軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

迷宮四層古代遺跡調査計画

迷宮内で見つかった文明の痕跡には、実を言うと前例がある。

これまでにも、迷宮の各層で文明の痕跡らしきものはちょこちょこと見つかっている。何らかの器具とか、古い祠とか、船の残骸とか、そういうものだ。

それに加えて、迷宮六層なんか遺跡そのものだ。本格的な探索はできないが、ルリリスの証言も含めて考えると、高度な魔法文明が存在することは確実視されている。

今回見つかったのは、迷宮四層の古代遺跡。

調査可能な階層に、それほど大きなものが見つかるのは初めてのことだった。

「まずは発見の経緯から説明しよう」

日本赤療字社迷宮事業部、小会議室にて。

プロジェクターに資料を映しながら、真堂さんは説明を始めた。

「白石くん。最近、迷宮四層の砂漠化が加速していることは知っているか」

「え、はい」

その話なら知っている。結構有名な話だ。

迷宮四層は今も砂漠化が進行していて、その速度はだんだん上がっている。平均気温も徐々に上がってきているんだとか。

「四層の砂漠が広がったのはここ数百年ほどのことだ。地質学的にはごく最近と言える。そうなる前は四層にも海があったらしい」

「詳しいですね、真堂さん」

「ああ、個人的に興味があってな。ただ、迷宮内の環境が変わるのは珍しいことじゃない」

真堂さんの言う通り、迷宮というものは日々変化している。

環境が変わったり、生態系が変わったり、魔力濃度が上がったり下がったり。

最近だと、迷宮五層で寒冷化が進んだせいで、暖かい地方を目指して魔物たちが大移動する、なんてこともあった。

「砂漠化の中心を洗い出してみたところ、遺跡の入り口らしきものが見つかった。そこで今回、本格的な調査を行うという運びだ」

「えと、じゃあ。その遺跡が、砂漠化の原因、ってことですか?」

「かもしれないな。決めつけるのは早計だが、調べてみる価値は十分にある」

……?

真堂さんの説明ってこんな感じだったっけ。いつもはもっと、淡々としていたような。

「見つかったのは砂中に埋もれた遺跡の頂上部分だ。内部の状況は不明だが、砂が侵食を防いでくれていたのなら保存状態にも期待できる。外壁のスキャンデータもあるぞ」

プロジェクターに映されたのは、横から見た遺跡の全体像だ。

それは雑然と拡大してきた遺跡群ではなく、一つの施設だった。上から見れば円形だけど、横から見れば下側に向かって少し膨らんでいる。円筒と三角フラスコの、間の子みたいな形をしていた。

「なんだか……。きれいな形、してますね。特定の目的のために、作られた、みたいな」

「同感だ。住居群や都市遺跡のようには見えない。この遺跡にはなにかあるはずだ」

やっぱり、真堂さんの様子がちょっとおかしい。

いつもだったら、人命以外は興味ないぜ、みたいな感じの人なのに。今日はなんだか楽しそうな気がする。

「すでに先遣隊が入口を確保しているが、本格的な内部調査はキャンプを設立してからだ。君にはそのキャンプに滞在して、探索隊の治療や救助を担ってもらいたい」

「えと、じゃあ。私が、中を調べる、わけではないと」

「ああ、内部の探索は他の探索者たちが行う予定だ。だが、救助活動の一環として中に踏み入ることもあるだろう。せっかくの機会だ、気になるものがあれば見ていってくれても構わない」

これにはさすがに驚いた。あの真堂さんが、自分から脱線を促すなんて……!

この人だったら、「ほどほどにしとけ」なんてことを言いそうなものだけど。今日は一体どうしたのだろう。

「以上が概要となる。質問はあるか?」

「えと、じゃあ」

気になることは色々あるけれど、私には真っ先に聞かなければならないことがある。

「真堂さんって、こういうの、好きなんですか?」

「ふくっ」

実はこの場に同席していた三鷹さんが、声を殺して笑い出した。

「白石くん……。君な。今の話を聞いて、気になるところがそこか」

「えと……。はい」

だって、気になっちゃったし……。

盛大に呆れつつも、目線を逸らして真堂さんは答えた。

「……まあ、嫌いではないと言っておく」

うん、そっか。そうなんだ。

私も好きだよ、こういうの。古代遺跡とか、迷宮に隠された謎とか、わくわくするし。

「真堂さん。私、がんばります」

「……ああ、よろしく頼む」

それじゃ、今回のお仕事もがんばろう。

真堂さんのためにも、面白いものをいっぱい撮らなきゃ。

*****

#29 やるぞー!

なんて話をしたのが、ちょっと前のこと。

あれから私は長期遠征用の支度を整えて、四層のオアシスに設立されたキャンプに合流して。

調査チームの人たちに挨拶(と言っても、一言二言話しただけだけど)をして、自分の拠点となる日療テントを建てて。

ちょっとだけ暇な時間があったから。

「でっか」

:でけー

:すごーい

:わー

:うひょー

遺跡の下見に来たのであった。

件の古代遺跡は砂漠のど真ん中に埋もれていた。掘り起こされたのはその頂上部分だけ。露出しているのはほんの一部という話だったが、それにしたってとんでもない大きさだ。

資料によれば、直径約四十メートル。そう言われてもピンと来なかったけれど、実際に目にするとサッカースタジアムほどの大きさがある。

「ふむ……。やはり状態がいい。これは期待できそうだ」

「ですね。行きましょう」

インカムに真堂さんからの通信が入る。それに答えて、遺跡の周りを足早に歩き始めた。

露出している上部二メートルくらいを、ぐるっと回る。何の変哲もないただの外壁だけど、見ているだけでもわくわくとした。

「真堂さん。見たいところ、あったら、教えて下さい」

「いや、君の自由にやってくれれば――。ちょっと待て。そこの外壁、映せるか?」

「ほら。あるじゃ、ないですか」

:真堂さん……w

:真堂さんも興味津々です

:これもう実質コラボだろ

:頼むお嬢、真堂さんの声配信に載せてくれないか?

おっけー、任せとけ。

ドローンカメラを操作するついでに、真堂さんの声を配信に載せる。さすがに業務連絡とかはダメだけど、こういう時ならいいだろう。

「アスファルトに似た材質と聞いていたが、思った以上に均質だな……。これを作った奴らには、少なくともこの程度の技術力はあったらしい」

「ピラミッドより、すごそうです」

「比べられるものではないさ。あれはあれで素晴らしいものだ」

:へー?

:古代文明じゃないってこと?

:どんな人たちが作ったんだろ、これ

:そもそも人が作ったものなのか?

:現代日本より技術力があったりしてね

:まっさかぁ

そんな調子で周りをゆっくり見ていると、入り口らしき箇所に出くわした。

遺跡上部の外壁が崩れてできた、荒々しい大穴だ。人が三人並んで通れるくらいの大きさがある。

「荒っぽいな……」

インカム越しに、真堂さんはそう呟く。

「入り口、というより。侵入口、みたいですね?」

「ああ、正規のものではなさそうだ。探索者の誰かが開けたのか?」

「えと……。どうでしょう。私たちの行動は、記録に、残りますから」

「そうか、そうだったな。となると……」

入り口の側まで行ってみる。中の探索はまだ許可されていないから、近づいていいのはここまでだ。

「自然の侵食によるものか、魔物がこじ開けたか。あるいは……」

「……ん?」

じっと見ていたら、何か違和感のようなものを覚えた。

物理的なものじゃない。なんと言い表していいのかわからないけれど、魔法的な違和感だ。

「んー……?」

違和感があったのは、遺跡に入ってすぐのところだ。崩れた外壁の近くに、魔力の淀みのようなものができている。

これは……。魔法術式だろうか?

:あの、お嬢?

:勝手に中入っていいの?

:変なことすると怒られるよ

「おい、白石くん。まだ中には――」

ちょっとだけ遺跡に入って、魔力の淀みに触れてみる。

すっと、指先から、魔力が抜かれるような感覚がして。

「あ」

一瞬の閃光が視界を埋める。

自分と世界の境界が、溶けるように消えていく。

こんな不思議な感覚には、どこかで覚えがあった。

あれは、そう。転移魔法陣だ。

「やっべ」

少しして、私が世界に戻ってくる。やっちまった、という顔をして。

とりあえず状況を確認しようと、ドローンカメラを操作してライトをつける。

いつの間にか、狭くて暗い空間に私はいた。

横幅は人が数人通れるくらいで、縦幅は闇の中へどこまでも伸びている。壁も床も整然としていて、洞窟というより廊下のようだ。

当然だけど、何一つとして見覚えがない。

「……ここ、どこ?」

:お、お嬢……?

:なにしてんねんお嬢

:勝手に変なもん触るからー

:どこだここ、建物の中?

:遺跡内部じゃないかなぁ……

そう言えば、迷宮の奥深くには人を転移させる罠もあったっけ、と。

そんなことを、今さらになって思い出していた。