軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

101話

次の現場はマーガレットさんの屋敷だ。

「仕事で来ました」

屋敷に入ると、なぜかお茶を出され、テラスの椅子に座らされた。

庭では人化したレッドドラゴンと黒竜さんが草木の手入れをしている。自分たちが寝る前の状態に戻しているようなので、ベッドメイキングとも言える。

「昨晩はすみません。酩酊してしまいまして」

「いいんですよ。楽しい宴でしたから」

マーガレットさんはそう言いながら、微笑んでお茶を飲んだ。

「清掃と駆除はいいんですか?」

「ああ、あとで、台所をお願いします。それよりも……」

マーガレットさんが、そわそわしている。

なんだ? 俺、何か忘れてる? 酔っ払ってる時の約束とかじゃないよね?

「あっ! そうでした!」

俺はアイテム袋から通信袋を出し、マーガレットさんに渡した。

「これよこれ。やっぱり複雑な魔法陣ね! ばぁや、ばぁや!」

マーガレットさんは魔法陣を見ながら、メイドのばぁやを呼んだ。

「はいはい、あれま! それが噂の通信袋ですか?」

「そうなのよ。これって、どんなに遠くても大丈夫なの?」

「大丈夫だと思いますよ。時空間魔法の魔法陣なので、アリスフェイ王国とも繋がりましたし」

マーガレットさんとばぁやの二人は「すごいすごい」と通信袋を見ていた。

マーガレットさんの通信袋は、神様とは繋がらないように制限をかけておいた。神様なんかと繋がったら教会と大揉めするだろう。

「レッドドラゴン」

マーガレットさんが小声で通信袋を使うと、木の枝を切っていたレッドドラゴンが「どうした?」

と、振り向いた。

「聞こえた?」

「うむ。通信袋から声がしたぞ」

マーガレットさんとばぁやは「きゃあきゃあ」とはしゃいでいた。

「これで、いつでもナオキくんのアイディアを聞けるわけよね?」

「え? まぁ、そうですが、こちらも仕事がありますから、あまり頻繁には勘弁して下さい」

「わかったわ。それで、今のところ思いついていることってある?」

「有料道路を作る上でってことですよね」

「有料道路に限らず、ルージニア連合国でできることなら、なんでもいいわよ」

「だったら、もうどこかでやっているかもしれませんが競馬場とかどうですか? フィーホースを競争させて、お金を賭けるんです」

「賭け事なの?」

マーガレットさんが聞く。

「そうです。人気で倍率決めて、一番を予想するんです」

「んんっ! ばぁや! 紙とペン!」

「はいはい!」

ばぁやは用意していたかのように、すぐ紙とペンとインク壺を持ってきた。

マーガレットさんは、紙にさらさらと『競馬場に関する計画書』と書いた。

俺は、どういうレース場にするかとか、観客席の位置や輓曳競馬などについて説明した。特に前の世界で詳しかったわけではないので、ゲームやテレビで見た情報だ。

「速いフィーホースや力強いフィーホースが集まれば、有料道路も発展しやすいんじゃないかと」

「特に荒れ地とか産業が成り立ち難い地方でやるといいかもしれないわね」

ペンを走らせながら言う。器用な人だ。俺なら、紙を汚しそう。

「ああ、アルフレッドにも教えなくちゃ」

「あ、それなら、ヒルレイクのノームフィールドにシンシアという娘がいるので、通信袋で連絡を取ってみてください。近くにいるかもしれないので」

俺がそう言うと、マーガレットさんはシンシアに連絡を取って、自己紹介をしていた。

シンシアは驚きながらも対応していた。

アルフレッドさんはまだ王都から帰ってきてなかったらしく、スポークスマンの青年しかいないとのこと。

「でも、手紙より圧倒的に早いわね」

通信を終えてマーガレットさんが言う。

「あんまり長く使うと魔力切れを起こすかもしれないので、これも渡しておきますね」

俺は魔力回復シロップをアイテム袋から取り出して、マーガレットさんに渡した。

「お茶と混ぜて使ったほうがいいかもしれません」

ばぁやに言う。ばぁやは珍しそうに瓶を見つめた。

「じゃ、台所を清掃して、行きますね」

「ありがとう。そろそろ休憩しませんかぁ?」

マーガレットさんは竜たちをお茶に呼び、俺は台所に向かった。

台所にはすでに竜たちのお茶の準備もされており、ばぁやが持って行った。

マーガレット邸の台所は掃除が行き届いており、ほとんどやることもなかったが、石窯のオーブンや竈が汚れていたので、クリーナップをかけておいた。竈は薪から火を起こさないといけないので、大変そうだ。

板に加熱の魔法陣を描き、台所に戻ってきたばぁやに使い方を説明した。

「なんと、まぁ!」

ばぁやが驚いていた。

「火を起こすのは大変そうだったので」

「そうでもないのよ」

ばぁやは人差し指から火の玉を浮かび上がらせている。そうだった。火起こしなど魔法で一発だ。

「すみません。余計なお世話でしたね」

「ううん、ありがとう。これならあまり煙を吸い込まなくても良さそうだから、助かるわ」

ばぁやは前に呼吸器系の風邪を引いていた。弱いのかもしれない。

「ついでに診断もしておきます?」

「診断?」

「ええ、最近スキルを取ったんですよ」

「試しにお願いしてみようかしら」

「ああ、脱がなくて結構ですよ」

俺はばぁやの手に触れ、診断スキルを使ってみた。

内臓丸見え。ほとんど人体模型のようだった。

ばぁやの肺を見たが、特に普通に動いているようだった。医学の知識がないので、見たところでよくわからない。ただ、膝が悪いというのは、なんとなくわかった。これが診断スキルの効果か。

とりあえず、また風邪を引いた時用に回復薬を渡し、座ったままできる膝の運動をするように伝えた。

帰り際にレッドドラゴンと黒竜さんが来た。

「今夜あたりに島に帰ることにする」

「そうですか。今回は本当にお世話になりました」

「皆によろしく伝えてくれ」

「なにかあれば、連絡してくれ」

レッドドラゴンと黒竜さんとはノームフィールドで一度別れを言っているので、特に言うこともない。お土産に回復薬と魔力回復シロップを渡した。

手を振ってマーガレットさんの屋敷を出た。

続いての現場は、お待ちかねの娼館である。

娼館清掃の仕事はいつまでも残業ができるように最後に回したのだ。しかも件数も多い。

喜んで行った俺だったが、現実は割と残酷だった。

娼館はあらゆるところが汚れていて、クリーナップだけでは済まなかった。

樽を一つ借り、風魔法と水魔法の魔法陣を仕込み洗濯機にし、ずっとシーツを洗濯していた。屋上でシーツを干して、また次の部屋に向かう。隣の部屋からは男女の営みの声が聞こえる。

娼婦たちの控室では、無駄に握手を求め診断スキルを使ってみたが、皮膚の下からしか見えず、色気もへったくれもない。さらに娼婦たちの裏の会話を聞いてしまったせいで、ビジネスウーマンにしか見えなくなってしまった。俺は客獲得のために並々ならぬ努力する娼婦の方々を尊敬する。

そして、どの娼館も金払いはとても良かった。

「今度うちに客で来てよね」

色を付けた代金を支払ってくれた。

回復薬もほぼ売り切ってしまった。

最後の娼館の仕事を終え、娼館街を出た俺は「仕事しよ」とつぶやいていた。

まさか娼館街を出て、そんな言葉を吐くとは自分でも思ってなかったため、驚いてしまった。

宿に帰る前に、造船所に向かった。

俺たちの船は、キレイに修理されていて、明日にでも出港できるという。

工員に案内されて、船の中を見たが、船長の部屋のほかにも台所や船員の部屋、倉庫などがあった。

あとは、よくわからないからセスに聞こう。

船を降りると、ベルサとセスがいた。

「見に来たのか?」

「うん」

「いよいよですね」

ようやく船長として船を動かすセスはワクワクしているようだ。

造船所を出ると水平線に太陽が沈んでいくところだった。宿に帰り、社員全員で夕飯を食べる。仕事は大きな問題もなく終え、十分な現金も得た。

出港は明後日の朝と決め、明日は買い出しに当てる。

今夜は忘れ物がないように、各々買い出しリストを作るよう言って、部屋に帰る。ベッドに潜ると、今まで聞こえたはずの波の音がやけに大きく聞こえた。