軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

183話

俺たちはスライム駆除を仕事としていながら、スライムを繁殖させるという矛盾にぶち当たっていた。

「洞窟スライムってさ。洞窟じゃなくて遺跡にあるんだから、本来遺跡スライムだよね。まぁ、どうでもいいんだけどさ」

アイルが洞窟スライムにポンプで水をかけながら言った。

「だいたいさ。このスライムってどういう生態なんだろうな。菌とスライムが融合してんのかな。それとも菌の性質を持ったスライムなのか……まぁ、どっちでもいいか」

俺もアイルも洞窟スライムの粘液を使い過ぎるため、世界樹下層部に一時出入り禁止になっている。準備万端でないため仕方がないんだけどね。

「2人とも元気ないな。フハハハ!」

ボウは落ち込んでる俺とアイルが面白いらしい。

洞窟スライムに水をかけ終わったら、すぐに山頂の拠点に戻り、ベルサの手伝い。

基本的には種団子をひたすら作るという作業だ。その種団子にベルサが薬を塗って、発光スライムに食べさせる。できるだけ消化せず、吐き出さない薬を探しているところだ。

南半球でずっとスライムに触れてきたため、ベルサには予想がついていたらしく、唐辛子っぽい実の汁を塗ると発光スライムは消化しにくいことがわかった。ただ、吐き出す可能性が高かった。

それも、洞窟スライムの粘液を混ぜることで解決した。同じスライム系の魔物だったため吸収しやすいようで、吐き出すことはなくなった。

「あとは、浮かべばいいんだけどね」

ベルサはそう言って、発光スライムをつついた。

発光スライムはとても軽く、種団子が身体の中にあると重さで浮かべないようだ。

「そういえば、発光スライムが食べてたのは苔じゃなく、ワームの魔物だったよ。シーライトと同じように身体に魔石は入ってないんだけどね。ライトワームって名付けたよ」

シーライトとは以前、海で見た、青白い光を発する微魔物だ。ライトワームの光は少し黄緑っぽい。

「わっ! なんだよこいつら」

発光スライムたちはアイルが好きなようで、身体にまとわりついている。

「アイルは光魔法使えるから、好みのタイプなんじゃないか?」

ベルサに言われ、アイルが光魔法で光の玉を浮かばせると、発光スライムたちが光の玉に飛びついた。普段ふわふわ浮かんでいる姿とは違い、種団子が身体の中に入っている個体も、光の玉に群がっている。

「晴れた日に実験したら、太陽に向かって飛んでいくんじゃない? 連れてきたときはどうだったの?」

アイルがベルサに聞いた。

「連れてきたときは魔力の壁の中に入れてたから気づかなかったよ。でもこれなら大丈夫そうだね」

早くも植物の拡散方法が見つかった。発光スライムを集めるのもアイルの光魔法があれば、問題なさそうだ。

「知識の蓄積があったからね。スライム系の種族が辛い実を嫌がるのは知ってたし、種団子もノームフィールドで作ってたしね」

俺たちはベルサと一緒に、解体した発光スライムを片付け、拠点の清掃をする。実験も昼飯も睡眠も全て拠点の中で行うため、あまりスペースがない。

「昼飯のあとはマッピングかな。メルモたちは上層部にいるの?」

拠点にはメルモ、セス、リタの姿がない。たぶん、植物の種を採取しに行っているはずだが、確認しておく。

「うん。世界樹の幹まで行ってくるって言ってた。上層部でも世界樹の幹に近づけば魔素が濃くなるみたいで、植生も変わってるかもしれないって」

ベルサが説明した。前に上層部で幹に近づいたときは、サソリの魔物がいたり、行く手に大量の魔物の死骸があったから、それ以上は進まなかった。

「大丈夫かよ」

アイルが心配そうに世界樹の方を見た。

「ただいま戻りましたぁ!」

タイミングよくメルモたちが帰ってきた。3人とも荒い息をして疲れきっているようだ。

「なにがあったんだ?」

俺はメルモに水袋を渡しながら聞いた。

「幹付近まで行ったんですよ。魔素が多くて、普段と同じように魔力の壁を使おうとすると特大のが出来たりして、調節するだけで疲れちゃったんですぅ」

メルモはそう言って、床に座り込んでしまった。

「帰ってくる途中でトンボの魔物に襲われたから大変でした」

リタも水を飲むと、ぼーっと天井を見上げていた。

「葉っぱの床も幹付近だと薄くて走りにくいし。はぁ……きつかったっす~! あ、社長。閃光弾、トンボの魔物に効きましたよ。混乱するみたいで、ひっくり返ってました」

セスだけは、いい汗をかいてはつらつとしている。自分をいじめるのが好きなのかもしれない。

3人が落ち着いたところで、昼飯タイム。俺とアイルは、アイテム袋から作っていた料理を取り出し、皆に配っていった。

「世界樹の幹か……マッピングするなら、幹と枝を見てから描いていったほうがいいかもね」

「そうしよう。どうやって描こうか、ずっと悩んでたんだ」

アイルの地図作りも、進めなくてはいけない。まず、世界樹上層部の横から見た断面図を描き、太い枝を基準に階層分けするらしい。アイルは測量スキルを取ろうとしていたが、測量しても世界樹自体が成長するから毎日地図を作り直さなくてはいけない、と気づいて止めていた。

「上層部はだいたいでいいよ、だいたいで。俺たちがわかればいいんだからさ。詳細にやってたら進まないよ」

「難しいな、動く地形って……どうにかならないかなぁ。う~ん」

アイルは悩みながらも、しっかり昼飯は食べていた。

「午後からの予定としては、俺たちも幹付近に行ってみようと思う。害虫がいれば駆除して、マッピングも簡単にでも出来たらなぁって思ってるんだけどいいかな?」

「あ、ボウさんは残って、檻作ってほしいです! ネズミの魔物を使役して、待機させてるんで」

メルモは疲れていながらも、自分のやることはやっていたようだ。

「フハ、了解」

「私は採ってきた植物の仕分けと、種の選別です」

「リタが選別した種の毒を調べるから、私も拠点に残るよ」

次々と予定が決まっていくなか、セスだけが残った。

「僕は……」

「俺たちと行くか。幹まで案内してくれ」

「はい!」

午後は、俺とアイルとセスで世界樹に向かう。なんだか筋肉質な2人に挟まれてしまったな。

「こっちです!」

セスは午後も元気だ。太い枝と枝の間を飛ぶように移動している。

今までは輸送が主な仕事だったため、世界樹で仕事できるのが嬉しいらしい。

途中、トンボの魔物と戦ったという場所を通ったが、死骸は跡形もなく羽の欠片も残ってなかった。1、2時間の間に他の魔物に食われてしまったらしく、セスのテンションは一気にだだ下がり。

慎重に世界樹の幹へと案内してくれた。

以前、幹に近づくと魔物の死骸だらけだった場所があったが、やはり今回もあった。葉の床に池があり、日光があまり届かず湿気が多い。

「トンボの魔物の死骸はなくなるのに、この死骸はなくならないなんて変だよな」

「確かに、ちょっと切ってみる?」

スパンッ!

アイルが魔物の死骸を魔力の剣で真っ二つにすると、中身は真っ白。筋組織や内臓などもなく、ちょっとやわらかい白いなにかが詰まっていた。

「たぶん、寄生する菌だろうね。前に俺が襲われたハエの魔物もキノコに寄生されてただろ?」

「アレの一種か」

アイルは納得していたが、セスは青ざめてなにも言わなかった。自分が危険なものの近くを通っていたことに、今さら気づいて怖くなったのかもしれない。

俺とアイルは淡々と熱処理による駆除作業。池全体を魔力の壁で覆い、加熱の魔法陣が描かれている石に魔力を込めて中に放り込む。あとは魔力の壁を、カクテルを作るようにシェイクしていくだけ。

葉の床も魔物の死骸も白い菌も液状に変わる。その液体が加熱の石により沸騰。アイルが加熱の石に思いっきり魔力を込めたため、魔力の壁の中は湯気だらけだ。

「風呂のために作った加熱の石だけど、結構使えるね」

「うん、ハチの魔物のときも使ったしね。私も魔力の壁で覆って中を魔力の剣で切り刻む技を考えよう」

「それ、風魔法とかのほうが……いや、なんでもない」

アイルが新しい技術について考えている間に、世界で一番飲みたくない液体が完成した。危険すぎるので罰ゲームでも使えない。以前、養魚池のヘドロ掃除で使った壺に液体を入れ、アイテム袋の奥深くにしまった。

再び、世界樹の幹へ向かう。

世界樹の端の方では木漏れ日もあったが、奥に行けば行くほど陽の光が届かなくなっていった。葉の床も強度が弱く、踏み込むと抜けてしまう。

「ここからは魔石灯をつけて、枝を頼りに行ったほうがいいです」

セスのアドバイスにより、太い枝を進むことに。

魔素も多く、魔力の壁を展開しているのが楽になり、生えている木も葉が緑ではなく、毒々しい紫や濃い赤の葉に変わった。

「この辺の植物は採取した?」

「ええ、瓶に入るサイズのはリタさんが採ってました」

リタたちはアイテム袋を持っていないので採取にも限りがある。

戻ったらメルモに袋を作ってもらって、もう一個作っておこう。今は俺とアイルの分の2つしか持っていない。あまり増やして盗まれでもしたら、物流がぶっ壊れる可能性もあるので慎重に作らないとな。考え事をしながら、大きい木の実や大きいアロエのような多肉植物を採取していった。

「おおっ! やっぱり世界樹の幹はデカいな!」

思わず、声が出てしまった。目の前まで来ると、黒い壁のようで木とは思えない。

「ん~魔石灯の明かりじゃ、よく見えない!」

アイルが光魔法で、光の玉を打ち上げ花火のように真上に放った。

一気に周囲が明るくなり、探知スキルで見ていたものが露わとなる。世界樹にはケムシの魔物が多いようだ。

「あんまり上層部でガの魔物とかチョウの魔物とか見なかったけど、ここで幼虫が育ってるみたいだね」

「成長したら下層部に行ってるのかもよ」

アイルが言った。

「その可能性は高いなぁ……」

ボチャッ!

すぐ側で粘着性の高いなにかが落下した。

行ってみると、落下物は樹液。世界樹の樹液だとすると……害虫の可能性がある。

「あれ? ちょっとマズいかな!」

俺は急いで、空飛ぶ箒にまたがり、急上昇。アイルとセスもついてくる。

世界樹の太い枝が、ケムシの魔物に食われて、穴がいくつも空いていた。

キシーッ!

魔石灯の明かりや光魔法で照らすと、樹液だらけのケムシの魔物が穴から出てきて威嚇してくる。大きさは、2リットルのペットボトルくらいだろうか。探知スキルで見ると、そのケムシの魔物が世界樹の枝を食い荒らしているのがわかった。

「世界樹が食われてる!?」

再びセスの顔が青ざめた。

世界樹がこのまま食われてしまうと、魔素拡散の計画も破綻してしまう。

「2人とも、できる限り駆除! やっぱり殺虫剤が必要だな。とりあえず、吸魔剤で対処するか」

俺はポンプに吸魔材を入れ、ノズルを穴の中に入れて噴射。アイルは出てきたケムシの魔物を魔力の剣で切り、セスは魔力の壁ですりつぶすように駆除していった。

作業は体感時間で1時間以上続いたが、なかなかケムシの魔物は減らない。

ブブブブッブブブブブ!!!

突然、羽音が鳴り響いた。

「次から次へとなんだ?」

ケムシの親の魔物か、と思ったら、大きなトンボの魔物が一匹、俺たちの周囲を飛び回った。いつか山頂付近で見た一回りデカいトンボの魔物に似ている。

止まった瞬間に、俺は魔力の壁で覆った。

キーーーンッ!!

トンボの魔物は羽を高速度でこすり、金属音のような音を出した。

『汝ら……なにを……しておる』

トンボの魔物から声が聞こえてきた気がした。

「喋った?」

アイルとセスに聞くと、2人は首を横に振る。

『汝ら、何者ぞ?』

「ほら、喋ったよ」

幻聴か。いや、俺だけ言語能力っていうスキルを持ってるからかな。

『我、悪魔なり』

「え~! 悪魔って生きてたの? 聞いてないよ~! 邪神が殺したって言ってたけどなぁ~!」

『我、地の底にて復活の機会を窺っていた』

なんか喋り方、無理してないか? 地の底ってことは世界樹の下にいるってこと? こちらの世界でもサクラの木の下には死体が埋まってるってことか。

「ふーん。そうなの? でも、邪神に見つかったらヤバいんじゃない?」

『これは仮の姿だ』

「ああ、そういや。霊たちが悪魔の残滓とか言ってたなぁ」

『残滓ではない。仮の姿』

このトンボの魔物が悪魔だからと言って、俺たちが殺される筋合いはない。仮の姿ってことは水の精霊の分身くらいの強さかな。ちょっと強めにいってみるか。

「どっちでもいいけどさ。なんか用?」

『我、世界樹の実を食し、邪神と同じ力を手にし復讐を果たす。その魔物どもは我が配下の者。殺すでない』

「いや、こいつら殺さなかったら、実もならないよ。というか、他に世界樹と同じ品種がないと実はならないと思うよ」

『嘘でしょ!……ま、まことか、それは?』

一瞬、喋り方が砕けたな。

「どちらにせよ、花が咲かないと実はならないから、あんまり邪魔しないでくれない?」

『むぅ……』

「まぁ、実がなれば教えるよ。邪神に復讐しようがしまいが俺たちには関係ないし」

『汝らは何者ぞ?』

「清掃・駆除業者だよ。今は南半球のスライム駆除と魔素の拡散を依頼されているんだけどね。ね、関係ないでしょ?」

『むぅ……考える故、しばし待たれよ』

そして仮の姿の悪魔は考えるように、首を捻転させてそのまま首が胴から離れてしまった。

さてはこの悪魔、バカだな!

「アイル! 魔力の壁の中を切り刻んでバラバラにしてくれる?」

「いいのか!?」

「いい!」

魔力の壁の中にあったトンボの魔物は細切れになり、俺はそれを圧縮して、唯一使えるスキルレベル1の火魔法でじっくり焼いてやった。

神や邪神の部下はどいつもこいつもかよ!