軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

121話

町を出て、東へと向かう。

程なく、アイルが言っていた川があった。川幅は20メートルほどで、川底が見える。

「今はそんなに水深が深くないので、裸足で渡れるんですよ」

リタはそう言いながら靴を脱いだ。

俺とベルサもリタと同じように靴を脱ぐ。

川の水はひんやりしていて気持ちよかった。

対岸につくと、俺はアイテム袋から布を取り出し足を拭いた。ベルサにも布を渡す。リタは自分の布を持っていた。

平原の湿地帯と言っても、現場に来ると高低差がある。高い場所は乾いており草花が咲き、低いところでは沼になっていた。川の近くだから、木々も多い。

沼の方では渡り鳥の魔物が鳴いていて、民族衣装を着た男たちが網で罠を張っていた。男たちは幾つかのグループに分かれており、競い合っているようだ。

リタの言う珍しい花が咲いている場所はさらに東だという。

沼を通り過ぎ、ぬかるんだ平地を進む。

「あの沼を過ぎると、雨期になるまで、ほとんど人はこっちまで来ませんね」

リタが歩きながら説明してくれる。

「雨期があるのか?」

「ええ、雨期になるとこの辺り一帯は……っ!」

リタが話の途中で何かを見つけたように立ち止まった。

知り合いがうつ伏せで遠くの様子を窺っていた。ビキニアーマー姿で尻が強調され、股を広げている。俺たち3人は固まり、プリプリしたものを見てしまっていた。出来れば見なかったことにしたい。

目の前の知り合いはおもむろに通信袋を取り出した。

『こちらアイル! 変な奴を見つけた!』

アイルから通信袋で連絡が入った。

「変なのはお前だ!」

通信袋と後方からの俺の声にアイルが振り返った。

「いつからいたんだ?」

アイルは前半分を泥だらけにして立ち上がった。

「いま来たところだ。何をやってるんだ、何を!」

「怪しい奴の調査に決まっているだろう! 見えるか、あそこに怪しい人影がいたので、隠れて観察していたんだが……どちらさんですか?」

アイルが遠くを指差しながら話している途中でリタに気づいた。

「お花屋さんのリタだ」

「リタです」

「アイルだ。ナオキの会社の副社長をやっている。どうしてここに?」

「アイルのお尻を見に来たんだ」

ベルサがふざける。

「なんだ、そうか。揉むか?」

「揉むかーい!」

ツッコみながら、俺はアイルにクリーナップをかける。リタは恥ずかしそうにしていた。

「リタに珍しい花が咲いている場所を教えてもらうところだよ」

ベルサが本当のことを説明した。

「なんだ、そうか」

「それで、怪しい奴って?」

「あそこに木の小屋があるのが見えるか?その横で、地面を掘っている奴がいるだろ?フードを被っているがアレは……」

アイルが指差す方向には確かに小屋があり、その横の地面には動く者がいた。遠くて良くは見えないが、探知スキルで見ると、赤く光っているので魔物だ。魔物が服を着て、あの小屋に住んでるのか? 地面で何やってるんだ? 確かにアイルが言うように怪しい。

「あ、あの人は! まったく何度言えばわかるんだろう!」

急にリタが怒り始め、ずんずん小屋の方に歩いて行った。

一足遅れて、俺たちも小屋の方に向かう。

リタの足音に気がついたのか、魔物がリタの方に顔を向けた。

潰れた鼻。しゃくれた口から若干出ている牙。殴られたボクサーのような厚ぼったい目。フードで隠れているものの、額から角が2本生えている。くすんだ緑色の皮膚。小さな身体と不釣り合いな大きな手。猫背。そのどれもが、ゴブリン系の魔物であることを示していた。

「何度言えばわかるんですか!? ここで畑を耕しても野菜は育ちません!」

リタが大声でゴブリンに言う。

「ふはっ……」

ゴブリンは笑顔で後頭部を掻いているが、笑うと牙が目立ってしまう。言葉が通じてるのだろうか。

「川を渡って、北へ向かってください! 畑には畑に適した土地があるんですから!」

リタは北を指差してゴブリンに言う。

「それからちゃんと道具を使ってください! いくら手が丈夫だからって、素手で地面を耕したら、手を壊しますよ!」

リタは真剣にゴブリンを叱っているようだ。ゴブリンの方はずっと後頭部を掻いて笑っている。

「まぁまぁ、落ち着いて」

俺はリタを落ち着かせようと声をかける。

「いっぺんに言ってもわからないだろう」

アイルが近くに寄って言うと、急にゴブリンが怯え始めた。ビキニアーマーの姿に怯えているのかもしれない。

「アイル、ちょっと離れて。リタもゆっくり話したらどうだ?」

「でも! このモール族の人、何度言っても聞かなくて」

モール族ってリタはこのゴブリンをモグラの獣人だと思ってたのか。

「そんな威圧的に話しても伝わらないだろさ」

「私はただ、心配で……」

リタはゴブリンを心配して言ってるのか。

「恋かな?」

「バ、バカなこと言わないでください! ちょっと怪我した時に薬草くれたくらいで好きになるわけないじゃないですか!」

一気に焦ったリタが聞いてないことまで喋り始めた。そんなリアクションしたら、言ってるようなもんじゃないか。

「リタ。俺が君の親だったら、落ち込んじゃうぞ」

しかも、ゴブリンが恋の相手って、奔放だなぁ。

「な、なんでですか!?」

「まぁ、いい。人の恋路を邪魔する気も興味もないから、好きにするといい。でも、あんまりこの人の邪魔をしないようにしよう。忙しいようだし」

「でも、このまま、ここに住んでたら、この人、水に沈んじゃうんです!」

リタが必死の形相で言った。

「え? なんで?」

「雨期が来たら、あの川から水が溢れてこの辺り一帯は冠水するんです。この人は最近引っ越してきたから、それ知らなくて」

「冠水って、どのくらいの範囲で冠水するんだ?」

「平原の南側はほとんどですよ」

平原の南側って、とんでもない範囲じゃないか。

「じゃ、町は?」

ベルサが聞いた。

「町も雨期は水の中です。だから、もっと東に行ったところにある丘の方まで皆、避難するんです。それなのに、こんなところに立派な小屋作っちゃって」

確かに小屋は立派だ。魔物のくせに器用だな。

「それって、ずっとそうなの?いや、その何年前から急に始まったとかある?」

もしかしたら、冠水は水の精霊の仕業なのかもしれないので聞いておく。

「えっと、確か私が物心ついた頃、20年くらい前からですね。あ!でも、300年以上前にもあったって母が」

「リタの母さん何歳だよ。エルフか?」

「いや、母は考古学者で、ダンジョンの跡を発掘調査してるんです」

「そうなのか」

「ええ、初代勇者・マルケスは生きてるっていつも言ってるんです。ダンジョンを発掘して見つけるのが夢で……ってこんな話はいいですよね」

リタが下を向いた。

「いや、重要な話だ」

やはり、水の精霊の仕業のような気がする。20年前といえば、先代の勇者が国中の男を勇者にした時期じゃないか。非常に怪しい。

「もしかして、ナオキさんたちもマルケスを?」

いや、マルケスさんにはもう会ってるんだけど。

「ああ、その通り!」

とりあえず、ウソついておいた。ベルサは「何故だ!?」と言う表情をしているが、「説明が面倒くさいからだ」という意思を込めて頷いておいた。思いよ伝われ。

ゴブリンは「カンスイ?」と首をかしげている。

「だから、後3ヶ月もすると、ここは水の中なんです!」

リタはわからないゴブリンに再び威圧するように言った。雨期まで3ヶ月か。

「待て待て。ん~、この人には俺が言って聞かせるから、リタはベルサとアイルを連れて、珍しい花のある場所に行っててくれよ」

「でも!」

リタが反論しようとするも言葉が見つからないようだ。

このままだと、リタの好感度は下がりそうだし、このゴブリンがどうして人里の近くまで来たのかも知っておきたい。なにより、見ちゃいられない。

「2人もそれでいいか。男同士のほうが話しやすいこともあるからさ」

「ああ、わかった。リタ、案内してくれ」

ベルサがそう言って、リタの肩を軽く叩いた。アイルはなぜか、腕を組んで頷いている。何か俺に伝えようとしているのかもしれないが、まったくわからない。

「じゃ、あとで」

「ああ、あとで追いつくから」

リタたちを見送って、俺はゴブリンと目線を合わすように屈んだ。

「ナオキだ。ナ、オ、キ」

自分を指差しながら、自己紹介する。

「ナオキ……ボウ。オレ、ボウ」

ゴブリンはボウという名らしい。

「よろしく、ボウ」

「よろしく、ナオキ」

俺が握手を求めると、ボウはちゃんと俺の手を握った。

意思疎通は出来そうだ。