軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

133話

避難所の丘を上がると、アイルとボウが巨大なドーナツ型の住居を作っていた。

木の板と草葺き屋根で、中央の広場を囲むような形になっている。今のところ屋根が半分ほどしか出来ておらず、仕切りなどもまだ出来ていない。それでも、一日でやったことを考えるとすごいスピードで建てていっている。

洞窟の民たちは、住居を見ながら、「ここが俺たちが住む場所か」「雨がしのげればいい」などと小声で話していた。

「おう!手伝ってくれる人たちを連れてきたよ」

屋根の上で作業中のアイルを呼んだ。

「来たか」

アイルが飛び降り、こちらに向かってくる。

「ボウは?」

「屋根の草を採取しに行ってる。ベルサの薬で一気に育てて、一気に枯らしてるんだ。丈夫な屋根が出来なくて、悩んでたよ」

「家はこういう形にしたんだね」

俺が周囲を見回しながら言った。前の世界のテレビで見たアマゾンの原住民の住居がこんな感じだったかな。今のところ、大平原は温暖な気候なので寒さの問題はない。

「この形なら、30人以上は収容できるはずだって」

「なるほどね」

洞窟の民たちは集団生活をしていたから、こういうプライベート空間がない場所でも大丈夫だろう。

「一応、皆で集まれる小屋も作る予定だ」

「ちょっと出来るまでは、テントで我慢してもらうことになりそうだな」

振り返るとすでに洞窟の民たちは、作りかけの住居の中で自分たちの場所を見つけて、テントを張り始めていた。

「まだ、出来てはいませんが、一先ずここが皆さんの住居となる場所です!あとで、うちの社員や仕事に関わる人たちを紹介しますから、飯食って休んでいてください!」

洞窟の民たちには休んでもらうことにした。

昼時なので、全員集めて昼食にすることに。顔合わせもしておこう。

広場にバーベキュー場を即席で作り、セスとメルモに食材を渡して、昼飯を作ってもらう。

ベルサとリタは通信袋で呼んで、こちらに向かっているところ。ボウとレミさんが来れば、全員揃う。

「レミさんは来ないかもしれない」

アイルが言った。

「そうなの?」

「養魚池の申請がうまくいってないらしい。領主も役所もフットワークが遅いらしくてね。そもそも申請を出すのに時間がかかるんだって」

フロウラでリドルさんに出会って、一気にローカストホッパーを駆除するということを経験してしまったせいか、申請はすぐに通るものだと思ってしまっていたが、時間がかかるのが普通だろう。

ボウが背負子で、山のように枯れ草を積み、辞書を読みながら丘を上がってきた。仕事をしつつ、勉強をしている姿は、さながら、小学校でよく見かけた石像の人のようだ。

「やあ!ナオキ、人を連れてきたんだね」

ボウは相変わらず、下手な笑顔を作って手を振った。

「ああ。悪いな。手伝わせてしまって」

「いいよ。家造りのほうが得意だし」

洞窟の民たちはボウを見て、驚いている。目を見開いたり、眉を眉間に寄せたりしている者が多い。

「皆さんの家を作ってくれているボウです。魔族だから、怖いかもしれないけど、普通に話せるし、悪いやつじゃないので、仲良くしてあげてください」

俺が周囲の洞窟の民たちに説明する。洞窟の民たちはテントを建てる手を止め、「魔族?」「魔物じゃないのか?」「話せるようだぞ」などと反応している。

ラウタロがボウに近づき、腕を組んだ。

「お前が家を作ってくれてるのか?」

「そうです。屋根がまだできてなくて、すいません」

ボウは渾身の笑顔を作っているが、やはり口から牙が出てしまっている。

「魔族というのは本当か?」

「本当です。城から逃げ出してきた魔族のはみ出し者です」

ボウはそう言うと、帽子を脱いで額の角を見せた。

「んんっ! そうか! 俺たちも、この国のはみ出し者だ。よろしく頼む!爺さんもいいよな!?」

ラウタロが振り返って、ベンさんに聞いた。

「ああ、はみ出し者同士仲良くしよう!」

「家作りも手伝うぞ! 自分たちの家なんだからな!」

ラウタロはそう言って、ボウに笑いかけた。

「……フフフ、ナオキ、オレ、はみ出して良かった」

ボウは笑顔のまま、目を細めた。

「肉が焼けましたよー!」

広場で肉を焼いていたセスが声をあげる。

「さぁ、飯にしよう!」

俺はボウの背負子を下ろして、広場に向かわせる。

「皆さんもどうぞー!」

洞窟の民たちにも声をかける。

洞窟の民たちは「いいのか!?」「本当に飯付きなんだな!」「こんな待遇でバチ当たらないか!」などと言いながら、串焼きの肉をセスとメルモからもらっていた。

リタとベルサもやってきて、洞窟の民たちに紹介する。

「あれ!?考古学者の先生の娘さんじゃないか!」

リタもレミさんもすでに知られているらしい。

「あ!本当だ!こりゃ、ベン爺さんが張り切るぞ!」

そう言った元犯罪奴隷の洞窟の民は、ベンさんに「余計なことを言うな!」とゲンコツを食らっていた。

「俺たちははみ出し者だろ? だから自分の家族とはなかなか会えないんだ。ベン爺さんは若い娘を見るとどうしても自分の孫娘に重ねちまうみたいなんだよ」

ラウタロが教えてくれた。

洞窟の民たちはいろんな事情を抱えて、あの洞窟に住んでいるんだなぁ、と改めて思った。この国で最後に辿り着く洞窟では、それぞれがそれぞれを気にかけて生きているようだ。

ベンさんはリタに串焼きの肉をあげ、リタがボウにその串焼きの肉をあげ、ベンさんが「おい!魔族!お前にリタちゃんはやらんぞ!」などと叫び、周囲から笑われていた。そんなこともあってか昼食は宴会のような雰囲気になった。

食後、少し休んでから、全員で窪みの池に行く。

「皆さんの仕事は、この池の底に溜まったヘドロをかき出すことです」

「色が違う地面が出てきたら、それ以上は掘らないように」

俺とベルサが説明した。

「スコップとかはあるのか?」

洞窟の民から質問が上がった。

「必要なものに関しては、随時、俺が作っていきますので、欲しいものがあれば言ってください」

「なら、スコップとヘドロを入れる壺か何か。あとはどこにヘドロを捨てるんだ?」

ヘドロの捨て場は池の側はまずい。雨で流れて再び池に入ってしまうと作業の意味が無くなる。

壺は空間魔法の魔法陣を焼き付けて、いくらでも入る壺を作ってしまえば捨て場に困ることもない。口が広い壺なんか持ってたかなぁと思ってアイテム袋を探していたら、アイルが持っていた。以前、メルモが漬物のために買ったが、うちの会社は一所にいないので、未だ漬けられずのままになっていたものだと言っていた。壺一つじゃ心もとないので、あとで買ってくることに。

スコップに関しては、木の板と魔物の骨を組み合わせて作る。木の板に穴を4つ開けて、蔓で骨と縛った。雪かき用のスコップのような物が出来上がった。

ヘドロの臭いもキツかったので、メルモにマスクを縫ってもらうことにした。メルモは瞬く間に人数分のマスクを作っていた。

とりあえず、道具の準備ができたところで作業に入ってもらった。俺たちも一緒に作業をする。やってみなければわからないことも多いからだ。

壺を池の真ん中において、端からヘドロを集めてどんどん壺に入れていってもらう。

元犯罪奴隷ではない洞窟の民たちは、体力がなさそうだったので大丈夫かな、と思っていたが、水魔法を上手に使い、ヘドロを水流でかき集めて壺に入れていた。ベンさんも水魔法でヘドロをかき集めて、そのまま壺に入れていた。魔力を使うので、疲れ方は元犯罪奴隷たちと同じようだ。

しばらく作業しただけでも、全員ヘドロまみれだ。あとで俺がクリーナップをかけるとはいえ、軍手と長靴は必須か。これもあとで買おう。

汚れた衣服を洗うのに住居の方に洗濯機も用意しなくては。船で使っていた樽に魔法陣を描いた洗濯機を使ってもらおう。

「おーい!この水路もやっちまうんだろ?」

隣の池に続く水路がヘドロの下から見つかったので、そちらもお願いする。

水路は細く、ヘドロの下から頑丈そうな木の板も幾つか見つかった。

「水路を開けたり、閉じたりすることによって、養魚池の環境を保っていたって考えるのが妥当だよね」

ベルサがヘドロの中から木の板を持ち上げて言った。

「栄養が足りなくなったり、増えすぎたりするってことかな」

俺はヘドロを見ながら、富栄養化について考えていた。

「水温が変わってくるのかもよ」

「水温?」

「水面に水草があれば、日光が入らない分、水温は下がるでしょ?」

なるほど、水温が高いと魚の魔物も活発に動いて、微魔物も増えるけど、増えすぎて富栄養化してしまう危険性もある。そのために、水草が生えている池の方から、冷たい水を流すということか。

隣の池に行って、水草を岸辺に放り投げ、ヘドロを取り除いていくと、ヘドロの量は少なく、魚の魔物の骨も少なかった。

「昔の人はほんとうに頭が良かったんだな」

一通り、2つの池のヘドロを取り除くと、夕方ごろになっていた。

とりあえず、今日の作業を終了する。

「魚の魔物の魔石は本当に貰って良いのか?」

「どうぞ」

全員順番にクリーナップをかけていると、洞窟の民たちからいろんな質問をされた。

「作業時間外ならモラレスに行ってもいいのか?」「さ、3食出るって本当か?」「社員たちが美人なのはお前の趣味か?」「酒ってあり?」などだ。

酒についてはあまり飲み過ぎて、作業に支障をきたさなければ飲んでもよく、ラウタロとベンさんに言って、人に迷惑をかけないのであれば、モラレスに行って良いということになった。

社員たちを口説くのは勝手にしてくれ、と言っておいた。

「口説くなら私を倒せるのが最低条件だ」

「回復薬は銀貨5枚にまけて売ってあげるよ」

アイルとベルサは笑いながら言っていた。

何人かの挑戦者がいたようだが、瞬殺され、高い代償を払って回復薬で回復していた。

「人間じゃねぇ」

「化物と戦うってこういうことなんだろうな」

肩を落とした洞窟の民たちは丘を上っていった。

晩飯を皆で食べ、ラウタロとベンさんに音爆弾を渡し、俺たちは宿に帰ることに。リタとボウも自分たちの家に帰るという。

「レミさんによろしくね」

最後までレミさんは来なかった。やはり役所の申請が手間取っているようだ。出来ることがあれば、俺たちも手伝うと、言っておいた。

「はい、ありがとうございます」

ボウとリタと別れ、俺たちはモラレスの宿に帰った。