軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

マルペン商会・月例集会

44話 マルペン商会・月例集会

倉庫を改装した集会場は、いつもより静まり返っていた。

天井の梁に吊るされた魔導灯が、白く揺れる。

並んだ長椅子には、荷運び、帳簿係、料理人、鍛冶師、護衛兵――マルペン商会の面々が肩を寄せ合って座っていた。

壇上に立つ社長は、いつもの豪放な顔ではなかった。

腕を組み、しばらく黙ったまま床を見つめている。

「……俺が小さい頃な。」

ぽつりと、言った。

場の空気がさらに沈む。

「貧しい家なんて、そこらじゅうにあった。働いても食えない。親も必死だった。」

誰も動かない。

「仲のいい奴がいた。よく一緒に川で遊んだ。笑うと歯が一本欠けててな、間抜けな顔だった。」

小さな笑いが起きかけて、すぐに消えた。

「ある日、そいつは死んだ。」

電灯が、ぱち、と音を立てた。

「栄養失調だった。」

沈黙。

社長は顔を上げない。

「喉の奥が痛くなってな。泣いたよ。悔しくてな。」

拳を握る。

「俺の家も余裕はなかった。だが……。」

一瞬、声が掠れた。

「半分やれたかもしれん。自分の飯を、半分。」

その言葉が、静かに落ちた。

誰も目を逸らせない。

「今でも思う。あのとき半分やれていたら、あいつは生きていたんじゃないかと。」

社長はようやく顔を上げた。

その目は、いつもの商人の目ではなかった。

「だから俺は、浮浪者を見ると放っておけん。」

はっきりと言い切る。

「飢えて死にそうな奴がいたら、助けてやってくれ。」

ざわめきは起きない。

ただ、呼吸の音だけが重なる。

「ここには医者がいる。料理人もいる。鍛冶屋もいる。なんとかできるかもしれん。」

しばらく間を置き、社長は続けた。

「できる限りでいい。全員は無理だ。だが、目の前にいる奴を見捨てるな。」

壇上から降りる。

沈黙が、重く広がった。

やがて誰かが言った。

「社長も……苦労されたんですね。」

別の男が立ち上がる。

「俺、社長に拾われてなきゃ、今ごろ墓の下でした」

「うちの家族もです! 社長のお陰で、冬を越せました!。」

声がいくつも重なり、拍手が起きる。

社長は手を振って止めた。

「大げさだ。」

短く言い、背を向ける。

集会は終わった。

だが、拍手が消えたあと。

椅子に座ったままの男が、心の中で呟く。

(……忙しすぎる)

今月の取引は過密だ。

新しい航路の開拓。

護衛の増員。

資金繰りもぎりぎりだ。

(死にかけを探す暇なんて、あるか?)

目を伏せる。

(何千、何万いたらどうする? 無理だ)

だが、その男もかつて浮浪者だった。

冬の路地裏で凍え、腹を空かせていたところを拾われた。

社長の一言で。

だから何も言えない。

言える立場ではない。

拳を握る。

(……理想は分かる)

(でも、この商会が潰れたら、ここにいる全員が路頭に迷う)

拍手の余韻が、まだ壁に残っている。

理想は美しい。

だが、現実は重い。

マルペン商会は今日も拡大している。

同時に、見えないひびも、どこかで広がっていた。