軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24話

ギルドで聞いてみると、魔物学者というのは何人もいるらしい。

大まかな特徴を伝えると、すぐに居場所を教えてくれた。

普通、魔物学者は船の乗組員として、未開の地へ行き、魔物の調査をするというが、アイルが教えてくれた魔物学者は、最近ずっと家に閉じこもり、姿を見せていないらしい。

ギルドの受付のおじさんが、地図を出して、家の場所を教えてくれた。

探知スキルを全力で広げると探知範囲内だった。

ただ、中にいる人は弱っているのか、状態異常になっている様子だ。

「急ごう!」

「はい」

ギルドを出て、テルに事情を説明しながら魔物学者の家に向かう。

「では、危険な状況もありえるということですね?」

「そうだ。家の中に病魔が蔓延しているとも限らない。即死はないと思うけど、このミサンガつけておいて」

昨晩作ったミサンガを渡した。

俺とテルは手首にミサンガを結び、魔物学者の家にたどり着いた。

家は石造りの平屋で、築年数は相当なものだろうことがわかる。

庭には枯れた畑があり、崩れかけた塀の傍にトイレがあった。

コンコン。

……。

扉を叩くも反応はない。

探知スキルでは床に倒れている事がわかる。

魔法陣で扉の鍵を開けた。

中に入るとむっとした空気が滞っている。

窓の雨戸が締め切られ、ランプの明りは消えていた。

暗闇だが、探知スキルのある俺には見えている。

空気に毒はないが、マスクはしておく。

テルに窓を開けるように言って、家の主のもとに行く。

魔物学者は若い女で、煤けたようなローブを着ていた。灰色の髪が乱れているが、端正な顔立ちをして、透けるような白い肌が艶かしい。

背は俺と同じくらいか、俺よりも高いが、身体は紙のように薄く、痩せている。持ち上げた時に、浮いた肋骨に触れた。

魔物学者の細い腕を掴み、脈を確認する。

かなり衰弱しているようだが、生きている。

俺はアイテム袋から、回復薬を取り出し、魔物学者の身体に少しふりかけ、口が開けられるようなので、口から飲ませた。

「誰だか知らないけど、助かった。うっ、ちょっと待ってて…」

魔物学者はフラフラと立ち上がったかと思ったら、庭のトイレに駆けていった。

状態異常は食中毒かな、と考えていたらテルが台所から、カビの生えたパンを持ってきた。

「これを食べていたみたいです」

「腹壊すに決まってる」

俺は、台所にクリーナップをかけて、テルにはお腹に良さそうなスープを作ってもらうことにした。

台所の鍋には何やら怪しい物が入っていたので、脇にどけ竈の上に板を置き、IHの魔法陣を描く。

アイテム袋から、食材と鍋を取り出してテルに渡し、俺は部屋を回りクリーナップをかけていくことにした。

紙の束が散乱した書斎らしき部屋は、何もせず放っておいた。

植物をたくさん育てている部屋には、ほとんど動かない魔物が探知できた。

植物の中に魔物がいるのだろう。

研究の一種かもしれないので、ここにもクリーナップをかけないでおいた。

壺の中の水が濁っていたので、取り替え、枯れかけの植物の周りに少しだけ水をやった。

どのくらい水をあげればいいのかわからないし、あまり水をあげ過ぎると腐る種もいるので、少なめにしたのだ。

寝室はクリーナップをかけ、アイテム袋から取り出したバ○サンを仕掛け、部屋全体に結界を張った。

強力なバ○サンは部屋全体を白い煙で覆った。これでダニやノミは死滅しただろう。

煙が収まってきた頃を見計らい、再びクリーナップをかけた。

シーツ類は洗濯しようと、その辺にあった桶に水を張り、中に入れた。

洗剤は前に作った石鹸を使用した。

柑橘系のいい匂いがする。

桶の中に小さな旋風を発生させるように魔法陣を描けば、即席の洗濯機の出来上がりだ。

その桶を持って外に出て、壊れた物干し台を直し、紐を張ってシーツを干す。

スープを作り終わったテルが、俺を手伝うために外に出てきた。

2人でシーツを干していると、トイレからフラフラと魔物学者が出てきた。

「す、すまない」

魔物学者は俺とテルに向かって頭を下げた。

「とりあえず、飯をしっかり食べて、少し安静にしていた方がいい」

魔物学者に肩を貸し、家に入る。

テルはスープの用意をし、魔物学者に食べさせた。

魔物学者は腹が減っているのか、フラフラしながらもしっかり食べていた。ついでに、ワイバーンの肉を焼いて、出してやると、美味そうにがっついていた。食欲があるなら大丈夫だろう。

「久しぶりに、人間らしい食べ物を食べた。ありがとう。私は魔物学者のベルサという」

「ナオキだ。害虫駆除をやっている冒険者だ」

「ナオキ様の奴隷のテルです」

ベルサが自己紹介し、俺たちも自己紹介をした。

「害虫駆除というのは?」

「家にいる虫やネズミなんかの魔物を駆除してるんだ」

俺の説明を聞いて、ベルサは不思議そうな顔をした。

「それで奴隷を持てるほど稼げるのか?」

「うん、まぁそこそこ儲かるよ。それより、魔物について知りたいんだ」

「うちまで来るくらいだから、そうだろうよ。それで、どんな魔物について知りたいんだ?」

テルが食後の紅茶を入れている。

その紅茶を飲みながらベルサが聞いてきた。

「魔物についてなら何でも教えてほしい。海の向こうにはどんな魔物がいるのか、珍しい物も、ありきたりな魔物の生態も、どこに行けば魔物の本が手に入るのかも、全てだ。何も知らずに冒険者をやってしまっていたことに気づいてね」

俺が説明すると、うんうんと頷きながらベルサは聞いていた。

「なるほど、珍しい奴だな。ナオキは。冒険者なのだから剣や魔法で倒せればいい、と思うのが普通だが、ふむ。そうか」

飯を食べたからか、血色が良くなってきたベルサは顎を手でこすりながら、自分の書斎に行った。

書斎の中を漁り、戻ってきたベルサの手には一冊の本があった。

「これは私の師匠である魔物学者が書いた本で、身近な小さな魔物の生態について書かれたものだ。とりあえず、これを読んでみてくれ。他にも魔物の本はいくつか出ているが、この本が一番嘘がない」

俺は「リッサの魔物手帳」と書かれた本を受け取り、中身をパラパラとめくってみた。

そこにはマスマスカルやバグローチなど、ここら辺でよく見る魔物がイラスト付きで解説されていた。

生態系や弱点などの他、何を好むのか、についても書かれており、良書と言えるものだった。

「これは、いい本だ」

俺は素直に感心した。いくつか本は見たが、こういう博物学の本は見たことがない。

「そうだろう。その本は、貸すよ。この街にいる魔物学者のほとんどは、その本に影響を受けた連中だ。船に乗って新種を探そうとする者も多い。新種に賞金を懸ける資産家もいるので、争奪戦になっているな。私はその競争に負けて、家にこもって新しい理論を考えていたんだが…金が尽きてね。食うにも困るような状況に…」

話しているうちにベルサは徐々に元気を失っていった。どの世界でも、学問に金が回らないのは同じだろうか。

「食べ物と金を俺が出せば、もっと魔物について教えてくれるか?」

「え!?」

俺の言葉にベルサは驚いたように顔を上げた。

「食べ物と金を出せば、研究は続けられるんだろ?」

「そうだけど…物好きな奴だな、ナオキは。研究に投資しても儲からないぞ」

「それはベルサの研究次第だろ。それに俺の目的は儲けることじゃなくて、魔物について知ることだ」

そう言って、アイテム袋から、手持ちの金を全てテーブルに出した。

「とりあえず、これで当面は足りるか?」

金貨にして50枚ほど、5000ノットはあるだろうか。

ワイバーンの革が結構な値段で売れたので、そこそこ手持ちはあった。

「こ、こんなにくれるというのか?」

「ああ。あとはワイバーンの肉と野菜とかもあるから、置いてくよ。また、明日来てもいいか?」

「もちろんだ」

「それまでに、本を読んでおくよ。シーツが乾くまで、フォラビットの毛皮を使うと良い」

アイテム袋からフォラビットの毛皮を出して、ベルサに渡す。

「何から何まで、すまない」

「いいんだ。ベルサの研究が進めば。ただし、あまり無理はするなよ」

「わかった」

俺とテルは、ベルサにお礼を言われながら、家から出た。