軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白石楓救助(?)計画

#29-EX 作戦会議中だからちょっとまってね(蒼灯すず)

何やってんだあの人。

というのが、話を聞いた感想だった。

「……以上が状況になる。質問はあるか」

「では、一言よろしいでしょうか」

ラップトップに映った真堂の説明を聞いて、蒼灯すずは口を挟む。

「真堂さんがついておきながら、なんでそうなるんですか」

「俺か。俺が悪いのか」

「ちゃんと見ていてくださいよ。保護者でしょうに」

「保護者ではない」

迷宮四層のオアシスに設立された調査キャンプの、日療テントにて。真堂は有志の探索者を集めて、白石楓の救助計画を立案していた。

と言っても、いつかの呪禍対策のように張り詰めたものではない。命に関わる状況のはずなのに、その当事者が白石楓だというだけで、会議はほとんど茶番めいている。

「それで。私たちでいいんですね」

「ああ、すまんな。本来なら日療から人を出すのが筋なんだが、君たちの手を借りたほうが良いと踏んだ」

蒼灯すずは日療の救助協力者ではない。

この頃は四層の探索に集中していたので、救助者としては登録していない。今回の救助作戦には、真堂からの要請を受けて参加した。

「いいですよ。あの子のことなら、私たちにとっても人ごとじゃないですし。ですよね、井口」

「無論だ。彼女には借りもある」

「そう言ってくれると助かる」

蒼灯すずと井口桃子。少し前に結成した、四層攻略パーティだ。

結成からまだ間もないが、四層の探索を精力的に行っていて、そのほとんどを成功させている。

その功績が認められて、今回の古代遺跡調査にもEXプロダクションを通じて招聘されていた。

「まず蒼灯くん、君が救助隊のリーダーだ。遺跡内の状況はほとんどわかっておらず、臨機応変な対応が求められるだろう。君ならば柔軟に対処してくれると期待している」

「まあ、そういうのは得意ですけど」

コミュ力ばかりが目立っているが、蒼灯の武器は柔軟性だ。

何かと機転が利いて、状況を変える一手を見いだせる。純粋な戦闘力はやや欠けるが、それ以外の部分で高く評価されているのが蒼灯すずという探索者だった。

「そして、井口くん。遺跡内では魔物との突発的な戦闘もあるだろうが、ベテランの井口くんがいれば心強い」

「それは構わないが……。一つ提案がある」

「ああ、なんだろうか」

「共に救助作戦を遂行するにあたって、余計なわだかまりがあっては差し支える。親睦を深めるためにも、ここは桃ちゃんと」

「真堂さん、無視してもらって大丈夫です。続けてください」

「む……」

蒼灯は相方の横腹を小突く。真堂さん相手にもいつものをやるのかと思っていたら、案の定これだった。

まあ、いい加減な女ではあるがこれでも大御所だ。戦闘力なら蒼灯の一枚も二枚も上を行く。役には立つはずだ。

「次に、七瀬くん」

「はい」

七瀬と呼ばれた少女が緊張気味に返事をする。

白石と同じく、白衣に真紅の腕章をつけた少女だ。右手にだけ黒い手袋をつけていて、話によればあの下は義手だとか。

「君の担当は後方支援だ。必要に応じて、遠隔回復魔法で蒼灯くんたちをサポートしてほしい」

「承知しました。ただ、遠隔魔法には精密な座標指定が必要です。蒼灯さん、これを持っていってください」

そう言って手渡されたのは、楕円形の座標トラッカーだ。

七瀬杏。二層キャンプでの一件の後、日本赤療字社に所属したヒーラーだ。

探索者としては三層クラスと聞いたが、数名の探索者に護衛されてこのキャンプまで来ていた。

「お久しぶりですね、七瀬さん。今回もよろしくお願いします」

「……よろしくお願いします」

蒼灯が挨拶をすると、七瀬は控えめに頷いた。

彼女と話したのはこれが初めてではない。迷宮二層のキャンプ場でも、一言二言言葉を交わしたことがある。

控えめでおとなしい人、というのが彼女に対する印象だ。回復魔法という特異な力を持っていながら、偉ぶるところが一つもない。あのキャンプ場でも、多くを語らず進んで力を貸してくれた姿はよく覚えている。

なお、実際のところ七瀬は控えめでも大人しくもない。蒼灯すずという人気者が苦手なので、一歩引いているだけだったりする。

「それと、例の彼女はどうした?」

「ああ、あの子ならそろそろ来ると思いますけど」

真堂の質問に蒼灯が答える。

蒼灯のパーティの三人目。気まぐれな少女ではあるが、先ほど連絡を取った感じでは、おそらく来るだろう。

「よーっす。ここかー?」

噂をすれば影がさす。テントの入り口を開けて、黒いローブの少女がひょっこりと顔を出した。

「遅刻ですよ」

「あちーんだよ、ここ。来てやっただけ感謝しろ」

文句を言いながらテントの椅子に陣取って、備え付けの扇風機にスイッチを入れる。

ぶんぶん回るファンに金の髪をぶわっと広げながら、少女は顔だけを蒼灯に向けた。

「んで。楓が迷子になったって?」

彼女の名前はルリリス・ノワール。人間に友好的な、元六層の魔物だ。

「ルリリスくんは迷宮の深層に詳しい。未知の遺跡を探索する上で、その知識はきっと役に立つはずだ」

「真面目にやってくれたら、ですけどね」

「なんだよすず。あたしに不満でもあんのか」

高い能力を持つ少女ではあるが、何かと気まぐれだ。

気が乗らないからと手を抜くことも、楽しそうだからと独断専行をすることもしょっちゅうだった。

「そう心配するな。ちゃんとやってくれるさ、なあルリリス」

「んだよ桃子。お前もいんのかよ」

「そうら、ちゃんと来たご褒美にキャンディーをあげよう。なんと今日は塩レモン味だ。ジュースもあるぞ」

「お、マジ? さんきゅー」

蒼灯が苦労している一方で、井口はお菓子でこの少女を懐柔していた。ちゃっかり塩分と水分まで補給させている。

そういえばお子様の扱いとか上手いタイプだったなと、そんなことを思い出す。何かとダメな先輩の数少ない長所だった。

「それで、作戦は?」

テントの片隅で、悪い大人がお子様を構いはじめる。

せめて自分は真面目にやろうと、蒼灯は先を促した。

「遺跡の内部構造は不明だが、白石くんの大体の位置はわかっている。七瀬くん、地図を出してくれるか」

「はい」

七瀬がラップトップを操作すると、真堂の顔が横にずれて、遺跡のスキャンマップが画面に表示される。

円筒にも三角フラスコのようにも見える遺跡の下の方に、大きな魔力反応が一つ灯っていた。

「君たちは上層部から侵入して、マッピングをしながら白石くんとの合流を目指してくれ」

「結構深いですね……」

「ここまで行く必要はない。白石くんにも上を目指してもらっているから、おそらく途中で出会えるはずだ」

話している間にも、魔力反応はゆっくりと動いている。白石が移動しているのだ。

「注意事項がいくつかある。まず一つ、不要な戦闘は避けろ。すべての魔物を倒す必要はないし、隅々まで探索する必要もない。要救助者と合流し、無事に帰還すれば任務完了だ」

言われるまでもないことだが、蒼灯は軽く頷いた。

「二つ、慎重かつ迅速に進め。時間が経つほど不測の事態も増える。焦る必要はないが、手早く確実に終わらせろ」

これも蒼灯にとっては当たり前のことだ。救助が早いに越したことはない。

「最後に、安全第一だ。君らが無事でなければ元も子もない。探索に不安を感じたらすぐにでも引き返すように」

一連の注意事項は、何度も言い慣れたかのように淀みないものだった。

おそらく何度も言ってきたのだろう。新しく救助協力者を迎える、そのたびに。

「引き返しちゃっていいんですか? 助けられませんよ?」

試しにと、意地悪な質問をしてみる。やはり真堂は用意してあった答えを返した。

「問題ない。ただ次の手を打つだけだ」

「打てなかったら?」

「その場合でも君に責はない。だから、気にするな」

責任がどうこうだけで割り切れるほど、人間ってやつは冷たくない。救助を志す人間なんか特にそうだ。

もしそうなった時、引き返せる自信は蒼灯にはなかった。

「難しいことを言いますね」

「ああ。実際のところ、それが一番難しい」

蒼灯にとってはもしもの話だ。もしも救助に失敗したらなんていう、ただの仮定。

しかしこの人にとっては、何度もあったことなのかもしれない。彼の言葉にはそれだけの実感があった。

「全てを自分たちで背負う必要はない。難しい判断があればこちらに投げてくれ」

「探索は私もサポートします。回復支援が必要であれば、遠慮なく言ってください」

真堂の言葉を七瀬が補足する。

探索者は何があっても自己責任。それが常識だっただけに、このサポート体制には面食らう。

「……なるほど。救助協力者って、こんな感じなんですね」

蒼灯の知る限り、日本赤療字社も最初からこうだったわけではない。

以前の救助活動と言えば、一人のエースが何もかもを解決する力任せなものだった。しかし、いつまでもそのままってわけでもないらしい。

「任務、拝命しました。迷子を迎えに行ってきます」

彼らが培ってきたものが垣間見えた気がして、蒼灯は今一度気を引き締めた。