軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29話 バリア魔法はキッズのおもちゃ

「シールド様、何か強力な魔力が近づいてきます。お下がりください」

穏やかな雰囲気の中、食堂でご飯を食べているときだった。ずっと傍に控えていたベルーガが警戒態勢に入った。

「強力な魔法の使い手です。私一人でお守りできるかどうか……」

「お前はどこまでも真面目だなぁ」

口元を拭い、食事を中断した。

この場にフェイがいなくて良かった。また激怒して壁を突き破られても困る。

前回ゲーマグが開けてしまった穴は、いやフェイが開けてしまった穴と言うべきだな。

あの穴はどうやらダイゴの魔道具でふさいだらしい。

天才少年は屋敷の修繕にも尽力していたのか。寝て朝起きたら穴がなくなっていた。誰かがやってくれたんだね、サンキューくらいにしか思っていなかった。

屋敷にもバリアを張るべきだというアザゼルの言葉もあったが、そこまでする必要はないと言っておいた。

こんな化け物だらけの屋敷に殴り込んでくるやつなんていないだろう。襲われるにしても外だと思っていたからだ。

まさか、アザゼルやフェイがいないタイミングを見計らってくるとは。

なかなかに用心深い相手じゃないか。

俺を守らずとも、ベルーガもサボっていればいいものを。なにせ俺は守りのスペシャリストだぞ?

この屋敷で一番真面目に働いているベルーガに、一番厄介事が舞い込むのはなんだか申し訳ない。自分で何とかするとしよう。

「ここは、俺がやる」

「しかし、シールド様!」

ベルーガの実力を見てみたい気もするが、やはり俺がやるべきだろう。

なにせ、相手は空間を捻じ曲げる魔法の使い手だ。

食堂の空間に亀裂が入った。

こんなことが出来るのはミナントの要人、エロエロ女のガブリエル以外あり得ない。

けれど、あり得ないことを可能にする、それができる人物を俺は知っている。普通では使えない特殊な魔法を使えるとしたら、あいつしかいないだろうな。

宮廷魔法師の中でもかなり異質な若き才能。

「やっほー。空間魔法が遺伝の魔法だなんて嘘だね。だって簡単にできたし」

食堂に入った亀裂が広がり、空いた黒い空間から出てきたのは、明るいピンク色の三つ編み少女。好奇心に満ちた目から、わんぱくさが一目瞭然だあ。

シャツと短パンしか着ていない。日に焼けた褐色の肌があらわになっている。靴も履いておらず裸足だった。体に浮かんでいる電気の流れのような黒い線は、魔力量が膨大な者が持つと言われる魔力跡である。

宮廷魔法師時代にその才能は何度も見せて貰っている。けれど、今回も度肝を抜かれた。

流石にこの登場は驚く。

「よう、アカネじゃないか。お前もカラサリスに言われて俺を倒しにきたのか?」

「そうだよ。あのおっちゃん、追い込まれちゃってやばいらしいよー。一回断ったらさ、おっもしろんだ。アカネに頭を下げに来たんだよ。ちょー最高。あっははは、おかしいー」

なんだか、気の抜けたやつだな。

ゲーマグとは全然違う。あっちはもともと俺を敵視していたこともあり、カラサリスの指示がなくても俺との戦闘を望んだだろう。

けど、アカネは戦いに来た態度じゃない。毒気抜かれちゃう気分だ。

「要件はわかった。で、実際お前はやる気あるのか?」

「もっちろん。アカネ喧嘩大好きだから!あそぼっ」

だよなー。

宮廷魔法師の中で、好んで俺に絡んでいたのはこいつくらいだ。

こいつの口癖はいつもあれだった。

「ねえ、今度こそシールドのバリアを壊してみせるよ!」

「うっ……」

変わらないなーこいつは。

「なんでかなー。アカネがやっても普通のバリア魔法にしかならないんだよ。でさ、薄いバリアを重ねたりもしたんだけど、やっぱりこんな初級魔法で全ての魔法を防ぐなんてできないくてさぁ!いろいろ考えてるんだけど、どうしてかなー。不思議だなー」

「一方的に話し続けるのはやめてくれ。疲れる」

これだからキッズの相手は面倒だ。

フェイとはまた違った面倒くささがある。

聞き流せればいいんだけど、全部真面目に聞いちゃう性格なので、非常に疲れる。

キッズはこれだから嫌いだ。天才キッズはもっと嫌いだ。

「じゃあもう始めて良いかな?いいよね?どうせシールドのバリアっていつでも発動できるんでしょ!すぐに死んだりしないよね!じゃあ、いっくよー!」

魔法が発動されたが、もはや何の魔法かすらわからない。

天井に向けたアカネの指の上に、黒い球体が現れ、球体の周りを靄が漂っていた。

「これならいけるんじゃないかな?あたったら死ぬから、そのつもりでね」

予備動作なしで、黒い球が飛んできた。

警告がなくても、それがやばいものってのはわかる。

「バリア――魔法反射」

バリアにぶつかる黒い球体は、その小ささからは信じられないほどのエネルギーを放出する。屋敷内に乱気流が発生し、窓を次々に割り、食器を吹き飛ばす。テーブルも舞い上がった。

しかし、やはり俺のバリアは壊れない。

悪いが、まだまだ余裕がありそうだ。

黒い球を弾き返す。なんの魔法か知ったこっちゃない。天才アカネの作り上げたものを俺が知ることは敵わないが、魔法ならなんだって跳ね返せる!

黒い球の勢いが完全になくなり、今度はアカネめがけて飛んでいった。

消え去るのはお前だ。あれが弾けたとき、一体どれだけの衝撃がくるかわからない。

領地を守るために、衝撃を包むバリアを用意した。

「ありゃりゃ、これは死んじゃうやつだね」

あっけらかんとした態度でアカネは黒いゲートを開いた。

球体が吸い込まれ、どこかへと消えてしまう。ゲートもすぐさま閉じられた。

「ふぃー、あんなの食らってたら髪の毛一本も残らず消えちゃうよ」

「どこに飛ばしたんだ?」

行き先が気になる。

どこに飛ばしても、甚大な被害が容易に想像できる。

「え?知らないよ。場所を指定できるほど余裕なかったし」

「まじかよ……」

これだからキッズは嫌いだ。

俺の領地に飛んだりしていないよな?

被害報告がでたら、許さん。子供だろうと首を刎ねる。

「んー、前回指定先って騎士団の家だったかな?悪戯で寝てるとこに水ぶっかけたんだよね。あれは最高だったなー」

なんておぞましいことを!?

憎き騎士団長カラサリスだが、寝ているところに水だと!?

犯罪過ぎるぞ。

これだからキッズは嫌いなんだ!

「お遊びはこれまでだ。次は必ずあてる」

魔法を飛ばすゲートがあるのはわかった。

しかし、なにも真っ直ぐ撥ね返すだけが芸じゃない。

バリア魔法しか使えない俺には、バリア魔法でできることはなんだって心得ている。

うるさいキッズは、ミライエの地に埋葬してくれよう。

「次はなんの魔法で遊んじゃおうっかな。ねばねばのやつなんて良いかも!」

不吉なワードが聞こえたが、まあ跳ね返せばいい。これ以上屋敷を汚されないためにも、早めに終わらせておきたい。

「ん?君は誰?」

アカネの視線が逸れた。

その先にいたのは、ダイゴだった。

なぜこんなところに。

「領主様の危機に参上いたしました!加勢します。僕にも指示をお願いします」

昨日渡したバリア魔法を体の周りに浮遊させて、ダイゴが加勢に来てくれた。

足元が震えているのは、戦闘経験のなさを物語っている。

以前に辺境伯のアメリアを指導したときと、近いものを感じた。

やはり若いと実戦経験が乏しいことが多いようだ。

これだけ怖がっているのに、駆けつけてくれたことに感謝する。

「ありがとう。お前は下がっていろ。俺が全て片付ける」

歩いて近づき、ダイゴの頭に手を乗せ、軽く撫でてやった。

偉いぞ。駆けつけてくれた、その気持ちだけで十分だ。

「ねえ、その浮いてるやつってさ、シールドのバリアじゃない?」

アカネが魔法の詠唱を止めて、ダイゴに視線を移した。

「いいのか?俺から目を離しても」

「だってシールドって、バリア魔法しか使えないじゃん。そっちの白い髪のお姉さんは警戒してるけど、シールドを警戒してもねぇ?」

「ぐっ!」

こいつ、俺のコンプレックスをいじくり回しやがって!

許せん、許せんぞ!これだからキッズは!!

「ねえ、君。それシールドのバリアでしょ?」

「領主様……」

答えていいのかという視線を向けてきた。

アカネのやつは良くも悪くも悪意がないんだよな。単純に遊んでいるだけ。どちらの魔法が強いか、いや凄いかだな。凄さを比べて楽しんでる無邪気なキッズでしかない。

今も本当にダイゴの作り上げたものに興味が湧いただけなのだろう。

「大丈夫だ。話くらいしてやれ」

「……これは領主様のバリア魔法を頂き、僕の魔石をくっつけたものです。魔石は魔力に反応するようにしてあるので、連動して動くバリアの効果で魔法を通しません」

「へぇー!おっもしろーい!じゃあ、これなんかどう?」

アカネのかざした手のひらから黒い稲妻が走る。

地面を這うように進んで行く稲妻が、ダイゴに当たる前にバリアが完璧に反応して防ぐ。

「わーお!反応が完璧だったし、電気も防いじゃうんだね!ねえ、それどうやって作ったの?」

「魔石を改造するとできるよ。バリアはシールド様の最強魔法だし、絶対に魔法は通さない」

「じゃあこれは!?」

アカネのかざした手から、蜘蛛の巣の形をした粘液が飛び出す。

これにも反応したオートバリアだったが、ねちょりと粘液がまとわりつく。

あれに魔法反射の効果はないからな。よく考えたものだ。

「それっ、それっ」

効果ありと見たのか、アカネは次々に粘液を放つ。

あれを俺に向けるつもりだったか……。なんか汚っ。

オートバリアに粘液が大量に絡みつき、重さで徐々に反応が悪くなる。

次第に浮遊していらず、バリアが地面に落ちた。

「あっわわわ。こんな弱点があったなんて!?」

「あっははは。アカネの勝ちだね!でも、最高だよ、それ!ねえ、ダイゴって言うんでしょ?私と一緒にそれ改良しようよ!」

「え、えーと……」

まんざらでもない表情で、ダイゴが俺を見た。

なにワクワクしてんだ。

天才同士で何か共鳴するものがあったらしい。

「おい、アカネ。おとなしくするって言うなら領地においてやる。ダイゴとも遊ばせてやるが、どうする?」

「うん、大人しくする!」

……絶対に守ってくれそうにない気がするが、まあいいか。

「いいよ。ダイゴと遊んできな」

走って食堂から出ていく二人の後ろ姿は、まさしく子供だった。

残されたボロボロの食堂に、俺とベルーガが立ち尽くす。

「シールド様、良いのでしょうか……?」

「仕方ないだろう。あれ、追い返せるか?」

「うーん、たしかに」

俺とベルーガは泣く泣く納得するほかなかった。

煩いキッズが、うちの領地に住み込むこととなった。これだからキッズは嫌いだ!