軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

155話

避難所では、女王が南部の開発が終わり次第、サッサさんに王座を譲るという話し合いが行われ、サッサさんが固まっていた。

「姉様、なぜ私が!?」

「だって、サッサ以外いないでしょ? ボリビアーノは国外逃亡しているわけですし、私はもう年なので、好きに生きることにしたわ」

女王はベン爺さんの手首を握りしめながら言った。「手首が痛い。逃げないから離してくれ」とベン爺さんは抗議していたが、女王は「前科がありますからね」と言って離さなかった。

「とはいえ、南部の開発が済むまでは、王座を譲る気はないから、今から準備を始めなさい」

「しかし、王になると、結婚をしなくてはならないですよね」

サッサさんは女王の言葉に、頭を抱えている。

あ、サッサさん結婚してなかったのか。なんだ、こちら側の人間じゃないか。まぁ、一国の王は子を成すのも仕事だろうからな。大変だ。

「大丈夫よ。正室じゃなくても王座を受け継がせることは可能よ。隠し子が何人いるかは国の方で調べはついているんだから、観念しなさい」

「女性に順位を決めたくはないのですが……」

全然、こちら側の人間じゃなかったー!

女王とベン爺さんはくっついて何処かへ行ってしまった。女王の御者は、「軍の新兵たちが帰ってきたので、これから労いに行きます……」と説明していたが、2人に気を使ってか、お茶をゆっくり飲んで休んでいた。

「チオーネ、私と結婚しないか?」

「なんでですか? いやですよ」

サッサさんは部下に告白して即断られていた。

「ん~、家柄が関係のない奴が他にいないんだよなぁ。あぁ、あちらを立てればこちらが立たずか」

サッサさんは後頭部を掻きながら、神様との連絡を終え、帰ってきた俺に気づいて笑いかけた。

「コムロカンパニーで私と結婚してもいいという女性はいませんか?」

「本人たちに聞いてみて下さい。俺が決めることではありませんから」

その場にはうちの会社の女性陣はいなかったが、サッサさんのようなナイスミドルの王様に嫁ぐと言うなら、止めはしない。ただ、アイルもベルサもダメ人間だし、メルモはアレだしなぁ。

「ん~困った……」

サッサさんはテーブルに肘をついて、眉間にしわを寄せていた。アプがそんなサッサさんにお茶を出していた。

「社長さん。サッサ部隊長は放っておいて、社員さん達が呼んでいましたよ。案内します」

チオーネが、こんな上司には構っていられないと、俺を避難所の外に連れて行った。

「コムロカンパニーさんでは、休暇は休まないものなんですか?」

養魚池と丘を越えながら、チオーネが聞いてきた。

「いや、休みだよ。まぁ、就業中も基本自由だけどね。あいつら休んでなかった?」

「コムロカンパニーの女性陣が休暇中に実験を繰り返していたようで」

「そうか。そういや、レミさんとリタは? 広場にいなかったみたいだけど」

「自宅にお帰りになられました。いろいろと説明が必要なようで」

そりゃ、急に「実はあなたは水の勇者だったのよ」と言われても混乱もするだろうしな。

避難所の南東に位置する少し凹んだ水たまりに、うちの社員たちが集まっているのが見える。ボウも一緒だ。

「お、報告は終わった?」

アイルが近づく俺に向かって手を上げた。

「うん、祭りには依頼人も来るから、皆よろしくね」

社員たちには神様が来ることを伝えておく。

「よろしくって言われても、なぁ」

「ま、そういうのはナオキに任せて、私たちは私たちでやるだけでしょ」

「僕たちは住民の皆さんの避難を手伝えば良いんですよね?」

アイル、ベルサ、セスの3人は神様への対応をやんわり拒否した。何かあっても神様の責任だから、いいのだが。

「そろそろ、やっていいですか?」

メルモが水たまりに向かって手をかざしている。

「そうだ、こんなところで何する気なんだ?」

「ま、見てなって」

ベルサがメルモに合図をすると、少し茶色く濁った水に小さな波紋が広がり、波へと変わる。その波が弾け、水しぶきが上がった。

一瞬目を閉じて目を開くと、水たまりの上にシャドウィックが10体立っていた。

「ん?」

襲ってこないところを見ると、メルモに使役されているのかな。でも、シャドウィックってカビの集まりじゃなかったか? 菌類だから微魔物とも違うし使役なんて出来るのかな?

「どう? 驚いた?」

ベルサがにやりと笑いながら聞いた。

「驚いたね。どうやってやったんだ?」

「マルケスさんが偽エルフに村を作らせていたでしょ? だから、私たちにも出来るだろうと思ってね。試しに皿に集めたカビに、メルモの魔物を使役するスキルを使ってみたんだけど、全然意味がなかった。そもそもカビだから、魔物になってなかったんだね」

「でも、こいつらは使役されてるようにみえるけど?」

俺は水たまりの上のシャドウィックを指差した。

「まぁ、待って、今説明するから。カビが魔物ではないことに気づいたんだけど、カビの集合体であるシャドウィックは魔物だろ? 違いは何か?」

「カビの量と魔石の有無?」

「その通り。まず、シャドウィックを増やすには魔物の血液が必要だったから、アイルにジャングルで魔物をハントしてきてもらった」

「ジャングルの魔物は変なのが多くてね。新しい戦い方を実践するにはちょうど良かったよ」

アイルはそう言って、光魔法で作った槍を出したり消したりしていた。そのうち次元でも切り始めるんじゃないだろうか、この人。

「で、獲ってきた魔物の血をこの水たまりに入れて、カビを培養したわけ。あとは、いろんな大きさの魔石を入れて、シャドウィックになるかどうかを観察していたの」

「で、出来たのがこいつら?」

「そう。100個以上は魔石入れたからほとんど失敗だったけどね。それから、シャドウィックになった途端、メルモの使役するスキルも効くようになった。個体として認識されるようになったからなんだと思うけど、魔物学者としては納得出来ないよね。ただ、使役できちゃってるんだから、しょうがないんだけど不思議」

神様も適当だからなぁ。人が魔物と認識してから、魔物にしているのかもしれないな。

「ふ~ん。面白いね。休暇中ずっとこれやってたの?」

「そう」

これだけシャドウィックがいれば、いろいろできそうだ。何が出来るのか、ベルサに聞いてみると、重い物は持てないし、実は戦闘もあまり得意ではないらしい。話も出来ないという。ただ、いろんな魔物の影に変形できるし、水たまりなどに隠れることは得意で、繁殖も魔物の血があれば問題ないとのこと。あとは、人の残留思念や土地の記憶などの影響を受けるらしく、荒廃した場所や戦場跡地などで、人の営みを再現してしまうことがあるのだとか。考古学的にはとても便利な奴らだ。人が多い町などでは、他のゴースト系の魔物もいるので、今のところ分類できていないのが魔物学の現状とのこと。

「人工的に魔物って作れるんですね?」

「やってみたら出来たということだ。この会社ではそういうことがよくある」

チオーネにアイルが説明していた。

「まったく、こっちは大変でしたよ。昼は社長の手伝い、夜はここでシャドウィックの使役……、社長、私、休暇で休めませんでした~」

休暇中、メルモが一番働いていたようだ。

「じゃ、3日くらい休んでもいいよ。北部行って甘いもの食べたり、コロシアムで血を見たり好きにしてきなさい」

「いいんですか!? よっしゃー!!」

メルモには休暇を与えた。

「セスは船造り見てたんだよな?」

「ええ、休暇は楽しみましたよ」

「じゃ、飯とかよろしくね。これから、祭りまでひと月くらいか。収獲もあるし、モラレスの住人たちの避難に、洞窟の民たちの引っ越しもある。養魚池も引き継がないといけない。いろいろやることあるけど、まぁ、祭りまでにいろいろ決めよう。祭りでは俺たちが水の精霊様の護衛に当たることになってるから計画も立てないといけないな。皆、もろもろよろしくね」

「了解」

「りょ~かい」

「OKです」

「OKっす」

「ナオキ、オレ収穫祭出ていいかな?」

今まで黙っていたボウが聞いてきた。

「ああ、いいんじゃないか? そもそも、収穫祭に出るためにこちらの仕事を手伝ってくれていたわけだし、俺たちも出来る限り手伝うよ」

「フハ、よろしく頼む」

翌々日、女王は軍の新兵たちとともに、王都ラパ・スクレに向けて帰っていった。ベン爺さんも一緒に連行された。サッサさんは部下たちとともにこちらに残った。

「王弟は仮の姿です。鼻垂れの輜重部部隊長が本当の私です。そもそも国民にもあまり知られてませんしね」

と本人は言っていたが、大丈夫だろうか。逆なんじゃないか。

女王が去ってから、南部貴族や薬屋たちが、避難所の近くにやってくるようになった。

貴族は女王が来ているという噂を聞きつけたらしく、挨拶をしに来たらしいが、「南部開発機構」が発足されたことを聞くと、顔を青くして帰っていったそうだ。自分の仕事を北部の貴族と手を組んでサボっていたわけだから、当たり前だ。そのうち、王都から役人がやってくるだろう。ちなみに、やってきた貴族の対応をしたのはサッサさんだったが、王弟だとは気づかれなかった。

「権威は衣の上から羽織るものです。今の私の格好はただの土木作業員ですから」

というサッサさんの言葉が印象的だった。サッサさんは養魚池でベルサの生徒になっている。ベルサにも結婚相手としてどうか、と聞いてみたらしいが「ケツにサボテンの種突っ込んで発芽させる実験をしようと思ってるんだけど、どうかな?」と逆に聞かれたらしい。

薬屋たちにはラウタロたちとメルモが対応していた。薬屋たちは、南部開発機構の回復薬が出回り、価格が暴落していることへの抗議をしにきたのだが、3日休んで帰ってきたメルモは顔をテッカテカにして、すっかりご機嫌な様子で「そちらの回復薬はどのくらいの品質なんでしょうか? 試しに殴って検証していいですか?」と、シャドウィックに命令して囲んでいた。ラウタロたちも引いていたが、完全にメルモのペースで、結局抗議しに来た薬屋たちはこちらの回復薬を買って帰ることになっていた。

吟遊詩人ギルドからのスパイも来ているみたいだったが、ちょうどチオーネとアイルが昼飯後の運動をしているところに出くわし、何も見ずに帰っていったという。

俺はボウの手伝い。リタは自分が水の勇者だと知って、少し挙動不審だったが、俺もボウも特に態度を変えなかったので、気にしないことにしたらしい。

「しっかし、育ったなぁ!」

ボウの畑を見ながら言った。チョクロと呼ばれるトウモロコシに似た野菜は背丈より高く伸びている。カラバッサと呼ばれるカボチャに似た野菜も小ぶりだがたくさん実をつけている。収穫祭ではカラバッサの大きさコンテストもあるらしく、ベルサが例の大きくなる薬を使うかどうか、聞いていた。

「いくつか試してみよかな。フハ」

ボウは悪い笑みを浮かべている。

収穫祭には甘味のコンテストもあるらしく、レミさんとリタはカラバッサパイを作るという。うちの会社からはカム実を使った何か出す予定だ。