軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17

そんな穏やかな日常がしばらく続いたある日のこと。

ひと通りの授業も終わったこともあり、ビアンカは屋敷でゆっくりと過ごしていた。

この国の文字になれるためにと図書室から本を持ち出し、庭がよく見えるバルコニーで読書をして過ごしていると、急に屋敷の中が騒がしくなった。

「お嬢様。こちらにいらしたんですね」

血相を変えたメリーがビアンカに駆け寄ってくる。

「何かあったの?」

「実は、急にお客様がいらっしゃって」

「お客様?」

この国にきてはじめての客人だった。

客人どころか、この国に来てネロと使用人たち以外とは顔を合わせていないのだが、先触れもなくやってくる相手だなんてよく考えなくてもただごとではない

「いったいどなたなの」

「それが……」

メリーはなぜか言い淀むと、困ったように視線を左右に動かす。

その態度からビアンカはやっていきた客人はビアンカに会って欲しくない相手なのだろうと言うことを悟った。

「私、部屋にいたほうがいい?」

相手の身分や立場がわからない以上、ビアンカは部屋にこもっていたほうが使用人たちも断りやすいのではないかと考えそう口にすれば、メリーは一瞬だけ救われたような顔をしたが、すぐに使用人らしい表情になり首を振った。

「ネロ様の大切なお嬢様にそのようなことはさせられません。私どもでなんとかしてみせます」

「でも……」

「先ほど、使いの者が城にいるネロ様を呼びに行きましたので、それまでなんとか……」

そこまで口にしたメリーが不意に言葉を止めた。

どうしたのかと思えば、メリーが私を通り過ぎて背後にある扉のほうをじっとみつめているのがわかった。

「ごきげんよう」

まるでそよ風のような優しい声が響く。

弾かれたように振り返れば、そこには一人の女性が立っていた。

「ネロがなかなか招待してくださらないから遊びに来たの。無作法でごめんなさいね」

(うそ)

ビアンカはその女性から目が離せなくなる。

色の濃いストロベリーブロンド。大きな紫色の瞳。うっすらとした笑みを浮かべた小さく薄い唇。小さな顔がのった、折れそうに華奢な身体。淡い色合いのドレスを身に纏った、まるで妖精のような美しい女性。

(……私?)

その姿は、ビアンカの記憶に焼き付いた前世の自分であるアルルにあまりにも似ていた。

よく見れば別人だとわかるのに、その面影はあまりもアルルで。

「ごきげんよう。私はプルメリア・オランジュ。ネロとは従姉妹になるわ。どうかプルルと呼んでちょうだい」

まるで花のように微笑んだプルメリアを、ビアンカは息をするのを忘れて見つめ続けた。

(プルル? 愛称まで似てるの? どういうこと?)

まるでアルルの肉体だけが別人として蘇ったようだった。

(瞳の色は違うけれど……)

目の前に鏡を置かれているかのような落ち着かなさに戸惑っていると、プルメリアがかわいらしく首を傾げてきた。

「驚かせてしまったかしら?」

そこでようやく我に返り、ビアンカは慌てて立ち上がるとプルメリアに向かって頭を下げた。

「あっ、すみません。私はビアンカ・アプリコと申します」

「ビアンカ! ビアンカというのね。ふふ」

なにが嬉しいのかプルメリアが目を細め、くすくすと笑い声を上げた。

「ネロが婚約者をようやく決めたと聞いて、ずっと会いたかったの」

両手を合わせはしゃぐプルメリアの姿は、本当にネロの結婚を喜んでいるように見えた。

「想像どおりだったわ。とってもとってもかわいいらしい方ね」

だがなぜかその口調や表情からはぞっとするような冷ややかさを感じる。

後ろに控えているメリーは何も言わないが、ひどく緊張しているのが伝わってくるようだった。

「私もお会いできて光栄です。こちらに来てまだ正式なご挨拶ができておらず、大変もうしわけありません」

そう深々と頭を下げれば、プルメリアは「まあ!」とわざとらしいほどに大きな声を上げた。

「謝る必要なんてないわ。だってネロはあなたを誰にも見せたくなくて隠しているんだろうってみんなが言っているのよ」

小首を傾げながら眉を寄せてみせるプルメリアは本当に愛らしい少女にしか見えない。

(何だろう……)

「あなたは何も悪くないわ。悪いのはネロ。こんな屋敷に閉じ込められてかわいそうに」

プルメリアの表情はかわいらしく、口調も無邪気なのに、その仕草はどこか空虚だ。

前世の自分は決してこんな振る舞いをしなかった。

自分の姿をした別人がそこにいるような不気味さにぞわぞわと総毛立つような気分になる。

脈打つ

「立ち話もなんですしこちらへどうぞ」

「あら、いいの? ありがとう」

他の部屋に案内することも考えたが、屋敷の中を歩き回られるのはなんだか嫌でバルコニーの席にそのままプルメリアを案内した。

メリーはその気持ちを察してくれたのか、一礼するとプルメリアを追いかけてきて入り口で申し訳なさそうにしているメイドにお茶を入れるように命じてくれていた。