作品タイトル不明
†雀卓の魔術師†
それから少しして。
「リーチ一発ツモ平和。二千六百点オールです」
山田はツモったアガリ牌を、パシンとテーブルに叩きつけた。
「うわ、はっや!」
「山田ちゃん強くない!?」
「へへへ……。伊達に運だけで生き残ってきたわけじゃねえですよ……」
点数を精算してから、彼女たちはじゃらじゃらと牌をかき混ぜはじめる。山田はこれで、三回目の親番だった。
:何やってんだあいつら……
:麻雀でしょ
:それはそうだけど
:七瀬、実況してくれよ
「やだよ。なんでだよ」
リスナーのコメントをあしらって、参考書のページをめくる。
救助要請がなくて暇な時、私は勉強することにしているのだけど、こうしてテントで暇を潰しているやつもいるっちゃいる。
それにしたって麻雀か。わざわざ卓まで持ち込んで、よくやるものだ。
「へーい、ななちー?」
山田と同卓している少女が顔を向ける。花岸さんだ。
「ななちー。今暇っしょ?」
「暇っちゃ暇だけど」
「席空いてるぜっ」
「仕事中だってば」
「いーじゃんいーじゃん。ちょっとだけだって」
花岸さんは立ち上がって、私の手を取って強引に席に座らせる。
にこにこ微笑む花岸さん。ちょっと申し訳なさそうな、花岸さんの相方の清水さん。そして、カモが来たぞと舌なめずりする山田。
:真面目に勉強する子を遊びに連れ出す陽キャだ……
:いい友達じゃん
:やろうよ七瀬、面白そう
:勉強ばっかしてないでもっと悪い遊びを覚えろ七瀬
……まあ、いいか。どうせ集中切れちゃったし。
「ちょっとだけね」
「さんきゅー! 一緒に山田ちゃん止めようぜ!」
「やれるもんならやってみやがれ、ですよ……!」
全自動卓から山がせり上がる。 手元の牌を整理(理牌) していると、花岸さんが声をかけた。
「あ、ななちー。ルールとかわかる? 教えよっか?」
「いや、大丈夫」
さっきまでの戦況を聞いていた感じ、山田は運任せの強気の打ち回しだ。アガリは早いが、その分だけ隙も多い。
花岸さんは流れに従うオーソドックスなスタイル。清水さんはたぶん、ルールを知っているだけの初心者だ。
狩るんだったら山田かな。清水さん狙いは心苦しいし。
「久々だけど、大体わかるよ」
「昔やったことあるんだ?」
「うん。何箇所か出禁になった」
「え、出禁?」
一巡目。ツモった一索を手牌に加えて、風牌を切る。
まずは小手調べ。どんなもんか見せてもらおうか。
「荒らしすぎたんだよね、雀荘。二十連勝したらもう来るなって言われた」
「へ……!?」
吾輩は七瀬である。名前は杏。
かつての二つ名は、雀卓の魔術師だ。
*****
で。
:鬼だ
:鬼がいる
:容赦なさすぎる
:半荘も経たずに何もかも焼き尽くしやがった……
「いや……。ごめん。ここまでやる気はなかったんだけど」
南場二局目。大三元の直撃を食らった山田がトんで終局となったわけだが、他の人たちも惨憺たる状況だった。
花岸さんもついでにボコったのでほぼ瀕死。清水さんは意図して避けたけれど、流れ弾だけで半分は削れていた。
「なな、ちー……」
すっかり黒焦げになった花岸さんが、力なく親指を立てる。
「次は、トランプとかに、しようね……っ!」
そして花岸さんは雀卓に沈んだ。
山田はすでに消し炭だし、清水さんも戦意喪失。もう一戦やるかと目を向けると、涙目でぶんぶんと首を横に振っていた。
それじゃ、私の勝ちってことで。
:勝ってしまった……
:もう麻雀誘われることないんやろなぁ
:これは出禁になるのも納得
:おい七瀬、せっかくできた友だちを消し飛ばすな
:まあ、その、どんまい七瀬
なんでだろう。なんで勝ったのに、私が慰められているんだろう。
まあいいや、勝ちは勝ちだ。牌を片付けたら参考書に戻ろう。
そうして席を立った時。
「おはよう、です。出勤……しました」
無線に聞き慣れない声が一つ。それを聞いた花岸さんは、ぱっと起き上がって元気よく返事をした。
「おっはよー!」
「おはようございます」
「おざーっす」
「ちゃー」
「やー」
今ここにいない救助協力者も含めて、ほうぼうから挨拶が飛んでくる。救助者無線の風物詩だ。
「ねね、今の誰? 新人さん?」
「聞いたことない声だったね」
「多分そうじゃないですか?」
再起動した麻雀三人娘は、雀卓でそんなことを話しはじめる。
「ななちー。新人研修、うちらが行こっか?」
「……え?」
花岸さんの申し出を聞いて、私は目が点になった。
「新人ちゃんなら案内がいるっしょ? うちら暇だし、色々教えてくるよ」
「よかったら山田ちゃんも一緒に行く?」
「ああいえ、林檎は七瀬さんの護衛なので」
清水さんと山田もそんな話をしている。二人とも、気がついていないらしい。
「いや、新人って。お前らなぁ……」
「?」
説明しようかと思ったけれど、こうするほうが早そうだ。
私は無線のスイッチを入れて、彼女に挨拶を返した。
「おはようございます、白石さん」
「……ん。おはよ」
一瞬の静寂。それから、ポップコーンが弾けるように、三人娘が騒ぎ出す。
「え、ええ、白石さん!?」
「白石さんって、あの日療の白石さん!?」
「あの人って実在してたんですか!?」
そりゃ実在はしてるだろ。白石さんをなんだと思ってるんだ。
呪禍との戦いから一月ちょっと。我ら迷宮救助隊の始祖にして伝説が、ようやく戻ってきたらしい。
「言い忘れてたけど、白石さん、今日から復帰だってさ」
もしかすると、声音が弾んでいたかもしれない。
あの人の復帰を誰よりも心待ちにしていたのは、他でもない私なのだから。