軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

116話

日が沈むと、キャンプファイヤーが明るく浜辺を照らした。

キャンプファイヤーの横では魚の魔物と解体されたビーセルの肉が焼かれ、砂浜に描かれたIHの魔法陣の上では煮魚の料理が作られていた。

料理は皿に載せられ、つるつるした大きな葉の上に置かれ、誰でも好きなだけ食べられるようにセスがしてくれた。

波打ち際にもつるつるした葉を置いて、料理の皿を持っていく。

姿を見せていないセイレーンたちも波打ち際までなら来てくれるだろうか。

「人見知りだから、もう少ししたら来るさ。これだけ美味しい料理を逃すはずがないからねぇ」

ボリさんは自分の奥さんたちについて説明した。

「そうですか。船の中の人の分も取っておきます?」

俺は探知スキルで見えていた、ボリさんの船の中の人についても聞いておく。

「あら~? 気づいてたかぁ?」

初めは見えてなかったのだが、ボリさんの奥さんたちを探っていると、時々、探知スキルで船の中に青く光る人が見えた。隠蔽スキルでも持っているのだろうと俺は予測した。

隠れているくらいだから、あまり人に会いたくはないのかもしれない。奴隷の子とかだろうか。

「まずかったですか? いや、皆で夕飯食べてるのに、かわいそうかなぁっと思って」

「ナオキくんには隠し事してもしょうがないか。呼んでくるよ。皆で食べたほうが美味しいもんなぁ。コリー! もう隠れなくていいよ~。皆と一緒に夕飯食べよう!」

ボリさんは自分の船の方に行き、船の中に声をかけた。

船から、小さな短髪の少年が顔を出し、恐る恐る船を下りた。ボリさんが手を繋ぎ、少年を連れてくる。透き通るような白い肌と薄い茶の髪の毛が月明かりとキャンプファイヤーの明かりに当たって、光って見える。近づくとモデルのように整った顔立ちであることがわかり、性別がわからなかった。服は大きなTシャツと短パンを着て、裸足だった。

「息子のコリーだ。コリー挨拶!」

「コリーだよ」

コリーはそう言うと、耳の横で手を振った。

「ナオキだよ」

俺も耳の横で手を振った。

黒く日焼けしたボリさんとは似てるのは髪の色くらいだから、実子ではなく養子なのだろうと思っていたら、バシャンッという波の音に振り返った時、全てを察した。

波打ち際に、この世の者とは思えないほど白い肌の美しい女性がいた。その女性はTシャツだけ着て、長い金髪を束ねながら、軽く微笑んでいる。下半身は魚の鱗が見える。『セイレーンは歌声や容姿の美しさで船乗りを誑かす』と聞いていたが、これは誑かされたい。が、彼女は人妻。コリーに顔がよく似ていた。

コリーが両足を持った人族であり、目の前のセイレーンに似ているということは、ボリさんとセイレーンの息子であることが理解できた。

その後、次々にTシャツ姿の美形のセイレーンが波打ち際の料理の前に現れた。

「ボリさん……、どうやってセイレーンを口説くのか、教えて下さい」

呆然とボリさんの奥さんたちを見ながら言った。

「オススメはしないよ。魔物と結婚するってのは、神様を騙すようなことをしないといけないからね」

神様?

「あ、たぶん、それくらいなら大丈夫です」

「すごいな。息子なんていたのか。初めて見たぞ。干物屋」

いつの間にか、隣りにいたシオセさんがつぶやいた。シオセさんはコリーを見ていた。

「僕の魅了スキルなんか大したことないなぁ」

魅了スキル10のルシオがセイレーンたちを見ながら言う。

「奥さんたちに質問してもいいですか?」

ベルサがボリさんに聞いた。

気づけばいつの間にか全員波打ち際まで集まってきている。

「ああ、少し声が高くて、人族の言葉は片言しか話せないけど、女性同士なら大丈夫だよ。男はね。どうしても、海に引きずり込みたくなるらしいんだなぁ」

ボリさんはそう言って、コリーと一緒に皿の料理を取った。

「ボリさんは大丈夫なんですか?」

「ああ、僕は結婚してるし、ほら」

ボリさんが海に向かって手をかざすと、海からテニスボールくらいの水の玉が浮かび上がり、どんどん大きくなった。ボリさんはかざした手をキャンプファイヤーの方に向けると、大きな水の玉がキャンプファイヤーの上に移動した。

「水魔法が得意なんだ。夫婦喧嘩をしても、水魔法で逃げる。こうして時々、水を温めると、うちの奥さんたちが喜ぶんだねぇ」

水の玉が徐々に温められているようだ。大きな水の玉を維持できているのだから、ボリさんの魔力量も多い方だろう。

ボリさんが水の玉を奥さんたちの方に向けると、「今はそれどころじゃない」と、手で断られていた。奥さんたちはベルサとアイル、メルモとガールズトークをしているようだ。

「女性に褒めてもらうには、何事もタイミングが大事だねぇ」

ボリさんは笑って、水の玉を海の彼方に飛ばした。

「コリーくんは人族ってことになるんですかね?」

コリーはルシオと一緒にセスが魚を焼く姿を見ている。焼きたてを食べたいようだ。

「どうだろうね。泳ぐのは上手いし、水魔法も上手い。脚の付け根にちょっとウロコがあるから、獣人というカテゴリーになるのかな? ただ、珍しい種だろうから、あまり人に見つからないようにしてるんだ。シオセも人に喋らないでくれよ」

酒瓶を持ってきたシオセさんにボリさんが言った。

「わかった。と言っても、この島には俺とルシオしかいないから、喋る相手もいないがな」

俺も酒がないか、アイテム袋を探ったが、酒は全てアイルのアイテム袋に入ってることに気がついた。

「アイルー! お酒ー!」

俺はガールズトーク中のアイルに声をかける。

「あ! 社長、ダメですよ! また酔いつぶれる気ですか!」

アイルの隣りにいたメルモが言った。

「そんなこと言うなよ~!」

「ダメだ! 今日、ナオキはあんまり働いてないからな!」

アイルも酒を出さないようだ。

「なら、働けばいいんだな。よーしっ! ボリさん、セイレーンの奥方たちは温かい水が好みなんですよね?」

「そうだよ? 何かするのかい?」

「ええ、ちょっと仕事して報酬の酒を貰おうと思って」

俺はキャンプファイヤーで余った木の端材をナイフで板状にする。木の板を幾つか作ったら、強化魔法の魔法陣を焼き付け、浜辺に持っていく。

砂浜に木の板を差し込み、大きめの四角い枠を作った。

あとは枠内を掘り、床面に加熱の魔法陣が描かれた板を張って、即席の湯船を作った。

「ボリさん、すいません。あの枠の中に水魔法で水入れてもらえますか?」

「おお、いいよ。なにぃ、なに作ったの?」

そう言いながら、ボリさんは海から水の玉を浮かばせ、枠の中に水を入れた。

「お風呂ですよ」

俺はパン一になって、水の張った湯船に入り、床面の加熱の魔法陣にちょっとずつ魔力を込める。

温めのお湯になったところで、ボリさんに湯加減を聞いてみた。

「もうちょっと熱くても大丈夫だよ」

「奥方たちも大丈夫ですか?」

「そうか、うちの奥さんたち用か。なら、このくらいのほうがいいかもしれない」

「まぁ、熱くしたかったら、床に魔力をちょっとずつ込めてみてください」

「わかった。いやいや、砂浜にお風呂を作るとは」

俺は湯船から上がり、女性陣の方に向かって、

「おーい! お風呂できたよ~!」

「なんだ、何やってんのかと思ったら、風呂か。入る?」

アイルはセイレーンの奥さんたちに聞いた。

セイレーンの奥さんたちは「フロ?」とお風呂がなんだかわからないようだった。

砂浜をスコップで掘り、海からお風呂までの道を作った。雑なアイルは剣撃で砂浜をわろうとしていた。風呂が壊れるので止めさせた。

「ハッハー! ナニコレー!!??」

「キャハハハ~!!」

お風呂はセイレーンの奥さんたちには好評のようだった。美人がお風呂ではしゃいでいると「天使か!?」と思った。

「ってことで、働いたのでお酒ちょうだい!」

俺はアイルに手を差し出した。

アイルはアイテム袋の中から、酒瓶を1本取り出して、俺に投げ渡した。

「飲み過ぎないようにね」

空中で酒瓶を掴むと「ゆーん」と曖昧な返事で返しておいた。自分の酒量がわかれば苦労はしない。

酒瓶を持って、ボリさんとシオセさんたちの側に座った。

ベルサはセイレーンの奥さんたちの話を聞いてたため、「夕飯を食い損ねてた」とこちらに来た。

「面白いよ。セイレーンは新月の夜に契りを交わすんだって」

ベルサは口いっぱいに魚料理を頬張りながら、ぶっこんできた。

「そうなんですか?」

「なんでも聞かないでよ~はずかし~」

ボリさんは酒を飲みながら、照れていた。

「なるほど、新月だと神様から見難いってことなのかぁ」

シオセさんが納得していた。

新月とかが関係あるかはわからないが、あの神様はそもそもあんまり人族と魔物が契りを交わすことについて気にしてないんじゃないかと思った。むしろ、邪神を呼んで、一緒に覗いてる可能性すらあるんじゃないか。

ちなみに、セスとルシオ、コリーは浜辺から見える岩場で夜釣りをしに行っていた。

「あ、それから、シオセさんが、私の師匠の元カレだった」

ベルサのぶっこみは止まらなかった。ベルサの師匠は確かリッサという魔物学者だったか。

「え!? そうなんですか?」

「いや、過去に同棲してたってだけだ。その影響で、こんな島でガガポを保護するハメになったんだが。まぁ、その話はいいだろ?」

シオセさんも頭を掻きながら、恥ずかしそうに酒をぐいっと飲んだ。

「師匠は変な人だから、その内、戻ってくるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします」

ベルサはシオセさんに頭を下げていた。

「どこにいるかもわからないけど、どっかで死んでないといいな、とは思ってるよ」

そう言って、シオセさんは笑った。

「たぶん、師匠はここの群島はシオセさんに任せたんだと思います。誰かと研究対象がかぶることを極端に嫌ってたので。なんでか学者ってのは他人が知らないこと以外に興味ないんですよね。変なことばっかり知ってるっていうか。だからナオキにちょっと似てるんだよなぁ」

魚の魔物の尻尾を噛みながらベルサが、迷惑そうに言った。

「俺はむしろ他人が知ってることの方が興味あるよ。そうだ! ボリさん、東の大陸に行きたいんですけど、なんでもいいんで教えて下さい」

「僕がいたのは20年も前だよ。今どうなってるかは知らないよ」

「それでもいいので、教えてください」

「そうかぁ、そうだなぁ。たぶん変わってないことなら……」

ボリさんは、俺たちに東の大陸周辺の海にある岩礁地帯や、内陸にあるというジャングルで気をつけること、それから端が見えない滝について、平原にあるという大きな国についてなど語ってくれた。

「あ、それから、もしかしたら、まだ差別が残ってるかもしれないなぁ」

「差別ですか?」

「ああ、耳の生えた獣人を下に見る奴らがいるかもしれない。そういう奴は大抵、ウロコを持った獣人なんだ。バカバカしい話だけど、お仲間が絡まれないように気をつけてぇ」

セスは猫の獣人だし、現在、風呂で泡だらけになってるメルモは羊の獣人だ。

「人族はあんまり差別的には見られないはずなんだ。まぁ、そういう変な文化は変わっててほしいけどねぇ」

遠くを見てボリさんが言った。もしかしたら、その辺りに国を捨て、この群島で自由な干物屋をやっている理由があるのかもしれない。

「東の大陸って、そんなに国は多くないんですか?」

話題を変えることにした。話したくないことまで引き出すことはない。

「いや、そんなことないよ。北にも東にもたくさんあったはずだけど、僕がいた頃は水の勇者がいたからか、あまり戦争にはなってなかったなぁ」

俺はベルサと顔を見合わせ、頷いた。

東の大陸には水の勇者がいるようだ。ということは近くに水の精霊がいるかもしれない。

「水の勇者ってどんな人だったか覚えてます?」

俺が質問すると、ボリさんは「勇者に興味があるのかい? そうだなぁ……どんな人?ん~……」と言って、しばらく黙って思い出していた。ボリさんは重い口を開くように話し始めた。

「結構、酷い人だったねぇ。水の勇者は代々、子に継承されていく勇者でね。当時の勇者は自分勝手だったね。力ある者ってのは人の話を聞かないからねぇ」

ボリさんは苦笑いをして言った。ボリさんは水の勇者に近い人だったのかな。

「顔はそうだなぁ。当時はイケメンじゃなかったね。今は中年になってるだろうから、どうか知らないけど。背もそんなに高くなかったなぁ。ただ、精霊の加護があるから水魔法が信じられないくらいうまくて、それが他の国への牽制になってたんだと思うよ」

ボリさんより上手いとすれば、結構すごい勇者なのかもしれない。ボリさんにとってはあんまり面白い話ではないようだ。

「すみません、嫌なこと思い出させましたかね?」

「いやいや、あの勇者は今頃何をしてるのかなって思ってね。何年も会ってないけど、元気でやってるのかな。まぁ、僕は国から出た身だから、関係はないんだけどね」

ボリさんは水の勇者のライバルとか、幼なじみだったのかもしれない。

「今でも勇者を続けてるなら、ジャングルを抜けた平原の国にいるはずだよ」

とにかく、水の勇者の居場所がわかった。マーガレットさんの情報は正しかったようだ。

「ありがとうございます」

俺はボリさんにお礼を言って、コップ代わりにしてるお椀にお酒を注いだ。

キャンプファイヤーの組んでいた木が崩れ始めた。

お風呂に入っていたセイレーンの奥さんたちが歌い、コリーが釣りで大物を釣り上げ、ルシオが裸踊りで場を盛り上げた。

夜は長く、語らいは深夜にまで及んだ。

「こんな楽しいのは初めてだ」

ボリさんは顔を真赤にして、笑っていた。

いつしか砂浜で寝てしまい、夜が明ける前に目が覚めた。

まだ暗い海には、シーライトの青白い明かりが集まっていた。その中に、4人のセイレーンの奥さんたちが踊るように泳いでいた。

起きている浜辺の者たちは、それをただ黙って見つめていた。

「セイレーンにとっては、シーライトは祖先の魂なのだそうだ。ああやって、祖先と会話してるんだって」

隣で見ていたアイルが俺に教えてくれた。

夜明けとともにシーライトは霧散するように海の底へと消えていった。

「ふぁ~あ、私もそろそろ寝よう。あ、ナオキ、我々は初めからバレてたらしいぞ」

「初め?」

「ああ、ナオキが海に音爆弾を投げ込んだ時から、セイレーンの奥さんたちには見られていたらしい」

そうだったのか。

「海の魔物は音で位置を確認してる奴らが多いらしくてね。警戒されてたらしい。まったく、変な物ばかり作るからだ」

アイルは船の方に歩いていった。

すっかりキャンプファイヤーは小さくなっていた。

東の空に太陽が顔を出し、海の波が反射して銀色に輝いていた。