軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

94話 バリア魔法で囲む朝食会

「うわああああああ」

エルフ米を前にして、異世界勇者ひじりは宝物を見つけた少女のように目を輝かさせた。

聞けば、この世界に来てからずっとパンを食べていたらしい。

無理もない。ヘレナ国の主食はパンであり、たまにジャガイモが取って代わるくらいか。

俺もエルフ米と出会う前まではお米を食べたことがなかった。

大陸では北のイリアスの一部で食べられている少数派の主食だ。

この世界に来て1年も経たないひじりが出会わなくても不思議はない。

「なんであるの?なんで本当にあるの?」

まだ疑ってるみたい。

炊き上がりのご飯をお椀によそいで、ベッドサイドのテーブルに届けるまでずっと半信半疑だったからな。

料理もいろいろと運ばせた。

何が口に合うかわからないから。

敵とはいえ、相手は異世界勇者だからなのだろう。

この城の人間もやたらとひじりのことを考えて料理も必要以上に持ってきていた。

敬意もあるし、恐れもあるのだろう。いや、この感情は似た感情なのかもしれない。

さて、では頂くとしよう。

「なんであんたがまた食べるのよ!」

「ちょっと料理が多すぎると思って。残したら勿体ないだろう?それに飯はみんなで食べるに限る」

一人で食べるより、みんなで食べる方が遥かにうまいんだ、これが。なにか明確な現象名を付けたいくらいに、確実な説である。

「その料理気になってたんですけど!」

「まあまあ」

「食べてるやつが偉そうに私を諭すな!」

うるさいやつだ。フェイも食事の時は凄くうるさいので、ひじりと意外と相性がいいかもしれない。

異世界勇者が嫌すぎて、今は城砦都市の街で飲み歩いている最中だ。聖剣魔法を打ち砕いたから、セカイの首の痛みもとれたはずだが、一度味わった痛みがそうとう尾を引いているみたいで、セカイも逃げるようにフェイたちに付いて行っている。

ドラゴンの唯一の天敵、それが異世界勇者だ。あいつらを黙らせる時には、是非ひじりにいて貰いたいものだ。

「でもお米だけでいけちゃう。何このお米、すんごい美味しい。あれ?久々に食べたから?いや、このお米が美味しすぎなだけな気も」

そうなんだよなー。エルフ米、うんまいんだ。

今ひじりが食べているのはミライエで育てて収穫したエルフ米だ。

エルフ島のものは、また違った味わいがあってよい。あまり量が入らないから滅多に食べられないんだけどな。

白く美しい米粒がしっかりと噛み応えもあって、口いっぱいに甘みが広がる。そのまま食べても旨いし、料理と一緒に食べると料理の味を引き立たせるいい嫁的な働きもできる。エルフ米、お前は最強だ。バリア魔法の次に最強かもしれない。

「料理もうまいから食べてみろ。どれもエルフ米と合うおかずだ」

「うんうんうん」

口に大量にエルフ米を押し込んでるから、相槌だけ打ってきた。

エルフ米だけでうまいのも分かるが、せっかく料理を運ばせたのに食べないのは勿体ない。

「ベルーガ、朝食は?」

「まだです」

「一緒に食べよう。ほら、隣座れ」

「はい!」

椅子を一つ持ってきてやると、ベルーガが嬉しそうに座った。

ご飯を追加で持ってきて貰い、なんとも不思議なメンツでの朝食会になってしまった。

殺し合いをしていた異世界勇者と朝食か……。世の中何があるかわらないな。

「……なんだか幸せそうね」

「ん?私ですか?」

ひじりがベルーガに向かって謎の問いかけをしていた。

幸せそう?そりゃこんなうまいエルフ米と大量の料理に囲まれたらみんなハッピーだろう?何を言ってんだ。

「私はとても幸せですよ。長く生きてきましたが、今以上に幸せなときなどありませんでした」

苦労してきたんだよなぁ。

ベルーガもアザゼルも、他の魔族たちもあまり過去を話そうとはしない。

苦い記憶が多く、人間との戦いに明け暮れた日々だと歴史書から読み取れる。

あまり思い出させたくないので、俺も深くは聞かない。

今が幸せならそれでいい。

ミライエは暮らす者全員を幸せにする。そういう国なんだ。

「なんだか、聞いていた魔族の感じと違うわね」

「ふむ、魔族も人と同じ。時代と共に価値観も生活も変わります」

「人を殺し、村を焼き、生産的なことは何一つしないと聞いてたのに」

それは全く真実と違う情報だな。

ヘレナ国はやはりひじりに変な情報を流して洗脳していたか。

薄々そういうことをするだろうと思っていたが、実際にこうして聞くと少し恐ろしくなる。

俺の変な情報とか流されてないよね!?

「シールド・レイアレスは世界を破滅に導く存在。人々を虐殺し、女を奴隷のように扱い、金で何かも解決する男……」

すんごい情報流されてる!!

想像していた10倍すんごいの来た!!

「それは流石に盛っていると思っていましたが、どうやら結構な嘘が混じっているみたいですね」

「滅茶苦茶嘘だけど!くっそー、腹立つなー。おい、ミライエに帰ったらカラサリスのクソな情報流してやろうぜ!」

「おやめくださいシールド様。メリットがございません」

「ぐっ」

それもそうだ。

やられっぱなしで悔しいが、ここはベルーガの意見を受け入れておく。

ありがとう。俺が頭に来ても周りがいつも冷静でいてくれる。助かるんだ、傍にいてくれるだけで。

「シールド・レイアレス。あなたの真実の姿がわかりません。カラサリスが言うのが本当か、それともカトリーヌが言うのが本当か」

おっと、懐かしい名前が出て俺は食べる手を止めた。

美味しい料理はまだまだ俺の食欲を刺激するが、それでも無視できないワードだ。

「ばばあはまだ元気か?もう当分会っていない」

「ばばあって呼び方……」

仕方ない。

あのばばあは昔から口やかましくて、怒りっぽくて、おばあさんと呼ぶにはあまりにも不自然。

老婆も違う、老人の枠にも納めたくない。やはりばばあだ。

でも孤児院でお世話になったばばあだ。でっかい恩がある。

「元気ですよ。あなたのことを気にかけていました。それと仕送りに感謝もしています」

いろいろ伝手を使って孤児院の支援をしていたが、ちゃんと届いているようで良かった。

ばばあが元気そうなのを確認出来て、俺は少しだけハッピーだ。

「なあ、鞍馬ひじり。俺から少し提案があるんだが、聞く耳はあるか?」

「……ない」

ふぁっ!?

なんかいい感じで譲歩してあげたのに!

なんだこの女。まじで嫌いだ。

「私は元の世界に帰りたい。それ以外は……本当は何にも興味がないんだ」

なんかうつむいて落ち込んでいるようだけど、お椀の中のエルフ米はしっかりと綺麗に平らげている。

米一粒も残さず食べているのは、腹が減っていたからなのか、それとも行儀がいいのかは知らない。

食べる途中に凹むならそうとうメンタルに来てるんだろうなと思うが、しっかり食べきってから落ち込むポーズを取られてあまり同情できない。悪いな、優しくはしない!落ち込んでる女に優しくできないから、宮廷魔法師時代もあんまりモテなかったのかもしれない。

ぐっ、苦い過去の記憶が……!

「帰りたいのも無理はないか。でも、それなら尚のこと話を聞いていけ」

ひょこっと顔を向けてきた。

やはり興味があるみたいだ。

「鞍馬ひじり、俺と共に来い。ミライエの真の姿をお前の目で見たらいい。カラサリスの情報が真実なのか、それともカトリーヌの情報が真実なのかは、お前自身が判断することだ」

「……たぶんカトリーヌが本当」

答え出てるー。

なんだこいつ。テンポ狂わされるわー。

「じゃ、じゃあ、もう戦わなくてよくね?こっち来いよ」

「もう一つの方が気になった。尚のことって?」

ああ、そっちか。

あまり期待させるようなことは言いたくないが、嘘ではないので伝えておこう。

「傭兵団アトモスの引き抜きの際にも考えたんだけどな、俺たち人間の魔法や知識って結構浅いみたいだぞ」

「ふーん」

異世界勇者の自分には関係ありませんみたいな顔しやがって。

「お前、元の世界に帰りたいけど、帰り方がわからないんだろう?」

「……うん」

「俺も知らん」

「コロス」

落ち着け!

手で制してひじりを落ち着かせた。

「俺は知らないけど、ミライエにはエルフも魔族も沢山いるんだ。俺たちより遥かに生きる彼らは、きっとまだ見ぬ知識を有しているはず。ヘレナにいるよりかは、ミライエにいたほうが帰れる可能性は大きいぞって話だ」

「……たしかに」

同意、得られました!

結構説得力のある話だったみたい。

実際、エルフも魔族も俺が知らないことを多く知っている。本当に元の世界に戻れる方法があったって、不思議ではない。知らんけど。

「それにお前、エルフ米が好きだろ?実はな、ミライエにはもっとうまいものがあるんだ」

「……」

言葉での反応はなかった。しかし、3人しかいない室内だ。

ごくりと喉を鳴らした音を、俺が聞き逃すはずもない。

「共に来い、異世界勇者鞍馬ひじり」

手を差し伸べる。

ふふっ。

この交渉、勝ったり!

勝因は、エルフ米。