軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

伝説の白石さん。

#28 やるかー

今後、基本的には無線チャンネルに入るようにしてくださいと、三鷹さんには言われたけれど。

定期的に飛び交う無線連絡に、私はちょっと難しい顔をしていた。

「むー……」

:お嬢どうした?

:なんか困った顔してるけど

:ぽんぽん痛い?

いや、えと。そういうわけじゃなくて。

……耳元で知らない人の声がするの。なんかちょっと、苦手だなって。

「へーき」

まあ、真堂さんの声だってしばらく聞いたら慣れたんだ。これだって、そのうち慣れるだろう。

とりあえずスマホを開いて、無線アプリの音量を下げようとする。急に声がしてもびっくりしないくらいに。

「あの、白石さんっ!」

「わ」

そんな矢先に呼びかけられて、あやうくスマホを取り落としそうになった。

「え、あ、はい。私、ですか……?」

「はい! 今って救助対応中ですよね? もしよかったら、お手伝いさせてもらえないでしょうか!」

「え、え、え」

知らない人の声だった。そんなことを急に言われても、私としてはわけがわからなくなってしまう。

:花岸さんだ

:知ってる人?

:お嬢と関わりはなかったかな

:ラクロス女子日本代表の元候補生で、切れ味のあるロールダッジが得意技

:なんかすげー情報でてきた

:相当コアなラクロスファンいるな

リスナーたちのコメントを読んで、ちょっとだけ落ち着きを取り戻す。

一回、深呼吸しよう。大丈夫、大丈夫だ。私はちゃんと、うまく喋れる。

……はず。たぶん。

「え、えと、その」

「決してお邪魔はしません。ご迷惑でしたら、見学だけでもさせてください!」

「いや、その……」

どう答えたものかと悩んで、周りを見渡す。

ここは迷宮四層、砂漠迷宮サンドミラージュ。

焼けた砂の上に、大サソリの死骸がごろごろと転がっていた。

「もう、終わっちゃいました」

「……へ?」

今回の救助は、サソリの縄張りに迷い込んだ探索者の救出。

大サソリの群れは始末したし、幸いにも探索者にも大きな怪我はなかった。手助けも何も、状況はすでに終了している。

「えと……。アーカイブで、よければ。好きに、見てください」

「あ……。ありがとうございますっ!」

:き、気まずい……

:一旦コミュニケーション失敗か

:まあ、お嬢は悪くないから……

:救助が速いのはいいことなんよ、普通は

……今のはたぶん、絡んでみませんか、というお誘いだ。

嘘のつき方を覚えてから、少しだけわかったことがある。人には本音と建前ってやつがあるらしい。

「あ、でも、えと。サソリ、だったので」

それに、わかるようになったのはそれだけじゃない。

私に得意不得意があるように、人にだって苦手なものがある。

「もし、虫とか、苦手だったら。気を付けて、ください」

:お嬢……!

:お、お嬢が気を使った!?

:蜘蛛の内臓を平気でぶちまけるお嬢が!?

:グロめの傷口でも容赦なく映す、あのお嬢が……!?

:落ち着けお前ら、気を使われたのは花岸さんであって俺らじゃないぞ

:俺らには今も見えてるんよね、おびただしい数のサソリの死骸が

:言わないで、あんまり画面見ないようにしてるんだから

「……! ありがとうございますっ! 大丈夫です!」

無線越しに、元気な返事が飛んでくる。

ふうと一息。私にしては、うまくやれたんじゃないか。

そんな風に安堵していたら、無線に音質悪めの声がいくつか入ってきた。

「だからやめとけって言ったろ。困らせるだけだって」

「でもさー、白石さんとも仲良くしたいじゃん?」

「あの、花岸さん。まだ無線に音入ってますよ?」

「わ、まっず!」

ばたばたする音がして、それから無線に静寂が戻ってきた。

苦笑しながら、今度こそ無線の音量を落とす。最後のは、まあ、聞かなかったことにしておこう。

:頑張れ花岸さん、お嬢のガードは固いぞー

:でも花岸さんには切れ味のあるロールダッジがあるから

:その情報生かされることあるんだ

:ロールダッジってなんですか?

:クロスを守るように回転して、相手をかわすダッジだよ

:く、クロスってなんですか……?

リスナーたちのラクロス談義を眺めながら、私は探索に戻った。

防塵スカーフを巻き直して、さくさくと砂を踏む。

砂漠に生きる魔物たちは、何よりもその強靭さを武器とする。照りつける日差しも相まって、人が生きるには厳しい世界だと評されることもある。

だからここは、難しい場所ではあるのだけど。

「んー……」

砂の中を泳ぐ魚の群れ。そいつらの砂中からの飛びかかりを、体をそらして回避する。

返す刀で一太刀浴びせる。二匹、三匹と続けざまに対処すると、剣を振った数だけ死体が散らばる。

複数体同時に飛びかかられても、特に問題はなく。剣を鞘に収めた時には、砂上には断ち切られた魚たちがばらばらと散っていた。

「……ぬるい」

:物足りませんか

:強キャラかな?

:四層魔物の群れに襲われてその感想が出るか

:今のだって楽な相手じゃないんですよお嬢

そんなこと言われても、ぬるいものはぬるいし。

風研ぎも使わずに倒せる程度の魔物じゃ、正直物足りないっていうか。できればもっと強い敵と戦いたいっていうか。

……この前戦った大海龍とか、あれくらいの魔物が来てくれたら、楽しめそうなんだけどなぁ。

砂漠のアイドルことジャイアントデスワームさんでも探そうかな、と思いつつ探索を続ける。そんな時、白衣のポケットがぴるぴると震えた。

電話をかけてきたのは、真堂さんだ。

「白石くん。今いいか」

この人との電話も、以前は何かと緊張したものだけど、今ではすっかり慣れたものだった。

「迷宮から上がったら事業部に来てほしい。君に話したいことがある」

「え、お説教、ですか?」

「違う」

なんだ……。お説教じゃないのか。ちょっと残念。

「話したいのは次の特殊任務のことだ。本件も君に任せたいと考えている」

「……また、水着だったり、します?」

「違う。これは真っ当な任務だ、保証する」

ならいいけどさぁ……。

先日、特殊任務という名目で水着を着せられたこと、実はちょっと根に持っているのだ。

結果的にいい思い出にはなったけど、またやれと言われてもあんまり気は進まない。

「さわりだけ説明しておこう。先日、迷宮四層に新たな探索スポットが見つかった。そこでいくつかの探索者事務所が共同で大規模な探索計画を立てようとしていて、我々にも救護要員として声がかかった」

「なるほど……?」

見ての通り、四層は過酷な砂漠だ。長期での探索となると探索者も疲弊するし、未知の探索スポットなら探索そのものも手探りになる。

きっと危険がたくさんある。救助要請も多く出るだろう。

ちょうどいいや。普通の探索じゃ、物足りないと思ってたんだ。

「えと。どういう、場所ですか?」

「聞いて驚くなよ」

真堂さんにしては、珍しく楽しそうな口ぶりだった。

「古代遺跡。かつて滅んだ、迷宮文明の残骸だ」