軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26話 side 騎士団長の苦悩。移り行く情勢

「ゲーマグのやつはどうして戻らない!?」

なぜだ、なぜゲーマグが戻らない。

手にしたワイングラスを部下に投げつけて、騎士団長カラサリスは激しく罵った。

「この能無しのクズ共め。どいつもこいつも使えぬやつばかり」

罵倒しても仕方ないことは理解しているが、それでも暴言が止まらない。

心の制御が上手くいかない程、怒りに満ちている。

「カラサリス様、廊下までお声が聞こえてしまいます。怒りをお鎮めてください」

部下に窘められるが、それでも焦りが気持ちを安らげてはくれない。

恥も外聞も無い。今はとにかく結果を出さねばならない。

国王からシールド・レイアレスを連れ戻すように任されている。

その全権を騎士団長の自分に授けて貰った。

始めはすぐに終わると思われた仕事だったが、シールドの行方がなかなか見つからなかった。

まさかドラゴンの森を超えていることなど想像すらしておらず、北と南を重点的に探らせていた。

ウライ国の辺境の街に聖なるバリアが出現したとき、ようやくそこにシールド・レイアレスがいることを知ったのだ。

その後に、獣人の国イリアスと、ミナントの国境付近にも聖なるバリアが次々と出現した。

国王の耳にもその話は既に入っており、自分の立場がまずくなっていくのが分かってきた。

全権を与えられたのに、何も成果を出せていない。

それどころか事態は悪くなるばかりだ。

その上、シールドを追放したのが自分だとバレた日にはどうなることか。

考えるだけで背筋が凍る思いだ。

シールドを捕まえて、全ての秘密を握り潰して再度聖なるバリアを張らせる計画が一歩たりとも進んではいない。

早く結果を出さなければならないのに、宮廷魔法師序列第一位のオリヴィエは消息をくらましている。

第5位のゲーマグは自信満々に出立して、こちらも消息不明。

「くそっ。……ゲーマグほどの男が負けるなんてことがあり得るのか?」

光魔法を使うあの男は、ギフト持ちの自分が戦っても勝てるかどうか怪しい男だ。

宮廷魔法師の序列は単純な強さではない。

国への貢献度、将来性なんかも加味されている。

戦闘面だけに絞れば、ゲーマグはトップスリーに立ってもおかしくない逸材だった。

「それが、光魔法で逐一報告を送ってくださっていたのですが……ミライエ自治領に入って以降連絡が途絶えております」

「お前はゲーマグのやつが、あのバリア魔法使いに負けたと言うのか?あの、たかだか初歩的なバリア魔法しか使えぬ男に!」

「いえ……、しかしシールド様も宮廷魔法師。簡単にはいかないかと」

部下に八つ当たりするが、しかし、自分でもわかっている。

ゲーマグが返ってこない理由はただ一つ。

シールド・レイアレスに負けたのだ。今は拘束されているか、最悪既に死んでいることも考えられる。

「次だ。あいつも向かわせろ!」

ゲーマグの他にもう一人、言うことをよく聞くやつがいる。

報奨金を出してやれば喜んで動いてくれるだろう。

オリヴィエとゲーマグに並ぶ武闘派宮廷魔法師だ。あいつなら、やってくれるかもしれない。

まだ底の見えない天才魔法使い、アカネ・スタニーに託す。

「はっ。直ぐに手配いたします」

部下に伝達を任せて、椅子から立ち上がった。

執務室から窓の外を見つめる。すでに日が落ちて暗くなっていた。

「どうしてだ。日に日に状況が悪くなる……」

自分の行動が愚かだったことは間違いないが、何より国全体で持っていた共通の認識が間違っていた。

シールド・レイアレスの、国を包む聖なるバリアは大したものではない。それに、壊れるものではなく未来永劫あるものだという勘違い。

たった三年という短い間で、人々はバリアがない前の生活を忘れ去ってしまった。

たった三年。

バリアの恩恵を当たり前と考え、商売も政治も上手くいく現状を自分たちの力と勘違いしてしまっていた。

今ならわかる。それは大きな誤りだったと。

時代の流れに疎いものほど気づけていない。ヘレナ国の危機に。

聡い商人は既に拠点を動かしていると聞く。

国境付近だけとはいえ、聖なるバリアがある三国はとても強い追い風が吹いている。安心して商売できるというのは、商人たちにとって限りないメリットだ。

どういう流れでバリアが張られたのかはわからないが、大陸の三国はこの三年辛酸をなめてきただけあって、我々より聖なるバリアの重要さを知っていたわけか。

やる事成すことすべてが裏目に出ている気がした。

これがシールド・レイアレスの真の力なのか……。

時代の流れが変わろうとしているのを感じた。

「……こんな事態になってようやく気付くとは」

自分の愚鈍さにも辟易する。

こうして追い詰められてようやく、あのバリアの凄さ、恩恵を理解できるようになった。

自分も当事者でなければ、この国を捨てて他へ移っていたかもしれない。

しかし、もう後には引けない。

シールド・レイアレスを追放し、ヘレナ国に今の事態を齎したのは紛れもなく自分なのだから。

1人考えこむ中、扉がノックされた。

部下ではない。名乗りを上げないのは、お忍びでくる人物だからだろう。見当はついている。

「入れ、エレイン」

「よく私だとお気づきになりましたね」

入ってきたは、やはりエレイン。美しい瞳と同じ色をした青いドレスを身に纏った美しい令嬢で、かつてはシールド・レイアレスの婚約者だった女だ。

全ての不運はこいつから始まった。

会いたくなどないが、今となっては一蓮托生。無下に追い返すわけにはいかない。

「あまりうまく行っていないようですね」

「……冷やかしに来たのか?お前も当事者だということを忘れるな」

「当然です。このままシールド・レイアレスが捕まらない事態が続けば、追放された経緯を調べられる日が来るかもしれません。そうなったら、私とあなたは破滅です」

そんなことは当然理解している。

だからこそ宮廷魔法師まで動かしてその対応にあたっているのだ。

これまで軍も民間人も多く使っている。それだけ金が使われているということでもある。

そこに来て、今日で宮廷魔法師の二人目を他国に向かわせることとなった。

これで何も結果を得られないとなると、いよいよ目先の立場すら危うくなってくる。

全権を任されているとはいえ、それもいつまで続くことか……。

「私にいいアイデアがありますわ」

「言ってみろ」

少し縋る思いで、話しを聞いた。

「騎士で腕の立つ者を何名かお貸しください」

「ゲーマグでさえ敗れる相手だ。部下でどうにかなるとは思えないが」

ゲーマグが敗れた以上、自分ですら敵うか怪しくなってきた。そんな雲行き怪しい中、優秀な部下みすみす敵の手の中に落とすようなことはしたくない。

「あくまでやっていただきたいのは護衛です。シールドの居場所がミライエだと分かった今、私の力であの人を連れ戻しましょう」

「何ができるというのだ」

こんな剣も魔法も碌に使えない女に期待しろと?流石に無理があるぞ。

「私のことを無能のように見るのはおやめください。剣も魔法も使えませんが、女には女の武器があります」

「色仕掛けか……。どうだかな」

「信頼なさって下さい。私との婚約が決まった当初のシールドの様子を知りませんでしょう?」

少し気になる話だった。

「はじめこそ戸惑っていたものの、初心で女性経験の乏しい彼はすぐに私に入れあげていたんですよ?プレゼントも多く貰いましたし、挙式のときまで幸せそうにしちゃって」

「つまり、お前ならあいつを連れ戻せると?」

「ええ、会いさえしたら、こちらの勝ちです。私の演技で彼をヘレナ国へ連れ戻しましょう。連れ戻した後の処遇はお任せします。強制的にバリアを張らせるも良し、機嫌をとって従えるも良し」

男女の色恋は理論的に説明のつかないことが多い。

ゲーマグを返り討ちにした男だ。

もう一枚新手を送ってはいるが、そちらが成功すればそれで良し。ダメなら新たにエレインの策に頼ればいい。

「手玉に取って見せますわ」

断る理由はないように思えた。

騎士団の人員は既にあらゆる方面の捜索で割いているが、シールドの場所が既に特定できているので呼び戻しても問題はない。

「人を貸す。好きに使え。ただし、何が何でもシールドを連れ戻せ。俺もお前も、もう後がないものと思え」

「会いさえすれば、問題ないかと」

「その自信が本物だといいのだが」

と言いつつも、どこか期待してしまっている自分もいる。

他に策がないから縋りたい気持ちなのもある。

けれど、エレインは傍から見ても美しい女性だ。殿下と噂が出るほどの女性。

この女が本気で色仕掛けすれば、落ちない男はいないのでは?とさえ思える。

それに、この女には何かほかにもある気がする。

エレインが自室から出ていく。

祈るような思いで、策が成功することを願った。

しかし、事態は更に悪くなる。

部下から急ぎの報告が来た。なんと、ミライエにも聖なるバリアが完成しつつあるとのことだった。

街一つを覆う規模ではない。

ヘレナ国を覆っていた時と同様、領地の全てを飲み込むバリアだ。

「……くっ!?」

何としても作戦を成功させなければならない。

聡い者は既に動き出している。この上ミライエにバリアが完成するとなると、彼の地は大陸の覇権を握りかねない。

10年後、大陸の姿が大きく形を変えてしまっている可能性が出てきた。

「……なんとしても、あの男を連れ戻さねば」