軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

257 卒業イベント 『激突』

「アリア……」

神殿の炎の中でぶつかろうとするアリアとカルラの姿を見留め、フェルドは大剣の柄を握りしめた。

王都を囲むように立ち上る巨大な炎の柱……。その尋常ではない光景にあの黒髪の少女が関わっているとすれば、未曾有の大災害が起きてもおかしくはない。

(……介入するべきか)

カルラや悪魔との戦闘はアリアに任せることになっている。それは戦闘力で対抗できるのがアリアのみであることもあるが、超常的な破壊現象が起きた際に退避できる能力があるのもアリアだけだったからだ。

アリアとカルラ……二人の少女は己の想いに決着をつけるために殺し合う。

だが、このような非常時にただ見ているだけでいいのか? 現状では悪魔が倒されたことで暴徒も治まり、城の兵士たちのおかげもあってこの一角の避難は終わっている。

今なら自分が介入しても被害は最小で済む。そう考えてフェルドが一歩足を踏み出そうとした瞬間――

――止――

背後からそれを止める意思がフェルドに届く。

「……ネロ」

『ガァ』

ネロは眩しいものを見るように目を細め、静かにアリアたちを見つめた。新たに進化した今のネロなら二人の戦いにも介入できるだろう。だがそれを是とせず少女たちを見守るネロに、フェルドは息を吐いて武器を握っていた手の力を抜いた。

――退――

「了解だ。確かに俺は下がったほうがいいな」

ネロはこの場に残るつもりだろう。だが、フェルドが残っていればアリアが全力で戦えない可能性がある。そんな事実にフェルドは拳を強く握りながらも、最後に一瞬だけ振り返る。

「勝てよ……アリア」

***

私の桃色の髪が灼けた鉄のような灰鉄色に変わり、そこから飛び散る光と闇の粒子が〝銀〟となり、翼のように広がった。

カルラの病的な白い肌に黒い茨が浮かび、蠢くように全身に巻き付くその茨から、膨大な魔力が炎のように噴き上げた。

「――【 狩猟雷(チェイスライトニング) 】――」

カルラの指先から複数の稲妻が放たれ、それが空中で角度を変えながら一斉に襲いかかってきた。

「――【拒絶世界】――」

その瞬間、銀色の粒子が残像を残すように私の幻影となり、 正面(・・) にいた数多の残像を稲妻が撃ち抜くと同時に、私はカルラの 真上(・・) から蹴りつけた。

「――【 鉄肌(アイアンスキン) 】――」

ガンッ!!

カルラが拳を振り上げ、正に鉄を蹴ったような衝撃と打撃音が響く。だが、いまさら鉄の硬さで怯むものか!

一瞬の時間差でもう一方の蹴りを振り下ろす。突進力と虚実魔法による加重が、カルラを起点に残っていた神殿に罅を奔らせ、カルラを打ち込むように神殿を崩壊させた。

「ハァアアア!!」

私は拒絶世界の光をダガーに巻き込み、銀色の粒子を真下にいる神殿に埋まったカルラに向けて撃ち放つ。

渦を巻く光が炎と瓦礫を巻き込むように抉り取り、神殿ごと貫こうとした瞬間、さらにそれを巻き込むように無数の黒い茨が瓦礫を貫いて飛び出し、地の底から響くような声が聞こえた。

「――【 大吹雪(ブリザード) 】――」

ゴォオオオオオオオオオオオッ!!

炎さえも凍てつかせる巨大な吹雪――レベル7の氷魔法が、ほぼ瓦礫と化した神殿のすべてを土台ごと吹き飛ばし、飛び散る瓦礫を盾にして宙に舞う私を、すり鉢状になったその中心からカルラがジッと見つめていた。

「――【闇】――」

銀の粒子を削るように吹き荒れる吹雪の中、拒絶世界を使った私がカルラの背後に転移して、後頭部に肘打ちを叩き込む。

だが、そのカルラの姿はブレるように〝闇〟に消えて、黒い茨を脚に巻き付けたカルラの蹴りが私の真後ろから放たれた。

私はその瞬間に目を閉じると、肌に感じる感覚だけを頼りに身体を捻るように躱しながら、自分の脚をカルラの脚にぶつけるように絡ませた。

「――!」

そのとき初めてカルラから息を呑む気配が伝わる。斬撃はダメージにならない。そのまま脚をへし折ろうと力を込めた瞬間、カルラが自分さえ巻き込むように魔術を撃ち放った。

「――【 雷撃(ディグヴォルト) 】――」

バギィンッ!!

「「――ッ」」

放たれる電撃が私の光の粒子とぶつかり合い、激しく火花を散らして弾き飛ばされるように距離を取った私とカルラは、更地となった凍てつく神殿跡で再び対峙する。

「「…………」」

無言で見つめ合う私たち。

カルラの全身が光の魔素に包まれると、自分の雷撃で負った火傷が瞬く間に消えて、私も削り取られた光の粒子を再び纏いながら、ポーチから取り出した魔力の消費を抑える竜血の丸薬を口に入れて噛み砕く。

「……【 祝福(ブレス) 】……【 再生(リジェネ) 】……」

それを見たカルラが自分の防御力と再生力を上げて、薄い笑みを漏らした。

そろそろ 様子見(・・・) は終わりだ。手合わせを終えて、どちらも加減する余地のないことを確かめ合った私たちは、静かに魔力を高めて前屈みに構えを取る。

【アリア(アーリシア)】【種族:人族♀】【ランク5】

【魔力値:287/400】【体力値:243/300】10Up

【総合戦闘力:2484(特殊身体強化中:4560+500)】36Up

【戦技: 鉄の薔薇(Iron Rose) /Limit 574 Second】

【虚実魔法:拒絶世界――《銀》】

【カルラ・レスター】【種族:人族♀】【ランク5】

【魔力値:∞/650】20Up【体力値:27/45】3down

【総合戦闘力:1885(特殊戦闘力:5405)】58Up

【 加護(ギフト) : 魂の茨(Soul Thorn) Exchange/Life Time】

ダンッ!!

最初に動いたのは私だった。凍りついた地面を蹴り砕くように踏み出し、光の粒子を箒星のように引きながら数十メートルの距離を一瞬で詰める。

「――【 竜巻(ハリケーン) 】――」

それに対してカルラが至近距離から竜巻を放ち、私は残像を引き連れながら風に舞うように空を飛び、 真横(・・) からカルラの首にナイフを振るう。

だがカルラは咄嗟に自分が放った風に巻かれて宙に舞い、腕に溜めた魔力を振り下ろすように撃ち放った。

「――【 嵐(ストーム) 】――」

竜巻とは違う広範囲の風が私の残像すべてに襲いかかる。

すべてが実体であり幻影である拒絶世界に対するには、逃げ場のない範囲攻撃が正解だ。しかも嵐は風だけでなく雨もある。

「――【 氷の嵐(アイスストーム) 】――」

カルラの放つ氷の嵐が水滴を凍らせて氷の刃に変える。

私はその瞬間、回転するように舞いながら、黒いドレスの裾で襲い来る微細な氷を打ち払い、残像の一つが放った分銅型のペンデュラムをカルラの真上から叩き付けた。

「――【 瀑布(キャタラクト) 】――」

その瞬間、レベル5の水魔術がカルラを中心に膨大な水を噴き上げた。

その水量はペンデュラムの威力を殺し、それを易々と素手で弾き落としたカルラがさらに魔力を解き放つ。

「――【 灼熱(フレア) 】――」

レベル6の火魔術――放たれた真っ白な火球が大地に着弾した瞬間、膨大な熱量が瞬く間に周囲の水を水蒸気に変えた。

「――っ!」

黒いドレスで身を守りながら私は空に転移して水蒸気を躱すが、あまりにも広範囲に拡散する魔力を含んだ水蒸気に一瞬カルラを見失う。

「ここよ」

真後ろから聞こえたその声に私は身を捻るようにして蹴りを放つ。だが、そこにカルラの姿はなく、【 幻聴(ノイズ) 】の闇を蹴り砕いたその向こうに、離れた場所から私に向けて複数の火球を宙に浮かべるカルラの姿が瞳に映る。

「――【 火球(ファイアボール) 】――」

幾つもの火球が一斉に私を襲う。私は即座にスカートのスリットから抜き撃ちしたナイフを放ち、刃に触れて爆発する火炎の中を瞬きする一瞬で飛び抜け、その勢いのまま踵の刃を蹴り放った。

「――【 瀑布(キャタラクト) 】――」

再び噴き出すような水がカルラを守る。

「ハッ!」

私は気迫を込めて息を吐き、光の粒子を蹴りを放つ脚に巻き込み、渦巻く銀の光が水の守りを貫いた。

ガンッ!!

硬質な音を立てて黒い茨でガードしたカルラを吹き飛ばす。

即座に私がそれを追う。だが、置き土産のように浮かんだ闇の塊を見た瞬間に私は顔を逸らし、そこに闇から放たれた氷の槍が掠めるように飛び抜けた。

「――【 大旋風(タイフーン) 】――」

その一瞬で体勢を立て直したカルラから暴風が吹きつける。私はそれを拒絶世界の転移で躱し、カルラの真上から踏みつけるように蹴りつけた。

「――【 瀑布(キャタラクト) 】――」

三度、噴き出す水が蹴りの威力を削ぎ、その間にカルラは闇に消えるように空間転移する。

「…………」

何かおかしい。何故水を使う? カルラは炎も使ったが交互に使えば火と水の魔素が相殺して威力が落ちるはず。そもそも、ペンデュラムや蹴りを躱すために、無限の魔力があるとはいえ、レベル5の水魔術を多用する必要はない。

水と風……破壊力が落ちるため、これまでカルラがあまり使わなかった属性を多用することに違和感を覚えると同時に、私は周囲の景色が暗くなっていることに気付いた。

「カルラっ!」

空を見上げ、月を隠す 曇天(・・) の中に浮かぶカルラを睨む。

暗視が使えることと王都に燃えあがる炎を目眩ましに使い、水と炎を使って水蒸気を空に巻き上げ、風の属性でそれを呼び寄せた。

それはすべて、炎の柱と同じ、あり得ない広範囲に魔術を使う布石だった。

カルラの魔力が高まると同時にこの一角を覆うように広がる暗い雲に光が瞬き――

「受け止めて……アリア」

私を見下ろすカルラが花束を贈るようにそっと両手を差し出した。

「――【 雷の嵐(サンダーストーム) 】――」

その瞬間、この一角すべてを焼き尽くすように無数の雷が雨の如く降りそそぐ。

拒絶世界の転移は目で見た場所に跳ぶ。まだ残る水蒸気が私の視界を妨げ、雨雲を利用したレベル7の雷は、広範囲に私の逃げ場を潰していた。

でも……

「いいよ……受け止めてあげる」

私は拒絶世界の銀色の光を巨大な翼の如く広げ、そのすべてを巻き込むように銀の柱をカルラに向けて撃ち上げた。