軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

291 思惑

『グギャアアアアアアアアアアッ!!』

「ふんっ!」

まるで鶏のような形をしたトカゲ……トカゲなのかしら? 大人の身長ほどもある一応爬虫類のような魔物をダグラスというおじさんが斬り伏せる。

クレイデールでも西方でも見なかった魔物なので、この草原かこの岩山か、この辺りの固有の魔物かもしれないわ。

そんな魔物が頻繁に出てくるけど、だいたいはダグラスが一撃で斬り伏せているから、ほとんど問題になっていない。問題があるとすれば、今回の件に乗り気でない剣士ナイトハルトが立ち止まる度に苛立っていることかしら?

「……スノー」

そんな勇者パーティーのことを眺めていた私の名をアリアが呟き、視線だけで睨んでくる。……何故か、毎回私が何かする度にこうして叱られている気がするわ。

「分かっているわよ」

また勝手なことをしたからでしょ?

私の身体は随分と良くなっている。あの大規模ダンジョンを攻略したときよりもずっと良い。でも、今の私は四属性とはいえ、その二つは複合スキルで同じ四属性のセレジュラよりもずっと魔石は大きいはず。

彼女は本来、魔術に専念してさえ負担のかかる属性を保持しながら、前線でアリア同様の接近戦をしてきた。それから裏社会に身を隠したせいで静養することもできず、長く戦える身体ではなくなった。

冒険者の戦闘程度ならさほど負担じゃない。苦痛はまだ残っているけど、それを顔に出さない程度には慣れている。

アリアと王都で戦ったときと比べたら雲泥の差があるわね。

でも、アリアは私が無理をすることで、セレジュラのようになることを恐れている。

気にしなくてもいいのに……。

私の命はあなたのために使うと決めているのだから。

「さっさと行くぞ!」

あっさりと戦闘が終わり、苛立っていたナイトハルトが私たちへ怒鳴る。

「こんなに近いのにあんな大声を出すなんて……耳が遠いのかしら?」

「スノー……」

隣にいるアリアにだけ聞こえるようにそう言うと、彼女も同じことを思っていたのか今度は叱られることはなかった。

私たちがこんな悠長にお喋りできるのも、私たちが彼らの後ろにいるからね。

本来なら斥候職のアリアが前に出るのが冒険者の定石なのだけど、この三人から私たちが前に出るのを止められた。

その理由としては、ダグラスが若い女の後ろにいることを良しとせず、ナイトハルトも同じだけど、女の冒険者を下に見ている感じがしたわ。

勇者は……クラインの考えていることは分からないけど、そのほうが面白いとでも思ったのでしょうね。

どちらにしてもその理由の大本にあるのが、まだ私たちを信用していない……ってことかしら?

これなら、もっと後方にいるドルトンたちや、神殿騎士たちと一緒にいても変わらないわ。

彼らはおおよそ二百歩ほど離れた位置から私たちに付いてきている。

今の彼らの役目は、周囲の魔物の殲滅と退路の確保。彼らなら問題ないはずだけど、この岩山に入ってから爬虫類しか出てこないのが気になるわ。

「お嬢さん方、そろそろ中心部に到着しますよ」

岩山の奥まで進み、大きな岩場が多くなって道が岩場の隙間を通るようになった頃、前を歩くクラインがそう私たちへ声を掛けた。

岩山と言っても普通の山のように山頂部が一番高いわけじゃない。沢山の岩が埋まっていた山が長い年月で土や砂が風化してなくなった……簡単に言うと、幼児が適当に作った積み木みたいな感じね。

だから中心部が一番高いわけじゃなく、幾つもある岩場の隙間の中で、一番大きな隙間が火竜の仮の巣になっているそうよ。

そこが岩山の中心だというのなら……火竜が造ったのかもしれないわね。

そこから慎重に進んでいく。寡黙なダグラスはともかく、さすがのナイトハルトも言葉数が少なくなってきた。それよりも……。

「暑いわね」

別に火山というわけでもないのに、登るごとに気温が上がっている。暑いのが苦手ではないけれど、歩きだとまだ本調子じゃないから疲れるわ。そんな私の呟きに顔を上げたアリアが目を凝らすように細めて、小さく呟いた。

「火の魔素が強くなっている」

いよいよ火竜と相まみえる。そう考えたとき、不意に先頭を歩いていたダグラスが振り返る。

「君たちは手を出さず、そこで我々の戦いを観ていろ」

「ダグラス!」

あまりにも突然の発言にナイトハルトが声をあげる。

この火竜退治はアリアの力を確かめるためだったはず。本当に闇竜を倒せる実力があるのなら、精霊からこの大陸の脅威を知らされた勇者がここにいる意味はなくなるのだから。

「ナイトハルト……こんな娘たちに戦わせるほど、俺たちは弱くない。我ら三人がいれば、たとえ属性竜が相手でも問題はないはずだ」

「そうだが……」

ナイトハルトは顔を顰め、私たちを一瞥すると小さく舌打ちをする。

「ふん。我らの力を見ているがいい。この世界は精霊に選ばれた我々がいればいいのだからなっ!」

そう言ってナイトハルトとダグラスは先に進んでいく。

ダグラスは何を考えているのか? クラインのやることに思うところでもあるのかしらね? ナイトハルトは単純だわ。勇者の思惑よりも自分の感情を優先することにしたようね。

「どうするの? アリア」

「……行こう」

見届けるためか、見極めるためか、アリアは進むことを決めた。クラインが何を考えているのか一番分からないけど、それを知らなければ後手に回ることになる。

私の意見なんて必要ないわ。それに私も見極めなくてはいけないから。

そんな各々の思惑で勝手に動き出した私たちに、仮面のような笑顔で肩を竦めて歩き出したクラインは、軽く溜息を吐くように微かな呟きを漏らした。

「……それじゃ困るんですけどね」

どういうことかしら?

どうやらクラインには、私たちの実力を見る以外にも思惑があるようね。それがアリアに関係のないことなら問題はないけど、もし――

「――ここだ」

先頭を進んでいたダグラスの声に私は思考を中断する。

確かに懐かしい感覚……強い火の魔素を感じる。でも、辿り着いた岩山の中心――まるで闘技場のように平らな広い空間に、目的の火竜の姿はなかった。

でも場所を間違ったわけじゃない。その広い空間には大型獣らしき骨の残骸が散乱しており、そのどれもが強い力で噛み砕かれたような痕を残していた。

「……ちっ、まだ戻っていないか」

「そのようだな」

ナイトハルトの文句にダグラスが応じて、見分するように骨を踏み潰す。

その具合から骨は長い期間……おそらくは数百年は放置されていたようね。もしくはそんなに脆くなるまで焼かれたか。

「クライン! 一旦後ろの連中と合流するぞ!」

そんなナイトハルトの言葉に、クラインは仮面のような笑みのまま何も答えず、その瞬間、アリアが弾かれるように顔を上げた。

「スノーっ!」

――ヒュッ!

次の瞬間、何かが風を切る音が聞こえて咄嗟に全員がその場から離れると、地響きを立てて巨大獣の死骸が落ちてきた。

でも問題はそれじゃない。全員が空を見上げたそこに、巨大な翼を広げた真っ赤な鱗に覆われた〝竜〟が睨めつけるように私たちを見下ろしていた。