軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

166話

「スライムだけじゃないのか!?」

本拠地に戻って、全員に説明するとアイルが驚きの声を上げた。

「もしかしたら魔素を必要としない魔物もいるかもしれない」

「なんだそれは!?」

「本当ですか!?」

ベルサの報告に全員が興奮した。

「行く行くは空間の精霊をクビにして、北半球と南半球を繋げるんだろ?」

「そうか。そうなるよなぁ……ということは環境を整えておかないといけないよな」

アイルに言われて、大きな視点で、なおかつ長いスパンで、この星について考える必要があることに気づいた。

ちょっと待て! 植物がないってことは南半球の酸素ってどうなってるわけ? 邪神が何もかも破壊したと言っても普通の火山や海底火山くらいあるはずだ。普通に俺ら息してるけど……。

「俺たち息できてるよな? 知らない間に実は死んでて、幽霊でした、みたいなこと起こってないよな?」

「おおっ! 社長がまたわけのわからないことを言っています!」

「見ちゃダメだ!」

セスの目をベルサが隠していた。

「ま、生きてるし、いいか。あとで考えよう」

そうだ! とにかく俺たちは生き延びなくてはいけない。南半球の酸素量とか、どうせ考えたってわからなそうだし、そもそも気体は空間の精霊が作った壁を通り抜けられる可能性だってある。一度、赤道にあるという空間の精霊が作った壁を見に行ったほうがいいかもしれないが、雲が壁をすり抜けられなかったとしたら、大変なことになっていそうだ。

だが、それも今は置いておいて、食糧のほうが問題だ。出てくる料理は日増しに少なく質素になっていく。

なるべく早く畑を作る必要がある。水草は池に植えたばかりなので肥料は乾燥した自分たちの糞だ。池周辺の土に混ぜ、丁寧に畑を作る。

「オエッ!」

作業はキツいが、誰かがやらなくてはいけない。

馬鈴薯に似たバレイモの芽を確認しつつ種芋にし、トウモロコシに似たチョクロの種も撒く。すべてベルサの研究資料を使っているので、感謝するしかない。

「私のおかげだね。もっと褒めてもいいんだよ」

ベルサは小さな胸を張った。

「ベルサ様~、足でもお舐めしましょうか?」

変態で返しておいたら、「うぉわぁああ! ゾワっときた~!」と震えていた。心底気持ち悪いらしい。

それ以来、ベルサは胸を張るようなことはしなくなったが、「それって私のおかげ?」というのが口癖になった。普段は「そうそう」と適当に流しておくが、腹がたった時は「足出せ! コノヤロ!」と言って遊んでいる。

「ひ~ひひひ、堪忍して~! もう言わないから~!」

ベルサが笑いに耐えながら叫んでいる姿に、後輩たちも笑っている。もちろん、俺がベルサの足を舐めているわけではなく、足の裏をくすぐっているのだ。まさか、この年になって大人の足の裏をくすぐるとは思っていなかったが、人がいない南半球に少人数でいると、こんなことでもイベントっぽくなってしまう。

食料も少なくなり、お腹が減ると人間関係でピリピリするものだが、俺たちは、こういうくだらないことをして乗り切っている。

あとは、リタの歌。

就寝前にリタが鼻歌を歌っていたのだが、星詠みの民の血が流れているせいか、とても上手い。今では晩飯を食べ終わった後に、皆リクエストしている。

「花売りだったから、花の歌をたくさんお母さんから教えてもらったの」

レミさんの教育は素晴らしい!

リタの歌を聞くと、満腹じゃなくても眠ることが出来た。

朝起きて、畑での作業が終われば、スライムを駆除。すでに駆除作業には飽きており、試しにスライムの亡骸を口に含んでみた。マズいなんてものじゃなかった。舌が半日ほど痺れ味覚がおかしくなってしまった。

ただ、スライムの亡骸には水分が多く含まれていることに気づき、乾燥した土に混ぜて畑の土に使えないか実験してみた。捨てていた果物の種を回収して、スライムの亡骸入りの土に埋めたのだ。どうなるかわからないけど、育ったら儲けもの。

畑作りとスライム駆除の作業が一週間ほど過ぎた頃、池の近くの畑からバレイモとチョクロの芽が出てきた。

「おおっ!」

「芽が出てくると、どうしてもテンションが上がりますね」

ベルサとリタがハイタッチしている。

池の水草も順調に数が増えている。驚異的な繁殖力で、すでに池を覆い始めている。グレートプレーンズの養魚池のようなものが出来ないか、ベルサが考えていた。

俺とアイルが、スライム駆除をしている時に、灰色に濁った個体に遭遇した。

「ちょっと固いな」

灰色に濁ったスライムは表面の膜が普通のスライムよりも若干固く、乾燥剤が効きにくい。ナイフや剣を使って、膜を破ってから乾燥剤をふりかけた。

「このスライム、駆除するのが面倒だな。なんなんだろう?」

西の方に山が見え頂上付近から煙を上げていたので、たぶん噴火した火山灰を吸収したのだろう。

「なるほど!」

俺が仮説を話すと、アイルが驚いていた。

「こういうスライムがいるってことは場所によって特性が違うかもしれないな」

「うん。毒のあるスライムだと魔石を採る作業が大変だ」

アイルは、この先の作業を考えながら、苦い顔をしてスライムの亡骸を剣でツンツンしていた。

「このスライムの亡骸、すごく固いね。建材に使えないかな?」

突きながら、アイルが言った。確かに、灰色のスライムの亡骸はセメントっぽい。

「うん、使えるかもな……あっ! もしかして……」

「どうした? また、なにか思いついたか?」

「アイルさ、この景色を見て、もし自分がこの場所の領主だとしたら、どこに町を作る?」

俺は手を広げながら、アイルを見た。

「もし? ん~こんな荒れ地に町は作らないだろ?」

「ここが荒れ地じゃなくて、草木が生い茂る場所だと考えてみてよ」

「ん~……」

アイルは真剣に考えていた。

「でも、やっぱり、ここは岩が多いし特産品を作るのが大変そうだから、山の向こう側に作るかな? なんかマリナポートへの道に似てない?」

「ああ! 確かに!」

マリナポートとはベルサが住んでいた港町で、火山の近くにあった。

「でも、なんでそんなこと聞くの?」

「いや、火砕流や火山灰に埋もれた町の跡がないかなぁ、と思って。食料はないと思うけど、壺や窯はあるかもしれないし、レンガだって手に入るかもしれないだろ? だから、探知スキルで地面の下を探そうかと思って」

「なるほど。よーし、スライム駆除しながら探してみよう!」

アイルはスライムの群れに突っ込んでいった。

その日から、スライム駆除とともに『地面の下の町探し』が始まった。

「確かにそれは助かるよ! でも、よくそんなこと思いつくな。フハ」

夜、本拠地に戻ってボウに説明すると、笑っていた。

「前の世界でそういう場所があったんだ」

「ああ、そうか! ナオキは異世界人だったもんなぁ。フハハ」

笑いながら、ボウは灰色のスライムの亡骸を受け取り「これは使えそうだ」と言っていた。

もし、地面の下に町が見つかったら、サブの拠点にしてもいいかもしれない。スライムを駆除する場所が、本拠地から遠くなってきたし。

火山に近づくにつれ灰色のスライムは多くなってきたが、今までと変わらず俺たちはひたすら駆除し続けている。

「ナオキ?」

「どうした?」

アイルが溶けていくスライムの煙を見ながら声をかけてきた。

「レベルってどこまで上げればいいんだろうなぁ……」

「さあ? なんでそんなこと聞く?」

「メルモがさ。セスばかりレベルが上がっていくのが気に入らないみたいなんだ」

現在、セスは畑の方を手伝っているため、火山付近には来ていないが、俺とアイルと同じ、スライム駆除担当ではある。メルモは食料と畑を担当しているため、スライム駆除に参加していない。そのため、レベルが上る機会がないのだ。

セスとメルモは同期なのでお互いライバル心がある。

「じゃ、たまにメルモも連れてくるか……」

「うん。そうだね。私さ、レベル100超えたんだけど、この先どうすればいいんだろうって考えるようになっちゃって……これ以上強くなって何がしたいのかわからなくなっちゃったんだよね」

南半球は人を哲学者にするようだ。

「自分が満足するくらい強くなったなら、良いんじゃないの?」

「ん~~……」

哲学者は満足だけでは納得いかないらしい。

「違うスキルを極めてみたら?」

「それもなぁ。他の社員と同じスキル持っててもしょうがないだろ?」

哲学者ってのは往々にして相手にすると面倒だ。

「アイルに初めて会った時、俺の強さについて知りたいって言ってたけど、今はそれがわかる?」

「そうだなぁ……まぁ、ナオキが単純な腕力とか攻撃力とかで戦ってないってことはわかるよ。騎士道から一番遠いんじゃないかって思うしね」

俺は駆除業者であって騎士ではないからなぁ。

「ナオキはなんで未だにレベル上げてるんだ?」

「別にレベルを上げたくて上げてるわけじゃないよ。駆除が仕事だから、駆除してるだけ。仕事だよ、仕事」

「仕事かぁ~……」

哲学者は仕事でも納得出来ないらしい。アイルは給料が出ても俺と違って使うところがないし、仕事のやりがいを見つけるのが大変なのかもしれない。

「この世界が、前の世界でやってたゲームに似てるって話したことあったっけ?」

「あ~言ってたかも」

「だいたいゲームって、なんでか知らないけど世界を破滅に導く魔物のボスみたいなのを仲間と力を合わせて倒すんだけど、ボスを倒すとレベル上げくらいしかほとんどやることなくなるのね」

「へ~」

「で、レベル上げにも限界があって限界まで来ると、アイテム全部探したりスキルを全て習得するくらいしかやることなくなって、それも終えると、もう本当にやることがなくなるんだよ。その辺の村人と話しても、同じ答えしか返ってこないしね」

「え!? じゃあ、どうするの?」

「ただただ虚しいだけ。ゲームを止めるしかない」

「ゲームを降りるしかないの!? じゃあ、こっちの世界だと死ぬってこと?」

アイルが俺の方を見た。

「いや、この世界の住人と話したら、ちゃんと違う答えが返ってくるし、魔物だってこの灰色のスライムみたいに変化したり、進化したりすることがあるでしょ? 調べられるアイテムも膨大で、ほらこの地面が何で出来てるかわかる?」

「地面? 土じゃないの? 岩?」

「土よりも固いでしょ? しかも、んっ!」

俺は地面を殴って割った。割った地面の欠片をアイルに見せた。

「たぶん、これはあの火山からマグマが流れてきて冷えて固まった岩なんだよね」

「はぁ、なるほど。よくわかるなぁ」

「黒っぽいから玄武岩かな? 他にも灰色っぽいのは安山岩とか、いろいろあるんだよ。よく覚えてないんだけど、流産、安産、元気な子、囲んで先公半殺しって言うのがあるんだよ」

「なんだ、その物騒な歌は!?」

「もう忘れたけど。岩の名前だけでもかなり多いんだ。この世界だったら前の世界よりもっと多いかもしれない。火山があるくらいだからこの星はプレートテクトニクスによって大陸が移動してるんじゃないか、とか予想がつくけど、調べてみないとわからないしね?」

「プレートなに? なんだよ~! もう~! 2人でいる時にわけのわからないこと言うなよ! 混乱するだろ!」

うちの哲学者は怒り始めた。

「つまり、それだけ多くのことを知れるってことさ。好奇心さえあれば、あの火山の向こうがどうなっているのかっていう冒険心さえあれば、割りとどこの世界でも面白いんじゃないの~?」

「あの火山の向こうねぇ」

アイルはそう言うと、タタタッと走り、空中を駆けて上空へと上がっていった。

トンッ。

アイルが上空から、俺のすぐ側の地面に帰ってきた。

「あの火山の向こうには湖か海があったよ」

「なら、湖なのか海なのか確かめに行こう。未だ俺たちが知らないものがあるかもしれないからな」

「うん」

俺たちは灰色のスライムを駆除しつつ、火山の向こうを目指した。

「アイルさ。地図描けば?」

「地図? なんで?」

「上空から周りの地形を見れるんだから、向いてるよ。それに地図があると、またここに来る時便利でしょ?」

「あぁ、そうだね。考えとく!」

アイルは何度か頷いていた。これで、うちの哲学者は納得してくれただろうか。

火山の向こう側の地面の下に町の跡を見つけたのは、その日の夕方だった。