軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

222話

晩飯をサムエルに届けに楼閣に行くと、サムエルは与えられた部屋で提灯の明かりの下、黙々と本を読んでいた。

「おつかれさまです。晩飯です」

「わぁ~ありがとう! いやぁ、食べることを忘れていたよ」

他のギルド長と話していると学ぶことが多くなったという。

「紙問屋なので今まで本にはたくさん触れてきたつもりだったんですが、他のギルド長さんたちの知識は、もう学者並で話についていくのに必死です」

俺が大皿いっぱいの料理を見せるとそれにも驚いていた。

「へぇ~これはどこの料理でしょうか? これは砂漠にしかない野菜ですかね。ん、味も食感もいい! はぁ、息子たちにも食べさせてあげたいですよ」

「息子さんがいらっしゃるんですか?」

「ええ、親に似ず、数学だけはできるので会計をやらせているんですがね。いやぁ、ここに来て確信しました。それだけでは商人は務まりません。あ、そうだ。コムロさん、娘が3人いるんですが、1人どうですか? 結婚していただけませんか?」

「俺の仕事はひと所にいれないので、旅につれていくことになりますよ。それでもいいですか?」

「ああ、それはちょっと親としてはつらいかな」

サムエルは口いっぱいに肉を頬張った。

「いやぁ、どれも美味しい! コムロさんもどうです?」

「いえ、俺はもう食べましたから」

「そうですか。1人で晩飯を食べるなんて初めてだ。いい経験をさせてもらってます」

「やっぱりちょっとさびしいですか?」

俺も前の世界にいた頃はひとり暮らしが長かったから、ずっとひとり飯だった。仕事帰りに同僚たちと食べる飯の方がやっぱり美味しく感じたし、今、アイルたちと食べる飯はどんなに質素でも美味しいと思う。

「そうですね。ここまで旅をしてきて一番考えていることが家族だなんて、なんだかおかしいですよね。でも、家族ってありがたいんだなって思います」

「そんなこと言われると、俺も家族がほしくなりますね」

「コムロさんたちは、もうほとんど家族みたいなものじゃないですか。一緒に寝起きして仕事も一緒なんですよね? 家族以上なんじゃないですか?」

「ああ、まぁ、それはそうかもしれませんが、それはそれで時々ひとりになりたくなるもんですよ」

娼館だってなかなか探しに行けないし。絶対、祭り会場のどこかにあると思うんだけどなぁ。祭りが終わる前に見つけ出したい。

「そういうもんですかね?」

「そういうもんです」

大盛りの肉料理はきれいにサムエルの腹に収まった。

「また、明日、晩飯を届けに来ます」

「すみませんね。ついてきてもらった上に晩ご飯まで用意していただけるなんて」

「全部ファイヤーワーカーズ持ちですから」

「それもそうでしたね」

「では、また」

「ごちそうさまでした」

俺がサムエルの部屋から出ると、偶然ネイサンに会った。

「あれ? コムロくん。ああ、料理を届けに来たのか」

「そうです。どうです? 調子は」

特に話すこともないが、眉間にしわが寄っているネイサンの愚痴は溜まっていそうだ。

「調子はよくないよねぇ。スパイクマンの計画と魔石の産出量が合わないから、魔道具師たちも大慌てって感じかな」

戦争なんかするからだ。やめればいいのに。

「それに今年は厳冬みたいでね。砂漠じゃ感じないけど、暖房のヒートボックスが足りなくなるんじゃないかって。はぁ、心配事はおおいよ」

「気晴らしにマッサージとか受けてみてはどうです?」

それとなく、娼館がないか聞いてみる。

「マッサージ、いいねぇ。ああ! 祭りの間、娼館はやってないよ。奴隷商になってるから。個人でやっている人が通りで呼び込みしてるのは見るけどね」

俺の様子を察して、素晴らしい情報を教えてくれる。

「それはいい情報ですね。ありがとうございます」

「あ、コムロくん。君の会社で、また肉差し入れしたでしょ? 困るよ、傭兵たちだっているんだからさ」

「そうなんですけどね。うちの奴らが勝手にやっちゃうんですよ」

「気をつけてよ」

話しながら楼閣の入り口までたどり着いていた。

「はい、おやすみなさい」

「おやすみ」

ネイサンはよく気が回る人だ。だからギルド長なんてやってるんだろうな。

ネイサンに注意されたが、翌日もその翌日もうちの会社から砂漠で狩った魔物の肉は商人たちに差し入れされた。ほしい魔物の肉も指定できるとあって、大好評。代わりに、傭兵の偉い人が宿に来て「どういう了見だ」と文句を言ってきた。

「いいじゃないですか。『捕虜がいるような会社はすぐに潰れます』から」

皮肉で返すと、仁王像のような顔を真っ赤にしていた。

「祭りですから、楽にいきましょうよ。商人たちの言うことを全部気にしてたら、耳がいくつあっても足りません。どうです? 意外に美味しいですよ、砂漠の魔物も」

それで傭兵の偉い人は帰ってしまったが、肉料理を傭兵たちにも差し入れすると、ちゃんと食べてくれていたようだ。

その間に、スーフの体調はみるみる良くなっていった。「スープに回復薬を混ぜたのが良かった」とメルモがデカい胸を強調している。

『火祭り』も間もなく終わる。

サムエルはしっかり建築資材を手に入れ、馬車の荷台に積んでいた。帰りの俺たちは徒歩だ。ゴーゴン族の娘たちとスーフもついてくることになってる。

木製の人形はずっと立っていて、夜には火を点けられるという。

俺は客引きをしているおネエさんたちを見て、今日がラストチャンスと思いながら、馬小屋にいるフィーホースをブラッシングしていた。

夕方近くに肉屋が砂漠名物のケバブサンド風の肉料理を持ってきてくれた。とっとと食べて、サムエルに持っていくと楼閣内が騒がしかった。ギルド長たちが走り回っている。

「なにかあったんですか?」

サムエルの部屋に料理を持っていって聞いてみた。

「スノウフィールドで地震があったみたいなんだ」

また地震か。

「規模は?」

「レイクショアと同程度か、それ以上らしい。私はなにもできないけど、火の勇者様たちが飛行船で向かうらしい」

「いつ起こったとかわかりますか?」

時間によっては被災者を助けられる可能性がある。

72時間。前の世界で地震が頻繁に起こる国にいた俺にとっては、よく耳にしていた時間。人命救助における黄金タイムと呼ばれていたが、あまり科学的根拠はないらしい。

だが、今は冬。レイクショアの地震の時はすぐ近くにいたのであまり気にしていなかったが、北部に位置するスノウフィールドで瓦礫の中に埋もれたとしたら、何時間生きられるかわからない。時間との勝負であることは確かだろう。

「いつ起こったかはわからないな」

「了解です。サムエルさん、1人でレイクショアまで帰れます?」

「コムロさん、行く気かい?」

「手が届く命は救いたいんです。人として」

「わかった。私のことは大丈夫だから、行ってあげてくれ。君たちなら救える命は多いと思う」

サムエルは頷いて、送り出してくれた。

俺は楼閣の中にいるギルド長たちにいつ地震が起こったのか聞いて回った。

「あ! ネイサンさん!」

「おお! コムロくん、聞いたか?」

「ええ、スノウフィールドで起こった地震はいつかわかります?」

「たぶん、発生後すぐにハトの魔物を放ったとして丸一日だね」

夜を越えているか。厳しい状況だ。

「スパイクマンさんが飛行船を出したとして、どのくらいかかります?」

「今から魔石と食料の補充があるから、飛ぶのは朝になるだろうね。それから、丸1日ってところじゃないか」

「遅すぎますね。俺たちが行くので、地図で場所を教えてもらえますか?」

一瞬反応が遅れて、すぐにネイサンが地図を持ってくるよう近くにいた商人に言った。

俺は通信袋を取り出した。

「全員、宿に集合。火の国の北部にあるスノウフィールドで地震があった。すぐに向かうから準備を始めてくれ」

『『『『了解』』』』

通信袋を切って、商人が持ってきてくれた地図で位置を確認する。

「その袋で社員たちと連絡を取り合っているのかい?」

「そうです」

スノウフィールドの場所は火の国の北東、地峡がある傭兵の国との国境のすぐ側。傭兵の国側にも大きな町があるようだ。

「これって傭兵の国も被害が出てますかね?」

「たぶんね」

被害が広い。

「これ持っててください。なにかあれば連絡します」

俺は通信シールをネイサンに渡して楼閣を出る。

『社長、回復薬が足りません!』

セスから報告が来た。レイクショアでかなり使ってしまったからな。

「了解。宿に向かいながら調達する。全員に共有しておけ」

『了解』

ギルド長たちが慌て、ハトの魔物も飛び交い、祭り会場の商人たちは怯えた様子だ。

「おつかれさまです! ちょっと皆さん聞いてください!」

俺は大声で商人たちに呼びかける。肉の差し入れによって、俺がコムロカンパニーの社長であることは知っている人たちばかりだ。

「おお、コムロカンパニーの社長! なにがあったんだ?」

「情報がいろいろあってよくわからないよ!」

「戦争か? それとも反乱?」

なにがあったのかと情報が錯綜しているようだ。

「スノウフィールドで大きな地震があったそうです。今から俺たちが向かいますので、回復薬、もしくは材料になる薬草を持っている方はいませんか!? できるだけ人を助けたいんです!」

「スノウフィールドが……」

「今からったって……」

「どうやって!?」

商人たちは、かなり混乱しているようだ。

マズい。一気に情報を出しすぎたか。ゆっくり説明するべきだった。

後悔していたら、肩を叩かれた。

「地震が起こった私の町を救ってくれたのは、コムロカンパニーさんだ! 皆も祭りの間、砂漠の魔物の肉は食べたと思う。実力は知っての通り! 彼らが向かうと言っているのだから、必ず行くはずだ。さぁ、薬草を持っている商人は肉の貸りを返すチャンスですよ!」

サムエルが隣で大声を張りあげて、呼びかけてくれた。

「火の勇者様は飛行船を出してくれないのかい?」

商人の1人が聞いてきた。

「火の勇者様はあとから食料などを持って行くそうです。ただ、俺たちのほうが早く現場に着きます。冬の北部は寒いと思うので、瓦礫の下敷きになったら一刻を争う。薬草が足りません。どうかお願いします!」

俺は頭を下げて頼んだ。

「ほら、うちの薬草全部持ってけ! 最高級の乾燥した薬草だ。肉の礼になるかどうかわかんねぇけどよ」

「おい、他に薬屋いなかったか?」

「オアシスの方にいたぜ!」

「呼んでこいよ! 薬草だ、薬草!」

気持ちが伝わったようで、商人たちが動き出した。

「ほら、ファイヤーワーカーズは皆、家族だよ! 家族が苦しんでるって時に祭りなんかしてられない。さぁ、皆、薬草を集めて、コムロカンパニーの社長に渡しな!」

「薬草が足りないんだよ! あんただって散々、新鮮な肉食べたろ! 少しは協力しな!」

「金なんて言うやつケツ蹴り上げろ!」

どんどん声が広がっていく。

すぐに冷蔵庫一杯分ほどの薬草が俺の目の前に積まれた。

「助かりました! いってきます!」

俺はオアシスの宿へ走った。

宿にはすでに全員集合している。全員、ツナギ姿。通信シールを顔のどこかに張り、軍手などの装備品もチェック済みだそうだ。

「薬草は用意できた。向かいながら作る。セス、移動を頼む」

「わかりました。全員、魔力の壁に乗せていきます」

「速度はできるだけ急げ。北東だ。現場に着く頃には夜中になっていると思う。アイル、明かりを頼むな」

「了解」

「ドヴァン、お前も来い。傭兵の国にも被害が出ているかもしれない」

「行きます!」

「スーフたちは足手まといだから置いてく。これ、持っとけ」

通信シールをスーフに渡した。

「なにかあれば連絡する。サムエルさんと帰っててもいいし、魔族領に向かってもいい」

「いえ、ここで帰りを待っています」

スーフはまっすぐに俺を見て言った。

「好きにしろ」

セスが部屋の窓を開け、そのまま飛び出した。手には空飛ぶ箒を持ち、空高くへ飛んでいく。俺たちも同じように窓から飛び出し、セスに合流。宿の下で見ていた商人たちの驚く声が一瞬聞こえた。ドヴァンもアイルと一緒に空飛ぶ箒にまたがっている。

全員が合流したところで、セスが自分の魔力の壁を展開。魔力の船が空を飛んだ。

これで、俺たちは箒を持たずに両手が空いた。俺は板を取り出して加熱の魔法陣を描いて、鍋で回復薬を作っていく。

「北部だから、被災者の低体温症が予測される。町のわかりやすい位置に風呂を作っておきたい」

「私が作るよ。加熱の石ちょうだい」

ベルサが俺から加熱の石を受け取った。

「そういやスノウフィールドは魔石の採石場が近くにあるんだよ」

「じゃあ、井戸水は使わないほうがいいかもね。どうする?」

「はい」

俺は、その場で水魔法の魔法陣を焼き付けた板を3枚作り、ベルサに渡した。

「ドヴァンはできる範囲でいいから。俺たちはこの前のレイクショアと同じように。ただ、傭兵の国の町にも被害を見に行きたいから、できるだけ急いで」

「国境はどうします?」

メルモが聞いた。

「空飛んでいく。火の勇者に言って、あとで謝ろう」

「日が沈みます!」

セスが報告する。

振り返ると、太陽が西の地平線に沈むところだった。

俺たちは夜に向かって飛んだ。