軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

91話 バリア魔法使いはいつだって体調抜群

ひじりが寝込んでもう3日になる。

つくづく自分の運のなさを嘆く。

ひじりが盤石の状態であれば、バリア魔法に勝てたと思っている。

あの日、初めてバリア魔法を見た時、確かにひじりは言ったのだ。

「これは普通のバリア魔法じゃないのか」と。

カラサリスもヘレナ国の人間もそうは思えなくなっている。

少し変わったバリア魔法を見るたびにシールド・レイアレスのバリア魔法を連想し、絶対に壊れないものとして認識されつつある。魔法使いの中でバリア魔法が人気になりつつあるのは、シールド・レイアレスの影響が大きいだろう。

最近は、バリア魔法を見ると恐怖すら感じてしまうのだ。

こちらに害を与えてこないはずのバリア魔法が、なぜか気持ちを圧迫してきて、心の底から恐怖を感じさせる。

カラサリスは既にあのバリア魔法と向き合う胆力を失っていた。

異世界勇者が、最後の頼みの綱だったのだ。

そして希望もあった。

おそらくひじりにはあのバリア魔法が本当にただのバリア魔法に見えるのだろう。

同じものを見ても、感じ方は人それぞれだ。

ひじりにはあれがただのバリア魔法くらい簡単に壊せるものに見えたに違いない。

バリア魔法が壊れればすべてがうまく行く。

奇跡的に与えられたチャンスなのだ。何としてでも活かさなければならないはずだったのに、独断先行したひじりが痛んで戻ってきた。

よもやヨルムンガンドまで現れようとは。

噂じゃバハムートとリヴァイアサンまでミライエ陣営にいると聞く。

なぜだ。

なぜただのバリア魔法使いにこれほどの勢力が集まる。

理解しきれない。魔法だけでなく、あのとこには他にも力があると?カラサリスにはなくて、シールド・レイアレスにはあるもの……。

一度考えるのをやめた。そんなもの、考えても答えは出ない。

今は何より、ひじりの回復が最優先である。

宮廷魔法師一の回復魔法使いに見せて、ひじりの毒を中和して貰っている。

異世界勇者自身の抗体も強く働いているはずなのに、3日も熱に魘されているのはやはりヨルムンガンドの毒がそれだけ強い証拠なのだろう。

今シールド・レイアレスに攻め入られると非常に困る。

軍からはなぜ異世界勇者が数日も姿を見せないのかと不安視する声が聞こえ始めているし、伝説の傭兵団アトモスもなぜか動きが悪い。

何もかもがうまく周らないこのタイミングで攻め入られたら……。

10万の大軍が崩壊する未来もあり得る。

シールド・レイアレスが今、吞気にうんこしていることをカラサリスは知らない。

「このタイミング来そうなのが、またあの男っぽいな」

バリア魔法に敗れ続けたせいで、カラサリスの中のシールド・レイアレス像が肥大化していく。

宮廷魔法師時代も、守りのシールド・レイアレスとして知られていたのに、すっかりそのことは頭から離れていた。

今にでも攻め込まれるのではという不安が襲ってくる。

不安な心を落ち着かせるために座り込むと、ベッドで横になるひじりの顔が近くに見えた。

火照ったその頬と、もともとの綺麗な顔立ちもあり、少し劣情を抱く。

強さを求めてきたカラサリスにとって、異世界勇者の強さはあまりにも尊い。劣等感を抱く傍らで、あこがれの気持ちもあった。

その力を子孫に残せたら……。そう思ってしまうが、今は冷静になっておく。

異世界勇者に手を出せば信頼を失う。戦ってくれなくなれば、それこそ身の破滅だ。

自らの劣情を納め、天幕から立ち去ることにした。

外に出ると、いつも最前線に聳え立つバリア魔法が見える。

巨大な半透明な壁は、今日もこちらを拒絶するように聳え立っていた。

あれが味方だったときの記憶をほとんど思い出せない。

ありがたみを感じる前に、自らの手で追放してしまった。

存分に恩恵を受けていたはずなのに、どうして内側にいたときには気づけなかった。

外側から見るシールド・レイアレスのバリア魔法は、こうも圧倒的な存在感を放つというのに……。

がさりと音がした。

まさかと思い後ろを振り返ると、ひじりが起き上がっている。

あきらかに顔色が悪いが、ベッドのそばにあったコートを手に取り起き上がってくる。

「何をしている。寝ていろ」

酷い隈だ。毒は抜けたのかもしれないが、ダメージがもろにその顔から見て取れる。

ヨルムンガンドの毒を受けて無事なわけがない。

いくら異世界勇者といえども、限界はある。

「私がいつまでも寝込んでいると味方が不安になります。まずは、あのバリア魔法を壊します。それで味方の士気を高めます」

「可能なのか?」

「……私にはあれがただのバリア魔法以外には見えません。きっと壊して見せます」

修業時代に何度も壊してきたバリア魔法と同じだという。

カラサリスは少し喜んだ。にやりと笑う口元を隠す。

これだけボロボロになった状態でも、ひじりにはあれがただのバリア魔法にしか見えないのだ。

これは勝ったも同然ではないか?

今の状態でこれなら、万全なときならどうなってしまうのか。

なんとしてでも、勝たなければならない戦いだ。

提案通り、まずはあの聳え立つバリア魔法だけでも壊して貰えれば。

この戦い、勝機が見えてくる。

「ひじり、あれを壊したらもう数日休め。お前にはシールド・レイアレス本人も倒して貰わねば困る。万が一、があってはならないから、体調を戻しておけ」

「わかった。あと3日もあれば万全な状態に戻す」

戻るではなく、戻すと言った。

ひじりなりの決意が見て取れる。

それだけ戦いに真剣なのだ。

心強い味方に、何を不安になっていたのだと気持ちが晴れる。

この戦い、負ける訳はない。異世界勇者がいる限り。

目の前のバリア魔法さえ壊せば、大群をなだれ込ませて時間を稼げる。その間にひじりが全快すれば……。

カラサリスは拳を強く握りしめ、バリア魔法が砕ける未来を脳内に想像し、既に勝ち誇った気持ちを味わっていた。

――。

「ふぃー、最高だな!!」

「シールド様、何かご機嫌ですね」

ベルーガが嬉しそうにしている俺に気づいた。

詳細は言わないけど、でっかいのが出て俺は気分最高だ。

ふぃー、最高にスッキリだよ!!

軍の配置も完ぺきで、士気も高いと聞いている。

何もかもがうまく行っており、俺は最高の気分だ。

ここが戦場で、相手が10万の大軍と異世界勇者じゃなければもっといい気分だった。

さてさて、今朝もいい運動をしたし、朝ごはんを食べよう。

この地まで運んだエルフ米にショッギョの刺身を乗せてローソンが作った特製のソースをかけて食べる。

エルフ米はショッギョとの相性がいいんだ。

米を器によそって、その上にダイレクトにショッギョを乗せる。これだけで不思議とうまい料理になってしまう。

これを発見したのは軍の人間で、視察に行ったときにたまたま見かけて真似してみたら、これが滅茶苦茶うまかったという次第である。

「うんめ、これうんめ!」

かき込むように食べると、不思議と味が跳ね上がるんだよな。

行儀は悪いけど、エルフ米の甘みとショッギョのとろける脂の旨みが合わさって、俺の食を止めてくれない。

ローソンの特製ソースはうまいが、どこか違う気もする。

うーん、もう少しさっぱりだといいんだが……。戦争が終わったら、戻ってローソンに要望を伝えておこう。

そのためには、戦いに勝たないとな。

「シールド様!敵陣営に再び異世界勇者の姿を確認!宙に浮かび上がり、何やら始めようとしております!」

ちょうど食べ終わったタイミングだった。

ベルーガが急ぎの報告をしてくる。

スッキリした後にお腹も満たされ、俺は最高の気分だ。

相手の攻撃を待って、カウンターに出るのがこちらの戦法。

3日も、なにも仕掛けてこないから暇してたんだ。

ようやく動いてくれたか。

「よし、異世界勇者との決戦だ」

早いとこ勝って、ミライエにみんなで帰ろう。

エルフ米の美味しい食べ方が見つかりそうなんだ。戦ってる場合じゃねぇ!

「ベルーガ、見ていろ。何が何でも異世界勇者に勝って、一緒にミライエに戻るぞ」

「はい!シールド様の勝利を信じております!」

「サンキュ」

フェニックスの翼を利用して、俺は城から飛び出た。

両軍からの注目を浴びて、バリア魔法越しに異世界勇者鞍馬ひじりと相まみえる。

「ずいぶんと調子悪そうだな」

酷い隈を目元に残したひじりが、バリア魔法の向こうに見える。

ヨルムンガンドの毒はやはりかなりきつかったみたいだ。

こちらのヨルムンガンドも無事じゃないから、お相子だろう。

もう仲間認定しているヨルムンガンドの痛みを取るためにも、その聖剣魔法、打ち破るとしよう。

「……そうでもないわよ。今すぐバリア魔法を砕いてあげるから、調子が悪くなるのはそっちかも」

今回は、手加減はないらしい。クラフト魔法ではなく、初めから聖剣魔法を使う。

宙をなぞる様な手の動きをすると、そこに黄金の剣が現れる。

それを空に掲げて、目を閉じたひじりが集中力を高める。

黄金の剣の先端から黄金色の狼煙を上げるように、ゆらゆらと魔力が天に昇っていく。

何が起こるんだろうか。

バリア魔法しかつけない俺は、相手の動きを待つことしかできない。何が起きているのかも理解できない。

聳え立つバリア魔法が壊れた時に備えて、新しいバリア魔法を準備するくらいだ。

あの雰囲気……。おそらくただでは済まない。

ならば、何枚だって張ってやる。

俺のバリア魔法はコスパが良いことで知られている。

壊されたら、新しいバリア魔法を張るまでだ。

始めようか、異世界勇者。

「聖剣魔法――天啓」

空まで上がっていた黄金の魔力が鋭い切れ味を持ち始めた、天まで伸びる剣かと錯覚させられるそれがバリア魔法に向けて振り下ろされる。

恐ろしい規模の聖剣魔法がバリア魔法とぶつかった。

人類の力とは思えない化け物染みた力が、バリア魔法とぶつかった瞬間、大地が割れたかと勘違いするような音を立てた。

フェイと戦った時よりも、イデアと戦った時よりも、バリア魔法と聖剣の魔法がぶつかり合った地点に高エネルギー爆発が起こる。

眩い輝きが辺り一帯を巻き込む。

後の世に『黄金の日の出』と歴史書に記される魔力爆発だった。

エネルギーが時間と共に収束していく。

そして、光が収まり、俺とひじりが再び相まみえる。

そこにあったのは……。