軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

98話 バリア魔法の国はやはり住みやすい

バリア魔法の橋をスーッと移動して、俺たちはエルフ島に到着した。

途中、海を渡る巨大な魔物が橋に突進してきていたけど、顔面からバリア魔法に衝突して歯が砕け散っていた。

……おいおい、あいつ死んだぜ。

軽く島の構成を紹介してやり、この地を納めているファンサとも一度合わせておいた。

いつもクールなファンサは、鞍馬ひじりを前にしてもクールなままだった。

内面はどうか知らないけれど、異世界勇者を前にして冷静な顔している魔族は初めて見たかもしれない。

あのアザゼルでさえ、鞍馬ひじりを前にすると少し表情を崩す。

ベルーガは同じ女性同士で少し慣れたみたいだが、まだ二人には距離感があった。

というより、まだひじりをお客様扱いしている感じがする。

二人に立場の差はないはずなのに、ベルーガは終始敬語だった。

その一方でひじりは、初めてみるエルフの生活風景と美しい景色をとても気楽に楽しんでいる。

「エルフの生活ってなんだかいいね。凄く自然に溶け込んでて、見てるだけで安らぐ」

森と元に生きるエルフの生活を、鞍馬ひじりは気に入ったようだ。

ここの生活を壊さないように、彼らの古くからの生き方を尊重していることを伝えた。

集落によって住み方は千差万別だけど、今見ている集落は大きな木の上に作ったツリーハウスに住み、地上から離れた高い場所で暮らしていた。

おそらく世界中のどこでも見たことのない景色に、鞍馬ひじりは終始上を向いてその景色を楽しんでいた。

俺もツリーハウスの集落には初めてきた。

少し不便そうな生活には思えるものの、彼らのゆったりした時間の使い方を見ていると、不便とかどうでもよくなってくる。

大木の上で読書をしているエルフを見かける。木の葉の間からわずかに漏れてくる日差しがまたなんとも心地よい。

俺も老後はここで生活しようかな。そんなことを考えてしまった。

「俺もここは好きなんだ」

たまに用事がなくても来たくなる。ここにはそういった安らぎがある。

「マイナスイオンが出てそう。パワースポットにもなりそう」

知らんけど。それは知らんけど。

「なあ、ひじり」

「ん?」

「エルフ米を少し分けて貰おう。きっと驚くぞ」

少し首を傾げられた。

やはり理解していないな。そりゃそうだ。知っているはずもない。

彼女はミライエ産のエルフ米しかしらない。同じものでも、このエルフ島で採れたものは全く違うものになる。エルフが養ってきた豊かな土壌の為せる技である。

「何に驚くの?」

「食べてみたらわかる」

エルフ米を分けてくれるように頼むと、俺の正体がシールド・レイアレスだと判明するや否や、エルフたちが集まってきて感謝を伝えられた。

イデアの支配から解き放たれて、今の安らかな生活を送れていることに感謝しているみたい。

「ど、どうも」

あんまり感謝されると、どうも照れくさい。

「へー、あんた凄い人だったんだね」

「そりゃ、国王だしな」

「適当にほっつき歩いてるから、なんか威厳ないのよね」

ひじりにビシッと言われてしまった。

うーん、たしかに!反論が出てこない。

少しエルフ米を分けて貰えるだけで良かったのだが、集落の食事に誘われた。

エルフの伝統的な土鍋で炊かれたエルフ米と、付け合わせの漬物だけの昼飯だ。

エルフのシンプルな食生活がうかがえるが、これだけで十分。いや、これだけで御馳走になり得るから凄いんだ。

久々に食べる純粋なるエルフ米と、それに合う山菜の漬物。

口に入れた途端、頭の中でやばい物質が始める。パン!パンパン!

久々に来た!脳何で何かが弾ける感じ。やばい、これは癖になる。

収穫したての純粋なるエルフ米のうまさや!!

「うんめー!!」

「うわっ。おいしーこれ!!」

そうだろう、そうだろう。

おかずは漬物だけでいいどころか、むしろ漬物だけの方がいい。

その方が存分にエルフ米のうまさを味わえるんだ。

「なんでこんなにも違うの?同じ品種っぽいのに!」

「エルフの恵みってやつだ。ここの豊かな土壌が、食べ物をより一層うまくする」

「へぇー」

なんだか興味深そうにひじりが聞いていた。

少し考えこんでいる。なにかやりたいことでも見つかったみたいに、わくわくした目で俺のことを見て来た。

「このエルフ米、どこかもち米っぽいの。美味しさの上下を決めるというよりは、ミライエで食べたエルフ米とは別物って考えたほうがよさそう」

聞いてみると、ひじりの世界で食べていたもち米という品種に近いのが今食べているエルフ米らしい。

このもちもち感と、深い甘み、そして希少な存在から交易所では高値で取引されているが、ひじりの言う通りどちらがうまいかを決めるのは難しい。

というより、無意味だ。完全に好みの問題になるだろうし、食べ方もそれぞれ違う。

今食べているエルフ米は加工して食べられることが多く、ミライエのエルフ米はそのまま主食として食べられるのが一般的だ。

「ねえ、私このエルフ島に住みたい」

「はい?」

おいおい、それはどうなんだ?

いや、問題はないけれど。

「もとの世界にいた時も島国だったし、なんだかここは居心地が良いの。うん、なんかパワーを貰えている気がする」

それってさあ、やっぱりここがパワースポットってこと!?

「あんたの権限で私にこの地に住まわせて欲しい。やりたいこと、見つかったから!」

「やりたいことって、お前。帰るのだけがやりたいことだったんじゃ?」

「それはそう。それが一番なのは変わっていない」

なら何が変わったんだ?

まさか、この世界が少し好きになってきたとか?

「だって、帰る方法なんていつ見つかるかわかんないでしょ?それに給料を貰えるならマタンの仕事もきっちりこなす。お金を貰っている以上、それ以上の利益をあなたにお返ししなきゃ」

歩く災害である異世界勇者が大人しくしてくれれば、こちらはいくらでもお金を出すが、まさかそんなにやる気を出してくれようとは。

ワイ、嬉しいです。

「マタンの仕事って、私のクラフト魔法とも相性が良さそうだし、定期的に成果を届けるから」

「期待している」

「だから、あんたの権限で私をこの地に住まわせて。……あんたの言う通り、ミライエはいいところかも。まだわかんないけど。それに、ここのエルフの生活を尊重しているその統治も、少しいいと思った……」

ぼそぼそとした声で褒められた。もっとはっきりと聞こえやすく言ってくれればいいのに。

この世界を好きになったどころか、具体的にミライエが好きになってきたのか。立った数日で魅力に気づくとか、お前は天才か?

彼女を受け入れない理由はない。

やりたいことを聞いてみると、彼女はとあるものを作りたいらしい。

何を作るのか気になったが、秘密にしておきたいらしくしばらくは教えてくれなかった。

ここで暮らすためにどの程度のものを用意してあげればいいか困っていると、ようやく白状した。

「醬油を作りたいの。私の家、数百年続く醤油屋さんだったから……」

「てか、お前それ。美味しく海鮮丼食べたいだけだろ」

「なっ!?」

慌てふためくひじり。まるっきり図星じゃねーか!ずっと醤油はないかと聞いてきたから、そのくらいわかる。

「それを言われるから言いたくなかったの!もーいやあ!食いしん坊な女だと思われてるじゃん」

顔を隠してももう遅い。とっくにそのイメージはあるぞ。

「ひじり様、落ち着てください。あなたは元々食いしん坊なイメージがあるので、何も失っておりません」

エルフの森の散歩から帰ってきたベルーガがさっそくフォローに入るが、フォローになってないからね、それ!

「いやああああああ」

寝転がってもん絶しだしたぞ。そんなに嫌か?そのイメージ。

俺は食いしん坊さん、そんなに嫌いじゃないぞ。

苦しくなるまで食べるのはどうかと思うが、自分の空腹を満たすために食べる食事は尊いものだ。健康的だし、何も恥じることない。

「ひじり、恥ずかしがることはない。むしろ、そういう人間らしい理由、俺は好きだぞ」

「……シールド様、私も美味しいものが食べたいですし、作りたいです!」

なぜかベルーガが張り合ってきた!

聞こえなかったふりをしておこう。

醤油の作り方を簡単に聞いてみた。

面白そうな話だった。

彼女は何代も続く醬油屋さんの跡取り娘だったので、流石に知識は深い。

人員を回してやれば立派なものを造ってくれそうだった。

「ひじり、人を回してやる。それと、土地もでっかいのが良いだろう」

「そんなにいらないわよ」

「そう言うな。お前みたいにビッグな存在には、ビッグな土地を与えてやろう」

「ビッグ……。顔が大きいって言いたいの?」

言ってないけど!!

実はまだ余っている土地があるんだ。

そしてひじりに与えるにはちょうどいい。

そこで醬油でも、マタンの仕事で新しい魔法でも好きに生み出してくれていい。

そこには伝説の魔獣がいるらしいから、異世界勇者に退治してもらうとしよう。一石二鳥どころか、一石五鳥くらいありそうな采配!

「ベルーガ、ひじり、北に向かうぞ」

「はい!」

「……寒そう」

俺たち三人はエルフ島、未開の北の島へと向かう。

以前使用許可を貰っていた北の土地だ。

危ない魔獣がいるから放置していたが、ひじりもいることだし、ちょうどいい。

さて、新しい土地はどのくらい使えるのか、楽しみである。