軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

290 竜の狩り場

「……スノー?」

「ええ、大丈夫よ」

ずっと火竜が飛び去った方角を見つめ続けていた私に、アリアが不思議そうな顔で声をかけてくれた。

実際に私は火竜に魅せられていた。確かにその真紅の鱗や翼を広げて飛翔する姿は、感嘆するほどに美しかったけれど、そうじゃない。

私は火竜から迸る、私が失ってしまった火属性の魔素……そのすべてを破壊するような力強さに魅せられていた。

ふふ。まだ私の中に破壊衝動があるのかしら? それともただ懐かしかったから?

ただ、壊したい存在がいることは確かだわ。

それから私たちは馬車へ戻り、ドルトンたちに報告する。まぁ、報告したのはアリアだけど、話し合う内容は勇者パーティーの戦力のこと。いまだに戦闘力の見えない勇者クライン。重戦士のダグラスと剣士ナイトハルト。

「それで、勇者パーティーは属性竜を倒せそうか?」

「たぶん、問題ないと思う」

フェルドの問いかけにアリアが少し悩みながらも頷く。

やっぱり戦闘力が分からないのは厄介ね。あくまで目安でしかなく、その実力は戦ってみないと分からないのだけど、分かりやすい指標になるわ。それでも何かを感じるものがあったのか、アリアは勇者たちで問題なく属性竜を狩れると考えた。

おそらく火竜はランク7を超えている。アリアたちが死闘を演じて倒したという闇竜でも、ランク7に成り立てであり、人間への憎しみで空に飛び立たなかったからこそ勝てたと聞いている。

私はアリアとネコちゃんでランク7のキマイラを倒したけど、あれも戦闘経験はほとんどなくて、そもそも知性が無かったわ。

でも、火竜は違う。属性竜として長い年月を過ごし、知性がある。

この大陸でもあれに手を出そうという者はいなかった。居たかもしれないけど、まぁ普通に死んでいるわね。

「それでは警戒して進むぞ。色々とな」

四半刻ほど話し合って、勇者一行と神殿騎士たちが出発すると声をかけられた私たちも、ドルトンの号令により馬車を出す。

警戒は必要よね。本当に〝色々〟と……。

あの三人がどんな選択をするかなんて分からないのだから。

それから私たちは問題なく、〝竜の狩り場〟に一番近い国であるゼントール王国へ入った。〝問題が無い〟のは、勇者が国に入ったのに誰も迎えに来なかったのよ。なんでも勇者が面倒を嫌がったのか、あえてゼントール王国に連絡を入れなかったのよね。

ゼントール王国にしてみれば聖教会の勇者が来るのなら盛大に出迎えて、夜会なんて開いちゃうと思うわ。

それで勇者が火竜退治に来たなんて知られたら、功績をかすめ取るために自軍を出して〝竜の狩り場〟の占有を宣言しちゃうかもね。

それほどまでにゼントール王国は肥沃な草原が欲しい。この国に入る前から平坦な道は少なくなって、森は多いけど、あきらかに農耕や牧畜に適した平野は少なくなっていた。

それならそれでそんな土地でも育つ特産品に力を入れたら良かったのに、彼らが選んだのは闘争による略奪だった。

「まぁ、そんなことはどうでもいいのだけど」

「そうだね」

「他人事過ぎないか、お前ら」

フェルドに御者を代わったジェーシャが、私とアリアに呆れたような視線を向ける。

いいのよ。私にとってはアリア以外は本当にどうでもいいのだから。

「勇者殿はこのまま〝竜の狩り場〟へ向かうそうだ」

途中の宿場町で、宿を取って食事を摂っていた私たちに神殿騎士のヴィンセントが現れ、そう伝えてくれた。もちろん、勇者たちと宿は別よ。面倒くさいし。

それにしても……ヴィンセント。この人、聖教会のお偉いさんでしょ? それがどうしてこんな使い走りのようなことをしているのかしら?

まぁ本人も不本意なのか不機嫌そう。きっと根が真面目なのでしょうね。

私はこの蕎麦という穀物を平たく焼いたものが気に入ったので、あまり話を聞いていなかったけど。

ヴィンセントはあまり勇者のことをよく思ってはいない。正確には〝勇者〟のことは敬っているけど、その名を名乗るのが〝クライン〟であることが気に入らないらしい。

クラインが聖教会の後ろ盾を得ている以上、ヴィンセントの目があるうちはクラインもおかしな行動はとれないはず……だけど、本当にクラインは私たちとは行動原理が違いすぎて予想がつかないわ。

ヴィンセントは私たちに何か言いたそうだけど、宗教家の考えることも私には分からないわ。

それから数日後、私たちはゼントール王国をほぼ素通りして、火竜がいるという大草原〝竜の狩り場〟へ向かう。

ゼントール王国からさらに十日以上かかる。草原には碌な道はないし、馬車の進みも遅くなる。凄く面倒なのだけど、私たちは粗食でも気にしないし、馬車の中で眠れるだけ神殿騎士たちよりマシかもね。

「スノー」

「まだよ」

光魔法の【 浄化(クリーン) 】を使ったお手洗い魔法なんて、簡単に出来るわけないでしょ。

それでも私たちはまだマシ。でも、飄々としている勇者クラインはともかく、勇者の仲間……特に貴族出身らしき剣士ナイトハルトは、こんな無駄な旅に苛立っているように見えた。

「クライン、さっさと片づけるぞっ」

「あまり慌てても良くないよ?」

「煩い、行くぞ!」

目的地に辿り着いた途端にナイトハルトが一人で準備を終えて周囲を急かす。そんな彼に肩を竦めるクラインが、同意を求めるように視線を向けると、戦士ダグラスは無言のまま憮然としていた。

目的地と言っても草原のど真ん中に突っ立っているわけじゃない。

火竜の棲んでいる場所は聖山キュリオスにあるらしく、火竜は大物を狩ったときだけこの岩場を仮の住み家として利用しているそうよ。

ここなら数日もあれば必ず火竜は現れる……はずなのだけど。

「いるわね」

「うん」

岩山の空気が違う。そこには火竜の他にも 飛竜(ワイバーン) がいるという話だったけど、その姿は見えなかった。

まるで何か強大な存在を畏怖するように……。

そうして全員が徒歩の準備をしていると、クラインが唐突なことを言いだした。

「それでは、私たちが前に出て進みますが、アリアさん。我々のパーティーに移動してもらいますよ」

その言葉にアリアが眉を顰め、ナイトハルトさえも振り返る。

「クライン! その女を本当に仲間にするつもりかっ」

「元よりそのつもりだけど?」

「私は承諾していない」

口論を始めたナイトハルトとクラインにアリアが冷静に口を挟むと、クラインはニコリと笑って目を細めた。

「今回は、君がちゃんと、竜と戦えることを証明してほしいだけだよ。一定以上の力が無いと竜の息で丸焦げになるけど、それでも仲間を前に出すつもりかい?」

「…………」

ドルトンたちは弱くない。それでも逃げ場のない岩山でブレスを放たれたら、重装備のドルトン以外は死ぬ可能性も零じゃない。強い人が前に出ればそれだけ後ろが安全にはなるけど、これって人質みたいなものよね。

アリアはきっと断れない。だから――

「それなら私も参加していいかしら?」

そう言って前に出た私にクラインの笑みが深くなる。

「……ええ。あなたも誘おうと思っていましたから」

あの森での一戦から、彼は私の参加を断らないと分かっていたわ。

アリアは微妙な表情で私を見ているけど、ごめんなさいね、アリア。……私、誰かの思惑で動くのは嫌いなのよ。