軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【お知らせ】楓ちゃん入荷未定です。

#8 きょうもへいわだといいな

「はじめます」

配信をつける。今日もやっていこう。

今日はとりあえず迷宮二層から。二層は比較的浅めの層ながら初見殺しの罠が多く、救助要請がよく来る場所だ。最近、特に目的がない時は、とりあえずこの層をうろつくようにしている。

:お、はじまった

:お嬢やっほー

:今日はお嬢の日かぁ

:楓ちゃんはどこ……?

:楓ちゃんにまた会いたい

:どこ行っちゃったの楓ちゃん

:そろそろ諦めろお前ら

:楓ちゃんはあの日以来一度も姿を見せていない、あれは一夜の幻だったんだ

:幻じゃない! 楓ちゃんは本当にいるんだ!

なんか、また変なリスナー増えたなぁ……。

ちょっと前に三鷹さんと一緒に配信をして以来、楓ちゃんなる謎の生き物を追い求めるリスナーが一定数発生した。たぶん、UMAハンターかなにかだと思う。

おじさんにドMにUMAハンター。日に日に混沌としていくリスナーたちに、私は一種の諦めを覚えつつあった。

:今日は何するの?

:おもむろに二層を探索しはじめたけど

:きっといつも通りの配信なんやろなぁ

うん。今日もいつも通りだ。

気の向くままに探索しつつ、救助要請があったら対応する。何の変哲もない、いつもと同じ配信風景。

そう、今日は普段通りの一日だ。おかしなことはなんにもない。

:お嬢、俺らになんか報告することない?

:言わなきゃいけないことがあるんじゃないですか

「うー……」

どうだったっけ。そんなこと、あったような、なかったような。

……なかったような、気がするんだけど。

:あ、迷ってる

:さては言わない気か?

:さっさとゲロれ

:ネタは挙がってんだよ

:言わないと三鷹さんに怒られるよ

いや、まあ、その。あると言えば、あるんだけど。

でも別に、ぜんぜん大したことじゃないというか。強いて言うようなことでもないというか。私的には、さらっと流してしまいたいというか……。

「え、と。その、えっと……」

一応、カメラを自分に向けてみる。

たしかに報告と言えば報告だし、きちんと話すのが筋だし、三鷹さんに「配信上でも伝えてあげてくださいね」って言われてたし……。

そんなことを内心でもごもごと思い浮かべながら、私は小声でつぶやいた。

「……収益化、通りました」

:おめでとうお嬢

:言えたじゃねえか……

:知ってた

:日療の公式SNSで告知されてたね

:お嬢もさっさとSNSのアカウント作れ定期

あ、ありがとう、だけど。

やっぱり、私としてはどうしても気が引けてしまう。本当にいいんだろうか。収益化が通ったからって、私に配信者っぽいことができないことは、何も変わらないんだけど……。

:でも、サブスクだけで投げ銭はできないんだよね

:現制度の致命的な欠陥

:お嬢の活動を支援できるようになっただけ進歩ではあるが

:お嬢にいいもの食べさせるためのお金はどこに振り込めばいいですか……?

「投げ銭は、日療の募金箱にお願いします……」

:俺らはお嬢に投げたいんだよぉ!

:うちの親戚の娘、お小遣い受け取ってくれないんだけど

:出たなおじリス

:サブスクだけで我慢しろ

:お嬢の決定に歯向かうことは許されぬ……

なんと言われても、私は投げ銭を受け付ける気はなかった。

だって私、たぶんあんまりお礼とか言えないから。だったらそもそも受け取るべきじゃないと思う。

そこが私の妥協点だ。これ以上はちょっと勘弁してほしい。

というか、ですね。

「もう、お金の話やめない……?」

:泣きそうになってて草

:そんなにダメかー

:探索以外のことになると本当にポンなんだから

:わかったわかった、俺らが悪かった

:はいはい終わり終わり

:もうしないからね、ごめんねお嬢

人間にはできることとできないことがある。私の場合は、これがそれ。

そんなこんなで二層を探索しつつ、舞い込んだ救助要請に対応して、一息ついた時のこと。

「白石くん。少しいいか」

真堂さんからの着信が入った。

「え、はい。なんですか?」

「ああ、まあ。調子でも聞こうと思ってな」

「……えと。何か、まずかったですか?」

「そういうわけではないんだが……」

さっきの救助対応で何か失敗しただろうか。そう思って聞き返すと、真堂さんは少し言いづらそうにしていた。

「いや、今話すことでもない。悪い、また後でかけ直す」

「え、あ、はい」

:真堂さんからの電話?

:俺らには聞かせられない感じのやつかな

:お嬢、一旦配信ミュートにして真堂さんと話してきな

:俺らはお嬢の後ろ頭見てるから

う、うん。そっか。じゃあ、そうしよっかな。

配信設定をいじって、一旦すべての音声をミュートにする。これで、私の声は配信に載らなくなった。

「ミュートにしました」

「すまない。本当に後でもよかったんだが」

一拍置いて、真堂さんは続ける。

「最近、三鷹のやつにつきあわされているだろう。なにか困ってたりはしないか?」

「……真堂さん。悪いものとか、食べました?」

「どういう意味だ」

「すみません」

また説教でもされるのかと思ったら、普通の心配が飛んできた。

この人に気遣いされるなんて、一体どういう風の吹き回しだろう。いや、いい人ではあるんだけど。

「大丈夫、です。収益化のことは、驚きましたけど」

「そうか、ならいいんだが。あいつはあれで強引なところがあるからな。嫌な思いをしていないかと思って聞いた」

「三鷹さん、いい人ですよ?」

「む……」

そう答えると、真堂さんは困ったように唸る。

「これは個人的なアドバイスであって、聞き流してくれても構わないのだが……。あいつのことは、あまり信用しないほうがいい」

「……? なんで、ですか?」

「誤解のないように言っておくが、三鷹は決して悪い人間ではない。むしろ彼女は善人だ。だが、あいつは少し出来すぎる」

「えと、どういう意味ですか?」

「過ぎたるものは時として毒となる。特に君は、苦手なものが多いだろう」

……?

言っている意味がよくわからない。出来すぎるとダメなのだろうか。あの人はいい人だと思うんだけど。

「三鷹のことは信頼していい。だが、信用はするな。きちんと気をつけないと一杯食わされるぞ」

「え、と……?」

「……まあ、悪いようにはならないはずだ」

真堂さんはそう忠告する。

しかし、彼が一体何を気にしているのか、私にはよくわからなかった。