軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

158 脱出への道

砂漠の町カトラスのとある館にて六人の男女が会していた。

片側には三人のクルス人。そんな彼らと向かい合うようにして外套で姿を隠した三人の者たちがいた。

「――では手筈どおりに」

「あんたたちの本隊はどこまで来ているんだ? あまり待ちすぎると……」

「案ずるな。だが、状況次第だな」

「おい、俺たちはあんたたちの話を信じて――」

「次の手は打ってある。お前たちもせっかくの好機を無駄にしたくないだろう」

「約束は守ってくれるんだよな?」

「ああ、約束は守るさ。だが、そちらもわかっているな?」

「それはわかっているが……あいつはなんだ? それと一緒にいるガキは?」

「詮索は無用だ。連れのガキはこちらと関係ない。好きにしろ」

「それと――あの桃色髪の女はどうする?」

「アレは――」

***

「戻ったか」

崩れかけた見張り塔の上階から階段で下りてきたカミールが、戻ってきた私を見て安堵するように微かな笑みを零した。

この見張り塔はカミールとロンの隠れ家だ。彼らとは完全に味方となったわけではないけれど、この状況を生き抜くために手を組むことになった。

互いに話してないこともある。話せないこともある。エレーナや私の立場がそれだ。今更彼らが私たちを害するとは思っていないが、その情報が足を引っ張ることもある。

エレーナがクレイデールの王女だと知られたら、今は商談相手であるジェーシャも、いざとなればエレーナの身柄を確保しようと動くかもしれない。

私が〝灰かぶり〟だと知られてはいるが、そこから〝行方不明の王女〟と結びつけるにはまだ時間はかかるはずだから、不用意に情報を漏らす必要もない。

同様に私たちはロンとカミールの正体にも言及しない。彼らの正体を知ってしまえば私たちの行動を縛られる結果にもなり得るからだ。

「食料を買ってきた。チャコに渡しておく」

「すまん……助かる」

「ありがとうございます。アリアさん」

カミールが頭を下げるとその後ろから猫獣人の少女チャコが現れて、私が取り出した食料を申し訳なさそうに受け取ってくれた。

私が戦っていた陰でチャコをムンザ会から奪い返した彼らだが、何度もムンザ会と敵対してきたカミールたちまで和解するには至らず、ここでチャコと子どもたちを隠して匿っている。

ムンザ会もクシュムが死んでそれどころではないのだろうが、二人が町を歩くのはまだ控えたほうがいいと判断した。カミールなら隠れて食料を手に入れることもできるとは思うけど、ここまでの距離と増えた食い扶持を考えると【 影収納(ストレージ) 】がある私が運んだほうが効率はいい。

それに彼らには、それよりも優先してほしいことがある。

「カミール。素材は集まっている?」

「ああ。それなりには集まっている。だが、ここら辺ではもう成体が少なくなっているので、遠くに行かないといけないが……」

「そちらは私も考慮する。魔石はロンに渡したほうがいい?」

「上にいるからついでに顔を見せてやってくれ。それと……無理はするなよ。食料やレナがここにいるだけでも助かっているんだ」

「わかっている」

何か言いたげでそれでも何も言えずにいる、微妙な顔をしたカミールの肩を軽く拳で叩いて、私は彼とすれ違うように階段を登りはじめた。

塔の内壁に沿う螺旋状に伸びた階段を上がる。外から見た見張り塔はいつ崩れてもおかしくなかったが、内側の崩れた階段も罅割れた壁も漆喰や丸太で補強されていた。

彼らは一年以上、ここで〝ある物〟を直していた。

この地に来たロンがこの塔に辿り着き、それを見つけたのがカミールだった。

偶然か必然か似たような境遇の二人は、最初は互いを警戒し、それでも共感し合える部分を感じて行動を共にするようになったと聞いている。

ロンがどうしてこの塔に辿り着いたのか。この先に、彼がこの塔の 上(・) に辿り着いた理由がある。

「ロン、修理は上手くいっている?」

「やあ、アリア。……九割くらいかなぁ」

塔の屋上が崩壊し、雨ざらしとなったその場所にそれはあった。

熱気球――私の中にあるあの女の〝知識〟がその正体を教えてくれた。

大きなものじゃない。数名の大人でいっぱいになるような小さな物だが、ここにいる全員でこの砂漠を脱出することはできるはずだ。

熱気球のような物はクレイデール王国でも見たことはない。それは単純に技術がないのではなく、空の魔物に対抗する手段が少なく移動手段の選択肢に入っていなかったからだろう。

でも、この地方ではグリフォンやワイバーンのような空を飛ぶ大型の魔物はいないらしく、ランク2の大鷲程度しかいない。それでも私の知識にある気球なら充分に脅威だけど、素材に魔物の革を使うことで強度を増すことでそれに対応していた。

だが素材に魔物革を使えば当然重くなる。そのために通常の燃料ではなく、火属性の魔石を用いた魔道具で熱を作って浮力を得るらしい。

私が持ってきた魔石はそのためだ。

「火属性の魔石を持ってきた」

「ありがとう、助かるよ。こいつは結構燃料食うからね」

「あとどのくらい集めればいい?」

「う~ん……」

熱気球の修理作業をしていたロンは、手持ちの素材や行程を考えながら軽く自分の頭を掻いた。

「カルファーン帝国の安全地帯までならもう少しいるかな。逆に言うと、辿り着くだけなら今のままでもいいけど、余裕はないって感じ」

「了解。見つけたら狩るか買うかしてくるから」

私たちはこの熱気球でカルファーン帝国へ向かうことを決めた。幸いロンたちも、きな臭くなってきたこの町を出ることを望んでいた。

それで私たちは協力することになり、カミールは遺跡で気球の修理素材と私の錬金術に必要な素材を集め、私は町でポーションを売り火属性の魔石や食料を買う。

ロンは私たちが集めた素材で修理に集中してもらい、エレーナはチャコと一緒に子どもたちの面倒を見て、光魔術や水魔術で生活基盤を整えることになったのだ。

彼らにも利点があり、私とエレーナにとってもキルリ商会と敵対して町の宿を使えなくなったので、このような隠れ家はありがたい。

方針は決まった。けれど、その気球を修理すること自体が問題だった。

熱気球の維持費には金がかかる。気球本体には『火トカゲ』という熱に強い鎧トカゲ系の革が必要なのだが、柔らかな腹の部分しか使えず、ある程度の大きさがないと縫い目が多くなって強度が下がる。

しかも、火トカゲといっても名ばかりで魔石は土属性なのだ。だから火属性の魔石を得るためには、別の魔物を狩るか町で買ってくるしかない。

空の魔物に対抗するためには、ランク3以上の魔術師が二人は必要になるので、そんな物を運用できるのは貴族しかいない。

それを所有してこの町まで来たロンは、おそらくカルファーン帝国の貴族だ。

でも、私たちはそれを詮索するつもりはない。そんな重要なものを彼らが所有していると教えてもらえるほどには、私たちは信頼してもらっている。

貴族のロンが何を調べにこの町に来たのか、そんなことを詮索して信頼関係を壊すほど、私たちも馬鹿じゃない。

彼らも私たちも自分たちの目的のために行動している。けれど――

彼らは甘い。

「アリア。また出掛けるの?」

「うん。もう少しできることがあるから」

屋上から戻って再度出掛ける準備をしていると、エレーナが心配そうな顔で声をかけてきた。

時間はいくらあっても足りない。私たちが行方不明になってから二ヶ月――私とエレーナは、国が王女の生存を諦めるまで半年はあると見ているが、時間が経てば良からぬことを考える輩が出てくる。だから速やかにエレーナをカルファーン帝国へ送らなくてはいけないのだ。

「待って――【 治癒(キュア) 】――」

呼び止めたエレーナの手が私の頬に触れると、優しい光が砂漠の熱に灼かれた頬の熱を消し去ってくれた。

「ありがとう」

「いいえ……アリア、気をつけてね」

外套とフードを被り直して私は一人、砂漠を歩く。

エレーナたちがいる見張り塔を離れて――

「――【 幻覚(イリユージヨン) 】――」

私が作りだした幻覚の炎、カルラが得意とした【 竜砲(ファイアブレス) 】の火線が岩場を舐めると、熱さえ表現した幻覚に岩場から二つの影が飛び出した。

砂漠の砂色をした外套を纏う二人の人物は、片方が地面を転がりながらクロスボウのような武器から矢を放ち、もう一人はドロついた油のような毒を塗った短剣を引き抜いて、真っ直ぐ私へと向かってくる。

私はおそらくそれも毒付きであろう矢を外套で巻き込むように絡め取り、飛び込んできた男の短剣を躱しながら、絡め取った矢をその顔面に突き刺した。

「――――ッ」

その男が悲鳴を上げることなく崩れ落ち、その陰に隠れるように放った分銅型のペンデュラムが矢を撃った奴の頭部を横から打つと、そいつは甲高い悲鳴を上げて吹き飛ばされた。

女か――すかさず飛び込んでその女が武器を取り出す前に蹴り倒し、その喉元に黒いダガーを突きつけると、女が呻くような声をあげる。

「き、貴様っ」

「聞くのは私だ。 誰(・) を狙っている?」

「っ!」

私が威圧を放つと同時に女が息を呑む。

その拍子に女が被っていた外套のフードが落ちてそこから現れたのは、私とそう変わらない年回りの、私を睨む闇エルフの少女の顔だった。