軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お嬢のドキドキ☆迷宮トレーニング(難易度:S)

探索者の訓練と言っても、難しいことをやるわけじゃない。

まずは体作り。基本中の基本だ。

「まず、筋トレ。あと、走り込みを、いっぱい、やってください」

「了!」

:お嬢?

:あの、お嬢、ご趣味が出てませんか

:この筋肉フェチめ

:いや、これは一応理にかなってはいるから……

違う違う。趣味じゃないもん。筋肉は好きだけど、それだけでこんなことさせたりしないもん。

探索者の身体能力は魔力量に依存する。その魔力量を増やすのに一番効率がいいのが、迷宮内でのトレーニングなのだ。

迷宮内にいるだけでも徐々に魔力量は増えていくが、トレーニングを通じて代謝を上げれば、魔力量の増加速度も上がっていく。

だから筋トレ。私、嘘言ってない。

「えと……。とりあえず、限界まで、やってもらえたら。体は、壊しても大丈夫です。治すので」

「は……? それは、体が壊れるまで負荷をかけろという意味でしょうか?」

「……? 何か、問題ですか?」

「りょ、了!」

:鬼か

:鬼だ

:鬼がいる

:初手、ぶっ倒れるまで鍛えてこい、ですか

:パワハラ上司だ……

え、ええー……。そんなに悪いことだったかなぁ……。

回復魔法があれば身体の故障はそこまで問題にならない。だったら限界まで追い込まない理由はないと思うんだけど……。

私も昔はよくやってたんだけどな、これ。

「あの、その、えと」

どうしよう。普通に鍛えるくらいでも、効果は出るっちゃ出るんだけど。

だけど彼ら、やる気はあるみたいだし。やる前からダメって言っちゃうのも、それはそれで申し訳ないっていうか。

「が、がんばって、くださいっ」

「……ッ! 了ッ!」

とりあえず、ぐっと拳を握って、応援してみた。

:かわいさでゴリ押すな

:悪いこと覚えたなこいつ……

:お嬢にがんばれって言われたらがんばるしかねえよなぁ!?

:年下のパワハラ上司が地獄のような業務をかわいく押し付けてくる件について

:すみません、日療に就職するにはどうすればいいですか?

:お前、やりたいのか……?

そんなこんなで、部下の五人にはひたすらトレーニングを続けてもらった。

最初の一時間くらいは元気のいい声も出ていたんだけど、二時間を過ぎた頃には声量も減ってくる。三時間ほど経った頃に様子を見に行くと、死んだ目で黙々と腕立て伏せを続ける謎の集団が出来上がっていた。

「……大丈夫、ですか?」

「りょ、了……っ」

「了じゃなくて」

ぷるぷると震えながら腕立て伏せをする隊員さん(たしか、火野原さん)をちょんとつつく。その衝撃で、彼はその場に崩れ落ちた。

「あの、もしかして、ぶっ続けですか」

「いかにも……! 大隊長殿のお言葉は絶対であります! 隊員五名、命も捨てる覚悟で鍛え続けておりました!」

「言ってない……」

体が壊れてもいいとは言ったけど、死ぬまでやれとは言ってない。休憩は適宜とって欲しい。死ぬぞ。

ひとまず、風祝のシリンダーを使って彼らの体力を回復する。

風祝は応急処置に特化した回復魔法であって、こういった使い方には向いていないんだけど、それでも回復魔法は回復魔法だ。体力の補充にも使えなくはない。

「えと、じゃあ。とりあえず、準備運動は、この辺で」

「準備……運動……?」

「……? 何か、気になりますか?」

「いえッ! 異論などありません!」

一瞬、隊員さんたちの目が死んだような気がしたけど、たぶん気のせいだ。

ひとまず体作りはこれくらいにしてもらって、続きまして技術訓練。

「やっぱり、探索者、ですから。戦えたほうが、いいと思うんです。なので」

私はポーチから木刀を五本取り出した。

さっき鍛冶師の人に作ってもらったばかりの、ぴかぴかの木刀だ。

「これで、斬り合ってください」

「は……!?」

「殺しちゃ、ダメですよ。それ以外なら、大丈夫、です」

「りょ、了……っ」

本物の魔物を相手にしてもらったほうが覚えが早いんだけど、いきなり二層の魔物にけしかけるのも酷だろう。まずは人間を相手に、戦いというものに慣れてもらう。魔物とやり合うのはまた今度だ。

これなら命の危険はないし、怪我をしてもすぐに治してあげられる。これだけ優しいやり方なら、きっとリスナーからも文句は出ないはずだ。

:デスゲームか何か?

:皆さんには今から死ぬ寸前まで斬り合ってもらいます

:お嬢、怖いよお嬢……

:黙れ……お嬢に逆らうな……

:お嬢の言葉は絶対だ、俺らに異を唱える権利なんてない……

:隊員さんたち、どうか心を強く保ってくれ

あ、あれ、これもダメなの……?

……まあいっか。とりあえずやってもらって、問題があればその時考えよう。

木刀を手に二人の隊員が向かい合う。向かい合って一礼してから始まったのは、一言で言えば試合だ。

まるで剣道のような、作法にのっとった行儀の良い戦い。いかにも人間との戦いを想定した動きだったし、決まり手なんか小手だった。

「んー……」

どうしよう。

これはちょっと、戦うとかそれ以前の問題だ。迷宮という場で生き残るには、彼らには大切なものが足りていない。

他人に指摘をするのは勇気がいるけれど、放っておいたらこの人たち死んじゃうし。

……仕方ない。これも人命救助だと思って、腹をくくろう。

「あの、えと」

「いかがでしょう、大隊長殿。我ら、剣道の心得もあるのです。戦闘技術においてはご安心いただけるかと」

「もっと、殺す気で、やってください」

「!?」

:お、お嬢……?

:お嬢は血を望んでいらっしゃる……

:やれと!? やれと言うのか!?

:慈悲の心とかないんか……?

彼らに足りないのは、殺意だ。

相手に痛い思いをさせたくないという優しさは、救命士としては立派なものだと思う。だけど、その優しさも今だけは捨ててほしかった。

頭の中で言葉をまとめる。一呼吸おいてから、私はゆっくりと話しはじめた。

「探索者に、必要なのは、魔物を殺す剣です。そして魔物も、探索者を殺すため、命の限りを振り絞ります。戦いは、一礼をする前に始まりますし、相手が死ぬまで終わりません」

「ですが、その……」

「訓練で、できないことが、実戦でできますか?」

そう聞くと、隊長さんは口をつぐんだ。

「それとも。人間相手だと、やりづらいのなら、本物の魔物を相手に、やってみます?」

私としてはそれでもいい。

というかそっちが正攻法だ。私たち探索者は、誰だって実戦の中で腕を磨いてきた。

死力を尽くした戦いに勝る経験値はない。覚えなければ生き残れないというシチュエーションこそが、最高の教材なのだから。

「大隊長殿の、ご指示に従います……」

「本当に、殺さないように。それだけ、気をつけてください」

「了……ッ!」

……よし。

内心胸をなでおろす。私にしては、うまく言えたんじゃないか。

:スパルタだぁ……

:いやまあ、いきなり実戦に放り込むよりは優しいか?

:優しい(探索者基準)

:お嬢見てると感覚バグるけど、常に命の危険に晒される仕事なんだよね

:俺、やっぱり探索者になるのやめようかな……

:探索者志望はマジでよく考えた方がいい

そして始まった二戦目は、さっきとは打って変わって荒々しいものだった。

戦いは礼もなく始まって、二人の隊員は獣のように命と命を削りあう。振るわれる木刀の切っ先は、うっすらとした殺意を帯びていた。

まだまだ実戦の緊張感には程遠いし、太刀筋も命を奪うために最適化されていないけれど、さっきよりはずっといい。これならまだ見れる戦いだ。

負傷した隊員を治療したり、適宜アドバイスを挟んだりしつつ、彼らの訓練にしばらくつきあう。

そんな時、ふと、視線を感じた。

「じー……」

テントの隅っこに身を隠しつつ、こちらを観察している一人の少女。

黒い帽子と黒いローブを身にまとった、黒尽くめの女の子。

「じー…………」

それは今朝、森の中で見たあの少女だった。

「……?」

「わ、やべやべ」

目を向けると、少女は慌てて逃げていく。

……なんだろう。何か、私に用でもあるのかな。