軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

64話 バリア魔法と太陽の魔法

それは幸運の兆しか、もしくは不幸が扉をノックしたのか。

「けっ! 腑抜けになったのは全て演技だ。お前たちに勝ち目なんてあるかよ。悪いが俺様はイデアに与するぜ!」

いよいよ作戦開始という段階で、仲間から裏切りが出た。

一枚岩に思えた自軍だが、こんな愚か者が出ようとは。

強烈な光で目を眩ませて、更に光魔法のスピードで逃げたのは、元ヘレナ国宮廷魔法師のゲーマグだ。

捕虜の状態でいろいろ働いて貰っていたが、まさかこんなタイミングで逃げだすとは。しかも敵軍に逃げ込む裏切り行為。

そろそろ解放してやろうと思ってたのに、なんというタイミングだろう。でも。

「……まあ、あいつならいいか」

「そうですね」

「普通にいらないです。戦場で見つけたら一緒に殺しておきます」

満場一致でゲーマグは切り捨てることに決まった。

我が軍はやはり普通に一枚岩だった。

裏切り行為の余波が自軍に不安感を齎す危険性はあったが、全員同じ反応だった。

ゲーマグならいいか。みんなどこかでそう思っていたことが表になっただけだった。

悲しいかな、ゲーマグ。ここにお前の居場所はなかったみたいだ。

元々同じ役職に就いていて対等だったはずなのに、今じゃすっかりと落ちぶれてしまった。

まあ、それで逆転の一手を狙ったのかもしれないが、悪いがこの戦いは俺たちが勝つ。また捕虜になって貰うか、戦死して貰おうじゃないか。

オシャレいきりボウズで元天才光魔法使いの処遇も決まり、俺たちはいよいよ作戦の実行に入る。

船に乗るダイゴに俺の服装を着せて、ダミーとさせて貰う。

「え? 大丈夫、これ?」

「大丈夫ですか? これ」

俺とダイゴは全く同じ感想を抱いた。

お隣となって貰うダイゴに俺の服装を着せるが、流石に幼すぎやしないか?

バレバレだろ!

「んー、こんなもんでしょ?」

「あっははは、そっくりじゃ」

作戦の最終段階に割り込んできたフェイとコンブちゃんの悪ふざけによって、俺の身代わりはダイゴに決定した。

俺に全然似ていないダイゴだが、まあいいか。船に乗せてそれらしくさせておけば、遠目じゃ気づかないだろう。

それにバリア魔法を特別に張ってやれば、危険もない。

ダミーを危険を晒すわけでもないので、このくらい適当でいいか。

さて、準備は整った。

「出撃といこう」

オートシールドが稼働し続ける軍船が進んでいく。

ウライ国とミナントの援軍も続いていくが、皆一様にこちらばかりを見る。ミライエのオートシールド付きの軍船が珍しいようだ。

これから戦いだというのに、詳しく分析したいという者まで出る始末。

これは領内秘密なので、お断りさせていただいた。

さて、作戦はこうだ。

3万のエルフの大軍にまっすぐにぶつかっていく愚か者はいない。

詭道を使わせて貰う。

バリア魔法の内側で盛大に魔法を使い、エルフの船を沈めて貰いながらとにかく派手に戦闘を行って貰う。

そして肝心の俺はというと、派手に船を見せておいて、空から行く予定だ。

悪いがエルフ全体を倒すつもりなんてない。イデア、お前だけがターゲットだ。

こちとら、街づくりが楽しくて仕方ないんだ。

こんな不毛な戦い、とっとと終わらせてやる。

空から行く部隊は、少数精鋭。

俺とアザゼル、ベルーガは当然いるとして、他はギガや戦闘に長けた魔族がちらほら。

魔族中心の編成なのは、やはり空を飛べるから便利だという点だ。

離脱も容易で素晴らしい編成。

俺とフェイに敗れて少し自信を失っているギガも、本来はとんでもなく強いのでここらで活躍して自信を取り戻してほしいところだ。

雲に隠れながら空から進んでいくと、海の真ん中に張ったバリアの向こう側に大量の船が見えた。

「ひゃー」

3万っていう規模を舐めていたかもしれない。

目に映る圧倒的な数だけで少し気持ちが萎縮する思いだ。

「シールド様、大丈夫です。あなたのことは私がかならず守ります」

「うん、ありがとう」

ベルーガがとても頼もしい。

考えてみれば、強いのはこちらも一緒。震えるのは相手側か。

アザゼルもベルーガも、ギガや他の魔族も連れてきている。

後でガブリエルも参戦してくれるらしいし、なによりバリア魔法がある。

厳しい戦いになるかもしれないが、弱気になる必要はなかった。

エルフの船がいよいよバリア魔法に到達して、船がバリア魔法に衝突する。

そんな真っすぐぶつかってくるとは思わなかった。

当然バリア魔法の前に跳ね返される船は、ものの見事に次々と粉砕されていった。

船での進軍がかなわないと見るや、大群から放たれる無数の魔法がバリア魔法を襲う。

しかし、これも全く効果がない。

良い実験になるな。これだけの人数で魔法をうっても、俺のバリア魔法は壊れないらしい。

そりゃ自信はあったけど、見ていてとても気持ちのいい光景だ。

「俺のバリア魔法、ちょっと強いかも」

「ちょっとではございません」

サンキュー。バリア魔法を誉められると、いつだって俺はうれしくなってしまう。

こちらの攻撃はバリア魔法をすり抜けるので、一方的な攻勢が始まった。

激しくなってきた海上の戦いを見下ろして、頃合いを見計らう。

イデアの居場所は、一緒に連れてきたエルフのリリアーネが見つけてくれる。

魔力に敏感なエルフは、俺たちより捜索に向いている。圧倒的な魔力を持つイデアは特に探しやすいらしい。

下がもっと盛り上がれば、俺たちが空から近づいてもバレることはないだろう。

そう考えていたが、どうやら相手は逃げも隠れもしないらしい。

バリア魔法の向こうに、まがまがしい炎を纏う巨大な球が現れた。

その巨大な球の生みの親が、片手を空にかざした豪奢なローブを纏った男。

浅黒い肌は、ダークエルフの証だろう。

「イデア……」

リリアーネがそう告げた。エルフの大軍の上に浮遊する男は、間違いなくイデアらしい。

あの魔法……一瞬でなんてものを作り上げてんだ。

巨大な炎の球は、街一つを消し飛ばしそうなほどの規模だ。

あれとバリア魔法がぶつかり合ったら……。

それも気になったが、俺はもう一つどうしようもなく気になったことがあった。

「あいつ……」

ローブの下、何も服を着てないぞ。

下半身とかもろに出ている。

別に立派なものをぶら下げているわけでもない。結構普通のサイズだ。体も鍛えているわけじゃない。中肉中背の類だ。少しやせているかも。

見せびらかすようなもんじゃなくね?

戦闘に集中させてくれ。変なところで気を逸らすのはずるいぞ。

苦情を言ってやりたい俺だったが、そんな暇はなかった。

太陽と見間違うような圧倒的なエネルギーを持った光の球が、バリア魔法に向かって飛んでくる。

そして、始まった。史上最高の魔法使いイデアと俺のバリア魔法の雌雄を決する戦いが。

――。

多くのエルフを背後に従えて、イデアは海を割くように張られたバリア魔法を眺めている。

まるで世界が二つに分かたれたようだった。

海ではバリア魔法を突破できずにエルフの船が次々に沈んで行っている。

これだけ巨大なバリア魔法を一日とかからず作り上げ、3万のエルフからの魔法攻撃も防ぐ性能には少し驚いた。

人間共からちやほやされている魔法だとは知っていたものの、この性能には驚きだ。

しかし、それももう少しの命。

「くくっ、絶望を味合わせてやる。光魔法の使い手よ。お前の魔法は所詮まだまだ未熟」

今朝方エルフ側に寝返った光魔法使いの男は、ダークエルフの幹部に拘束されていた。裏切り者は、当然相手にも警戒されている。

そもそもイデアは自分の力だけで戦争に勝つ気でいるので、誰の助力も必要としていなかった。裏切りも、ダークエルフの部下も必要ない。

「本当の光というのは、遥か遠くにいてこそ感じられるもの。この世でも最も強いエネルギー、核融合を引き起こす魔法、これが太陽の魔法であるぞ」

イデアの掲げた手に、まがまがしい炎がまとわりつく球体が誕生した。

そのサイズが徐々に大きくなり、異様な熱が辺りを包む。海の水が蒸発し、あたりに霧が立ち込めるが、それもまた一瞬で渇いて消えていく。

「太陽をこの手にしたものと思え。直に見続けると、視力を奪われるぞ?」

イデアの圧倒的な魔法を前に、ダークエルフたちもゲーマグも閉口する。真の天才を目の当たりにし、ゲーマグは寝返った自分の判断を少しだけ誇った。

もうちょっとだけ長生きできそうだ。あの魔法を向けられているのが自分でなくてよかった。心の底からそう思ったのだ。

「では、壊すとしようか。人間どもが縋り付いているあのバリア魔法を。太陽の魔法――」

球体がイデアの指示通り動き、海の真ん中に張られた世界を分かつバリア魔法とぶつかる。

超巨大エネルギーの塊である太陽の魔法がバリア魔法とぶつかり、海中に空洞を作り上げた。

バリア魔法と太陽の魔法がぶつかり合う箇所から強い光が生じ続ける。ぶつかり合う瞬間を直視し続けられたのは、イデアと、バリア魔法で目を守っているシールドだけだった。

その光も次第に止んでいき、時間とともにまぶしい光が徐々に薄れゆく。

そこに残ったものは……。

無傷なバリア魔法と消え失せた太陽の魔法だった。

「なっ……ああっ!? えっ!? あっぎゃぎぎぎっ!」

イデアの口から初めて狼狽した声が出た。