頼:金貨100枚」

と書かれた依頼書が掲示板に貼り出されていた。金貨100枚には赤い横線が引かれどんどん報酬が上がっており、今は1500枚に跳ね上がっているようだ。

「依頼人は?」

「新しい領主みたいだね」

アイルがギルド職員に聞いてきて言った。

「シーサーペントってウミヘビの魔物ってことでいいのか?」

「そうみたいです。冒険者たちの話では出現する前に毒の霧が海上に発生するそうです」

メルモが盗み聞きしてきたことを報告してきた。

「毒ヘビの魔物か。なんの毒なんだろう。ほしいね」

「生け捕りにする気? 毒魔法かもしれないよ」

ベルサが聞いてきた。

「まぁ、解体すればわかる」

アイルがすでに狩った気でいるらしい。

「どうやって捕まえるんですか?」

セスがアイルに聞いていた。

「毒霧に向かって突っ込む」

「バカな……」

アイルの答えにセスは青くなっている。

「罠を仕掛けられそうな場所を見つけよう。この辺の地図を探してくれ。ウミヘビの魔物っていうくらいだから昼間に休めるような入江とか小さい島とかがあるんじゃないか?」

「それに船もだよ。小さいのでいいから私たちも休めるところがあったほうがいい。飛びながらご飯食べたくないし」

ベルサが言ってきた。

「あ、そうですよ! 僕もコムロカンパニーの船長として仕事したいです!」

セスも乗り気だ。

「わかったわかった。造船所に知り合いがいるからちょっと聞いてみるよ」

「テルか! 私も会いに行こう!」

アイルは俺についてくるらしい。他の3人は地図探しとさらに情報収集。アイルが飛んでいって、この辺の海域の地図を描けばいいのだが、単独でシーサーペントに遭遇して毒霧の中に突っ込まれても困る。

「副社長。もう少し、頑張れ!」

「え? うん」

南半球にいた頃はもう少し頼りになっていたのだが、自分の強さに驕って足をすくわれそうだ。どこかで気を引き締めないとな。

坂道を下りていった場所に造船所はある。

「2年半、いや3年近くなるか……」

造船所の前には木材が積まれ、工員が忙しそうに働いていた。

「すみません。親方か親方の奥さんいますか?」

若い工員に聞いた。

「先輩! 親方にお客さんです!」

呼ばれた工員が振り返って俺を見るなり「女将さ~ん!」と叫びながら、造船所の中にすっ飛んでいった。俺を知ってる工員だったらしい。

まもなくテルが走って造船所から出てきた。

「よう! 元気でやってる?」

「ナオキ様!」

テルは一度天を仰いでから俺に近づいてきて、バシバシと身体を叩いてきた。

「テルは心配していませんでしたよ! まったく妙な噂など信じていませんでした! 必ず生きていると!」

どうやら俺が死んだと噂されていたらしい。長い間、連絡してなかったからなぁ。

「大丈夫だ。ほら足もちゃんとあるだろ? 生きてるよ」

「息災なようでなによりでございます」

テルは別れたときとほとんど変わらないようで、少しふっくらしていたくらいだ。

「アイル様もお久しぶりでございます!」

「久しぶりだね!」

「今でもお2人で旅を?」

「いや、今は会社を作ってね。言わなかったっけ? あと3人従業員がいる。この町で会ったベルサも一緒だよ」

「さようでございますか。あ、すみません。こんな道端で、どうぞ中にお入りください!」

テルは造船所に俺たちを案内し、中に入るなり「どなたか親方に『恩人が来客した』と伝えてください」と大声で言った。

「「「「承知いたしました!」」」」

それまで木槌の音がしていたにも拘らず、造船所のあらゆる方向から声が返ってくる。筋肉ムキムキで粗野なイメージがある造船所の工員たちだが、言葉遣いが礼儀正しい。テルの教育が行き届いているのだろう。

テルは事務机などがある部屋の脇を通り、隣の寮の方に案内してくれた。

寮に入ると、テルに向かって子どもが歩いてきた。テルはその子を抱きかかえ、俺に見せてきた。

「私たちの息子のトーマスです。トーマス、母の恩人のナオキ・コムロ様です。挨拶なさい」

「こんにちは」

ちゃんと挨拶ができるらしい。

「こんにちは。何歳になりましたか?」

俺が聞くと、トーマスはピースして答えた。

「コムロさん!」

後ろから声をかけられ振り向くと、親方が立っていた。

「生きておられたか! はるか東の大陸で消えたと聞いて、まさかと思っていたが……」

親方は俺を強く抱きしめてきた。男の抱擁は受けたくないが、この場合は仕方がないだろう。

「大丈夫、ナオキは殺しても死なない」

アイルがそう声をかけると親方は「アイルさん!」とアイルも強く抱擁しようとしてテルに止められていた。あまりアイルとは関わらなかったはずだが、覚えていたようだ。

テルと親方にとっては俺たちは恩人で、「いつかお礼ができる日を願っていた」という。

俺たちは応接間に通されて、テルの淹れたお茶を頂いた。

「いつからマリナポートに?」

「昼過ぎかな。この後、島を巡ってから東のヴァージニア大陸にまた向かうところでね」

「そうですか。でも……東の海域には」

「シーサーペントでしょ。駆除しようと思ってね。小舟でいいから貸してくれるかい?」

「あなた!」

テルが親方を見ると「ええ、どうぞ。いくらでも持っていってください」と許可が出た。

「ナオキ様、旅のお話を聞かせていただけますか?」

「もちろん。ただ順番に話すと長くなるけど……?」

「構いません。今日は夕飯の下ごしらえは済んでいますから。あなた、工員の皆さんには『鍋に具材を入れるだけ』と伝えておいてください」

「承知した」

そう返事をすると親方はトーマスを抱きかかえて応接室から出ていった。

「まず、マリナポートを出てからすぐにクラゲの魔物の大群に襲われながら、ある島にたどり着いたんだ……」

俺は母親に語って聞かせるように旅の話を始めた。話の補足をしてくれていたアイルは途中でベルサたちを呼び、造船所では勝手に宴会が始まったようだ。

日が暮れても、旅の話は尽きない。テルは各地の料理や食材の話に興味があるようで、「カム実とカプーはぜひ食べたい」と言っていた。俺も食べ物の話をたくさんしたのに、腹が減っていることに気づかず、セスが心配して呼びに来るまで話し続けた。

すっかり深夜になっていて俺もテルも笑ってしまった。

「続きはまた明日」

「ええ、私も驚きすぎてご飯を食べることを忘れてしまいました。でもナオキさんの話は全て本当なんですか?」

「本当だよ。セスにも聞いてみるといい。ね?」

セスに振ると、「なにを聞かされたかわかりませんが、社長の話が嘘だったほうがよっぽど楽ですよ」と苦笑い。

「本当に? セスさんは船泥棒で今は船長さんなんですか?」

「社長なにを言ったんですか!?」

「事実だよ」