軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

96話 バリア魔法の国には美味しいものが盛り沢山!!

異世界勇者ひじりに新しい名前を与えてやったほうがいいのだろうか?

ミライエに連れてきたはいいものの、彼女は表向きには死んだことになっている。

凱旋する俺たちを出迎える国民は、まさか俺の隣にいるのが異世界勇者鞍馬ひじりだとは思っていないだろう。

歓喜に包まれるミライエは、より一層発展しそうな明るい空気感に満ちていた。

そんな喜びいっぱいの中、不安な情報を流したくはない。

「鞍馬ひじり、お前を俺の部下として雇う形にするが、間違っても自分が異世界勇者だと名乗るなよ」

「分かってるわよ」

どこかふてぶてしい態度で返事をされる。

慣れないミライエの地に、少し心が不安定みたいだ。

その不安感が彼女を不機嫌にしていた。お祝いムードだが、まだミライエの一員になれていない彼女はこの喜びに混ざれない。それは当然の感情だ。

「美味しいものを用意するから元気を出せ」

「本当に!?」

分かりやすいやつめ……。

一瞬で目の色が変わったぞ。

「新しい名前をどうしよう。偽名を使わせるのは少し面倒ではあるが、念のためだ」

「それなら姫って呼んで」

「却下!!」

余裕で却下だが?

「ひじりでいいわよ。どうせ誰も気づかないって。ヘレナでも異世界勇者様、異世界勇者様って呼ばれてたんだから。ひじりって名前で呼んでくれるのはカトリーヌくらいだったわ」

しんみりした表情になってしまった。

なんだか、俺にはわからない苦労を抱えていそうだ。

いきなりこっちの世界に呼ばれたんじゃ、苦労しないわけもないか。

まだ心も体も未熟な女性だ。きっと多く傷つき、不安だったに違いない。

あまり彼女に要求するのは良くないかもしれないな。

それに、少し臆病になりすぎていたのかもしれない。

何かあったら俺のバリア魔法で守ればいい。

変に彼女の正体を隠す必要もない気がしてきた。

任せろ、何かあったら俺が尻拭いをする。正確には俺のバリア魔法が全てを解決する!ドン!

新しくできた城に鞍馬ひじりを迎え入れ、さっそくローソンに飯を用意させた。

ショッギョを食べて貰うためだ。

ご機嫌斜めなお姫様には、餌付けするのが良いと相場が決まっている。

「ショッギョっていうのが我が国の名産品なんだが、これがうまいんだ。俺の好みの食べ方で作らせているが、生ものは大丈夫か?」

「生魚はむしろ好物よ」

それは良かった。

仲間の中には過熱していないと食べたくないという人も多い。

エルフなんかは特に加熱する派である。といっても、彼らはあまりショッギョを多く食べないんだけど。

エルフ米の栽培を任せているエルフのハリエットくらいだろう。ショッギョを常食しているのなんて。

でも美味いんだよな、これが。食べないのがもったいないほどに。

しばらくすると、ローソンによって綺麗にさばかれたショッギョが、輝くエルフ米の上に乗せられて運ばれてきた。

添えられたソースは俺の要望が加えられ、少しさっぱりした味のソースに変わっているはずだ。

「シンプルだが、これが一番ショッギョとエルフ米の美味しいさを引き立たせる。本当にうまいから、食べてみろ――え?」

料理を食べる準備をしていた俺は、一瞬で戸惑った。

だって、自分のおすすめの料理を出してやったら、鞍馬ひじりが涙目になってしまっているから。

ウルウルと涙が溜まっていく目元は、彼女の大きな瞳をより一層煌めかせる。

少し美しいと思ってしまった。

女の涙は武器だというが、まさかこんなタイミングでそれを味わうことになろうとは。

それにしても、なぜ泣いている!?

嫌がらせだと思われたのか?

生物大丈夫って言ったのに!それとも見た目があまりにもシンプルすぎた?

国のトップがこんなものを食べているハズがないから、騙されていると感じているとか?あらゆる可能性が俺の脳内で流れていく。

どれが正解なんだ。教えて、偉い人!はっ、偉い人俺だ!?

「海鮮丼……」

「はい?」

なんて言ったかわからなかった。俺の知らない単語みたいだった。

「なんで私の好物が海鮮丼だって知っているの?」

知らないけど、せっかくだし知ってたことにするか?流石にせこいのでたまたまだと正直に答えた。

エルフ米の上にショッギョを乗せて食べる食べ方を、鞍馬ひじりの世界では海鮮丼と呼ぶらしい。

俺は知らなかったけど、自然とこの食べ方に落ち着いた。異世界でも同じ食べ方をしていたとは……。

まさかこれが自然の摂理だとでもいうのか?もしや、世界の真理?神の意志?

エルフ米の上にショッギョの切り身を乗せただけなのに、世界の深淵を覗くところだった。

もう少しだけ深く考えていたら世の理を悟れそうだったけど、やめておいた。

「知らないけど、俺もその食べ方が好きなだけなんだ。ほら、うちの料理人特製のソースをかけてやると、もうそれだけで極上の料理へと昇華する」

「……醤油は?」

「ショウユ?ヘレナ国でそんなものあったか?」

「いや、ヘレナ国のものじゃない。……じゃあワサビは?」

「ワサビ?お前、それって異世界の食べ物だろ」

気づいてしまった。彼女の要求しているものは、この世界ではあまり食べられていないものだ。

無茶言うな。異世界がどんなところかも知らないのに、同じ調味料まで用意するのは無理がある。

「これも旨いから、今日はこれで我慢してくれ。ソース、かけてやろうか?」

「いえ、唐揚げにレモンとかかけられたくないので、こういうのは自分でやるように心がけております」

「唐揚げにレモン!?」

……理解できなかったが、危険な思想っぽいので深くは立ち入らない。おそらく戦争の火種になり得る話題だ!

君子危うきに近寄らず。

「ちょっと味見を」

ソースをスプーンに少し垂らして、味を確かめていた。

少し酸味の効いた甘酸っぱさが心地よい、味の濃いソースだ。

「……美味しい。ギリギリ合格ね」

また我が国に一人、舌の肥えた人間がやってきたようだ。

これだけ美味しいのに、ギリギリだとは……。異世界はもしや、さぞ飯がうまい可能性がある。

「このショッギョ、マグロに似てる。ショッギョの全ての部位を入れているのね。海鮮丼よりも、鉄火丼に近いのかしら」

「そろそろ食べてみたらどうだ?」

いろいろ言うより、飯はとっとと食べるに限る。

ショッギョのうまさ、譚と味わうが良い。

俺の忠告通り、ひじりはショッギョのエルフ米乗せ改め、海鮮丼を口にする。

かっと目が見開かれたのを俺は見逃さなかった。

始めてエルフ米を食べた時以上の反応だ。

あまりの分かりやすさに少し笑いが漏れてしまう。気に入って貰ったみたいで何よりだ。

「お、お、おいひぃーーー」

上手に舌が回っていなかった。無理もない。噛むのに必死で、話にリソースを回せないよな。言葉が出てきただけで凄い。俺は初めてそれを食べた時、言葉なんて出ず、脳内で何かがパンパンと弾けていた。

「天然本マグロの大トロみたい!!食べたことないけど!!」

「ないんかーい」

テーブルからずり落ちてしまいそうになった。

マグロがどういう魚かは知らないが、ショッギョに似ているならうまいに違いない。

それの一級品ともなれば庶民に手が出ないのも頷ける。

「ひじり、お前にはそれなりのお金を支払うからショッギョを食べられるのはもちろんだが、実はな……」

「なに?」

「ショッギョは庶民でも簡単に手が出る程安い!」

「本当に!?」

ショッギョは美味しい。でもお高いんでしょう?ではつまらない。安定した生産体制を整えたショッギョは、今や手ごろな値段で食べられるお魚となっている。

もちろん育ちのいいショッギョや、質のいいものは高値で取引されるが、そういうこだわりが無ければ、ショッギョは気軽に買える。

そして、気軽に買える個体も十分うまいことを俺が実食して確かめている。

美味しさのコスパが高い商品、それがショッギョである。

「どうだ?」

「なによ……」

わかってんだろう?

俺がひじりをミライエまで連れてきたのは、この地が良い場所だと教えるためだ。

世界を混沌に陥れる人物として宣戦布告されたからな。一部事実なので否定はしないが、ミライエが悪い場所だとは言わせない。

この地は、間違いなく最高の国だ。

「言っちゃいなよ。ミライエ、いい場所って言っちゃいなよ」

ほら、楽になりな。鞍馬ひじり、素直に吐いて楽になっちゃいなよ。

「全然!!まだまだ滅ぼすべきだと思いますけどね!!」

そこまで!?

まだまだ彼女の心は閉ざされている。

先は長いかぁ。

「……うそ、それは言いすぎた。ちょっとだけいいところ」

……先はそう長くないかもしれないなぁ。