軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

204話

雨は朝になっても止まなかった。

魔族たちは城の中に篭もるしかなく、俺たちに言われるがまま、掃除をしながら、廊下の奥の部屋を気にしている。掃除をすれば、飯は出すことにしたのだ。労働と対価という考え方を植え付けようとしている。

リタと、赤ん坊を抱いた女性ことアフィーネは、魔族の子どもたちがいる廊下の奥の部屋で眠っている。

魔族たちは突然やってきた人間の母とゴブリンのような見た目の赤ん坊に戸惑っていた。ボウの彼女であるリタが許可を出してしまったので仕方がないと思っている者や、火の国のスパイなのではないかと疑う者、泣いていたアフィーネに同情する者など、反応は様々だ。ただ、誰も襲ったり、食べようとする者はいない。

ボウに聞いてみると、「今は食べ物があるし、人間を襲っても得がないから」とのこと。

子どもたちの世話をしているアラクネは、熱心にメルモとセスが料理をしているところを見て、調理について学んでいた。

「ベルサ、穴の様子を見に行くか?」

「うん。魔石灯持っていこう。アイルは?」

「私は地図描いておくよ。ボウが逃げたルートを描き込んでおきたいんだ」

アイルは朝からペーパーワークだそうだ。似合わない。

「そうか。じゃ、ちょっと行ってくる」

「いってらっしゃい」

俺とベルサは雨のなか、魔力の壁を展開しながら城の外に飛び出した。

石畳の街道を北に進めば、すぐに穴に辿り着く。

「やっぱり他の場所より穴の周辺は魔素が多いのかな?」

俺がベルサに聞いた。

「私たちにはわからないね。レベルが上がりすぎているし、魔素の濃度が高い場所にも慣れてるから。魔石灯の明るさも変わってないと思うけど……」

「もっと近づいて確かめてみるか」

朝もやが立ち込める中、探知スキルを展開。人に見られないよう、極力魔石灯の明かりを隠しながら、穴の中に下りることに。すり鉢状の穴には魔石を運ぶため、穴の縁に螺旋を描くように道があったが、俺とベルサは道の端からすり鉢の底に向かってポーンっと飛び降りた。

飛び降りながら、周囲を探知スキルで確認。穴の途中から横穴がいくつも掘られ、底には、さらに斜め下へと穴が掘り進められていた。沼の底にあるような地層なので、横穴なんか掘ったら崩れそうだが、木の枠で囲って崩落を防ぎながら掘っているようだ。そんなんで大丈夫なのか、と心配になる。

横穴は非常に入り組んで伸びており、虫系やマスマスカルっぽい、小さな魔物も多い。さすがに魔族ではないと思うが、無闇に手を出さないよう気をつけた。

コーンコーンコーン。

魔石灯の明かりがほのかに見える横穴から、ハンマーで岩を掘るような音が聞こえてきた。

「こんな朝早くから採掘してるのか? 大変だなぁ」

ベルサが言った。

「いや、探知スキルで人は近くに見えないから、たぶん、死んでる。ゴースト系の魔物かも」

「えっ!? 朝からホラーか……シャドウィックかなぁ、とりあえず見に行く?」

「うん」

音が聞こえる方に向かうと、案の定、黒い霧状のシャドウィックが、ハンマーで岩を叩いていた。

「あれって、採掘スキルを持ってるから魔族ってことになるのかなぁ……」

「いや、適当に落ちてたハンマーで叩いてるだけじゃない?」

「今のところ、特に害になってないので、放っておこう。まだ横穴の奥があるようだから、進んでみるか」

奥には水たまりが出来ているところがあった。前は沼だった場所だからか湿気も多い。ベルサは水たまりの泥水を採取。あとで、吸魔草に与えてみるそうだ。

「うわぁ、湿気かなこれ? 魔力の壁が厚くなってない?」

ベルサに言われて、自分の魔力の壁が分厚くなっているのに気づいた。

「魔素が濃いんだな。これで地下水脈でも見つけたら……あらら」

穴を曲がると、木枠の木の節から白い芽が伸び、道を塞いでいた。

「ああ、これはどう考えても異常だね。魔素溜まりの中心はこっちか」

ベルサは伸びた芽を押し退けながら進む。木材の節から芽が出るなんて、確かに異常だ。ただ、俺たちは世界樹での異常を体験しているため、中心部を思い出したくらいだった。

「予想通りだったね」

しばらく横穴を進んだところで、ベルサが目の前を魔石灯で照らした。そこには巨大な水たまり、いや、地底湖があった。魔石灯の明かりは、先ほどより強くなっている。魔素濃度が高い。

「探知スキルで見たら、空間が広がっていたからあるとは思ってたけど、決まりかな」

「だろうね」

地底湖は村の方まで広がっている。村の井戸で、この水を汲んで飲んでいるとしたら、人体にも魔素の影響があるのだろう。魔力量が人より多い俺たちはそこまで気にならなかったが、世界樹の中心部でドワーフたちは気持ちが悪いと言っていた。土の勇者がいたノームフィールドでは、小さな魔石の滓を吸い込んで、人間がグールになるのを見た。水に含まれる魔素だとしても濃度が高ければ、影響はあると予想できる。お腹にいる胎児なら、なおさらだ。

アフィーネの子どもも、アラクネが森で拾ってきたという城にいる魔族の子どもたちも、この水の影響で魔族になったとしたら、これは公害だ。アフィーネの赤ん坊と、アラクネに子どもたちの事情を聞いた時に予想はしていたことだけど、嫌な予想が当たることほど面倒なことはない。

「近くに他の水源は?」

ベルサが聞いてきた。

「森に小川が流れてたはずだよ」

「そこも調査しておかないとね。吸魔草を用意しておこう」

ひとまず、地底湖の水を汲み、穴から脱出。雨は止んでいて、城まで急いで帰る。

魔族たちは朝食を食べているところで、アフィーネも食事をちゃんと摂っているらしい。

俺たちはベルサのリュックを持って、そのまま森の小川に向かった。

「魔素はそんなにないね。あっても微量ってところじゃない」

ベルサはすぐに小川の水を吸魔草により魔素濃度を調査した。

先ほど採取した穴の地底湖の水を吸魔草にかけてみると、ボンッ! と一気に成長した。

「南半球産の吸魔草は、わかりやすいな」

「それだけ地底湖の魔素は濃いってことだよ」

ベルサはバレーボールサイズに成長した吸魔草を持って言った。元々は小石サイズだった。

「さて、と……どうやって説明するかな」

いきなり村に行ったところで、見も知らずの俺たちが信用されるわけもなく、かと言って逃げ出したアフィーネが説明したとしても信用されるかどうか。

「脅すか?」

脅すとすれば、ボウや魔族がやったほうが効果的だろう。

「また、魔族が嫌われるよ」

「とはいえ、このまま放っておくわけにもいかないだろ? 城だってそんなに受け入れられるわけじゃないし」

「はぁ、人間が魔王領なんかに住むからだよ」

「そうだな。全部、火の国の責任だ。裁判しなくちゃ。あれ? こっちの世界って国を相手取れるのか?」

「国と裁判するのか? そんな話、聞いたことがないぞ」

民主主義じゃなければ、国と裁判なんて出来ないのか。いや、法律次第か。なんにせよ時間はかかりそうだ。

「まぁ、いい。それは後で考えよう。とりあえず、村人に井戸を使わせないようにしなくちゃ……」

気が重いけど、誰かが説明しなければならない。

とぼとぼ城に向かって歩いていると、

「お、カム実だ。久しぶりだなぁ……あれ? このカム実、噛まないよ!」

と、ベルサがカム実に似た木の実を採取していた。朝飯も食べずに調査を始めたので、2人とも腹が減っている。

他にもないか探してみると、柑橘系の果物の木も見つけた。意外に魔王領は果物王国なのかもしれない。とりあえず、食べられるかどうかわからないので、採るだけ採って、魔族たちに聞いてみることに。

「あ~マズいヨ。ソレ」

アラクネが採ってきた果物を見て教えてくれた。

「美味しイのは、夏にトレるのだけ」

すでに秋。旬じゃないので、味が劣るのだという。ただ、食べられるなら、食料は多い方がいい。調理によって、味も変わるかもしれない。

柑橘系の果物を毒味してみると、激渋い。渋柿の煮汁を食べたような感じだった。

「うわぁ~……。あ、ああ……なんだこれ……でも、どっかで味わったことのある味だなぁ……」

匂いは完全にオレンジでいい匂いなのだが、渋すぎて食えたものではない。ゲテモノ企画は魔族にも人気があるのか、魔族たちも集まってきた。

「あ、これ、アレです。魔力回復シロップの味です。ペッペッ!」

セスにも毒味をさせてみると、すぐに吐き出していた。確かに、セスの言うとおり、魔力回復シロップの味に似ている。

味が似ているからといって、効果も同じとは限らないのだが、一応、試した。採ってきた果物を全て鍋で煮込み、ハチミツなどで味をまろやかにしながら、魔力回復シロップを作ってみた。

「ま、ちょっと甘くて変な匂いのするお茶だと思えば、飲めなくはないかな……効果は魔力切れになってみないとわからないな。ちょうどよく魔力切れになっている人いない?」

いつの間にか、魔族たちは周囲からいなくなっている。ボウやリタにも逃げられてしまった。

「朝飯も食べずになにやってんの?」

サンドイッチを食べながらベルサが見てきた。

「あ、1人だけ朝飯食べてズルいぞ!」

「朝飯食べてないのはナオキだけだよ……。あとで、吸魔草の株分けするから、その魔力回復シロップモドキはそこ置いときなよ」

「へ~い」

大人がやってきたので、ゲテモノ企画はここまで。

メルモにサンドイッチを作ってもらって、俺も朝飯にする。

「アフィーネの様子どお?」

サンドイッチを受け取りながら、メルモに聞いた

昨晩は名前だけ教えてもらってリタに任せきりだったが、今朝はリタも畑に出ている。

「奥の部屋で、魔族の子どもたちの世話をしていますよ。あまり部屋からは出たくないみたいですけど」

「火の国のスパイだと思ってる魔族もいるからな。出てくるのに、少し時間がかかるかもしれない。ちょっと、俺が話をしてきても大丈夫かな?」

「いいですけど……」

メルモはじとっと俺を見てきた。

「な、なんだよ」

「娼婦の方だからといって、女性ですからね!」

「わかってるわ! さすがに俺も時と場合を考えるさ! いや、むしろ職業として尊敬してるくらいだ!」

「なら、いいんですけど……」

「ちょっと待て、メルモは俺をなんだと思ってるんだ?」

「社長は……変人で変態?」

こ、こいつ! そのデカい胸をちぎり取ってやろうか!

「あ、ほら、いやらしい目で胸見てる」

思わず俺はメルモにアイアンクローを食らわせていた。

「いたいたいたいたい! ウソです! ウソウソ!」

「この目は生まれつきだ。いいか、これからアフィーネさんと村について大事な話があるから、メルモも来い!」

片手でサンドイッチを食べながら、もう片方の手にメルモを持って、俺は奥の部屋に向かった。

ドアを開けると、アフィーネがミノタウロスの子のオシメを替えているところだった。

「今、ちょっといいですか?」

「あ、はい!」

アフィーネは驚きつつも、手早くオシメを替えていた。汚れたオシメは桶にひとまとめにされ、後で洗濯するようだ。

「ナオキ・コムロと申します。この城にいる人族は全員うちの社員で、俺が社長をやってます」

「はい、リタさんに聞きました。清掃・駆除業という特殊な仕事をしているそうで。アフィーネと言います。よろしくお願いいたします」

一晩明けて、ちゃんと喋れるようになっている。

「実は、アフィーネさんがいた村の井戸のことなんですが……」

俺は簡単にアフィーネに説明し、部屋にいる魔族の子どもたちが魔素の影響で姿が変わったかもしれない、と伝えた。

「そう……ですか。それで、この子が死ぬようなことになりますか?」

「いや、直接死ぬようなことにはならないと思います。魔族なら300年くらい生きる可能性もあります」

一応、俺とメルモで、子どもたちに診察スキルを使ったが、特に異常はみられなかった。

「わかりました。なら、大丈夫です」

一晩のうちにアフィーネはなにかを覚悟していたのかもしれない。「死ぬこと以外は、かすり傷」という言葉が俺の頭に浮かんだ。腹をくくった母は強い。

「それで、俺たちはすぐにでも村に行って、井戸を使わせないようにしようと思います。半ば脅すようなこともするかもしれません。よろしいですか?」

「その方が、いいと思います。どんなことをしても止めるべきだと」

「わかりました」

俺たちが部屋から出ようとした時、アフィーネに声をかけられた。

「もしかしたら、自分の子を森に置きざりにしたことを後悔している母親がいるかもしれません。もしいたら、ここに住む選択肢を与えてあげていただけませんか?」

「わかりました。ただ、ここは魔族たちが住む城ですから、彼らの許可も必要です。どうか、お互いを知る努力を積極的にお願いします。自分たちも出来る限り、そうしているつもりですから」

そう言って、俺は部屋を出た。

俺はそのまま、炭用の窯を作っているというボウのもとに向かった。