軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32話 バリア魔法と直感

久々に見たエレインはやはり美しかった。

サファイアに喩えられるその青い瞳と同じく繊細な青い髪は、彼女のクールさと相まって、冷たくとも落ち着いた癒しを与えてくれる。

少し困った顔でこちらを見つめる彼女は、一体何をしにこの地まで来たのだろうか?

悪意があることは既に判明している。

しかし、どういう目的かははっきりさせておきたい。

使者として来ているので、無下にはできないだろう。

しかし、これまでに宮廷魔法師の襲撃を二度も受けている。ヘレナ国とは既に友好関係など築きようもない。俺を追放した国でもある。

「私を退屈させるなよ、ヘレナ国の色女。せいぜい盛大に踊って見せよ」

このように、同席したメレルという観客もいる。いきなり挑発的なのがなんかいい!

彼女を退屈させないためにも、ここは真面目に話し合おう。

思わぬ収穫があるかもしれないことだし。

「お久ぶりです、シールド。この方は?できれば、二人で話したいのだけど」

「久しぶり、エレイン。この方はイリアスの使者だ。ちょうど自治領とイリアスのことについて話し合っていた。悪いが、彼女も同席させて貰うぞ」

「そんな……」

少し落ち込んだ表情を見せる。

そういえば、一緒にいた頃もよくこの表情をされた。

困った彼女の表情は、自然と男心をくすぐる。これを見せられると、なんでも譲歩してしまいそうになる。

「悪いが、こちらが先客だ」

「そちらの話が終ってからでもいいの。二人で話が出来れば、明日でも明後日でも」

「それも申し訳ないが、断る。この後も予定が詰まっているんだ。なにせ、俺も今や自治領主。君がかつて揶揄したただのバリア魔法使いではなくなっている」

もちろん予定はない!

あるにはあるけど、急ぎの要件はない!

単純な嫌がらせだ。踊るならこの場で頼むというメレルの言葉もある。盛大に踊ってくれ、道化よ。

「そんな。私はそんなことなど言っておりません!」

言ったような、言わなかったような。まあいい、言ったことにしよう。

「とにかく、その条件が飲めなければ、お帰り頂くだけだ」

悪いが、これが最大限の譲歩である。

ヘレナ国が俺にした仕打ちを考えると、かなりいい条件ではなかろうか?

お前に選択権はないエレイン。

「……わかりました。では、皆さまの前で誠心誠意お話させていただきます」

「誠心誠意か。面白い」「ふむ、私も聞きたい」

同席しているベルーガとメレルが同じタイミングで口を挟んできた。

口を挟むメレルとベルーガの言動は褒められたものではないが、もしかしてこの二人、楽しんでいないか?

メレルはいつも通り強くもあり、余裕のある表情だ。

ベルーガは何を考えているかわからないが、真っ直ぐエレインを見つめていた。

あのベルーガがふざけるのか?楽しむ?この場を?

少し違和感があるが、悪意があることを知って尚、誠心誠意の言葉を聞きたいって、楽しんでいる意外にあり得るのか?

……横目で、少しベルーガを観察しながら話を聞いてみた。

やはり、少し表情が緩い気がする。

長く一緒にいるだけあって、なんだか彼女の些細な変化に気づけた。あれは楽しんでます、高確率で。

「一体どこから話したらいいのでしょう?」

エレインの劇場が幕を開けた。さて、俺も楽しませて貰おう。

「さあな。俺も尋ねてみたいものだ」

一度間を置き、少し目を潤ませてエレインが俺に一歩近づいてくる。

「あなたが国家転覆を狙っとき、私も一緒について行くべきでした。犯した罪の大きさに恐れをなして、あなたのもとから逃げたことをお許しください」

女性の涙と言うのは恐ろしいものだ。

その可憐な様子に、俺は会話の内容を一瞬聞きそびれてしまった。それだけ視覚からのインパクトが強い。

「俺はそんな計画を立てていない。そもそも国にバリアを張った俺がどうしてそんなことをする」

「けれど、騎士団長に頼まれてあなたの部屋を探したら、確かに計画書があったんです」

「それを仕組んだのが、エレインだと思っていた」

「違います!」

大粒の涙を流して、エレンが更に距離を詰めてきた。

うっ、近い。

その潤んだ瞳が、俺の目とあう。見上げてくるその目は、俺を吸い込んでしまいそうな引力を持っているように錯覚させられる。人を惹きつける目だ。

「発見したのは私です。けれど、今思えば見つけることまで全て騎士団長の思惑だったのでしょう!なんであの時気づかなかったのでしょうか」

「……ま、まじでか。そういうこと!?」

「そんなわけないでしょう……」

ベルーガからのツッコミが入った。え、嘘なの?

女の涙は恐ろしい、一瞬信じかけてしまったぞ。

ツッコミがなければ、泣き落としにあっていたところだ。

「だから二人でお話したかったのです。変な先入観を入れられる心配があったから。私を信じて欲しいのに」

ウルウルした瞳が俺の心を惑わす。

やっぱり本当じゃ?

ベルーガを見ると首を振っていた。

メレルと見ると、同じく首を振っていた。

また騙されるところだった!!

二人が同席してくれたことに心から感謝する。

「私は何もしておりません!本当なんです。すべての黒幕は、騎士団長カラサリスによるものです!」

うわああああと声をあげて、大泣きしだしたエレイン。

「私はただ、幸せに生きたかっただけなの。……どうしてこんな目に。私は何も知らないのに」

「そうなのか。いくつか聞いてみたいんだが、この件は騎士団長が黒幕なのか?他に関わっている人物は?国王とか」

「私が知る限り、全てカラサリスの計画です。国に帰りましたら、一緒に告発いたしましょう。シールド、他の誰も信じないで。私の手を取って二人でともに国へ」

差し伸べられた手には、純白の手袋が身に付けられていた。

時が止まったように、その白手袋を見つめた。

なんだか、妙に気になった。

一緒にいた頃、エレインが白手袋を身に着けているのを見たことがなかった。

他の令嬢は身に着けていたのに、彼女は手を出すのが好きだとか、そんな会話をしたことがある気がする。

そういえば、彼女を護衛してきたであろう騎士団は、鎧がかなり汚れていた。

疲労の色も濃い。

外の馬車をみても、やはりここに至るまでの旅は苦労が多かったのだろう。かなり痛んでいた。

俺とフェイでさえ苦労した道のりだ。まあ、あれは主に食費で苦労したんだけど。

そんな中で、1人だけ疲労の見えない人が、エレインだ。

ドレスも、手袋も汚れ一つない。彼女だけが、長旅の直後だと感じ取れない。

「もしかして、ずっと馬車の中にいた?」

「ん?どうしたのです?急に」

先日聞いていた話が頭の中でパズルのように組み合わさっていく。

実は、アカネのやつから興味深い話を聞いていた。

アカネは基本的に馬鹿なキッズなので、宮廷魔法師の自覚などない。

金を積まれて頼まれれば、どんな仕事もこなすやつだ。

子供故に、善悪の判断が付いていない。いや、あいつの場合、人生の全てを楽しんでだけにも思えるけど……。

まあ、それはいい。

とにかく、アカネは結構騎士団にもこき使われていた。

事あるごとにカラサリスにも仕事を頼まれており、以前から空間魔法の件で相談を受けていたらしい。

何に使うかは知らなかったらしいけど、アカネは構築した魔法理論をカラサリスに渡したと言っていた。

その経験もあって、ガブリエル専門の魔法だと思われた魔法を使い、屋敷に潜入している。

移動魔法は数多くあれど、空間をスキップして移動できる魔法はあの二人しか使えない。

他の移動魔法は、そんなに便利なものじゃない。高速で移動するか、消えたように見せかけるかの二択だ。

直感だが、今差し出された白手袋から、その違和感を感じ取った。

ただの白手袋であるはずがない。

周りに控える騎士たちと、あまりにも違いがありすぎる。

「……アカネが残した知識で、空間魔法を完成させていたのか。直接は使えずとも、魔道具として、条件付きのアイテムに仕上がっていたりするのか?」

ヘレナ国宮廷魔法師以外にも、有能な連中は多くいる。

基礎となる理論があれば、あの大国なら作り上げてしまいかねない。

「っ!?」

エレインの目が見開かれた。

隠し切れない動揺。

奇跡的な閃きだったが、図星だったか。

「シールド様、どういうことですか?」

異変を感じ取ったのか、ベルーガが魔法で水の剣を作り上げた。すぐさま動ける有能な部下だ。

俺が手で制す。

「おそらくだが、エレインの手袋に触れなければ済む話だ。しかし、用心に越したことはない。警戒を怠るな」

あくまで憶測だが、あれに触れたらヘレナ国への強制ワープが考えられる。

考えたな、エレイン。泣き落としで来たと思ったが、ちゃんとした作戦を持っているじゃないか。

「ち、違うの!」

「では、手袋を床に」

ベルーガの言葉を無視して、エレインは両手を胸の前にあてて、手袋を庇った。

「終わりだな。シールド様、これ以上の会談は無意味かと」

「……」

エレインの無言は、そういう意味なのだろう。

「エレイン様。後は我々にお任せを。シールドがここまで近くにいるなら、我らでどうにかなります」

護衛の騎士が4人、一斉に剣を抜いた。

馬鹿め。

剣を所持することを許したのも、この場にいることを許したのも、別に油断したわけじゃない。

お前たちなど、恐れるに足りないからだ。

せめて、自らの剣の威力の弱さを知りながら、死んでいくがいい。

俺のバリアで全てを防ぎ、跳ね返してやろう。

戦いの幕が切って落とされるかと思った瞬間、1人の女性が盛大に笑い出した。

顔を天井に向けて、メレルが大笑いしていた。

「結構。寸劇、楽しませて貰ったぞ」