軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【速報】楓ちゃん入荷しました!【六十九話ぶり】

#26 おはなしをきくらしい?

「は、はじめます……」

日療の小会議室にて。

私は、カメラの前でもじもじと縮こまっていた。

:お

:お嬢じゃ……ない……!?

:やったあああああああああ楓ちゃんだあああああああああ

:楓ちゃん!!! 楓ちゃんじゃないか!!!!!

:わあああああああ楓ちゃん久しぶりいいいいいいいいいいいいい

:最近お嬢のレアフォーム多くて助かる

:お嬢ピックアップ期間中か?

今着ているのは、よそ行き用のワンピース。私からすればいつもの私服だ。

白衣もなければ腕章もない。当然、武器もポーチもつけていない。

強さという鎧を纏わず、ただの白石楓としてカメラの前に出るのは、相変わらず妙な気恥ずかしさがあった。

だ、だから、その。せめて、あんまり騒がないでほしいんだけど……。

「あ、あの!」

恥ずかしさを振り払うように、意図的に大きな声を出した。

「え、えと。近況報告も兼ねて、配信をつけるよう、言われました。えと、えと、元気です。あと、生きてます」

:知ってます

:この前も元気そうにしてましたね

:この前いたのはお嬢じゃなくてねこさんなんだよなぁ

:ねこさん……一体何者なんだ……

:ねこさん=お嬢とかいう悪質なデマ

:日療の白石さんとお嬢とねこさんは全部別人だよ

「怪我はもう、治りました。でも、検査のために、もうちょっとだけ、病院にいます。退院の日程は、まだ決まってませんが、そう遠くないと、思います」

:見事なまでの台本棒読み

:ちゃんと読めてえらいぞ

:この台本、マネさんが書いたんやろなぁ

:これほぼ三鷹さんの発表なのでは?

:お嬢、舌が疲れたら代わってもらいなね

たどたどしいながらも、事前に渡された台本どおりに近況を説明する。

約束通り、三鷹さんは退院する方向で調整してくれていた。彼女が言うには、そう遠くないうちに退院できるそうだ。

とはいえ、当面は検査のために、定期的に通院しなければいけないようだけど……。まあ、また迷宮探索ができるなら文句は言うまい。

最後まで台本を読み切って、ふうと一息。

「それでね、えと。今日は、なんか、お話を聞くらしいよ?」

:説教か

:説教だな

:説教配信了解

:ねこさんはさすがにまずかったかー

:まだそうと決まったわけじゃないから……

「むー……」

当然のように説教だと思わないでほしかった。

というか、この配信自体がすでに罰ゲームみたいなものだ。これに加えて説教までされたら、逃げるぞ私は。

「えと……。もう、呼んでいいの?」

:いいよ

:え、何を?

:さぁ……

:まあいいんじゃない?

「じゃあ、行くよ。せーのっ」

:まってまってまって

:せーのって何!?

:何を合わせればいいんだ

:俺らは何を求められてる?

「三鷹さーん」

:あ、呼ぶってそういうことね

:三鷹さんを呼べばよかったのか……

:凄まじい速度でぐだぐだが展開されていく

:お嬢の意図を汲めなかった俺らが悪い

:ごめんなお嬢、俺らもっと頑張るから……

:めげるなお前ら、今日の敗北は必ず明日の糧となる

名前を呼ぶと、画角の外に控えていた三鷹さんが、私の隣の席に座った。

「いつも思いますが……。あなたのリスナーさんって、すごいですね」

「そう、ですか?」

:えへへ

:それほどでも

:たぶん褒められてないぞ

隣りに座った三鷹さんは、今日もばっちり決めていた。

ぱりっとしたスーツを華麗に着こなす姿は、まさしく大人の人って感じだ。凛と背筋を伸ばして椅子に座るだけでも、なんだかちょっとかっこいい。

三鷹さんはにこやかな笑みを作り、よく通る声で話し始めた。

「日本赤療字社迷宮事業部の三鷹です。私から皆さんにご説明したいことがあり、白石さんにお願いしてこのような枠を取らせていただきました。本日はよろしくお願いいたします」

:お久しぶりです三鷹さん

:平素お嬢が大変お世話になっております

:たぶん今後もいっぱいお世話になると思います

:お前らはお嬢のなんなんだ……?

:だから親戚のおじさんだって

:目を覚ませ

三鷹さんに任せて、私は早々に置物になる決意を固めた。

あとはこの人に任せておけば大丈夫だろう。台本にもそう書いてあるし。

「本日の議題ですが、先日、迷宮内での救助体制が大きく変わりました。それについて、あらためて私から皆さんにご説明しようかと思います」

:あー、あれね

:お嬢が休んでる間にめちゃくちゃ変わったよなぁ

:はえー、そうなんや

:なんか色々変わったとは聞くね

:日療の公式サイトで説明されてたけど、難しくてよくわかんなかった

知っている人もいれば、知らない人もいる。リスナーの反応はまちまちだ。

ちなみに私は、なんとなく聞いたことがあるくらいの認識。さわりくらいは聞いているけれど、詳しくは知らない。

「まず、これまでの体制のおさらいから」

三鷹さんがラップトップを操作すると、配信上の映像がスライドに切り替わる。スライドには、これまでの救助体制が簡単にまとめられていた。

「探索者協会が管理していた旧体制では、要救助者が発生すると近隣の探索者に対して救助要請が出されます。しかし、要請に応じるか否かは、通知を受け取った探索者個々人の判断に委ねられ、状況によっては対応が取りこぼされてしまうケースもありました」

:今思うと昔はひどかったよなぁ

:救助要請には積極的に応じようって風潮だったけど、それでも取りこぼされることは全然あったし

:そもそも近くに誰もいないこともよくあった

:深い層ほど、他人を助けられる余力なんてないんだよね

:対応されなかった場合ってどうなるんですか……?

:知らないほうがいい

:何度も言うけど、探索者って本当に危険な仕事なんだよ

「そこで私たち日本赤療字社は、迷宮事業部を新設し、迷宮内での救助活動への積極介入を始めました。最初にやったのは、救助専門の探索者を雇用して、対応が難しい救助要請に派遣すること。この救助専門の探索者というのが、何を隠そう白石さんのことですね」

……へー。

私って、そういう救助要請に派遣されてたんだ。知らなかった……。

私はただ、真堂さんに言われるまま救助に行っていただけだからなぁ。そこにどんな意味があるのかなんて、あんまり考えたことはなかった。

「最初は我々と白石さんだけで始めた小規模な活動でしたが、紆余曲折あって、我々の活動は多くの方々に知れ渡ることとなりました。このあたりのことは皆様も御存知でしょう」

:知ってますとも

:リリスとか呪禍とかキャンプとかね

:ここ最近でいろいろあったよなぁ

:ちょっと前まで同接百人前後の配信だったのが嘘みたいだ

「そうして多くのご賛同やご協力、ご支援を得て、迷宮事業部はこの度組織を大規模化。従来の救助体制を刷新し、本格的な迷宮救助システムを構築しました」

三鷹さんはスライドをめくる。

そこに、新たなシステムの名前が書かれていた。

「それこそが、Crisis Units for Rapid Emergency――。縮めて、CUREシステムです」

:ウーバーヒールね

:ウーバーヒールでしょ

:ウーバーヒールだよね

:ウーバーヒールなら知ってる

:贅沢な名だねぇ、お前の名前はウーバーヒールだよ

「……えと、三鷹さん?」

「CUREシステムです」

「みんな、ウーバーヒールって、言ってますけど」

「その呼称が広まっていますが、正式名称はCUREシステムなんです……」

三鷹さんの背中に哀愁が漂う。リスナーの悪ノリと会社のしがらみに挟まれた、一人の会社員の姿がそこにあった。

「このシステムを一言で言うと、救助専門の探索者をより多く確保するための、極めて柔軟な雇用形態です。CUREシステムならば、たとえ回復魔法が使えなくても、救助協力者という形で日療の活動にご協力いただけます」

「えと、救助協力者ってのは……?」

「迷宮救命士の白石さんは、回復魔法が使えて、日療に所属していますよね。救助協力者はそこが違います。回復魔法は必須ではなく、日療に所属する必要もありません。あくまでも、日療の救助活動にご協力いただける、一般の探索者様という形になります」

:ほーん?

:そこがよくわからないんよね

:回復魔法が必須じゃないのはともかく、日療に所属しないってのはなんで?

「早い話がアルバイトです。というのもこの業界、腕のある探索者って大抵どこかの事務所に所属しているんですよ。事務所所属の探索者でも、日療の活動にご興味があれば、アルバイト感覚で気軽にご協力いただけるのがこのシステムです。もちろん、報酬も支払われますよ」

説明をしつつ、三鷹さんは真紅の腕章を取り出す。私が普段、白衣につけているものと同じ腕章だ。

「この腕章をつけている探索者が救助協力者です。それに加えて白衣を着ているのが迷宮救命士、と覚えてください」

:その気があるなら、誰でも救助活動を始められますよってことかな

:しかも報酬出るんだ

:今まで救助活動って基本ボランティアだったし、その点はいいかも

:報酬もあるけど数字がうまいって某炎上系配信者が言ってたよ

:誰田なんやろなぁ……

「それで、実際の業務の流れについてですが……。クエストボードをイメージしていただくとわかりやすいのですが、白石さん、覚えてます?」

「えと……。キャンプ場で、双葉さんが作ってたやつ、ですか?」

「はい、それです」

呪禍対策の最中で生み出されたあのシステムは、今でも好調に稼働していると聞いた。

日夜多様な依頼が発注されて、それを受注した探索者たちが盛んに迷宮探索へとおもむいているらしい。肝心の魔抜きナイフも、工房がルリリスの術式を再現して、量産可能になったんだとか。

「CUREシステムもクエストボードの一部を間借りさせてもらっています。ボードにリアルタイムで救助要請が届くので、救助者として登録された探索者は、自身の技量に合わせて依頼を受注するという流れになっています」

へー……。

これまで私は真堂さんを通して救助要請を受けていたけれど、そこが自動化するってことかな。

たしかにそれは、便利っちゃ便利だけど。こういった自由度の高いシステムには、なんとなく覚えがあるような気がした。

「報酬は出来高制で、依頼を受ける受けないは本人が決められます。決まったシフトもなく、コンディション次第でシフトを調整できるってところがポイントです。副業兼業なんでもOK。それが、日療主導の新救助体制――」

:ウーバーヒールね

:ウーバーヒールだわこれは

:思ったよりもウーバーヒールだった

:諦めろ、お前の名前はウーバーヒールだ

「ウーバーヒールじゃないです! CUREシステムです!」

いやぁ……。

ごめんだけど、三鷹さん……。

これは、ウーバーヒールなんじゃないかなぁ……。