軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

141話

翌日。

「それは、本当か?」

ベン爺さんが眉を寄せて聞いた。

モラレスの東にある沼は『カプーの繁殖場』だと伝えたところ、疑っているようなのだ。

「そんな変なことですか? 歯は鋭いですけど、まぁ肉厚だし美味しそうですけどね」

俺はカプーが焼かれているのを見ながら言った。

現在、避難所の広場でセスがカプーを丸焼きにしているところだ。匂いは悪くない。

「カプーは雑食だからな。他の魔物を食っちまって、繁殖したんじゃないのか?」

「その可能性はありますね」

「金◯食ってる魚なんか、古代人だってあんまり食べなかったと思うぞ」

睾丸を噛みちぎられるって話は昔から有名らしい。

「出来ましたよー」

セスがカプーの丸焼きを大きな葉に乗せて俺の前に置く。

周囲の洞窟の民たちは「マジか、あいつ」と言う目で見てくる。うちの社員たちは「当然、毒味は社長の役割」と腕を組んでいる。

「まぁ、渡り鳥が食べるくらいだから、人間が食べても毒はないだろう!」

自分を励まして、一口食べた。

ん~泥臭い! ただ身はめちゃくちゃジューシーで、肉汁が口の中に溢れる。

ただ、どうしても泥臭い!

「匂いがキツい!」

どうにか飲み込んで言った。

「身を丁寧に洗って、ハーブ系の植物と煮たりすれば、食えるようになるかなってところだ」

「じゃ、社長の昼飯はそれを用意しておきます」

余計なことを言ったばかりに、セスに非情な昼食を宣告される。

「だとすると、この避難所で違う魚の魔物を養殖出来ないかを実験していたけど、何かがあって途中で止めたってところかしらね」

見ていたレミさんが言った。

「何かってなんですか?」

「魔王軍の侵略か、勇者・マルケスの登場か、理由は複数あるかもしれんな」

ベン爺さんが答えた。

「なら、私たちがその実験を引き継げばいいね」

ベルサが言った。

「しかし、この大平原の国にカプーよりも大きい魚の魔物はおらんぞ?」

「大平原にいなければ、ジャングルで獲ってくるか」

「アイテム袋には生きている魔物は入らないから、壺かなんか用意しないとなぁ」

ベン爺さんの言葉を受けて、俺とアイルがどうやってジャングルから生きた魚の魔物を獲ってくるか、話していると、洞窟の民たちが唖然としていた。

「何か?」

視線に気づいた俺が聞くと、

「お主ら、ジャングルの方から来たと言うのは本当だったのか?」

「本当ですよ」

「そ、そうか。今度、連れてってくれないか? 祖先の故郷なんだ」

「あ、言ってましたね。いいですよ。あ! その代わり、今日、明日は休日返上で回復薬作りを覚えてくださいね」

確か、今日は休日だったはずだが、昨晩、飲んだ分だけでも働いてもらおう。

決してブラック企業ではない……はずだ。

「回復薬だと!? むろん、やる! やるなぁ、皆!」

「もちろんだ!」

「「「おおっ!」」」

「チッソについても忘れないでよ」

盛り上がっている洞窟の民たちを他所に、ベルサが言った。

「あ、そうだ。それも説明しないとな。よし、同時にやってしまおう。では、皆さん、昨日飲んだ空き瓶を持って水路の方に移動しましょう」

空き瓶をアイテム袋から取り出して、洞窟の民たちに渡しながら言った。

「え、ちょっと!」

慌ててるベルサを他所に俺たちは丘を下りて、出来たばかりの水路に向かった。

うちの社員や、リタ、レミ、ボウも面白そうだ、とついてきた。

「まぁ、薬草と水を混ぜて、温めるだけです。タイミングでかなり質が変わってくるので、よく見ておいてくださいね」

全員で丁寧に空き瓶を洗った後、加熱の魔法陣を地面に描いて、鍋に薬草と水を入れる。

かき混ぜながら数分。薬草を取り出して、いつものように瓶に入れ、完成。

完成と同時に歓声が起こる。

「じゃ、皆さん、やってみてください」

水路の近くに並んだ洞窟の民たちの前の地面に加熱の魔法陣を描いていく。薬草はアイルのアイテム袋から出してもらった。回復薬はうちの主力商品なので、あれば採取している。駆除会社なのに……。鍋は自分たちのものを使ってもらった。

水が足りなかったり、火力が強すぎる人を注意しながら、ベルサに説明する。

「要はさ。うんこや死肉を分解する微せ…微魔物がいるだろ? そいつらは分解して窒素を出すんだよ。そのなかには、アンモニアとかいうトイレで嗅ぐような臭いの元も入ってくるんだけど、その窒素を取り入れて栄養の素にする微魔物もいるんだよ。その栄養を植物が摂り入れるんだ」

「それって水の中だけか?」

ベルサは羊皮紙に俺の言葉を書きながら聞いた。

「いや、土の中にもいるはずだよ。そうじゃないと植物が育たないし。ま、これはあくまで俺が前にいた世界での話で、こっちには魔素だってあるし、違うかもしれないけどね。あ……」

ベルサに説明している間に、回復薬づくりに成功している者たちと、失敗している者たちが出てきた。意外にも、筋肉ムキムキの洞窟の民たちのほうが成功率が良い。

「力の調節に似ている」

と、ラウタロは言っていた。

「とりあえず、薬草があるうちは何度もやってみてください。スキルが発生した人で、スキルポイントが余っている人は、割り振ってもいいかと思います。この後、皆さんには自分の作った回復薬を売り歩いてもらいます」

皆、俺の言葉に黙って頷いていた。

回復薬と聞いていた時から予測していたようだ。

「この国の回復薬の利権は、貴族やコロシアムの経営者が牛耳ってるからな。教会も吟遊詩人に乗っ取られている。お陰で、軍にも回復薬が回ってこなかった……」

ラウタロが、過去を振り返るように言った。

「ラウタロさんって軍にいたんですか?」

「昔の話だ」

二度目の挑戦では、全員の成功率があがっていた。

洞窟の民たちの目は真剣そのもの。

最初に会った時は、ケガをしている者や、毒に侵されたり呪いをかけられた者が多かったから、回復薬の重要性がわかっているのだろう。

「避難所で、他の人と交代している期間に売り歩いてもらうと、現金収入も入ってきますので、よろしくお願いします」

ある程度、作ったところでスキルが派生した者たちが出てきて、すぐにポイントを割り振っていた。あとは、その者たちが教えれば良いだろう。

「売り歩いたら、その何割をコムロカンパニーに納めればいいんだ?」

当然の事のようにベン爺さんが聞いてきた。

「それは考えてなかったなぁ。別に、国から資金は貰うつもりですし、もう現金が必要というわけでもないので……」

「1割でいいよ」

俺が断ろうとしたら、ベルサが答えた。

それでも破格だったようで、「おおっ!」と洞窟の民たちは興奮している。

「別に銀貨1枚必ず持ってこいって言う訳じゃないから、それぞれ好きな価格で売っていいからね」

ベルサが付け加える。

「そんなことしたら、回復薬の価格が暴落しちゃうんじゃないの?」

「だからだよ。市井の人にも行き渡るようにしないと」

俺の疑問に、ベルサが答える。

「なるほど、利権そのものを潰す気だな!」

ラウタロたちも納得してしまったようだ。

しかし、利権を潰すとなると、貴族とかコロシアムの経営者から狙われるんじゃないのか?

「たぶん、大丈夫よ。ここにやってくる査察官は軍の人ですもの、いざとなったら軍に頼めばいいわ」

俺たちの話を聞いていたレミさんが言った。

「誰が来てもナオキたちがいれば、倒すんじゃないか? フハ」

黙っていたボウがテンガロンハットを少しだけ上げて言った。

「そういうことだ!」

アイルが胸を張った。

「おいおい、うちの会社の信用を落とさないでくれよ。せっかく、王都から人を呼んできたんだから」

俺の話はあまり耳に届いていないようだ。

「あ、そうだ。畑の方も見てくれよ。ようやく野菜作りをしてるんだ。フハ」

「そうなんです。家造りでは迷惑かけてたんですけど、やっと私の出番なんです!」

ボウとリタが言いながら、俺を水路の脇にある畑の方に手を引っ張って連れて行く。

「ちょっと待って。結局、窒素ってなんなんだ?」

「ジャングルに持っていく壺ってどのくらいのサイズにする?」

「社長、そろそろ南の洞窟から人を呼んできますね。あ、そうだ、船を見てくださいよ! 変わってるんですよ。底が浅いんです」

「社長、水中に住む虫系の魔物ちゃんたちが、なかなかテイム出来ないんですよ~」

「私、避難所の発掘現場に行ってるわね。骨が見つかったって言ってたけど、本当かしら!?」

一斉に俺に向かって言ってくる。

やることが溜まっている。こんなことなら、帰ってこなければよかったか。