軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

85 新たな仕事

【ヴィーロ・ドーン】【種族:人族♂】【ランク4】

【魔力値:172/220】30Up【体力値:283/320】10Up

【総合戦闘力:1056(身体強化中:1281)】156Up

ヴィーロもこの三年で戦闘力が上がってる。年齢からすると急激なステータスの伸びは難しいはずだから、主に伸びたのは魔術系か。

この数値なら衰弱してないオークソルジャーとも正面から戦えるはず。それ以上に、彼には長い戦闘の経験もあるから、今の私では まだ(・・) まともに勝つのは難しいか。

「…………」

私は黒いナイフを鞘に戻して腰の後ろに着けると、ガルバスに向き直って出来上がったペンデュラムの刃を手に取った。

「魔鉄と言っていたけど魔鋼になってるね。手入れは今までと変わらない?」

「おう、良い出来だろ? 鉄を鋼にするには黒鉛を少しだけ混ぜ込むんだが、魔鉄の場合はミスリルの粉を若干混ぜて魔鋼にする。この割合と混ぜ方が各工房の秘伝でな。下手な奴がやると、硬度は上がっても強度は下げることになる」

「おいっ? なんだよ、お前ら」

私に殺気を向けられたことで何やら弁明をしていたヴィーロが、呆気にとられたように私とガルバスを見る。

「さっきのは冗談。斥候の背後を取ろうとしたのだから、お相子でしょ?」

「ガハハハハッ、ヴィーロの小僧、弟子に一本取られたなっ! そんなだから、いつも女に騙されるんだっ」

「……いい加減、小僧は止めろよ、ガルバス」

酒を呑みながら膝を叩いて笑うガルバスに、ヴィーロが脱力したように近場の長椅子に腰を下ろした。ヴィーロ関係の仕事は結果的に厄介ごとにはなるが、それでも互いに相手を“売らない”程度の信頼はある。

それに彼はあの“組織”とは依頼主と冒険者の関係でしかなく、進んで弟子と敵対するような人間でもなかった。

若干恨みがましい目を私たちに向けながら、ヴィーロは眉間に皺を寄せるようにして溜息を吐く。

「それにしても、アリア。……外見もそうだが、たった三年で変わりすぎだろ。なんだその戦闘力は? ガキの強さじゃねぇぞ?」

「久しぶり。ヴィーロも少し強くなってる?」

外見が13~14歳になって、ガキと言われることはあっても、子供扱いされることは少なくなった。身体の厚みはともかく身長は大人の女性くらいに伸びている。

ヴィーロの戦闘力を見て私が素直な感想を漏らすと、何故か彼の頬がわずかに引きつった。

「おい、灰かぶり。その小僧はな、弟子に抜かれるんじゃないかと、魔術やら何やら、修行をし直していたんだぞ。実際、本当に抜かされそうになってるがなっ! ガハハハハハッ」

「そんなんじゃねぇって」

ヴィーロはジロリとガルバスを睨むと、そのまま視線を私へ向ける。

「お前が消えてからも色々あったんだよ。あの“組織”がお前を捜していたのも事実だが、セラやその息子はお前を心配していたぞ。

それからしばらくして『灰かぶり姫』なんて呼ばれる奴の噂を聞いた。暗殺者ギルドや盗賊ギルドと敵対しているとか、何処かの支部を潰したとか、ヤバい噂ばかりが聞こえてきた。

裏社会は広いようで狭いんだ。派手に動く奴ほど意外な場所で遭ったりするから、警戒するのは当たり前だろ? 裏社会を知っている人間ほど、あの二つのギルドと敵対なんて考えない。……まぁ、そんな無茶苦茶なことをするガキなんて、俺はお前以外に知らないけどなっ」

「……なるほどね」

盗賊ギルドがつけた“二つ名”のせいもあって、ヴィーロは私の生存をほぼ確信していたみたいだ。

彼も私を捜してはいたのだろうが、ヴィーロがここで私を見つけたのは偶然だと言っていた。彼がこの男爵領に来たのは冒険者としての仕事と、別の仕事に使えそうな物をガルバスに作ってもらうつもりだったそうだ。

その“別の仕事”とやらが、私に『個人的に頼みたい』ことか。

「ガルバス、ダガーの整備は明日には終わるんだよね?」

「そうだな。小僧の武器の手入れをしても、それまでに終わるな。それで投げナイフはどうする? 細いのなら十本はあるぞ?」

「うん、それでいい。明日になったら取りに来る」

私がガルバスにお願いすると、ペンデュラムの刃を受け取りヴィーロに向き直る。

「冒険者ギルドに行く用事があるから外で話そう」

ヴィーロと一緒にガルバスの所から出た私は、生存報告がてら雑貨屋のヴィクトルの所にも寄って中古の外套を買い、銀貨をいくらか渡してガルバスの所へ食事と酒を持っていってもらった。

黒いダガーの代金も受け取ってもらえなかったので、物で支払うことにしたんだけど……ヴィーロが魔石なんかの素材を持っていくのも同じ理由かな?

「冒険者ギルドに用事って、その袋か? 雑貨屋の爺さんに売らなかったのは、素材の収集依頼か?」

「まぁ、そんなところ」

さすがにオークジェネラルの魔石でもないと、各方面で色々と動いているギルドも困ると思う。

「まぁ、俺もギルドに呼ばれていたから丁度良かった」

「何をやらかしたの?」

「やってねぇよっ。なんでもこの領地に“重大な事件”が起きたらしくてな。ランク4以上のパーティーが見つかるまで、この俺様に指揮を執ってもらいたいんだと」

「へぇ……」

また何かあったのかな? それと“重大な事件”という言葉で、自分が狙われていることを思い出したので、念の為に忠告はしておく。

「ああ、それから、私と一緒にいると面倒になるかもしれないけど、ヴィーロなら平気だよね」

「……それは、俺の腕を信用してか? それとも、どうでもいい感じか?」

「両方」

ヴィーロなら巻き込まれても上手く立ち回ってくれるだろう。彼は私が裏社会のギルドに狙われていることを思い出したのか、私の言葉に顔を顰めた。

「まぁ、それについては俺からも話がある。俺の“手伝い”をすれば、完全に無くすのは無理だが、お前に手出ししにくい状況を作ってやる。どうだ?」

「……結局、何の仕事?」

ヴィーロは一度足を止めて真っ直ぐに私を見ると、珍しく真剣な顔で話し始めた。

「これはお前にも関係のあることだが、お前と連絡が取れなくても、俺ともう一人でやるつもりでいた。俺ともう一人でもギリギリだが、お前がサポートに付けば成功率は上がるだろう。いいかアリア、今回の仕事は――」

「………………」

……やっぱり“厄介ごと”じゃないか。ヴィーロからその“仕事内容”を聞いて、絶対に断ることはできないと、私はこっそりと溜息を漏らした。

冒険者ギルドに到着すると、以前よりも緊張感が漂い、不安そうな顔をしている冒険者も多かった。その中でカウンターにいるあの受付嬢を見つけると、彼女も私に気づいて立ち上がるようにして手を振ってきた。

「アリアさん、お帰りなさいっ。よく無事に戻りましたね。……あら、あなた。いたんですか」

「ずっとコイツの隣に居ただろっ!?」

受付嬢が私に向けていた笑顔を一瞬でしかめっ面にすると、ヴィーロが身を乗り出して抗議する。

「まぁ、いい。俺はダンドールのギルドから要請を受けた『虹色の剣』のヴィーロだ。ここの支部長から聞いてないか?」

「あなたが…っ!? ……人は見かけによりませんね」

「相変わらず、ひでぇなっ」

「それでしたら……アリアさん、現地の様子はいかがでした? 重要な情報があるのなら、支部長に報告いたしますが」

「うん。オークの上位種はもう居なくなった」

「……はい?」

受付嬢の表情が営業用のままで固まり、ヴィーロの首が錆びた歯車のように動いてマジマジと私を見た。

……ああ、そうか。ヴィーロが言う“重大事件”とはオークのことだったのか。もう終わった気がしていたので気にしてもいなかった。そんな風に考えていると、ロビーにいた冒険者たちの中から顔見知りが私を見つけて駆け寄ってくる。

「アリアっ!」

「無事だったのねっ、良かった」

その二人はスラムの孤児だったジルとシュリだった。二人は私の無事を喜んでくれるのと同時に、隠しきれない不安そうな顔を見せていた。

「それで町はどうなったんだっ!?」

「……このおじさん、アリアのお父さん? 似てないけど」

「だから、俺はまだ三十八だと……」

だから、私のお父さんより年上だ。

「もうあの町に脅威はない」

「え……」

意味が分からず首を傾げるジルに、受付嬢もカウンターから身を乗り出してきた。

「それはどういう意味でしょうか? オークジェネラルが何処かに移動したと?」

「これを持ってきた。確認してほしい」

私が毛皮のズダ袋をカウンターの上に置くと、散らばる大量の魔石と、握り拳ほどもあるオークジェネラルの魔石に全員が目を見開いた。

その中でヴィーロがその魔石を取ってジッと観察する。

「アリア……これ、オークジェネラルの魔石じゃねぇかっ!」

「えええっ!? ちょっと、じゃあ、こっちの大きいのはオークソルジャーっ!? それとオーク五十体分っ!?」

どうやら魔石に残る魔力を【鑑定】することで、それが何の魔石か分かるらしい。

鑑定は生物だけじゃないんだね……魔石の鑑定を始めた大人二人はよほど衝撃的だったのか、大きくなった二人の声にギルド中からざわめきが聞こえてきた。

……面倒になった。

「真偽は勝手に調べて。数日もすれば町から報告も届くと思う。魔石の買い取りはしてもらえるの?」

私が淡々と告げると、目を丸くしていた受付嬢が慌てて首を縦に振る。

「え、ええ、それはもちろん。でもできたら支部長に説明を……」

「私が言っても信じないでしょ? あの町から冒険者が戻ってくれば分かることだ。それじゃ、魔石の代金は後日取りに来るから」

「ええええっ!?」

「アリアッ!? ちょっと待てっ!」

「ヴィーロさん、逃げないでくださいっ! 私一人じゃ支部長に説明できませんっ!」

どうせ、私が倒したと言っても、町の冒険者が戻るまで信じてもらえないので、時間の無駄だと判断した。

面倒事になる前に“大人”に全部押し付け、混乱している受付嬢と彼女に捕まったヴィーロに背を向けてロビーを歩き出すと、そんな私にロビーに立っていた数人の冒険者が無言で道を空けてくれた。

そんな混乱の隙を突いて外に出た私を、“大人の事情”がよく分かってないからこそ追いかけてきたジルとシュリが、裏路地で私に追いついた。

「アリア? なんだかよく分かんなかったけど……」

「バカね、兄ちゃん。アリアがオークをなんとかしてくれたんでしょ? ね?」

「そんな感じ。少しは残ってるかもしれないけど、問題はなくなった」

安心させるためにハッキリと言葉にすると、涙ぐんで私の手を握ろうとしたジルの手を手刀で叩き落として、シュリが両手で私の手を握る。

「アリア……ありがとう」

「大丈夫。それよりも、私と一緒にいるところをあまり見られないほうがいい」

「うん……そっちも早く解決するといいねっ! また会おうね、アリアっ。ほら兄ちゃん、行くよ」

「お、おい、シュリっ! アリア、またなっ!」

ジルの手を掴んで引っ張っていく、何度も振り返る二人に私も軽く手を振り返して、小さく「またね」と呟いた。

“また”か……彼らと普通に話せるようになるのはいつになるだろう?

「……出てきたら?」

私がそう声にすると、路地の暗がりから三人の若い男たちが現れる。

「おいおい、こいつ、俺らに気づいてたぜ」

「噂には聞いていたけどよ、本当に若い女なんだなっ」

「まったく兄貴たちもなんでこんなのに“手出し無用”とか言ってんだ?」

十代後半か二十代前半くらいの若い冒険者たち。全員が薄汚れた革鎧を着ているので軽戦士か斥候職のパーティーだと思う。

全員戦闘力150前後……ランク2の前半というところか。でも、こいつらの会話を聞いて、その“正体”に察しがついた。

「“盗賊ギルド”か。他の盗賊は、私と敵対しないって言っていたけど?」

私がそう言うと盗賊たちがバカにするようにニヤニヤと笑う。

「おい、ガキが粋がるなよ?」

「あの“おっさん”は強そうだったが、一人になったのが間違いだったな」

「兄貴たちは手を出すなって言ってたけどよ、お前を捕まえて連れていけば、俺たちも正式なメンバーどころか、いきなり幹部になれるかもなっ」

「…………」

なるほど、盗賊ギルドの下っ端……いや、チンピラか。

おそらくその“兄貴たち”とやらは、上から直接命令を受けたようだが、下っ端には適当な説明しかしていないらしい。

だからこそ“ギルド”の命令に逆らう危険も、私と敵対しないと決めた理由も理解していない。

「大人しくついてくれば痛い目を遭わずに済むぜ?」

「さっさと武器捨てろよ」

「抵抗なんて考えるなよ? 逆らったら、さっきのガキ共がどうなるか――」

ヒュンッ!!

そう言って見下すように顔を上げた男の咽に、水平に赤い線が奔り、そこから大量の血を噴き出して男が崩れ落ちた。

「え……」

「おい…」

状況が分からず困惑するもう一人の男に、私は再び【斬撃型】の円形ペンデュラムを投げつけ、その咽をざっくりと斬り裂いた。

「……ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!?」

噴水のように噴き出す血を浴びた最後の男が悲鳴をあげて背を向けると、その逃げ出した男の首を掠めるように飛び抜けた【刃鎌型】の刃は、糸を引く私の手に合わせて戻り、頸動脈にめり込むように刺さって首筋を深く引き裂いた。

こんなチンピラさえも絡んでくるのか。

絡んでくるのなら全て倒してしまえばいい。前はそう考え、今でもそう思っているけど、そのせいでジルやシュリのような“一般人”を危険に曝すのは本意ではなかった。

ずっと返り討ちにしていれば、いつかは私と関わること自体が不幸と考え、襲撃も無くなると思う。でもそれは“今”じゃない。

ヴィーロは“仕事”を手伝えばその報酬に、暗殺者ギルドと盗賊ギルドが手出ししにくい状況を作ってくれると約束した。でもそれ以前に私は、その仕事を断る選択肢もなかった。

その仕事内容とは――

「裏切り者、グレイブの暗殺……」