軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お祖父様とのお約束

「これこれ、ベルンを連れて行くわけにはいかぬだろうて。ルイ殿が困ってしまうわ」

「さあ……旦那様も別に良いと仰られると思いますよ?」

「むむ……まあ、そうさなあ……」

2人の会話に、頭が痛くなるような気がした。あの子、相変わらず盲目なのね。

「あの子、あっちでそんなに色々やらかしちゃってるんですか?」

「見事に動いておるよ。エドワード様にとっては、だがな。いや…あの男爵令嬢にとっては、か…」

……ああ、何を仕出かしているのか怖くて、これ以上聞けない。というか、公爵家に戻って来て欲しくないわ。

「そんなことより、アイリス。儂も暫く此方に滞在して良いか?」

「勿論ですわ、お祖父様。あ、でしたら…お願いがあるのですけれども…」

「何だ?」

「2つありまして…1つは、現在我が領に新しく警備隊を設立させましたの。そちらの新兵達に訓練をしてあげて欲しいんです。勿論、お祖父様の滞在中だけで良いので」

「勿論、良いぞ。丁度ライルとディダと遊ぼうかと思ってたところだしな」

「え?じゃあ、あの2人はお祖父様が来ることを知っているのですか?」

「近々、とは伝えておったがな…まあ、彼奴らも慣れているから予想ぐらいはしておるだろうて」

……お祖父様、アバウト過ぎです。それじゃ、2人も私に伝えようがないわよね。いつか確定してないんだから。

「それで、もう1つは?」

「あの………その、ですね……」

「ほれ、言うてみ」

「……私を、市井に連れて行って貰えませんか?」

私の願いが予想外過ぎたのか、お祖父様は目を丸くしていた。

「それはまた構わないが…何でまた?」

「あの…街の中を歩きたいんです。視察、という訳ではないのですけれども……今、街がどんな様子なのか、民がどんな風に思ってどう暮らしているのか、街の人たちに紛れて自分の目で見て感じたいんです。だから、あんまり人を多く連れ歩きたくなくて…お祖父様なら、誰1人文句は言わないでしょう?」

この前の視察だって、領の一部とはいえ沢山見たわよ。でも視察って形ではなくて、街の人として歩いてみたいの。馬車を使わずに、護衛に囲まれずに、もっと直接的に。それこそ、昔みたいにね。そう考えたら、お祖父様って物凄く都合が良いのよ。

第一に、お祖父様ほど強い方が一緒に行ってくださるのであれば、安心安全だし、ライルやディダからも反対されないでしょう。

第二に、お祖父様と歩いていればカモフラージュになる。言い方は悪いが、お祖父様の見た目って本当貴族に見えないから。

第三に、今あんまり私の我儘で家の人を動かしたくないのよ。ライルとディダにはそれぞれ仕事を割り振っていて、そちらを優先させて欲しいし…他の護衛だとぞろぞろ連れてかなきゃ、まだ実力的に不安だし。これらを考えると、お祖父様って本当に適任なの。

「別に良いぞ?じゃ、明日早速行くか?」

「本当ですか!?宜しくお願い致します」

わーい。何しよっかなー…買い食いしたり、ウィンドウショッピングしたり楽しもうっと。

丁度その時、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。

「……失礼致します。アイリス様、午後の打ち合わせの時間ですが……」

そう言って遠慮がちに入って来たのは、セイだった。

「まあ、もうこんな時間……?」

「アイリスちゃん、私たちのことは気にしないで。勝手知ったる家ですもの」

「そうさな。儂もそろそろライルとディダと遊んで来ようか」

「でしたら2人とも、私は此方で失礼しますわ。何かございましたら、お呼びください」

書斎を後にすると、道すがらセイから午前中に指示したことの進捗を聞く。…あ、そういえばハーブティーの茶葉販売について計画立てなきゃ。

「そういえば、セイ。報告書にユーリ男爵令嬢のことが書かれてたんだけど……」

「ああ、彼女のことですか。会員になりたいと申請してきたので、却下しました」

「あら、エド様は文句を言って来なかった?」

「“正式に婚姻を交わし王族となったのなら兎も角、現段階では会員になれない”と伝えました。“現在我が商会では多くの貴族が会員になれるのを待っている状態であり、貴方様よりも身分の高い方でも順番を待っている状態だ”と案内したら、彼女も納得されましたよ。第二王子は色々言ってましたが、彼女が最後は第二王子を説得していました」

「そう…大事ないなら良かった」

「…というか、あの人たち何なんですか?アズータ商会がお嬢様の持ち物だと知っていてあんなにデカい顔をしていたのなら、神経疑いますよ」

「……知らなかった、というより最初から私になんて興味がなかった…というのが正解でしょうね」

うん、そんな気がする。私は過去の人……もう記憶の片隅にあるかどうかぐらいのレベルなのだろう。彼らにとって、互いが一番大切でそれ以外周りは目に入らないモノ…あら、こう言ってみると、彼らって台風の目という表現がピッタリね。

「もしあの人たちが何の関係もない方だったとしても、質が悪いですよ。第二王子は権力を振りかざして喚き散らしましたし、彼女は彼女で特別待遇なんて良くないわなんて…それに申請している貴方は何なんですかって感じですよ」

「………」

思わず、重い溜息を吐いてしまった。

「セイ。もし、私のことを気にしているのであれば、普通に申請を通してくれて構わないわ。それより、エド様がああだこうだ言って介入して来る方が面倒だもの」

「今のところ、本当に順番待ちが発生しておりますので。彼女の番になったら、よくよく検討しますよ」

「それなら良いわ」

それからセイと各所を周って打ち合わせをしていたら、すっかり夕暮れ時になってしまっていた。

……この後は、セバスと打ち合わせだ。

そんな事を考えながら、1人のんびりと散歩がてら歩いた。広大な敷地を有する公爵家では、現在主屋とは別に幾つか庭園と別宅がある。因みにアズータ商会本部は、その別宅の中の1つを借り上げて拠点としていた。

試作品はその建物から出してはならないと取り決めされている為、私も試作品とかを見に行く時はそっちに行ってる。良い運動になるし、家の敷地内だしね。

書斎に入ると、すぐにターニャがお茶を淹れてくれた。

「そういえば、ターニャ。明日昼時の予定って調整できる?」

「何かご予定でも?」

「ええ。お祖父様が街に遊びに連れて行ってくれるの」

「ガゼル様がですか?それは良うございましたね。早速空けさせていただきます」

「宜しくね」

これで、良し。明日が楽しみだなあー。