軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

106 ダンジョン攻略 ⑤

戦況の隙を突いたカルラが単独で精霊の祭壇へ向かい、それを見たクララや王太子たちも祭壇へと飛び出した。

『ブモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

興奮状態になった朱牛がその後を追い、それを食い止めるために私も単独で彼らの後を追う。だが間に合わない。身体強化を使っているらしいカルラはともかく、このままでは私が追いつくよりも先に朱牛が王太子たちに追いついてしまう。

「――【 幻痛(ペイン) 】――ッ!」

とっさに私は朱牛の背に向けて【 幻痛(ペイン) 】を放つ。だけど、興奮状態にある朱牛は一瞬身を震わせるだけでその脚は止まらない。

純魔素を使うあの“技”なら追いつくことはできるが、ランク5の朱牛を一撃で殺すことはまだ無理だ。私は身体強化の加速された思考の中でそう判断すると、足止めをするために複数の魔法を同時に放つ。

「【 幻影(シヤドー) 】っ、【 重過(ウエイト) 】っ!」

重さのない【 幻影(シヤドー) 】を先行させて朱牛の前を邪魔するように横切らせ、【 重過(ウエイト) 】を使って朱牛の自重を増加させる。

それでもコンマ数秒……どちらもそれだけしか足止めできてない。だがその貴重なコンマ数秒で私はギリギリ“範囲内”まで追いついた。

「――【 影(シャドー) 渡り(ウォーカー) 】――」

朱牛に私の魔素を繋げてその“影”に転移した私は、影から飛び出し、その太い首に黒いダガーを突き立てる。

『ブモォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』

だが浅いっ、強靱な首の筋肉に阻まれ、私の筋力では貫けない。

振り回される頭に身体ごと吹き飛ばされながらも、私はペンデュラムの糸をその角に巻き付け、曲芸のように宙を飛びながら舞い戻って、朱牛の鼻っ面に強烈な膝蹴りを食らわせた。

『ガァアアアッ!!?』

朱牛が仰け反るように鼻から血を噴き出し、その目にわずかながら理性の光が戻る。だけどそれと引き替えに朱牛の怒りが全て私へ向けられたと分かった。

「…………」

全力のランク5との戦闘になるが、そのおかげで朱牛の意識が王太子たちから私へと逸れた。元々隙があれば彼らを祭壇まで行かせる予定だった。彼らのせいで単独で戦う羽目になったが、まぁいい……

朱牛、お前の相手は私がしてやる。

『ブォオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

「ハァアアアアアアッ!!」

最初から全力で戦う。出し惜しみはしない。

朱牛が恐ろしい速さで迫りながらハルバードを私に叩きつける。

私は身体が耐えられるギリギリまで純化させた魔素で身体強化の精度を高め、朱牛の攻撃を紙一重で回避した。

この程度の純度では、ほんのわずかな効果しか得られないが、そのわずかな差がなければランク5の攻撃は避けられない。

「――【 幻覚(イリユージヨン) 】――」

光を屈折させて姿を眩ませながら【分銅型】のペンデュラムを投げ放つ。

『グァアアアアアッ!』

ブレるように飛ぶ十字の分銅を、朱牛は瞬時に躱すことを諦め、頭を振るように角で弾き飛ばした。

ブレるように姿を眩ます私ごと薙ぎ払うように、朱牛のハルバードが振るわれる。それを飛び越えるように避けた私は、そのまま朱牛の足下に滑り込みながら、スリットから引き抜いたナイフを真下から投げつけた。

『ブォオオオオオオオオッ!!』

二メートル以上もある朱牛の巨体が軽々と宙に舞う。

上に逃げることでナイフを回避した朱牛は、地を滑る私を見下ろすようにニヤリと笑い、左手のハルバードを私へ投げ落とした。

「ハッ!」

その瞬間、背筋を使って跳びはねるように床を転がりながらハルバードを回避した私は、即座にペンデュラムの糸を宙に舞う朱牛の足に投げて巻き付ける。

それに気づいた朱牛が宙を蹴るようにして、私を糸ごと宙にはじき飛ばす。

まだだ。まだ糸は朱牛に繋がっている。

「――【 影(シャドー) 渡り(ウォーカー) 】――ッ!」

糸に流した魔素を繋げて、一瞬で朱牛の背後に“渡る”。

「ハァッ!!」

『ブモォオオオオオッ!!』

即座に気づいて反撃をする肘と私の蹴りが交差して、踵の刃が朱牛の頬を削り、肘打ちが私を身体ごと弾き飛ばした。

朱牛と私は同時に地に落ちる。それでもダメージを受けた私が体勢を崩して片膝をつくと、それを見た朱牛が躊躇せず、もう一本のハルバードを私へ投げつけた。

躱せない――でも――

ガキンッ!!

横手から飛んできた数本のナイフがハルバードに当たり、その軌道をわずかに逸らされたハルバードが私の横を飛び抜けていった。

「アリア、無事かっ!」

「助かった、ヴィーロ」

追いついてきたヴィーロがとっさにナイフを投げてくれた。駆けつけたヴィーロが私を庇うように前に立ち、私が起き上がった時には、朱牛も最初に投げたハルバードを回収して私たちへ刃を向けていた。

ヴィーロが来てくれたことで簡単に負けることはなくなったが、それでも私とヴィーロでは、コイツを倒すための“決め手”がない。

私がオークジェネラルをギリギリでも倒せたのは、あの“技”をゴルジョールが真正面から受けてくれたからだ。

ではどうするか? その答えが出る前に戦況は大きく変わりはじめていた。

『ブモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

“黒牛”――ミノタウルス・マーダーの雄叫びが轟き、私たちのほうへ向かってくるのが見えた。……いや違う、黒牛が狙っているのは王太子たちだっ。

「アイツ、あの祭壇を護るようになってるのかっ!」

おそらくはヴィーロの推測が正解だ。朱牛や蒼牛は分からないがダンジョンボスであるミノタウルス・マーダーは、あの祭壇を護るように擦り込まれている可能性が高い。

「ヴィーロッ、アリアッ! 一瞬でいい、そいつを止めろっ!!」

そのすぐ後を追ってくるドルトンたちから指示が飛ぶ。かなり無茶な指令だが、それでも彼との付き合いが長いヴィーロが即座に動き出した。

「仕方ねぇっ!! アリアは赤いのを牽制しろっ!」

飛び出したヴィーロを追いかけようとした朱牛の側頭部に【分銅型】ペンデュラムが炸裂する。

『ブォオオッ!?』

「行かせないっ!」

だけど、ヴィーロ一人で止められるのか? ドルトンが最初に自分とフェルド以外近づくなと命じたのは、ランク4の私たちでは、ランク6の攻撃で即死する危険があったからだ。

だが、ヴィーロは地響きを立てるように突進してくる黒牛に向けて微かに笑うと、荷物から取り出した握り拳ほどの“玉”を投げつけ、腕で振り払おうとした黒牛の目前でその玉が爆発した。

ドォオオオオォォンッ!!!

『ブモォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

溢れ出た大量の炎に顔面を焼かれた黒牛が苦悶の叫びを上げる。

「どうだっ! 大金貨五枚もするダンジョン産の“奥の手”の味はっ!」

おそらくアレは以前サマンサが言っていた“毒玉”と同じ、ダンジョンからの戦利品だろう。ただアレに込められていたのは“毒”ではなく、あの威力から察するにレベル5の火魔術である【 火球(ファイアボウル) 】だと思われる。

「二人とも無事かっ!!」

その隙に追いついてきたフェルドが黒牛に大剣を叩きつけ、その背から血飛沫が噴き上がる。

「――【 狙(スナイパー) 撃(シヨツト) 】――」

次にミラからも弓術の【戦技】が放たれ、黒牛の首筋を貫いた。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

最後に追いついてきたドルトンが、飛び込むようにして巨大なミスリルの戦鎚を振りかぶり、渾身の力で黒牛の頭部に叩きつけた。

ガギンッ!!!

黒牛の捻れた角の一本が半ばから砕かれて宙に舞う。

でも違う…… 折った(・・・) んじゃない。黒牛が自分から角を使ってドルトンの攻撃を受け止めたんだ。

『ガァア……』

矢で射貫かれ、背中を斬られ、角を折られながらも攻撃を受け止めた黒牛は、焼かれた顔でギロリとドルトンを睨み、その手に持つ戦斧でドルトンを一撃で弾き飛ばした。

「ドルトンっ!!」

吹き飛ばされたドルトンを庇うようにフェルドが前に出ると、黒牛は邪魔をする全てを吹き飛ばすように強烈な殺気と咆吼を放つ。

『ブォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』

「ぐっ!」

横薙ぎに振るわれた戦斧が、とっさに大剣を盾にしたフェルドの巨体を数メートルも弾き飛ばす。

「くそっ!」

即座に援護に入るヴィーロが視界に入ると同時に、黒牛が戦斧を振り下ろしてその衝撃波が彼を薙ぎ払う。

それを見て私も飛び出そうとした瞬間、それまで私が牽制をして留めていた朱牛が、私の邪魔をするように攻撃を仕掛けてきた。

『ブォオオオオオオッ!!』

「ッ!」

ガキンッ!!

とっさに振るった私のナイフとハルバードが金属音を鳴らし、体重の軽い私が吹き飛ばされる。

「アリアっ! みんなっ!」

仲間たちの危機にミラが数本の矢を掴んで弓を引き絞る。だがこの混乱と乱戦は、離れた場所で戦っていたもう一体の魔物も引き寄せた。

『ブモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

騎士たちを薙ぎ倒すようにして蒼牛が興奮したように突っ込んでくるのが見えた。

「…………」

ここに来て蒼牛も来るか……。

でもどうする。ミラがなんとか黒牛をおさえようとしているが、ドルトンもフェルドもまだ立ち上がれない。

衝撃波を受けたヴィーロもそれに気づいて、蒼牛を止めようと動き始めたが、彼も私と一緒でランク5を倒す切り札がない。

「…………」

血の味がする唾を飲み込み、私は黒いナイフとダガーを構えながら、諦めない彼らの姿に“覚悟”を決める。

傷つくことも死ぬこともとっくに覚悟はできている。でも そう(・・) じゃない。

『ガァアアアア……』

私のその“覚悟”を感じ取ったのか、朱牛が警戒するように一瞬足を止めた。

お前だけは必ず殺す。たとえ五体が砕けようとも首だけになろうとも、必ずその喉笛を食い千切ってでも、私は 朱牛(おまえ) を殺す“覚悟”を決めた。

「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

肺の中を振り絞るように声を張り上げ、純度を上げた魔素を駆け巡らせながら、私は“原初の戦技”を使うために、全身を弓のように引き絞る。

『ブォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

それを見た朱牛が、ハルバードを両手で構えて飛び出そうとする。

視界の隅で、カルラが“精霊の祭壇”に辿り着き、その手を触れる寸前、一瞬だけ私にニヤリとした笑みを向けた。

同時に飛び出した私と朱牛の武器が互いの心臓に向けて、その刃が互いを貫こうとした瞬間、突然“祭壇”から溢れた白い光が闘技場全体を包み込んだ。