軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

111 依頼の準備

魔術学園内での三年間の護衛。

それが、エレーナから出された、冒険者である私への依頼だった。

詳しい契約内容はドルトンたちとも詰めなければいけないが、大まかな依頼の内容は下記に記す通りとなる。

・一年後、エレーナの入学時から学園内での三年間、卒業までの王女の護衛。

三年と言っているが、王家の大きな問題が片づいた場合は短縮も考慮される。エレーナの考えでは王太子が卒業すれば大まかな問題は回避できるそうだ。

長期の拘束になるが、私が冒険者として動く場合は特別休暇が認められるらしい。

・授業中での護衛もするので、従者や侍女ではなく同級生として入学すること。

私が貴族の通う学園にどうやって入学するのか? そこら辺の問題はセラに考えがあるらしく、ドルトンと話して決めると言っていた。

・学園内における王族関連の危険の排除。

エレーナだけでなく王太子を含めた王族の安全のため、私の力が必要ならそれを行使する権限が与えられる。具体的には犯罪が確定した貴族の捕縛や、武力による脅威の排除もそれに含まれる。

そもそも二人の他に王族が入学する予定でもあるのか? それはあくまで可能性としての話だと言われた。

・学園内での活動に際して、ヴィーロも潜入させる。

これは私が口を出すことではないが、学園内での情報収集や私のフォローなどを暗部に内定しているヴィーロに任せるらしい。それによってこの依頼は、私個人ではなく、虹色の剣への依頼となった。

ヴィーロは斥候としては有能でも、子どもから見てダメな大人だが、学園内で大丈夫なのだろうか……。

色々と問題はありそうだが、一番の問題は、お母さんの実家である“貴族家”と関わる可能性があることだ。

メルローズ……おそらくその名が私にとって鬼門になる。その名の貴族がいたとしても確実に血族であるとは限らないが、精霊に名を贈られた者たちの末裔であることは確かだ。

だけど私は、この依頼を受けようと思っている。私はもう逃げない。以前にそう決めている。“貴族”からも“運命”からも逃げない。私はそのための、運命に抗うための最低限の力は得られたと思っている。

もし家族と名乗る貴族が、私を『乙女ゲームのヒロイン』などというくだらない役目に据えようとするのなら、その貴族家ごと私が潰す。

そのせいで、“国家”と敵対したとしてもだ。

エレーナとの『約束』を果たすために私が彼女を護る。そしてもう一つ……カルラ、お前との『決着』を、しかるべき舞台でつけるために。

***

「アリアッ!!」

ドアを破るようにして飛びついてきた、小麦色の肌の少年の顔面を鷲掴みにして止めながら、私はセラに半眼になった視線を向けた。

「どういうこと?」

「どうもこうもありません。ドルトン様とのお話で、それが一番効率的だと判断いたしました。それと些細なことですが、うちの子を殺さないよう、お願いいたします」

「アリアっ、割れるっ! 頭、割れちゃうっ!」

一年後の護衛任務に備えて、私はヴィーロから斥候職の引き継ぎを行いつつ、その準備を進めていた。

一旦師匠の所に顔を出して経緯を説明し、その次にガルバスとゲルフに装備の強化をお願いしに行ったところ、全員から叱られた。ランク5や6の魔物と戦ったのは不可抗力とは説明したつもりだが、どうやら私の認識は一般人とズレているらしい。

最後の準備としてセラのレイトーン家が所有する王都の別邸を訪ねたところ、セラから思いもよらない話をされた。

すまし顔でそんなことを言うセラの言葉に、私に顔面を掴まれながら必死にその手を振りほどこうと足掻いている少年に目を向ける。

「……セオ?」

「そうだよっ、会いたかったっ! それとそろそろ放してっ! 本気で割れるっ!」

そのクルス人の少年が昔出会ったセラの息子だと思い出して手を放すと、セオは若干涙目になりながらも、私の手形が付いた顔で嬉しそうに両手を広げた。

「会いたかったよ、アリアっ!!」

「それは聞いた」

【セオ・レイトーン】【種族:人族♂】【ランク3】

【魔力値:125/130】【体力値:141/180】

【総合戦闘力:299(身体強化中:355)】

以前から三年以上経っているので、強さも外見もだいぶ変わっている。

会った時のセオは私より一つ年下の6歳なのに、魔力が高かった彼は8~9歳の外見をしていて、今の彼は10歳になり13歳くらいの外見まで成長していた。

久しぶりなのはわかるが、何故か再び抱きつこうとしていたセオの動きが突然止まると、いきなり床に膝をつく。

「アリア……僕より背が高い」

「別に気にするほどでもないでしょ?」

「ダメなんだっ、アリアより背が高くなって強くなったら…って、アリア、凄く強くなってるっ!」

「修行の成果だ。それよりセラ、話を戻すぞ」

「それよりって……」

「そうですね。セオのことはひとまず、どうでもいいので」

「母さん……」

ガックリと肩を落とすセオは放って、あらためてセラと対峙する。

「私が、セラの養子になるって、どういうこと?」

「あなたが貴族にあまり良い印象を抱いていないのは分かりますが、順を追って説明いたしましょう」

セラの説明によると、魔術学園は貴族の子弟のみが入学を許される。だが、その従者が貴族ではない場合もあり、裏技として下級貴族の養子となって貴族の名義を手に入れて入学するらしい。従者に問題がある場合は卒業後に養子縁組を破棄するのだが、その従者が優秀な場合はそのまま養子縁組を継続するそうだ。

貴族ならドルトンがいるじゃないかと思ったが、ドルトンは一代限りの名誉貴族なので本人でないその子どもでは、貴族として認められない。

なのでセラとドルトンが協議をした結果、セラの養子としてレイトーン準男爵令嬢という立場を得るのが一番問題が少ないと考えたそうだ。

「僕、聞いてないよっ!?」

話を聞いていたセオが飛び起きるようにそう叫ぶ。

「煩そうなので言っておりません。これからはアリアがあなたの“姉”となります。学園内でもそのように接してください」

「姉っ!? 姉弟になったら僕は……後で法律関係を調べないと…っ!」

「別にアリアを次の家長とする予定はありませんよ」

「そんなこと言ってないよっ。いや、アリアが家長で僕が補佐もありなのか……」

意味の分からないことをブツブツと言っているセオはともかく、私にはセラの言葉で少し気になる部分があった。

「セオも学園に? 入学年齢には達していないでしょ?」

対象年齢は一月に新学期が始まるその年度に13歳となる子どもだ。

「セオは暗部の任務で、とある子爵令嬢の護衛兼執事として学園に潜入しますが、その翌年度からは正式に入学いたします」

そんな話題をしているとセオが微妙な顔で私たちに視線を向ける。

「その護衛対象……一度顔合わせで話したけど、何か奇妙なお嬢さんだった。初対面なのに妙に馴れ馴れしかったり、距離感が近すぎるというか……正直ちょっと苦手」

「口が過ぎますよ、セオ。彼女は微妙な立場なので、本心はさておいても精一杯お護りするように」

「うん……」

私と同じように護衛任務に就くのか。今のセオほどの実力があれば、将来を考えれば王族の護衛にも就けそうだが、その“子爵令嬢”とは何者なのだろう?

それよりもセラの言うことは理解できた。彼女の言う通りあまり貴族によい印象はないけど、あまり我が儘も言っていられない。それに、エレーナの護衛をするのなら同じ貴族のほうが確かに“効率的”に思えた。

私が効率的に考えることを好むので、それを逆手に取られている感じもするが、セラの家なら他の貴族家より随分とマシだ。

「養子の件は了承した。貴族の礼儀作法もだいぶ抜けている部分があるので、戦闘面も含めてセラがまた修行をつけてくれるのでしょ?」

「思ったよりも説得が難航せずに済んで助かりました。ヴィーロだと報酬面が面倒なのですが……。戦闘面は正直、私にまだ教えられる部分があるか疑問ですが、これからは貴族の令嬢としての“常識”と“礼儀作法”を、残り半年間で詰め込みますので、覚悟してください」

そうして入学までの半年間、セラの屋敷で貴族令嬢に“擬態”するための修行を受けることになった。

エレーナの近くに居なくていいのか? とも考えたが、他の“加護持ち”の件で王城はごたついており、今はまだ、私は他の王族の目に触れないほうが良いらしい。

セラも王宮での仕事があるので、こちらにはあまり帰ってこられないが、この屋敷のメイドたちに『お嬢様』と呼ばれて、世話をされるのも修行の一つだと言われた。

セオは護衛をする令嬢の執事として動く準備をするために、王国の南部に出立したので、次に会うのは学園になるだろう。

私も修行の他にもやることもある。同じ学園内に潜入するヴィーロと打ち合わせや、彼の持つ情報源などの引き継ぎも同時に行なっている。

他にも戦闘訓練をしなくてはいけないが、ランク4である私の相手ならヴィーロかセラが良いのだけど、【 鉄の薔薇(アイアンローズ) 】の検証を行うには、ランク5の相手が必要だった。

「お嬢様、虹色の剣のフェルド様がおいでになっておられます」

「お通ししてください」

お嬢様修行は、立ち居振る舞いだけでなく言葉遣いも矯正される。

簡素だが貴族らしいワンピースを着て彼を出迎えると、私を見てフェルドが少しだけ目を丸くした。

「……本当にどこかのお嬢様に見えるな」

「そう?」

首を傾げてそう言うと、私を見るフェルドの視線がわずかに泳ぐ。年嵩のメイドから薄く化粧もされているので、見慣れないのかもしれない。

私の戦闘訓練の相手はフェルドだ。彼くらいの実力がないと【鉄の薔薇】を使った能力の検証もままならない。

応接室でお茶を飲みながら近況を報告しあい、私とフェルドは鍛錬場へと向かう。

「そんなヒラヒラした物を着たままやるのか?」

「学園内では防具を着られないから、ドレスで戦うことも考慮する。フェルド……手を抜くと“死ぬ”よ?」

私が軽口ではなく本気で返すと、フェルドが牙を剥き出すように笑った。

「上等だ」

「――【 鉄の薔薇(アイアンローズ) 】――」

戦技の発動に、私の髪が桃色から灼けた灰のような灰鉄色に変わる。

ステータスの倍加――およそ【身体強化】レベル10の速度で飛び出し、フェルドを飛び越えるようにして【 影収納(ストレージ) 】から出した暗器で攻撃する。

ガキンッ!!

「アリアッ! ヒラヒラさせるなっ!」

「私は気にしない」

「俺が気にするんだよっ!!」

軽量革鎧に軽めの長剣という速度重視の装備をしてきたフェルドは、私の速度にも対応してきた。

速度では圧倒しているはずなのに、それでも攻めきれないのは、フェルドが技術と経験と“勘”で合わせているのだろう。

フェルドが私の技を知っているのもあるが、同じランク5でも、ステータス頼りの魔物と違って、やはり知恵と技量で戦う“人間”の相手はひと味違う。

私も【鉄の薔薇】だけでなく、通常状態に切り替えながら模擬戦を続けていると、短時間だが互いに疲労感を覚えて息を吐く。

「ふぅ……このくらいにしておこう。アリアももう魔力が限界だろ」

「そうだね」

やはり【鉄の薔薇】の一番の問題は使用時間だ。魔力を消費する以上限界時間は必ずある。徐々に回復する魔力ポーションも試してみたが、体内で魔力が生成される状態で使うと、魔素の流れがわずかながら暴走気味になるのが分かった。

使いどころはあるかもしれないが、戦闘時ではバランスが悪すぎて、まともに使うのは危険だと判断する。

先に歩くフェルドの大きな背中を見て、その後ろから自然な動きで彼の肩に手をかけて、ヒョイッと登るようにその肩の上に上半身を乗せると、歩いていたフェルドの足がわずかに止まる。

「アリア……子どもみたいな真似をするな」

「だめ?」

私がそう聞き返すと私を担ぎやすいように体勢を立て直しながら、わずかに溜息を漏らした。

「……まだ“子ども”だったんだな」

あのダンジョンでフェルドに持ち上げてもらって以来、その広い視界が気に入った私は、自分でも子どもっぽいとは思うけど、こうして偶にフェルドの肩に乗るのが癖になっていた。

背が高ければ誰でもいいというわけじゃないんだけど……どうしてフェルドだけは平気なんだろう?

そんな時間が過ぎて、季節は秋となって私は12歳となり、いよいよ冬となってエレーナと私が魔術学院に入学する時期となった。